DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

171話「BET」

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 ほっぺたを散々弄ばれた翌日。
 早速俺たちは前線に立たされていた。

「しかし、もどかしいものだな・・・・・・こうして見ているだけとは。」
「私たちの役割はあくまでも護衛だからね、仕方ないよ。」

 ゴブリンに占拠された砦前で戦う生徒達を木陰から窺う。

 前線に残っている生徒はいずれも中堅どころの実力者。と言っても冒険者たちとの差は大きい。
 昨日半数以上が脱落してしまったためパーティが機能しないかとも思ったが、そんな彼らを一人の騎士科の少年が上手くまとめ上げて指揮している。
 あんなのを主人公というんだろうな。

 そんな彼の指揮の下、襲い来る魔物を何とか退けている。
 このまま何も無ければ砦を落とすことは出来るだろう。
 しかし――

「ふむ・・・・・・あまり動きが良くないな。」

 ヒノカが指摘する通り、少年を除いた彼らの動きは加速度的に精彩を欠いていく。
 表情にも疲労が色濃く浮かぶ。
 要するにバテてしまっているのだ。

「うーん・・・・・・、たぶん昨日ほとんどご飯食べてないんじゃない?」

 昨日は酷い状態だったらしいから、食事が喉を通らなかったとしても不思議には思わない。
 実際ロール達も合流した時点では食事を摂っていなかったしな。・・・・・・そのあと無理矢理食べさせたけど。

 彼らと状況は異なるが、俺だって初めて――を殺した日は飯を食う余裕なんて無かった。
 魔物を相手にした時とはやっぱり何かこう・・・・・・違うんだよな。
 親父(エルク)に「うるせぇ、食え!」とか言われて飯をねじ込まれたのも・・・・・・まぁ、良い思い出だ。

「あの様子だと睡眠もあまり取れていないのじゃないかしら。」
「おそらくそうだろうね。仕方ないとは思うけど。」

 ゆっくり寝てなんていられないだろうし。

 それでも騎士科の少年は皆を鼓舞し、激励し奮い立たせる。
 戦況を何とかもたせながら魔物たちを屠っていく。

 その時、砦の中から一際大きな咆哮が響いた。

「ひ・・・・・・っ、ア、アリスぅ・・・・・・!」

 砦の中から少年よりも二回りほど巨大なゴブリンが姿をあらわした。あれがボスらしい。
 引きずられた柱のような棍棒がゴリゴリと地面を削って音を立てる。

「大丈夫だよ、でっかいゴブリンが出てきただけだから。」

 ただ、フラム以上に大丈夫じゃなさそうなのが戦っている生徒たち。
 ボスゴブリンを見上げた顔がみるみる青くなっていき、士気が落ちていくのが手に取るように分かる。

 あ・・・・・・終わったな。

 生徒の一人が悲鳴を上げて逃げ出した。
 堰を切ったように他の生徒たちもそれに続く。
 残ったのは騎士科の少年ただ一人。

 彼は逃げる生徒たちを引き留めようともせず、眼前に並ぶ魔物たちへ切っ先を向け続けている。
 自ら殿を引き受けるつもりらしい。見上げた根性である。

 さて、そろそろ出番か。

「オイ、手ェ貸してやろうか?」

 重くなった腰を上げて武器を構えると横から声がかかった。
 俺達と同じ様に最後方に追いやられていた内の一人。
 だが、目の前で苦戦する少年を助けに行く権利は彼に無い。
 なぜなら――

「まさか。くじ引きで勝ったのは私たちなんだから、邪魔はしないでよね。」

 そう、助けに行く順番を事前にくじ引きで決めていたのである。
 思ったより相手の規模がショボかったので全員で掛かってはつまらない、という話になったためだ。
 苦戦すればさらに次のパーティが助けに入る手筈だが、もちろん苦戦してやるつもりはない。

「チェッ、分かってるよ。それよりアイツ・・・・・・”負ける”ぜ。」
「ガハハ! そうだな、”負ける”なありゃ。」

 少年とボスゴブリンを見比べて下卑た笑みを浮かべる男たち。
 その目算はおそらく間違ってはいない。
 実力はボスゴブリンの方が上。さらに疲労の溜まっている少年では勝ち目は薄いだろう。

「そう? じゃ、私は”勝つ”と思うよ。」

 俺は少年の主人公補正に賭けることにした。
 きっとピンチになれば何らかの力に覚醒して大逆転してくれるだろう。

「分かってると思うが、手ェ出したら”負け”だからな?」
「そんな野暮はしないよ。・・・・・・よし、行こう皆。周りだけ片付けて、デカいのは彼にね。」

「・・・・・・大きいの、ダメなの?」
「お姉ちゃんなら、あの状況でどうして欲しい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった。」
「ボクなら助けて欲しいんだけど・・・・・・。」

「アーアー聞こえない。さあ行くよ!」

 リーフの氷矢の魔法と共に飛び出す。
 氷矢が直撃した魔物をフィーの剣が、ヒノカの刀が屠る。
 二人に怯んだ魔物の心臓をニーナの緻密な一突きが捉えていく。
 そしてサーニャの・・・・・・あ、そういや朝から狩りに行ってるんだった。

「あ、あなた方は・・・・・・っ!?」

 突然の乱入に目を白黒させる少年に話しかける。

「雑魚は私たちが引き受けるから、デカいのは任せたよ。」
「っ・・・・・・は、はい!」

 最初は女子供の登場に意気揚々といった感じの魔物勢だったが、それは一瞬で絶望に変わった。
 またたく間に殆どの仲間を失い、圧倒的な戦力差に気付いた魔物たちは蜘蛛の子を散らすように背中を見せて逃げていく。
 その様子を眺めながら、息一つ乱れていないヒノカは刀を鞘に収めた。

「ふむ、こんなものか。」
「そうだね・・・・・・砦の方も空っぽみたい。」

「それより、あっちは大丈夫なの!?」

 リーフの視線の先には未だ対峙する少年とボスゴブリン。
 少年の持つ剣も盾も、凹み、ひしゃげ、ボロボロになって見る影も無い。

「ハァッ!!」

 少年が渾身の剣を振るう。

 ――ガキンッ!

 しかしその一撃はボスゴブリンの棍棒により叩き落とされた。
 これまでの戦闘で辛うじて耐えていた剣も、半ばから砕けてしまう。
 追撃を躱した少年は後ろへ飛び退って折れた剣を構え直す。

「あれでは勝負にならぬな。」
「だねぇ・・・・・・あ、そうだ。」

 地面から土の剣を作り出し、少年の近くに無造作に投げて転がした。

「金貨一枚で売ってあげる! がんばってー!」

 「手を貸すな」とは言われたが「商売するな」とは言われてないしな。

「金貨一枚って・・・・・・何言ってるのよ、アリス!」
「どうするかはあの人の自由だよ。別に逃げちゃったって良いわけだし。」

「そ、それは・・・・・・そうだけど・・・・・・。」

 彼はボスゴブリンと転がった剣に視線を走らせ――持っている折れた剣をボスゴブリンに向かって投げ付けた。
 相手が一瞬怯んだ隙に新しい剣を拾い上げて再び構える。

「おー、まだやる気だ。」
「そのようだが・・・・・・勝ち目はあるのか?」

「そこはほら、突如新たな力に目覚めたりすれば。」
「・・・・・・そう都合良くはいかぬと思うがな。」

 ヒノカはそう言って静かに刀に手をかけた。
 いつでも助けに入れる態勢だが、ギリギリまでは待つつもりのようだ。
 ヒノカと会話をしている間にも少年の戦いは続いている。
 と言いっても少年は防戦一方。

 繰り出される棍棒の一撃を盾や鎧を使って上手く防御しているが、ダメージは着実に蓄積されていっている。
 なんとか隙を付いて反撃に転じるも疲れた身体で振るう刃に鋭さは無く、虚しく空を切った。

 汗と泥に塗れて戦う少年の姿に最初はからかい半分で野次を飛ばしていた連中も、いつの間にか声援を送るように変わっている。
 口が悪いのは相変わらずだが。

 少年は使い物にならなくなった盾を捨て、両手で剣を構えた。
 さぁ、今こそ皆の応援を力に変えて全力の一撃を!

「うおぉぉぉぉ!!!」

 ――ゴッ!!

 ボスゴブリンの棍棒が少年の身体を捉え、鈍い音を響かせた。
 あちゃー・・・・・・モロに入ったな。
 吹き飛ばされた少年の身体は、糸の切れた人形の様に地面を転がっていく。

 トドメを刺すべく追撃の姿勢をとるボスゴブリン。
 同時に、ヒノカとフィーが大地を蹴った。

「私はあの人の治療をするから、そっちはお願い!」
「あぁ、任せろ!」

 ボスゴブリンはヒノカ達に任せ、少年の元へと駆け寄る。
 満身創痍で気を失ってはいるが・・・・・・命に別状は無さそうだ。
 そんな状態でも最後まで剣を手放さかったのは素直に凄いと思う。
 少年の身体を起こし、まずは鎧を脱がす――って留め具がブッ壊れてるじゃねーか、どうやって外すんだコレ・・・・・・。

「よォ、手ェ貸すぜ。」

 気付けば周りにはクラスメイト達が集まっている。

「えっと・・・・・・鎧を脱がせたいんだけど・・・・・・。」
「こういう時はな、こうやんだ・・・・・・よっ!」

 一人が鎧の接ぎ目に思い切り短剣を突き立てた。
 そして器用に鎧を剥がしていく。
 上手いもんだな・・・・・・ちょっと先っちょが刺さってるけど。
 ・・・・・・ま、治せばいいか。

*****

「お、目が覚めた?」
「ぅ・・・・・・僕は一体・・・・・・?」

「デカいのに一撃もらって伸びてたんだよ。」
「そ、そうだっ! 敵は!?」

「あそこに転がってる。」

 ヒノカとフィーにあっけなく倒されたボスゴブリンの死体を指す。

「僕は・・・・・・負けた、のか・・・・・・。」
「まぁでも、よく頑張ったじゃねェか。お前にゃ見所があるぜ。」

 クラスメイトの一人が少年の肩を叩いて彼の健闘を讃えた。

「何言ってんのさ、負ける方に賭けたくせに。」
「ソレはソレだ。ガハハ!」

 銀貨を懐から一枚取り出して男に向かって放り投げる。

「ちょっとアリス! 賭けなんてしていたの!? ・・・・・・呆れた!」
「すみません、僕の所為で・・・・・・。」

「大丈夫だよ。剣が金貨一枚で売れたしね。黒字だよ黒字。」
「な・に・言・っ・て・る・の・よ・ア・ナ・タ・は!」

 リーフにぎゅうっと頬を抓られる。

「いててててて!」
「そんなお金、払う必要なんて無いからね!」

「い、いえ・・・・・・払いますっ!」
「そうらよリーフ。騎士に二言は無いんりゃから。」

 彼が剣を握った時点で契約は成立したのだ。
 それを反故にするのは、騎士を名乗る者にとって恥ずべき行為なのである。

「ハァ・・・・・・分かったわもう。勝手にして頂戴。それより砦の方に人手が足りていないから貴女も来なさい、アリス。」
「ふぁーい。」

「あの・・・・・・治療までして頂き、ありがとうございました。剣の代金は・・・・・・必ず。」
「ちゃんと騎士になって出世してからで良いよ。期限は決めてないからね。じゃ、ゆっくり休んでねー。」

 さて、砦の掃除か・・・・・・面倒臭そう。
 その後、機嫌のあまりよろしくないリーフにこき使われるのだった。
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