おまえが可愛いのが悪すぎるっ。

塚銛イオ

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もう俺が恋人でいいよね。

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もう一気にコトを進めてしまおうかと思った。

それでももう少しゆっくりとハルカを落とすのもいいか、と思ったのは俺に対するハルカの態度が少しずつ変化してきたからだ。

もちろん今まで通り『ハルカ好き好き大好き♡』作戦で押しに押していくのは変えないつもりだけど。
俺の最終目標は、やっぱりハルカからの『好き』の一言と、最後までしちゃうって事になるかと思う。

身体の方は・・・。正直流されやすくて騙されやすいハルカ相手ならあれよあれよで最後までえっちしてしまう事は出来ると思う。

流石に生理的に嫌われてるってレベルだったらハルカだって俺に触らせたりしないだろう?

俺の家まで付いてきて押し倒されてあんな事までしちゃった段階でハルカの俺に対する態度はツンデレのツンツンな部分だと思うし、ここに来て俺の事意識してくれてるのが分かるから、もう少しこの”落ちそうで落ちない”って恋の醍醐味を味わっていたい、なんて思うんだよね。

足元掬われるなよ、って脳裏に響く天の声に有難く手を合わせて、俺は今日もハルカのお世話にまい進する事としよう。


「ハルカ~。終わった?ちゃんと身体洗えたか?」

バスルームには、ハルカに何かあったら大変だからと鍵なんてついちゃいない。

俺の見ていないところでハルカが滑って頭を打って気を失うなんて、想像しただけで血の気が引く。
そんな事にならないように。
そう、俺はあくまでもハルカが心配だから様子を見に来たんだぞ。

そんな風に誰でもいいけどちょっとだけ感じる罪悪感サマに言い訳をして、俺はバスルームに続く脱衣所のドアを開けた。

すりガラスの向こうでは激しいシャワーの音が流れていて、ぼんやりとシャワーの下に立っているハルカの姿が見える。

ガラスに打ち付ける水音がハルカの肌を滑り落ちる様子をつい想像してしまって俺の欲望がクンと反応する。

それでも、今はまだその時間じゃないぞ、と我が愚息に語り掛け俺はコンコンとバスルームのドアを叩いた。

シャワーの音で聞こえないようだ。
ハルカは変わらずシャワーを浴びているようで水音が続いている。

「ハ~ルカ~。大丈夫かぁ?のぼせたり・・・してないかぁ?」

そうっとバスルームのドアを開け中を覗き込むと勢いよくお湯が向かってくる。

「うわっぷっ。」
「もうっ、覗くなんて変態っ。」

ババババッとシャワーのお湯を掛けられながらでは反論も出来ない。俺はすぐさまドアを閉めると

「ハルカッ。覚えてろよっ。」

と何処かのガキ大将みたいな捨て台詞を残して着替えに部屋へと戻っていった。



++ ++


「で、どうしてこんな状態なんだよっ?」

ハルカが文句を言うけれど、そんな顔も可愛いからしょうがない。

「ねぇ、タイガ。聞いてるんだけど。」
「え~何だって?」
「だからっ、どうしてタイガの服、それもTシャツ一枚しかないんだよっ。俺の服はっ。」
「だって~、昨日ハルカが着てたのは制服じゃん。皺になるからって脱いだけど、結局何とな~く、うっすら汚しちゃったじゃん。」

「よ、汚した・・・?」
「そう。ハルカがぁ・・・俺にぃ・・・キス、されたらぁ・・・気持ちよくなってぇ~。」

「わー!!分かった。分かったからっ。」

「俺、大変だと思って汚れた部分拭いて綺麗にしたんだけど、まだ湿っぽいみたいだったから吊るして乾かしてあげてるんだけどぉ。」
「あっ、あっ、ありがとっうっ。タイガっ、分かった、分かったから。」


顔を真っ赤にして俺の口を塞ぎにくるハルカの可愛らしい事。

届かない身長差に少しつま先立ちしてる所がまたしてもグッとくる。
本当はブレザーの裾部分がちょっと汚れたぐらいで、俺の後処理(笑)が完璧だから全く分からなくなっているのだけれど。

それでも俺との事、少しでも意識して欲しいからハルカが恥ずかしく思う事だって使ってやる。

「ね、ハルカ。身体は大丈夫?」

背伸びをしているハルカの身体をそのままギュッと抱き締めて俺の腕の中に囲い込む。
ハルカの顔が赤くなるのが分かってニヤニヤが止まらない。

「今日、休んじゃおっかぁ、学校。制服だってまだ乾かないし~。」
「やっ、それは、ダメっ。」

聞きようによっては色っぽい口調でハルカが俺に言った。
ただの否定の言葉だったはずなのに俺の欲望はその声に反応してハルカの身体がビクッと震えた。

「タ、タイガ…ちょ、あ、当たってる。」

頬を染めて俺の腕の中で俯くハルカのつむじが見えてさらに俺の劣情が煽られる。

「えっ、ちょ、ちょっとまっ。」
「ああっ、ハルカ。動いたらまずいって。」

更にぎゅうっと抱きしめて腕の中に囲いこむ。
そうするともっとハルカに俺の変化が伝わってハルカの身体がビクリと震えた。

「タイガッ、や、やだってぇ。」

少しグズついた声でそんな声で俺の名を呼ぶハルカは同じ男なのに男心が分かってない。
おい、それは逆効果だぞ、って意思を込めてさらに力を込めて俺の腰を押し付ける。

「んっ。」

身長差があって重なり合うことはないけれど俺とハルカの欲望がニアミスのようにぶつかる。
それが刺激になるのか、ハルカの吐息が甘い。

「そんな声出したらダメなんだぞ、ハルカ。俺、お前の事好きって言ってるだろう。すぐにでもお前にもっと触りたくなるんだから。」
「そ、そんな事言ってもぉ…‥。」

グズグズとした声がクスン、クスンという泣き声混じりの声に変わってきて俺は慌ててハルカの身体を離して顔を覗き込む。

「ハ、ハルカッ。ご、ごめん、急ぎ過ぎたっ。」

そうだ、まだハルカ自身が俺を『好き』だと自覚してない。
俺から見たらもう俺に結構気持ち傾いてるよね?と思うし、時折感じる熱い視線は絶対俺の事好きだろうって思うけど。

それでもゆっくり待つって決めたんだ。
がっつくのはハルカの気持ちが追い付いてからって自分自身に戒める。

それでもさ。
それでもちゃんと確認したいだろう?
俺が”恋人”の立場にいるって。

「な、ハルカ…。俺イイコにする。ハルカが嫌がる事しないように我慢する。だからさ…だから、俺を恋人にして。」
「こ、恋人って…。」
「お試しでいいから。ハルカの言う事を聞く便利なわんこって事でもいいから。な、俺を『恋人』認定して。」

ハルカは俺の顔を見て何かを探ろうとするようにジッと見つめた。

「俺がいると本当に便利だぞ。絶対ハルカの役に立つ。な、だから、お願いっ。」

逡巡するかのようにハルカの視線がウロウロと定まらなくなってきた。
あとひと息。

「ハルカには何も不利な事ないんだぞ。な、いいだろう?それに、”お試し”だぜ。”お試しの恋人”で俺みたいなハイスぺを恋人に出来るなんて、ハルカはラッキーだって。」

「ほ、本当に?」
「ん、何?」

おずおずと俺に伺いを立てるハルカの姿に心の中で舌なめずりをする。

「本当に”お試し”でいい、のかよ?」

かかった!!

「ああっ!お試しでいいっ!良いだろ、な、良いって言えって。」

「………う、ぅん……。」
「やった!!」

ハルカの小さな声を拾って、言質を取ったとばかりに目の前の小さな身体を抱きしめた。

「大事にするっ。すっげぇ大切にするっ。」
「ちょ、ちょっと…お試しなんだろう…。近いって。」
「いいから、いいから。」



こうして、俺は”お試し”であるけれど、ハルカの『恋人』になったのだった。


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