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BACK TO THE ・・・・・・
五話「ワシが育てた」
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「ありがとうございます、式神様!」
「あ、うん。引き続き頑張って下さい。」
怪我の治療を終えた、ガタイの良い修験者の男が頭を下げる。
走りって元の場所へ戻っていく修験者の背中を見送って溜め息をつく。
「はぁ・・・・・・あの時もうちょっと加減してやっておけば良かったかなぁ。」
修験者たちを叩きのめした俺は、その強さを見込まれて彼らの訓練を任されることになってしまったのだ。
好待遇を受けているので、仕方ないといえば仕方ないが。
目の前で激しい戦いを繰り広げている修験者たちを眺めながら独り言ちる。
「けど、何もやることがないよりはマシか。」
この集落は娯楽が少なすぎる。
インターネットはもちろん、ゲームすら無い有様だ。むしろあっちの異世界の方が娯楽が多いんじゃないか?
あるのは精々メンコやらコマ回しやら・・・・・・ホントに未来の日本に来たのかと疑いたくなる。
フルダイブ型のなんかヤバいゲーム機とか無いのかよ・・・・・・。
あ、また一人怪我したか。
「こちらにおられましたか、式神様。」
怪我の治療をしながら声の方を向くと、シワシワの河童が立っていた。
最初こそ驚いたものの、今ではもうすっかり見慣れてしまった。
「どうも、河神さん。」
「訓練のほうは如何ですかの?」
「どう、と言われてもね・・・・・・。」
元々が厳しい修行を積んでいた修験者たちである。
今更俺が口出ししたところで、そう劇的に変わるものではない。
俺にできることと言えば、実戦形式で相手になってやるくらいだ。
魔法で治療ができるから、怪我を気にする必要がないしな。
まぁ、俺が相手するよりも実力が近い者同士で戦わせた方が効率が良いので、今はそちらに切り替えているが。
それが功を奏したようで、戦力の底上げにはなっているようだ。
「で、河神さんはどうしてこんなところに?」
「式神様がおいでになってから早一週間ですじゃが、ご不便はありませんかの?」
もっと娯楽を寄越せと言いたくはあるがグッとこらえる。
古い遊び道具持って来られても困るしな・・・・・・。
「食事もおいしいですし、布団もフカフカなので問題ありませんよ。ただ――」
「ただ?」
「ユカリさんはどうしてます? ほとんど会ってませんけど。」
巫女とは最初の邂逅以来、会話らしい会話をしていない。
廊下などですれ違っても、会釈をするだけで付き人がそそくさと連れて行ってしまうのだ。
「ほっほっほ、巫女のことは式神様がお気にかける必要はありませんですじゃ。」
「はぁ、分かりました。」
俺を召喚した張本人であるが、悪気があったわけではなさそうだしな。一応契約者でもあるわけだし。
同じ釜の飯くらいは食っても良さそうなものだが。
まぁ、屋敷の構造も把握できてるし、今夜あたり声を掛けにいってみようか。
*****
「こ、こちらに何用でしょうか、式神様?」
ユカリの部屋の前に訪れると、彼女の付き人たちが立ち塞がる。
「何の用って・・・・・・ただ”私の契約者”である巫女に会いに来ただけだけど?」
「その、特段用が無いのでしたら、えっと・・・・・・。」
付き人が口ごもるが、要は帰れということらしい。
ただ、立場上強くは出れないようだ。
「契約者である私が巫女に会うのに、なぜ用事を作る必要が?」
「それはその・・・・・・うぅ~。」
付き人が困り果てていると、襖の向こうからか細く澄んだ声が聞こえてきた。
「お通しして差し上げてください。」
その声を聞き、ホッとした表情で付き人が襖を開いた。
招かれるままに俺は部屋の中に足を踏み入れる。
「ようこそおいで下さいました、式神様。」
部屋の中は質素を通り越して何もない部屋だった。
もちろん箪笥や机など必要なものは揃っているが、それだけである。
彼女の部屋であって彼女のものではないような、そんな感じだ。ユカリの側に付いている付き人も、どこかよそよそしく感じてしまう。
部屋を見回している俺を他所に、ユカリは小さい机の上のお盆にひっくり返されていた湯呑みを正しい向きに戻し、急須から透明な液体を注いで俺の方へ差し出した。
「大したおもてなしは出来ませんが、お許しください。」
湯呑みが置かれたユカリの対面に腰を下ろす。
だが、彼女の分の湯呑みは無い・・・・・・というか、俺の目の前に置かれているのが彼女のものなのだろう。
おそらく、滅多に誰も来ないからユカリの分の湯呑みしか置かれていないのだ。
「そちらの湯呑みはまだ口を付けておりませんのでお使いください。それとも、新しいものを用意させましょうか?」
「い、いや、いいよ。ありがとう。」
礼を言って反射的に湯呑みに手を伸ばして口を付ける。
・・・・・・すごく温い白湯だこれぇ。
この娘は普段からこんなのを飲んでるのか?
「それで、本日はどのようなご用向きですか、式神様?」
「いやまぁ・・・・・・一緒に夕食でもどうかなと思って。」
「夕食を・・・・・・ですか?」
「契約者として親交を深めるなら深めるなら悪くない選択肢でしょう? それに、一人で食べるのは少し寂しくなってきたところだから。」
「・・・・・・はい、承知しました。」
「よし、それじゃあ私のはこっちに持ってきてもらうよう豊子さんにお願いしとかないと。」
「でしたら、私の側仕えに言伝させますので。」
ユカリが付き人に目配せすると、部屋の外の付き人に内容を伝え、すぐに戻ってきた。
今日は豊子さんに肉を食べたいと伝えている。どんな料理がでてくるか今から楽しみだ。
そんな事ばかりを、俺は考えていた。
「あ、うん。引き続き頑張って下さい。」
怪我の治療を終えた、ガタイの良い修験者の男が頭を下げる。
走りって元の場所へ戻っていく修験者の背中を見送って溜め息をつく。
「はぁ・・・・・・あの時もうちょっと加減してやっておけば良かったかなぁ。」
修験者たちを叩きのめした俺は、その強さを見込まれて彼らの訓練を任されることになってしまったのだ。
好待遇を受けているので、仕方ないといえば仕方ないが。
目の前で激しい戦いを繰り広げている修験者たちを眺めながら独り言ちる。
「けど、何もやることがないよりはマシか。」
この集落は娯楽が少なすぎる。
インターネットはもちろん、ゲームすら無い有様だ。むしろあっちの異世界の方が娯楽が多いんじゃないか?
あるのは精々メンコやらコマ回しやら・・・・・・ホントに未来の日本に来たのかと疑いたくなる。
フルダイブ型のなんかヤバいゲーム機とか無いのかよ・・・・・・。
あ、また一人怪我したか。
「こちらにおられましたか、式神様。」
怪我の治療をしながら声の方を向くと、シワシワの河童が立っていた。
最初こそ驚いたものの、今ではもうすっかり見慣れてしまった。
「どうも、河神さん。」
「訓練のほうは如何ですかの?」
「どう、と言われてもね・・・・・・。」
元々が厳しい修行を積んでいた修験者たちである。
今更俺が口出ししたところで、そう劇的に変わるものではない。
俺にできることと言えば、実戦形式で相手になってやるくらいだ。
魔法で治療ができるから、怪我を気にする必要がないしな。
まぁ、俺が相手するよりも実力が近い者同士で戦わせた方が効率が良いので、今はそちらに切り替えているが。
それが功を奏したようで、戦力の底上げにはなっているようだ。
「で、河神さんはどうしてこんなところに?」
「式神様がおいでになってから早一週間ですじゃが、ご不便はありませんかの?」
もっと娯楽を寄越せと言いたくはあるがグッとこらえる。
古い遊び道具持って来られても困るしな・・・・・・。
「食事もおいしいですし、布団もフカフカなので問題ありませんよ。ただ――」
「ただ?」
「ユカリさんはどうしてます? ほとんど会ってませんけど。」
巫女とは最初の邂逅以来、会話らしい会話をしていない。
廊下などですれ違っても、会釈をするだけで付き人がそそくさと連れて行ってしまうのだ。
「ほっほっほ、巫女のことは式神様がお気にかける必要はありませんですじゃ。」
「はぁ、分かりました。」
俺を召喚した張本人であるが、悪気があったわけではなさそうだしな。一応契約者でもあるわけだし。
同じ釜の飯くらいは食っても良さそうなものだが。
まぁ、屋敷の構造も把握できてるし、今夜あたり声を掛けにいってみようか。
*****
「こ、こちらに何用でしょうか、式神様?」
ユカリの部屋の前に訪れると、彼女の付き人たちが立ち塞がる。
「何の用って・・・・・・ただ”私の契約者”である巫女に会いに来ただけだけど?」
「その、特段用が無いのでしたら、えっと・・・・・・。」
付き人が口ごもるが、要は帰れということらしい。
ただ、立場上強くは出れないようだ。
「契約者である私が巫女に会うのに、なぜ用事を作る必要が?」
「それはその・・・・・・うぅ~。」
付き人が困り果てていると、襖の向こうからか細く澄んだ声が聞こえてきた。
「お通しして差し上げてください。」
その声を聞き、ホッとした表情で付き人が襖を開いた。
招かれるままに俺は部屋の中に足を踏み入れる。
「ようこそおいで下さいました、式神様。」
部屋の中は質素を通り越して何もない部屋だった。
もちろん箪笥や机など必要なものは揃っているが、それだけである。
彼女の部屋であって彼女のものではないような、そんな感じだ。ユカリの側に付いている付き人も、どこかよそよそしく感じてしまう。
部屋を見回している俺を他所に、ユカリは小さい机の上のお盆にひっくり返されていた湯呑みを正しい向きに戻し、急須から透明な液体を注いで俺の方へ差し出した。
「大したおもてなしは出来ませんが、お許しください。」
湯呑みが置かれたユカリの対面に腰を下ろす。
だが、彼女の分の湯呑みは無い・・・・・・というか、俺の目の前に置かれているのが彼女のものなのだろう。
おそらく、滅多に誰も来ないからユカリの分の湯呑みしか置かれていないのだ。
「そちらの湯呑みはまだ口を付けておりませんのでお使いください。それとも、新しいものを用意させましょうか?」
「い、いや、いいよ。ありがとう。」
礼を言って反射的に湯呑みに手を伸ばして口を付ける。
・・・・・・すごく温い白湯だこれぇ。
この娘は普段からこんなのを飲んでるのか?
「それで、本日はどのようなご用向きですか、式神様?」
「いやまぁ・・・・・・一緒に夕食でもどうかなと思って。」
「夕食を・・・・・・ですか?」
「契約者として親交を深めるなら深めるなら悪くない選択肢でしょう? それに、一人で食べるのは少し寂しくなってきたところだから。」
「・・・・・・はい、承知しました。」
「よし、それじゃあ私のはこっちに持ってきてもらうよう豊子さんにお願いしとかないと。」
「でしたら、私の側仕えに言伝させますので。」
ユカリが付き人に目配せすると、部屋の外の付き人に内容を伝え、すぐに戻ってきた。
今日は豊子さんに肉を食べたいと伝えている。どんな料理がでてくるか今から楽しみだ。
そんな事ばかりを、俺は考えていた。
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