ＤＴガール！

Kasyta

文字の大きさ

大中小

366 / 453

ＢＡＣＫ　ＴＯ　ＴＨＥ　･･････

42話「飛ぶ竜を落とす」

しおりを挟む

　空から見下ろす邪竜の口元に急速に魔力が集まり始めた。
　凝縮された魔力が徐々に光を帯びていく。

＜あれはアカンで！　早よ逃げえ！＞
「いや無理だって！」

　今の俺は土の触手でぐるぐる巻きにして地面に固定されている状態だ。
　土を操作して動くことは可能だが、素早く移動することは出来ない。
　覚悟を決めて光の剣を邪竜の真正面に構える。

＜どないする気やねん！＞
「どうもこうも、逃げるのが無理ならぶつけるしかないでしょ？」

＜･･････しゃあない、それでいくで！＞

　賢者の石の声と共に、光の刃が真っすぐに定まった。

「来る！」

　邪竜が口を開くと、閃光が一帯を照らすと同時に口から一筋の光線が伸びた。
　光の刃の先端と光線の先端がぶつかり、激しく火花を散らす。
　一瞬の競り合いの後、邪竜の光線が二股に裂け、俺の両側の地面を抉った。

「っ･･････威力はこっちの方が上みたいだね。」
＜アホ言いな！　あんなんアイツにとったら軽い牽制みたいなもんや！＞

「軽い牽制･･････ってことは――」

　ドクン、と竜の心臓が脈打ち空気を揺らすと、先ほどよりも強大な魔力が邪竜の口元に集束し始めた。

＜あれは･･････多分無理やな。＞
「私もそう思う･･････ってあんなのどうするの！？」

＜･･････こうなったらもう最終兵器を使うしかあらへんな。＞
「最終兵器！？　そんなのあるんだったら何で今まで出さなかったのさ！」

＜使うたら光の剣を再起動する必要があるからや。けど、もう周囲の魔力が殆ど残っとらんことに気付いとるか？＞
「あ･･････ホントだ。」

　邪竜の圧倒的な魔力に気を取られて気付いていなかったが、霊峰オストーラ周辺に広がっていた魔力の高濃度エリアが殆ど無くなっている。
　無くなった、というよりは光の剣の真の力を発揮するためにその魔力を使用した、と言った方が正しいだろう。
　つまり、光の剣を再起動したところで真の力を発揮出来るだけの魔力はもう残っていないのである。

＜これで邪竜を仕留めきれんかったら･･････世界もお終いっちゅうことや。けど、このままやったら空を飛んでるアイツには届かんしな。＞
「じゃあ、その最終兵器なら届くの？」

＜せや。けどその前に残ってる純魔晶をぶっ壊してこっちも魔力を溜めるで！　どっちにしたって最後なんやから出し惜しみは無しや！＞
「･･････分かった！」

＜巫女ちゃんたちも頼んだで！＞
（任せて下さい！）

　痛む腕を触手で動かし、光の剣で一帯を薙ぎ払った。
　砕けた純魔晶から溢れる魔力を得た光の剣が一層その威力を強める。

＜よっしゃ！　アイツの準備が整う前にぶっ放すで！！　御使い様、アイツに狙いを付けて”光刃解砲”や！＞

　光の剣を構え直し、直線状に邪竜の姿を捉える。

「”光刃解砲”！」

　起動後を唱えると長く伸びていた光の刃が一気に収縮され、バスケットボールほどの光の球となった。
　光の球は激しく瞬くと真っすぐ飛び出し、魔力の残滓を煌めかせながら邪竜へと迫る。
　そして、邪竜の身体を一瞬の内に貫いた。
　しかし――

「そんな、外した！？」

　光の球が貫いたのは邪竜の片翼であった。射出時の反動で狙いが少しズレてしまったようだ。
　翼を貫かれた邪竜は悲鳴を上げ、溜めていた魔力を暴発させる。迸ったいくつもの光線が遺跡を砕き、地面を抉った。
　邪竜を貫いた光の球はそのままの勢いで吸い込まれるように天へ昇っていく。

（まだです！）

　クアナの声が響いた。

（魔力と共にある今の私たちなら･･････！　みんな、手伝って！）
（ん。頑張りどころ。）

（わたくしたちもやるわよ、フーケ！）
（うるさいなー、アタイだってやるときゃやるよ！）

（うぅ･･････も、もう疲れた･･････。ほ、ほんとにこれで･･････さ、最後だよね？）

　空へ真っすぐ向かっていた光の球がゆっくりと大きな弧を描き始めた。
　そしてブーメランのように軌跡を描き、背後から邪竜を再び貫く。

「ダメだ、また外れた！」

　光の球が貫いたのはもう片方の翼だった。
　両翼に大穴を開けられた邪竜はふらりとよろめき、堪らず高度を落とし始める。

（っ･･････もう一度！）

　地面へと向かっていた光の球は山の一角を崩しながらも先ほどより小さく弧を描き、再び空へ方向を変える。
　そして、落下し始めていた邪竜の中心を今度こそ撃ち抜き、光の球は空へと消えていった。

＜ようやったで、巫女ちゃんたち･･････。＞

　落下中だった邪竜の身体は地面へ激突し、足元を揺らしながら粉塵を巻き上げた。

「やった･･････の？」
＜あぁ、心臓は最後の一撃でキッチリ消滅したで。＞

　確かに、今の邪竜の身体からは魔力の一片も感じられない。
　粉塵が収まっても邪竜はピクリとも動かないことを確認し、自分の体を支えていた触手を解いた。
　しかし自分の足で体を支えることが出来ず、地面に顔を激突させてしまう。

「ぶへっ！　･･････足もやっちゃってたか。」

　触手で思い切り縛りつけてしまったせいで体中がボロボロだ。

＜ウチのことももうちょい大切に扱って欲しいな･･････。＞

　隣に転がっている賢者の石の抗議を無視して、寝返りをうって天を仰ぎ見る。
　丸く削り取られた雲間からは青い空が覗いていた。

しおりを挟む