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がっこうにいこう!
181話「贈る言葉」
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「ふあ~・・・・・・っ。」
欠伸と一緒に身体を伸ばし、凝り固まった筋を解す。
「ちょっと・・・・・・だらしが無いわよ、アリス。」
「だって、学院長の話長いし・・・・・・つまらないんだもん。」
そもそも壇上に立っていた老人はニセモノの学院長である。
寝なかっただけ褒めて欲しい。
「・・・・・・もう、おわったの?」
リーフに手を引かれながら、眠い目をこするフィー。
講堂から出ると、天頂に届きそうな陽光に身体を温められる。
「えぇ、終わったわよ。貴女はお姉ちゃんなんだから、しっかりしなきゃダメよ、フィー。」
「・・・・・・ごめんなさい。」
フィーの頭を撫でながら叱るリーフ。
こっちの方が本当の姉妹のようだ。
というか、俺への対応だけ厳し過ぎないですかね?
「なんだか、あっという間に終わっちゃったねー、卒業式。もっと時間かかるかと思ってたよボク。」
開始早々寝てたからな・・・・・・。
そりゃ、あっという間だろう。
リーフも叱る気がないほどに呆れている。
と言っても、リーフのようにちゃんと聞いていた者の方が少数派だろう。
周りを見れば一目瞭然である。
ウチのパーティも然り。
実際、卒業式は”式”と呼べるほど仰々しいものではなかった。
何せ卒業生側も在校生側も参加は任意。
そのため早い人は数日前に帰郷したりしている。
色んな事情の人がいる訳だし、その辺りは仕方が無いのだろう。
「あの・・・・・・アリス様!」
声の方へ視線を向けると、可愛い後輩たちが並んでいた。
「あ、リヴィ。それに皆も。来てくれてたんだ。」
口を結び、項垂れてしまったリヴィに代わり、双子の姉妹が頭を下げる。
「「ご卒業おめでとうございます。」」
「二人ともありがとう。ララとルラには結局勝てなかったね。でも、良い経験だったよ。」
せめて一回くらいは勝ちたかったな。
まぁ、俺には難しいか。
ウチのパーティで、この二人に勝てるのは未だにサーニャだけだし・・・・・・。
「ご飯いっぱい食べてくれる、にゃー先輩たちが居なくなっちゃうと寂しーなー。」
「新しく入ってくる後輩たちに振る舞ってあげれば、きっと喜んでくれるよ。」
「あちしも食べたいにゃー・・・・・・。」
今からでも店を開けば普通に儲けられるだろう。
問題は、経営とかには無頓着そうなところか・・・・・・。
「リヴィも頑張ってね。アンナ先生の面倒は任せたよ。」
俺達が卒業したら魔道具科の生徒はリヴィ一人になる。
それが少し心配だ。
後輩がいればまだ安心なんだけど、次も見込みは薄い。
実際、去年はゼロだったし。
成績については、心配する必要はないだろう。
地頭も良いし物分りも早い上に努力もしている。
フラムを追い抜くのに三ヶ月も掛からなかったからなぁ・・・・・・。
「ぐすっ・・・・・・ご、ご卒業・・・・・・おめでとう、ございます・・・・・・。」
リヴィがやっと口を開いたかと思ったら、言葉と同時に涙が溢れだす。
「ダメだよ、貴族の子が泣いたりしちゃ。」
「で、でもぉ・・・・・・っ。」
涙を拭ってやるが、それを止めるには適わない。
冗談めかして言ったが、公の場で貴族が涙を見せるというのは本来あまりよろしくないとされている。
弱みを見せる事と同義であるからだ。
まぁ、今更な話だが・・・・・・いつも気丈に振る舞っている分、リヴィにはダメージが大きいだろう。
フラムが俺の袖を軽く引くと、講堂の影になっている場所を指した。
「リ、リヴィのこと・・・・・・ぉ、お願い、アリス。」
「分かった。少しあっちで休もう、リヴィ。」
彼女の手を引いて、建物の脇に設置された長椅子へ座らせ、自分もその隣に腰を掛ける。
「大丈夫・・・・・・じゃあないよね、ゴメン。」
かけられる言葉が月並みなものしか思い浮かばず、飲み込む。
「私が、悪いのです・・・・・・。本当なら、笑顔でお見送りを・・・・・・でも・・・・・・っ。」
「お別れは少し寂しいけど、これから一生会えないって訳じゃないし・・・・・・この街にはまた戻ってくるから。」
「ほ、本当ですか!?」
「これでも一応、魔道具科講師の資格を持ってるからね。」
アンナ先生がいるから講師をやるつもりはないが、資格を持っていれば学院の設備を使用出来るなどの恩恵がある。
将来の事は決めてないけど、レンシアや魔女たちとの繋がりを考えれば、この街と魔女の塔を拠点にするのは悪くない。
何か決まるまでは冒険者の仕事で小銭を稼ぎながらその日暮らしってのも、乙なものだろう。
こんな事言ったらまたリーフに叱られそうだけど。
「だから、リヴィ達の卒業式にも出るつもりだよ。そこでまた会おう。」
「は、はい・・・・・・! お待ちしております!」
小指と一緒に約束を結ぶ。
指を切った後には、リヴィはいつものリヴィに戻っていた。
目は赤いままだが。
「みっともないところをお見せしました、アリス様。」
「私は気にしてないよ。そろそろ皆のところに戻ろうか。」
「はい・・・・・・あの、アリス様。」
「ん・・・・・・どうしたの?」
「ご卒業、おめでとうございます。」
思わず胸が高鳴るほどの、綺麗な笑顔だった。
*****
「さて、私達も出発しようか。」
卒業式が終わってからそれほど経っていないのに、もう人影は疎らだ。
ある者は故郷への途につき、ある者は街へ繰り出し、ある者は新たな門出を踏み出した。
先生への挨拶も済ませたし、そろそろ俺達の番。
もうすっかり見慣れてしまった校舎を、目に焼き付けるように見上げる。
少しの間、お別れだ。
「最初は迷宮都市へ行くのだったな。」
「うん、転移魔法陣の使用許可はもう出てるよ。」
「随分手回しが良いのね。」
「まぁね。」
こういう時、最高責任者に直接連絡できるのは有難い。
「ぁ、あの・・・・・・っ!」
フラムが小さく声を上げた。
「ご・・・・・・ごめ、なさい・・・・・・。」
「どうしたの、急に謝ったりして・・・・・・?」
そして、その時が来た。
欠伸と一緒に身体を伸ばし、凝り固まった筋を解す。
「ちょっと・・・・・・だらしが無いわよ、アリス。」
「だって、学院長の話長いし・・・・・・つまらないんだもん。」
そもそも壇上に立っていた老人はニセモノの学院長である。
寝なかっただけ褒めて欲しい。
「・・・・・・もう、おわったの?」
リーフに手を引かれながら、眠い目をこするフィー。
講堂から出ると、天頂に届きそうな陽光に身体を温められる。
「えぇ、終わったわよ。貴女はお姉ちゃんなんだから、しっかりしなきゃダメよ、フィー。」
「・・・・・・ごめんなさい。」
フィーの頭を撫でながら叱るリーフ。
こっちの方が本当の姉妹のようだ。
というか、俺への対応だけ厳し過ぎないですかね?
「なんだか、あっという間に終わっちゃったねー、卒業式。もっと時間かかるかと思ってたよボク。」
開始早々寝てたからな・・・・・・。
そりゃ、あっという間だろう。
リーフも叱る気がないほどに呆れている。
と言っても、リーフのようにちゃんと聞いていた者の方が少数派だろう。
周りを見れば一目瞭然である。
ウチのパーティも然り。
実際、卒業式は”式”と呼べるほど仰々しいものではなかった。
何せ卒業生側も在校生側も参加は任意。
そのため早い人は数日前に帰郷したりしている。
色んな事情の人がいる訳だし、その辺りは仕方が無いのだろう。
「あの・・・・・・アリス様!」
声の方へ視線を向けると、可愛い後輩たちが並んでいた。
「あ、リヴィ。それに皆も。来てくれてたんだ。」
口を結び、項垂れてしまったリヴィに代わり、双子の姉妹が頭を下げる。
「「ご卒業おめでとうございます。」」
「二人ともありがとう。ララとルラには結局勝てなかったね。でも、良い経験だったよ。」
せめて一回くらいは勝ちたかったな。
まぁ、俺には難しいか。
ウチのパーティで、この二人に勝てるのは未だにサーニャだけだし・・・・・・。
「ご飯いっぱい食べてくれる、にゃー先輩たちが居なくなっちゃうと寂しーなー。」
「新しく入ってくる後輩たちに振る舞ってあげれば、きっと喜んでくれるよ。」
「あちしも食べたいにゃー・・・・・・。」
今からでも店を開けば普通に儲けられるだろう。
問題は、経営とかには無頓着そうなところか・・・・・・。
「リヴィも頑張ってね。アンナ先生の面倒は任せたよ。」
俺達が卒業したら魔道具科の生徒はリヴィ一人になる。
それが少し心配だ。
後輩がいればまだ安心なんだけど、次も見込みは薄い。
実際、去年はゼロだったし。
成績については、心配する必要はないだろう。
地頭も良いし物分りも早い上に努力もしている。
フラムを追い抜くのに三ヶ月も掛からなかったからなぁ・・・・・・。
「ぐすっ・・・・・・ご、ご卒業・・・・・・おめでとう、ございます・・・・・・。」
リヴィがやっと口を開いたかと思ったら、言葉と同時に涙が溢れだす。
「ダメだよ、貴族の子が泣いたりしちゃ。」
「で、でもぉ・・・・・・っ。」
涙を拭ってやるが、それを止めるには適わない。
冗談めかして言ったが、公の場で貴族が涙を見せるというのは本来あまりよろしくないとされている。
弱みを見せる事と同義であるからだ。
まぁ、今更な話だが・・・・・・いつも気丈に振る舞っている分、リヴィにはダメージが大きいだろう。
フラムが俺の袖を軽く引くと、講堂の影になっている場所を指した。
「リ、リヴィのこと・・・・・・ぉ、お願い、アリス。」
「分かった。少しあっちで休もう、リヴィ。」
彼女の手を引いて、建物の脇に設置された長椅子へ座らせ、自分もその隣に腰を掛ける。
「大丈夫・・・・・・じゃあないよね、ゴメン。」
かけられる言葉が月並みなものしか思い浮かばず、飲み込む。
「私が、悪いのです・・・・・・。本当なら、笑顔でお見送りを・・・・・・でも・・・・・・っ。」
「お別れは少し寂しいけど、これから一生会えないって訳じゃないし・・・・・・この街にはまた戻ってくるから。」
「ほ、本当ですか!?」
「これでも一応、魔道具科講師の資格を持ってるからね。」
アンナ先生がいるから講師をやるつもりはないが、資格を持っていれば学院の設備を使用出来るなどの恩恵がある。
将来の事は決めてないけど、レンシアや魔女たちとの繋がりを考えれば、この街と魔女の塔を拠点にするのは悪くない。
何か決まるまでは冒険者の仕事で小銭を稼ぎながらその日暮らしってのも、乙なものだろう。
こんな事言ったらまたリーフに叱られそうだけど。
「だから、リヴィ達の卒業式にも出るつもりだよ。そこでまた会おう。」
「は、はい・・・・・・! お待ちしております!」
小指と一緒に約束を結ぶ。
指を切った後には、リヴィはいつものリヴィに戻っていた。
目は赤いままだが。
「みっともないところをお見せしました、アリス様。」
「私は気にしてないよ。そろそろ皆のところに戻ろうか。」
「はい・・・・・・あの、アリス様。」
「ん・・・・・・どうしたの?」
「ご卒業、おめでとうございます。」
思わず胸が高鳴るほどの、綺麗な笑顔だった。
*****
「さて、私達も出発しようか。」
卒業式が終わってからそれほど経っていないのに、もう人影は疎らだ。
ある者は故郷への途につき、ある者は街へ繰り出し、ある者は新たな門出を踏み出した。
先生への挨拶も済ませたし、そろそろ俺達の番。
もうすっかり見慣れてしまった校舎を、目に焼き付けるように見上げる。
少しの間、お別れだ。
「最初は迷宮都市へ行くのだったな。」
「うん、転移魔法陣の使用許可はもう出てるよ。」
「随分手回しが良いのね。」
「まぁね。」
こういう時、最高責任者に直接連絡できるのは有難い。
「ぁ、あの・・・・・・っ!」
フラムが小さく声を上げた。
「ご・・・・・・ごめ、なさい・・・・・・。」
「どうしたの、急に謝ったりして・・・・・・?」
そして、その時が来た。
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