DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

170話「左の頬を」

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「前線は随分苦戦しているみたいだよ。」

 最後方組の斥候(野次馬)から聞かされた情報をパーティメンバーとも共有する。
 と言っても、今ここにはリーフとフラム、そして俺の三人だけ。
 上った陽を避け、土で作ったプレハブ小屋で休憩している。

 フィー、ニーナ、ヒノカの三人は学年一武闘会に参加中。
 「暇だから誰が一番か決めようぜ!」的なノリで急遽開催されたやつである。
 外は中々の盛り上がりっぷり。まぁ、変に騒がれるよりはマシだろう。
 しかし夏は過ぎたとは言え、まだ暑いのに元気なことだ。

 サーニャは狩りに出掛けている。
 誰が強いとかよりも今日のご飯が大事らしい。

「話は私も聞いたわ。私たちには何も出来ないけれどね。」
「み、みんな・・・・・・大丈夫、かな・・・・・・?」

「ロール達は後ろにいるから大丈夫だと思うけど・・・・・・前線の人たちはどうだろう。」

 斥候の話によると「酷い腰抜け共ばかり」であったそうだ。
 おそらく前線の瓦解は時間の問題。
 そうなれば後方の支援部隊は蹂躙されて終わり・・・・・・なのだが、流石にそれは先生たちが阻止するだろう。

「思ったより早くお呼びが掛かるかも。」
「流石に此処でジッとしているのは退屈だし、願ったり叶ったりね。けど、外の人たち・・・・・・あんなにはしゃいでいて大丈夫なのかしら?」

「その辺りは弁えてると思うよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん。」
「だと良いのだけれど。」

 窓代わりに開けた小屋の穴から身を乗り出して外の様子を確認する。
 トーナメントを組んでやっていた筈なのだが・・・・・・いつの間にかバトルロイヤルみたいになっている。
 リングとして確保した開けた場所以外からも剣戟が響く。
 トーナメント方式だと待ち時間があるからな・・・・・・我慢できないやつが居たんだろう。
 これは・・・・・・うん、収拾つかないやつだな。

 そして、カオスな学年一武闘会が続いて空が赤らんできた頃、後方部隊と合流するよう通達が下った。

*****

 後方部隊との合流を終えると陽は既に落ち、辺りには闇が満ちていた。
 小さな魔法の光で夜の帳をかき分けるように、天幕の並ぶ野営地を進む。
 手元の紙切れに書かれた数字と、天幕に付けられた札の数字を一つずつ見比べていく。

 しばらく歩いていると、ようやく数字の一致する天幕を見つけた。

「あった、これがロールたちのテントかな。・・・・・・みんな、居る?」

 入り口から声を掛ける。

「アリス・・・・・・ちゃん?」

 中からロールのか細い声が返ってくる。
 随分滅入ってるみたいだ。

「そうだよ。入っても平気?」
「う、ん・・・・・・平気・・・・・・だよ。」

「じゃあ入るね。」

 入り口を開いて中へ足を踏み入れる。
 暗い雰囲気なのは灯りが小さいから、というだけでは無さそうだ。

「少し時間が出来たから様子を見に来たんだけど、大丈夫・・・・・・じゃないみたいだね。どうしたの?」
「ち、血が・・・・・・ひっく・・・・・・いっぱい、出て・・・・・・ぐすっ・・・・・・。」

 俺の顔を見た途端ボロボロと涙を流し始めるロール。

「どこか怪我したの?」

 彼女らの傍に寄って身体を確かめる。
 傍目にはどこも怪我してなさそうだが・・・・・・。

「妾たちは大丈夫なのじゃ。しかし・・・・・・。」

 カレンの言葉が溜め息の中へ消えていく。

「・・・・・・怪我人が、沢山出たんですの。」
「アリスさんの言った通りでしたわ。けれど、ワタクシ達は何も出来なくて・・・・・・。」

 ロール達が直接魔物に襲われたという訳では無さそうだ。
 まぁ、そんな事態になっていたらこんな場所で悠長に野営なんてしていられないか・・・・・・。

 彼女らの話によれば、前線に行った半数以上が後方に下げられて来たらしい。
 そしてその殆どが怪我人である。そりゃパニックにもなるわ。
 ロール達だって知識はあってもズブの素人なんだし。

 救いはロール達がメインの医療班では無かったことか。
 そっちの彼もしくは彼女らも青い顔をしていると思うけど、腕の見せ所なのだから泣き言は言っていられないだろう。

「皆もちゃんと役に立ってるよ。」
「き、気休めなんていらぬのじゃ!」

「気休めなんかじゃないよ。みんなの鞄、来る時はいっぱいだったのに空っぽだよね。」

 隅っこに寄り添うように置かれた真新しい鞄たち。
 いずれもぺちゃんこになり、くたびれたように項垂れている。

「医療班の方々に渡しただけですわ・・・・・・。」
「それだけ医療品が足りてなかったって事でしょ。十分役に立ってるよ。」

「でも、結局薬は足りずに先生も魔法を使って治療していますの。」
「だとしても、皆の用意した薬が役に立たなかったわけじゃないよ。皆がんばったね。」

「うわぁぁん、アリスちゃ~ん。」
「はいはい、よしよし。さて・・・・・・明日は私たちも忙しいだろうし、そろそろ戻るよ。」

「ぇ・・・・・・行っちゃうの、アリスちゃん・・・・・・?」

 四匹の子犬が縋るように潤んだ瞳で見つめてくる。

「ぅ・・・・・・わ、分かったよ。皆で隣に引っ越してくるから、それで構わない?」
「う、うん・・・・・・。でも、アリスちゃん達が大変なんじゃ・・・・・・?」

「大丈夫だよ。隣に小屋を作って荷物を運んでくるだけだから。それじゃあ行ってくるね。」
「ぁ・・・・・・ま、待って! 私たちも手伝うから!」

「自分たちの荷物だし別に――あ、いや・・・・・・そうだね、お願いするよ。」

 子犬たちは置いて行かれるのが不安でしようがないらしい。
 本当はテントを空にしていくのはあまりよろしくはないのだが・・・・・・ま、良いだろ。

 ロールたちと外に出て、テントの隣に土の小屋をサクッと作る。
 これで後は荷物を運んでくるだけだ。

 彼女らと連れ立って元来た道を辿る。
 砂利と落ち葉を踏む音が周囲の闇に染み込むように響く。

「あの・・・・・・アリスちゃん、ごめんね。我儘ばかり言って・・・・・・。」
「こんなのは我儘の内には入らないよ。それに、私も不安がってる皆をそのまま置いて行けないし。」

 そんな事をしたらまた怒られるだろうしな・・・・・・。

「何より、皆に怪我が無かったのが一番安心したよ。」
「心配・・・・・・してくれたの?」

「当たり前でしょ。何かあってもすぐに行ける距離じゃなかったしね。」

 そもそも今回は飛車角どころか金銀パールまで落としたような戦力。
 心配するなと言う方が無理な注文だ。

「・・・・・・っと、見えてきたよ。」
「アリスちゃんのところ・・・・・・遠くからでもすぐに分かるね。」

 そりゃあ、土の小屋を使ってるのなんてウチのところくらいだからな。

「ただいまー。」
「お帰りなさい、アリス。あら・・・・・・ロール達も来たのね、いらっしゃい。けど、明日もあるのに大丈夫なの貴女達?」

「あ、あの・・・・・・それは・・・・・・。」
「えーっと、これからロール達の隣に引っ越そうかと思って・・・・・・。」

「今からって・・・・・・こんな時間に何を考えて――」
「――ご、ごめんなさいっ・・・・・・アリスちゃんは悪くなくて、その・・・・・・っ。」

 俺とリーフの間にロールが割って入り、言葉を遮った。

「はぁ・・・・・・分かっているわ。私の方こそごめんなさい、ロール。けれど、いつも勝手に話を決めてしまうんだから、せめて小言くらいは聞いて欲しいものね・・・・・・アリス?」
「仰る通りデス。」

「まぁ、良いわ。それよりも、移動するなら早めに終わらせてしまいましょう。」
「えと・・・・・・話は聞かなくて良いの?」

「あとでゆっくり聞くわ。・・・・・・それに、この子たちの顔を見れば大体の事情は分かるもの。」

 リーフが一つ手を鳴らしテキパキと指示を出し始めると、あっという間に小屋の中は空っぽになった。
 魔法を解いて小屋のあった場所を更地に変え、皆で荷物を担いで歩く。
 場所はもう分かっているので、荷物を背負っていても先程より足取りは軽い。
 声を潜めて他愛ない会話をしていると、いつの間にかロールたちの天幕は目の前だった。

「ちょっとアリス。これじゃあ小さいわよ。」

 天幕の横に立つ小屋を見たリーフにまた怒られる。

「え・・・・・・でも、いつもと同じくらいの大きさだよ?」
「まったくもう・・・・・・肝心なところで気が利かないんだから、貴女は。」

 俺の弁明虚しく、呆れ顔のリーフが天幕の前に進む。
 そこに付けられていたロール達の番号札を剥がすと、その番号札を小屋に貼り付け、さらにその隣に俺達の番号札も貼り付けた。

「ほら、これで一緒に居ても問題無いでしょう。わかった?」

 リーフの細い指に頬を摘まれ、むにむにと引っ張られる。

「わはりまひた。」

 別に本気で起こっているわけではないので痛くはない。むしろ悪くない。
 とりあえず成すがままにされておく。

「さて、あとはロール達の荷物もこちらに移して・・・・・・そっちの天幕は明日片付ければ良いわ。」
「い、良いの・・・・・・リーフちゃん?」

「私だって貴女たちの事すごく心配していたんだから。ゆっくりお話しましょう?」
「う、うん!」

 なんか、良い所をもっていかれた気がする・・・・・・。ま、いいか。
 解放されて寂しくなった頬を撫でる。

「ア、アアアアリス・・・・・・あ、あの・・・・・・。」
「ど、どうしたのフラム?」

 鼻息の荒いフラムの指先はワキワキと摘むような動作を繰り返している。
 どうやら俺のほっぺたをご所望らしい。
 こ、これは拒否したらすごく落ち込むやつだな・・・・・・。

 俺は左の頬を差し出した。
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