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BACK TO THE ・・・・・・
00062話「黄金の嘴」
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店の扉を開くと、外観にも負けない煌びやかな装飾の玄関が俺たちを出迎えた。さすが黄金の嘴と名乗るだけはある。
俺たちに気付いた高そうな給仕服をまとった女性給仕がこちらへ歩み寄って来る。
彼女は俺の胸元にある大会証をチラリと確認すると、頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ。」
給仕を先頭に廊下を進んで行く。壁に掛けられた絵画などの装飾品はどれも高そうだ。
建物の中はシンと静まり、賑わっている様子はない。
それもそのはず、席も他の客も見当たらず、あるのは等間隔で並んだ扉のみ。
どうやら全席個室ということらしい。
料理を運ぶ給仕とすれ違ったので、ちゃんと他にも客は居るようだ。
おそらく各部屋の防音がしっかりなされているのだろう。
「こちらの部屋をお使いください。」
給仕が重厚な扉を開き、中へと通された。
部屋の中央には大きな長机が鎮座し、それを囲むように八つの席が設けられている。
部屋の隅に飾られた花瓶などの装飾品もどれも高そうだ。近づかないようにしよう。
扉付近には別の給仕が立っていた。この人は部屋付きの給仕のようだ。
俺たちは給仕に促されるまま、それぞれの席に着いた。
「それではお食事を運んで参ります。何かございましたら、こちらの者にお言いつけください。」
俺たちを案内してきた給仕はそう言うと、部屋を出て戻っていった。
メニューから好きな料理を選んで頼むという形式ではないようだ。
さすがにこんな場所は慣れないようで、俺以外のみんなは席に着いてもソワソワとしている。
特にコレットは今にも気絶してしまいそうだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、コレットちゃん。」
「で、でもぉ・・・・・・。」
「お前こそ何でそんな落ち着いてられんだよ。」
まぁ、もっとヤバそうなところに行ったこともあるしな・・・・・・。
それに比べたら少々お高めなレストランくらい何てことはない。
しばらく待っていると、料理を乗せたワゴンを引いて先ほどの給仕が戻ってきた。
部屋に居た給仕と二人がかりで料理を並べていく。どれも美味しそうなものばかりだ。
「それでは失礼いたしました。」
下がっていく給仕を見送り、料理に手を付け始める。
「あ、美味しい。」
「ああ、ホントに美味いな! 貴族ってのはいつもこんなの食えるのか。」
「コレットちゃんはどう?」
「お、おいしい・・・・・・!」
緊張していたコレットも、すっかり目の前の料理に瞳を輝かせている。
「しかしこれだけ美味いと酒が飲みたくなってくるな。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
カレンの言葉を聞き逃さなかった給仕が、そう言って部屋を出て行ってしまった。
「あー・・・・・・マズかったか?」
「まぁ、折角ですしカレンさん達も楽しんでください。」
「い、良いのか!?」
「街に出るときに約束もしましたしね。」
しばらく待っていると、酒瓶を乗せたワゴンを引いて給仕が戻ってきた。
酒瓶に混じって、果実水のものもあるようだ。気を利かせて俺とコレットの分も持ってきてくれたらしい。
「それではお注ぎ致します。」
「あ、あぁ・・・・・・。」
カレンが手に持ったグラスにトクトクとお酒が注がれていく。
お酒が注がれたグラスを傾けて口の中へ運ぶカレン。
「美味い!」
そう言ったかと思うと、グラスを一気に傾け喉へ流し込んでしまった。
おいおい・・・・・・大丈夫かよ。
グラスが空になると、すぐさま給仕が注ぎ始める。そして注がれるとカレンがすぐさま飲み干す。
まるでわんこそばだ。こうなるともう止まらなかった。
*****
「美味かったなぁ、アリス!」
「えぇ、そうですね・・・・・・。」
お店のお酒を全部飲み干したんじゃないかと思うくらい飲んでいたカレンが満足してようやく止まった。
かく言う俺も料理は結構食べてしまった。空き瓶や空き皿は都度片付けられていたので机の上は綺麗なものだが。
「あの、そろそろ宿に戻ろうと思うんですけど・・・・・・。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
さて、値段がどうなるかだな・・・・・・手持ちが足りないってことはないだろうけど。
すっかり出来上がってしまった大人たちは置いておいて、戦々恐々と給仕の戻りを待つ。
「お待たせいたしました、こちらを。」
そう言って手渡されたのは、一通の手紙だった。
手紙にされた封蝋にはどこかで見た紋章が捺されている。
「えっと、これは・・・・・・?」
「皆さまがおいでになられてから、しばらくしてお預かり致しました。お帰りの際にお渡しするようにと。」
「そうだったんですね、ありがとうございます。」
封蝋を開け、中の手紙を読んでみる。
どうやら差出人は、この店に来る前に出会った貴族のようだ。
手紙には、話をしてくれてありがとうというお礼と、店での食事代は全て持つという旨が書かれていた。
つまり奢りである。
「お代はすでに頂いておりますので、お送り致しますね。」
「えっと、この方にお礼がしたいんですけど・・・・・・。」
「ではお手紙などいかがですか? こちらでご用意できますし、お届けもお任せください。」
「お願いします。」
用意してもらった紙に、食事のお礼と大会頑張りますという旨を書いて給仕さんに手渡すと、そのまま封筒に入れて綺麗に封をしてくれた。。
「確かにお預かり致しました。それではお送り致します。」
こうして、俺たちは店を後にした。
良い時間だったので、この日は真っすぐ宿に帰ってその日を終えることに。
翌日以降は軽く練習したり貴族街を観光したりして、何事もなく日々を過ごすことが出来た。
これも大会やテルナ商会の権威のおかげだろう。
そしてついに大会の当日を迎えた。
俺たちに気付いた高そうな給仕服をまとった女性給仕がこちらへ歩み寄って来る。
彼女は俺の胸元にある大会証をチラリと確認すると、頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ。」
給仕を先頭に廊下を進んで行く。壁に掛けられた絵画などの装飾品はどれも高そうだ。
建物の中はシンと静まり、賑わっている様子はない。
それもそのはず、席も他の客も見当たらず、あるのは等間隔で並んだ扉のみ。
どうやら全席個室ということらしい。
料理を運ぶ給仕とすれ違ったので、ちゃんと他にも客は居るようだ。
おそらく各部屋の防音がしっかりなされているのだろう。
「こちらの部屋をお使いください。」
給仕が重厚な扉を開き、中へと通された。
部屋の中央には大きな長机が鎮座し、それを囲むように八つの席が設けられている。
部屋の隅に飾られた花瓶などの装飾品もどれも高そうだ。近づかないようにしよう。
扉付近には別の給仕が立っていた。この人は部屋付きの給仕のようだ。
俺たちは給仕に促されるまま、それぞれの席に着いた。
「それではお食事を運んで参ります。何かございましたら、こちらの者にお言いつけください。」
俺たちを案内してきた給仕はそう言うと、部屋を出て戻っていった。
メニューから好きな料理を選んで頼むという形式ではないようだ。
さすがにこんな場所は慣れないようで、俺以外のみんなは席に着いてもソワソワとしている。
特にコレットは今にも気絶してしまいそうだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、コレットちゃん。」
「で、でもぉ・・・・・・。」
「お前こそ何でそんな落ち着いてられんだよ。」
まぁ、もっとヤバそうなところに行ったこともあるしな・・・・・・。
それに比べたら少々お高めなレストランくらい何てことはない。
しばらく待っていると、料理を乗せたワゴンを引いて先ほどの給仕が戻ってきた。
部屋に居た給仕と二人がかりで料理を並べていく。どれも美味しそうなものばかりだ。
「それでは失礼いたしました。」
下がっていく給仕を見送り、料理に手を付け始める。
「あ、美味しい。」
「ああ、ホントに美味いな! 貴族ってのはいつもこんなの食えるのか。」
「コレットちゃんはどう?」
「お、おいしい・・・・・・!」
緊張していたコレットも、すっかり目の前の料理に瞳を輝かせている。
「しかしこれだけ美味いと酒が飲みたくなってくるな。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
カレンの言葉を聞き逃さなかった給仕が、そう言って部屋を出て行ってしまった。
「あー・・・・・・マズかったか?」
「まぁ、折角ですしカレンさん達も楽しんでください。」
「い、良いのか!?」
「街に出るときに約束もしましたしね。」
しばらく待っていると、酒瓶を乗せたワゴンを引いて給仕が戻ってきた。
酒瓶に混じって、果実水のものもあるようだ。気を利かせて俺とコレットの分も持ってきてくれたらしい。
「それではお注ぎ致します。」
「あ、あぁ・・・・・・。」
カレンが手に持ったグラスにトクトクとお酒が注がれていく。
お酒が注がれたグラスを傾けて口の中へ運ぶカレン。
「美味い!」
そう言ったかと思うと、グラスを一気に傾け喉へ流し込んでしまった。
おいおい・・・・・・大丈夫かよ。
グラスが空になると、すぐさま給仕が注ぎ始める。そして注がれるとカレンがすぐさま飲み干す。
まるでわんこそばだ。こうなるともう止まらなかった。
*****
「美味かったなぁ、アリス!」
「えぇ、そうですね・・・・・・。」
お店のお酒を全部飲み干したんじゃないかと思うくらい飲んでいたカレンが満足してようやく止まった。
かく言う俺も料理は結構食べてしまった。空き瓶や空き皿は都度片付けられていたので机の上は綺麗なものだが。
「あの、そろそろ宿に戻ろうと思うんですけど・・・・・・。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
さて、値段がどうなるかだな・・・・・・手持ちが足りないってことはないだろうけど。
すっかり出来上がってしまった大人たちは置いておいて、戦々恐々と給仕の戻りを待つ。
「お待たせいたしました、こちらを。」
そう言って手渡されたのは、一通の手紙だった。
手紙にされた封蝋にはどこかで見た紋章が捺されている。
「えっと、これは・・・・・・?」
「皆さまがおいでになられてから、しばらくしてお預かり致しました。お帰りの際にお渡しするようにと。」
「そうだったんですね、ありがとうございます。」
封蝋を開け、中の手紙を読んでみる。
どうやら差出人は、この店に来る前に出会った貴族のようだ。
手紙には、話をしてくれてありがとうというお礼と、店での食事代は全て持つという旨が書かれていた。
つまり奢りである。
「お代はすでに頂いておりますので、お送り致しますね。」
「えっと、この方にお礼がしたいんですけど・・・・・・。」
「ではお手紙などいかがですか? こちらでご用意できますし、お届けもお任せください。」
「お願いします。」
用意してもらった紙に、食事のお礼と大会頑張りますという旨を書いて給仕さんに手渡すと、そのまま封筒に入れて綺麗に封をしてくれた。。
「確かにお預かり致しました。それではお送り致します。」
こうして、俺たちは店を後にした。
良い時間だったので、この日は真っすぐ宿に帰ってその日を終えることに。
翌日以降は軽く練習したり貴族街を観光したりして、何事もなく日々を過ごすことが出来た。
これも大会やテルナ商会の権威のおかげだろう。
そしてついに大会の当日を迎えた。
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