DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

284話「裸がユニフォーム」

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「おい、起きろよアリス。」

 幼女のぶっきらぼうな声と小さい手に揺すられ、寝ぼけ眼のままその声に答える。

「ん・・・・・・レンシアか。何だよ、もう朝なの?」

 窓の方に目を向けるが闇の民の郷は洞窟内にあるため、窓から入ってくる人工的な光では判断が出来なかった。

「時間的にはな。・・・・・・ほれ、さっさと着替えろ。」

 レンシアが真っ黒い何かを投げ、寝ころんだままの顔に覆いかぶさった。
 仕方なく身体を起こし、それを手に取って広げてみると、闇の民たちが着ている黒い毛皮の外套だった。

「どうしたんだよ、これ。」
「昨日用意してくれるよう頼んでおいたんだよ。」

 レンシアの方に目線を向けると、彼女はすでに黒い外套に包まれている。

「わざわざ用意してもらったのか・・・・・・何でまた?」
「これから交流しようってんだから、相手に合わせるのは当然だろ。」

 確かに同じ格好をしていれば、ある程度の親しみやすさは感じてくれるだろう。
 闇の民たちから警戒心は殆ど感じないが、信仰心みたいなのはひしひしと伝わってくる。
 それがあまりにも行き過ぎたものになってしまうと、今後の交流に支障が出てくるかもしれない。
 そういうものを薄めるために用意してもらったようだ。

「流石に靴は履いてるけどな。裸足だと痛いし。」
「靴は・・・・・・って、まさか。」

「当たり前だろ、彼らと”同じ格好”なんだから。」

 レンシアがひらひらと外套をはだけて見せると、そこには一糸纏わぬ白い素肌が。
 黒い外套とのコントラストで余計に肌の眩しさが際立っている。

「俺も着るの・・・・・・それ?」
「”上司”が着てるのに”部下”が着ないってことは無いよなぁ?」

「ぐっ・・・・・・いつまで根に持ってるんだ。」
「まぁ、それは抜きにしても・・・・・・だ。打てる手は打っておいたおいた方が良いだろ? たかだか服装一つで相手の信頼を得られるなら安いもんだ。」

「それはまぁ・・・・・・そうだけど。」
「あと、彼らを向こうに送る時に説得しやすくなる。」

 確かに闇の民を移住させるなら、それは必須だ。
 というかフラムの前にあんなのを並べたくない。失神するぞ。

「郷に入っては郷に従え・・・・・・ってことね。」
「そういうこった。分かったらさっさと着替える! それとも、手伝いが必要か?」

 レンシアがニヤニヤと笑いながら指を蠢かせる。

「い、いらねーよ! 着替えるから部屋から出てけ!」

 レンシアを部屋から追い出し、もう一度外套を広げてまじまじと見つめる。

「マジかぁ~・・・・・・。」

 こんなの露出狂と変わらないぞ。
 とはいえ、彼女の言うことも一理あるのは確かである。

 えーい、ままよ!
 肚を決め、着ている服に手を掛けて脱いでいく。
 脱いだものは直接インベントリに放り込んでいき、下着姿になったところで一旦手が止まった。

「う~・・・・・・やっぱ脱がないとダメか?」

 迷っていたところに扉を叩く音が響き、肩がピクリと跳ねる。
 扉の向こうからはレンシアの声が聞こえてきた。

「おい、まだか?」
「も、もうちょい待ってくれ!」

 このまま引き延ばしていても部屋に押し入ってきそうだ。・・・・・・仕方ない。
 下着を脱いで、さっと身体に巻きつけるようにして外套を羽織った。
 身体をすっぽり包んでもまだ長さに余裕があるため、激しい動きをしなければ肌を晒すことはなさそうだ。
 腕を出せるようスリットも入れられており、腕を出す度に捲ったりする必要もない。
 何より、中は快適な温度が保たれていて服を着ているよりも快適である。
 着替えを終えて部屋の外に出ると、退屈そうにレンシアが待っていた。

「遅かったな。どうだ、着心地は?」
「すっごい快適だけど・・・・・・初めてスカート穿いた時よりスース―する・・・・・・。てか、レンシアはよく平気だな。」

「ま、この歳になるとそこまで気にはならないな、快適だし。向こうに帰ったら部屋着にでもするか。」

 部屋着か・・・・・・この快適さならアリかもと考えてしまう。
 でも家には他の皆も居るしな・・・・・・流石にこの格好ではうろつけないか。ミアに襲われそうだし。

「そんなもんか・・・・・・。文化の違いなんだろうけど、こっちの人はよく平気だよな。恥ずかしくなったりはしないのか?」
「背中を見られるのはちょっと恥ずかしいらしいぞ。」

 それでも”ちょっと”なのか。
 とりあえず背中を剥き出しにしなければ特に問題は無いらしい。

「で、今日は何するんだ? わざわざ起こしにきたって事は俺に何かやらせるつもりなんだろ?」
「あぁ、まずは付いてきてくれ。」

 泊めてもらっている郷長の家を出て、レンシアの後ろについていく。
 彼女が足を止めたのは郷長の家のすぐ近くにあった空き地だった。

「昨日、この辺りの一画を郷長から貰ったんだ。」
「それで?」

「ここに転移陣を敷くための建物を作ってくれ。」

 そう言ってレンシアに分厚い紙束を手渡される。
 さらっと目を通すと、その建物の設計図のようだ。

「この魔法陣を刻んだ金属板ってのは?」
「アリスが旅をしている間に作ってある。動作も確認済みだ。”塔”の分は仮設で建ててあるから、こっちの分が終わればすぐに使えるぞ。」

「向こうが仮設ってことは、戻ったらそっちも作らされるのか・・・・・・。」
「”約束の地”の分もあるぞ。移住する分にはこの三ヶ所があれば問題無いだろ。」

「三ヶ所か・・・・・・。で、移住の話は結局どうなってるんだ?」
「それはな――」

 レンシアの話によると、昨日の内に以下のような取り決めが交わされたらしい。
 ”約束の地”への移住や移動を希望する場合、”弱化”を覚えることと服を着ること。
 ”塔”へは移住できないが連絡等のための移動は、”弱化”さえ覚えていれば可能。

 闇の民側は、調査開拓のためにやってくる魔女たちへの戦力提供が条件となった。
 主な目的は土地の確保ではなく、新しい素材や資源。彼らに護衛をしてもらい、郷の周辺から調査していくのだそうだ。
 要するに、この郷を拠点として使わせてもらうのである。
 この郷内にある魔道具も調査対象で、可能なら修復も行っていくらしい。
 魔女の手が入ることになれば、この郷も様変わりしていくことになるだろう。

「あ、そんなとこにおったんか! 探したで二人とも。何しとんや、そんなとこで。」

 声を掛けてきたのはノノカナだった。
 声の方に視線を向けると、大きく手を振りながら走り寄ってくる姿が見えた。
 彼女も外套を羽織っており、手を振るたびにひらひらと外套が揺れて内側がチラ見えする。
 ・・・・・・目のやり場に困るな。
 レンシアは意に介した様子も無く受け答えする。

「いえ、ちょっと仕事の話と下見を。ノノカナさんこそどうしましたか?」
「メシの時間やから探してこいて姉ちゃんがな。ほら、早よ行くで!」

「わざわざありがとうございます、ノノカナさん。では一旦戻りましょうか、アリューシャさん。」

 余所行きの仮面を被ったレンシアに頷き、設計図をぺらぺらとめくりながら二人の後ろについていく。
 ・・・・・・帰るにはもう少しかかりそうだな。
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