おまえが可愛いのが悪すぎるっ。

塚銛イオ

文字の大きさ
上 下
2 / 11

俺はお前が嫌いだっ

しおりを挟む
入学式に襲われた日から、それから毎日。
ハルカにとって悪夢は続いていた。

あの日・・・。
キスを止めないタイガを止めてくれたのは、その辺にいた同じ一年生たちで。
あれから俺は「男に襲われた男」でもなく、「男に告白された男」でもなく。
何故か「タイガの恋人のハルカちゃん」という名称を与えられたのだった。

ええ~迷惑でしかないんだけどっ。
タイガだけは嫌だっ。
怖いっ、怖すぎるっ。

背後から抱き締められた記憶が俺の恐怖心を助長する。
どんなに暴れても、びくともしなかった。
同じ男なのにすっぽりと抱き込まれた。

俺は強引な男が大嫌いなんだ。
独りよがりで、こっちが何を言っても聞いちゃいない。
話なんて全く通じない。

もう、本当に勘弁してくれよっ。
何で俺なんだ。
俺ぐらいの見目の男なんてそこいらにたくさんいるだろうに。


ハルカは自分の美貌に無頓着な男であった。
それを心配した父も母も、何度も口を酸っぱくして注意を促しているのに、ハルカは親バカだなぁなんて半ば呆れているぐらいだった。
それでも、これも親孝行の一つか、と素直に両親の声に耳を傾けるあたり、ハルカは素直な良い子でもあった。


「ハルカ、タイガくんが迎えに来たわよ。」

母が言いにきた。
あれからタイガは毎日俺を迎えにやってくる。
俺の家とは正反対の場所に住んでいるくせに。

華奢な身体付きの俺を心配していた両親は、俺が襲われた現場にいたくせに、頼りがいのあるタイガをえらく気に入ってしまった。
母など、「ハルカちゃんのお婿さんになればいいのよっ」を頭が沸いたような事を言っていた。
誰がなるか!

父は、「お婿さん」=「俺がお嫁さん」という所が気に入らないと言っていたが、そこは問題ではないと俺は思う。
ただ、タイガに俺が嫁でもいいです、とか言われてその気になってるのがまた気に入らない。
熨斗つけて返す!

「ハルカ~。会いたかったぞ~。」

俺を見ると力一杯抱き締めてくる、馬鹿力の男が、今日も俺を一目見てガバッとその胸に抱き込む。
ああっ、また失敗した。逃げられなかった。

俺は毎日、毎日タイガの攻撃を逃れようと、ひと足早く家をでたり、ちょっとした仮病を使ったりしている。
そのたびに、タイガの反撃に遭うので、もうやめようかな、とは思っているが・・・。

少し頭痛がするから、先に行け、と言っただけで、部屋の鍵をこじ開けられて、ベッドにのしかかられた時はもう死んだ、と思った。

「どうした?可愛いハルカの顔をもっとよく見せてくれよ。ああ、今日もめちゃめちゃ可愛い。食べてもいい?いいよな?」

何て事を言うんだっ。
俺の顔を見ながら、頬を赤らめて唇を寄せてくる男に、俺はおぞけが立つ。

「やめっ、やめろっ。」

バタバタと手を動かして抵抗する。

「もう、ハルカは照れ屋だなぁ。はぁ、早く一緒に暮らしてぇなぁ。」

おいおい、俺がいつお前と一緒に暮らす事になったんだ。
まだ高校一年の俺たちが卒業するまでたっぷり時間はあるんだぞ。
って、俺は卒業してもこいつと一緒に暮らすつもりなんてないけどな!

ちゅ、ちゅ、と俺の顔中にキスをしている男を見上げながら、俺は絶望的な思いに支配される。


だって、母も父も俺とタイガをニコニコしながら眺めているんだ。
息子が目の前で男に迫られて、あまつさえキスされまくってるのに、止めようともしないんだ。


これは、俺にはもう味方がいないって事じゃないのかっ。


ああ、だから嫌なんだ。
強引な男は、結局周りも巻き込んで、自分の思うように事を進めてしまうんだ。


だから、だから、俺はお前が大嫌いだっ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...