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がっこうにいこう!
135話「ご挨拶」
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輝くシャンデリアの下、貴族達は楽団の奏でる音楽に合わせて舞い踊り、会話に華を咲かせていた。
しかし、俺達が傍を通るとそれらを一斉に止め、こちらへ頭を垂れる。
「す、凄く居心地が悪いわね・・・・・・。」
まぁ、向こうからすればいきなり王族が来たようにしか見えないんだろうし、お互い様である。
まさか一人一人に説明して回る訳も行かないしな。
勝手に勘違いして貰ったまま、やり過ごすのが無難だろう。
ホールに居るのは殆どが少年少女と呼べる年齢で、大人達は隅でグラスを傾けながら談笑している。
このパーティは年若い者たちの出会いの場としても機能しているようだ。
「あるー。まだご飯食べちゃダメにゃ?」
「いいよ、行っといで。でも、あんまり騒がしくしたらダメだからね?」
「やったにゃ!」
周囲の目などお構いなしにズカズカと食事の並ぶテーブルへと向かうサーニャ。
「ふむ、では私達も行くか。」
「そうね、何をしでかすか分からないし。フィーとニーナも行くでしょう?」
「・・・・・・うん。」
「ボクも行くー。」
皆あちらの方へ行くようだ。
俺もそうするかと足を踏み出すと、フラムにクイと袖を引かれる。
「ぁ、あの・・・・・・アリス・・・・・・。」
「ん~・・・・・・そうだね、食べる前に少しだけ踊ろうか。」
「う、うん!」
*****
フラムと数曲踊った後、貴族達の拍手に送られながらホールの中央から退く。
「うぅ・・・・・・つ、疲れた。」
「ご、ごめんね・・・・・・アリス。」
「あ、いや、こっちこそごめんね。誰が悪いって訳じゃないんだけど、あれだけ注目されると流石に・・・・・・。」
貴族達も別に悪気があるわけではない。
ただ、”王族”様の機嫌を損ねないよう、一挙手一投足を観察しているだけなのだ。
というか、主役は俺たちじゃないんだが・・・・・・。
しょげさせてしまったフラムの手を引き寄せて腕を組む。
「お腹も空いちゃったし、私達も食事にしない?」
「う、うん・・・・・・。」
フラムの腕を引き、道を空けてくれる貴族たちに会釈しながら食事の用意されたテーブルを目指す。
他の皆が居る場所は、そこだけポッカリと空間が出来上がっていたのですぐに分かった。
「あっ、あるー! ここのヤツ全部ウマいにゃ!」
山盛りの皿を抱えてブンブンと手を振るサーニャ。
流石にフィーやニーナは控えめに盛っているようだが、明らかに他のテーブルとは食事の減りが違う。
回転率を上げて対応しているのだろう。
「こんな状況でよく食べてられるわね、貴女たち・・・・・・。」
「リーフは食べてないの?」
「いえ、少し頂いたけれど・・・・・・とても美味しかったわよ。」
「それは楽しみだね。私達も食べよっか、フラム。」
テーブルに用意された空の皿に手を伸ばすと、サーニャが「あっ」と声を上げる。
「どうしたの、サーニャ?」
「ある~・・・・・・、こぼしちゃったにゃ・・・・・・。」
サーニャの方へ目を向けると、彼女の持った皿から零れたソースがドレスにべったりと掛かっている。
そしてそれを見た貴族の女の子が数人、白目を剥いて倒れた。
・・・・・・そんなにショックなのかよ。
「はぁ・・・・・・お姉ちゃん、お願い。」
「・・・・・・≪むぐ≫。」
フィーが肉を咥えたまま魔法を唱えると、サーニャのドレスは立ち所にその輝きを取り戻した。
周囲の貴族たちから小さな歓声が沸き上がる。
「ありがとにゃ、ふぃー!」
「ありがとうね、お姉ちゃん。ちゃんと気を付けなきゃダメだよ、サーニャ。」
「分かったにゃ!」
ホントに分かってるんだか・・・・・・。
気を取り直してもう一度空の皿へ手を伸ばすと、今度は周囲から盛大な拍手が起こった。
何事かと見渡すと、それは俺達ではなく壇上に現れた人物に向けてのもののようだ。
壇上へ目をやると、ロールと彼女のお父さんが立っている。
「皆さま、本日は我が娘の為に御足労いただき、誠にありがとうございます――」
風の魔法が挨拶の口上をホール内に響き渡らせる。
数人の使用人たちが組んでやっているようで、この広いホールの端までしっかりと声が届いているようだ。
ロールのお父さんが長い挨拶を終えると、その場所を娘に譲った。
次はロールの挨拶のようだ。
前に出たロールがスカートの裾を少し持ち上げ、頭を垂れる。
「私が御紹介に与りました、ローエルミル・ウィスターナと申しま・・・・・・す――」
おぉ、噛まなかった。偉いぞ。
滑り出しが良かったためか、その後の言葉も饒舌に紡がれ、父親の半分程の時間で挨拶を終えると、盛大な拍手に送られながら二人は壇上を降りていった。
ホールへと降り立ったロールは貴族たちに囲まれ忙しそうだ。
まぁ、さっき会ったんだし、落ち着いてからまた話せばいいだろう。
「ロール、きちんと挨拶出来て良かったわね。」
「うん、見てるこっちがハラハラしちゃったけど。」
今度こそ皿を手に取り、その皿を宛がいながらテーブルに用意された小さな串が刺さった肉料理を半分ほど齧った。
立食パーティ形式なので、基本は手で摘まんだり串に刺されたものをそのまま頬張れるよう料理は一口大サイズになっている。
皿はそれでも一口で食べられないお上品な方用のもので、決して自分の分を確保するためにあるわけではない。
子供の身体だと流石に一口は無理なので俺は使っているが。
「うん、美味しいね、これ。」
何かの肉らしいが、噛むとホロリと崩れるほど柔らかく、濃厚で甘辛いソースの味が口の中に染み渡る。
しかし、噛むたびに薄らとハーブの香りが鼻を抜けていき、こってり味なのに後味はサッパリという、なんとも不思議な料理だ。
「ア、アリス・・・・・・あーん。」
フラムが雛鳥のように口を開く。
「分かったよ、ちょっと待ってね。」
テーブルの方へ手を伸ばすと、フラムの声がそれを遮る。
「そ、そっちは・・・・・・い、いいの。」
フラムの視線は俺の持つ皿の上。
・・・・・・食べかけの方を御所望ですか。
「で、でも新しいのまだいっぱい残ってるよ?」
「むー・・・・・・。」
抗議の視線。
「わ、分かったよ・・・・・・はい、あーんして。」
「あーん。」
ぱくりと残った肉を頬張るフラム。
うぅ・・・・・・、こっちが恥ずかしいぞ。
横で見ていたヒノカも同じ料理を取り、口の中へ放り込む。
「ふむ・・・・・・どれも美味いのだが、欲を言えば白飯が欲しいところだな。」
「あー、確かにそうかも。」
他の料理も味が濃そうなものが多いので、ご飯があれば捗りそうだ。
流石にそこまで贅沢は言えないが。
パンはちゃんと用意されているしな。
次の料理に手を伸ばそうとすると、後ろから声がかけられた。
「あの、アリスちゃん。”しろめし”って何かな?」
「ロ、ロール!? え、えっと・・・・・・お米を炊いたのだけど、無理に――」
「マルジーヌ、”しろめし”を用意させて!」
「承知いたしました、お嬢様。料理人に伝えて参ります。」
近くで待機していたマルジーヌが早足で去って行く。
しまったな・・・・・・ロールに聞かれるとは。
そもそも米があるかすらも分からないというのに。
この世界で米が流通しているのはヒノカの故郷であるアズマの国かレンシアの街くらい。
その街に住んでいる学院生のロールですら、知らないのだ。
認知度など推して知るべし。
そして、いくらもしない内にマルジーヌが料理服を着た中年の男を連れて戻って来た。
料理人は怯えた様子で、こちらの姿を見るなり顔を青く染め上げる。
「も、申し訳ありません! こ、米というものはあるのですが、その・・・・・・私どもには”シロメシ”という料理についての知識がありませんで・・・・・・ど、どうかお情けを!」
こちらが声を掛ける前に料理人は地に手と額を擦りつけて謝罪する。
土下座というやつである。
しかしまた面倒な事になってしまったな。
とは言え・・・・・・周囲の目もあるし、とりあえずこの場を納めるしかないだろう。
「顔を上げて下さい、料理人さん。今回は私の我が儘で迷惑をかけてすみませんでした。また美味しい料理をお願いしますね。」
「めめ、滅相も御座いません! 私如きにはもったいのうお言葉に御座います!」
「あ・・・・・・後はお願いします、マルジーヌさん。」
「私からも感謝を、アリューシャ様。」
深く頭を下げた後、早足で戻って行く料理人を見送る。
はぁ・・・・・・こんな事ならいっそ制服で来れば良かったな・・・・・・。
しかし、俺達が傍を通るとそれらを一斉に止め、こちらへ頭を垂れる。
「す、凄く居心地が悪いわね・・・・・・。」
まぁ、向こうからすればいきなり王族が来たようにしか見えないんだろうし、お互い様である。
まさか一人一人に説明して回る訳も行かないしな。
勝手に勘違いして貰ったまま、やり過ごすのが無難だろう。
ホールに居るのは殆どが少年少女と呼べる年齢で、大人達は隅でグラスを傾けながら談笑している。
このパーティは年若い者たちの出会いの場としても機能しているようだ。
「あるー。まだご飯食べちゃダメにゃ?」
「いいよ、行っといで。でも、あんまり騒がしくしたらダメだからね?」
「やったにゃ!」
周囲の目などお構いなしにズカズカと食事の並ぶテーブルへと向かうサーニャ。
「ふむ、では私達も行くか。」
「そうね、何をしでかすか分からないし。フィーとニーナも行くでしょう?」
「・・・・・・うん。」
「ボクも行くー。」
皆あちらの方へ行くようだ。
俺もそうするかと足を踏み出すと、フラムにクイと袖を引かれる。
「ぁ、あの・・・・・・アリス・・・・・・。」
「ん~・・・・・・そうだね、食べる前に少しだけ踊ろうか。」
「う、うん!」
*****
フラムと数曲踊った後、貴族達の拍手に送られながらホールの中央から退く。
「うぅ・・・・・・つ、疲れた。」
「ご、ごめんね・・・・・・アリス。」
「あ、いや、こっちこそごめんね。誰が悪いって訳じゃないんだけど、あれだけ注目されると流石に・・・・・・。」
貴族達も別に悪気があるわけではない。
ただ、”王族”様の機嫌を損ねないよう、一挙手一投足を観察しているだけなのだ。
というか、主役は俺たちじゃないんだが・・・・・・。
しょげさせてしまったフラムの手を引き寄せて腕を組む。
「お腹も空いちゃったし、私達も食事にしない?」
「う、うん・・・・・・。」
フラムの腕を引き、道を空けてくれる貴族たちに会釈しながら食事の用意されたテーブルを目指す。
他の皆が居る場所は、そこだけポッカリと空間が出来上がっていたのですぐに分かった。
「あっ、あるー! ここのヤツ全部ウマいにゃ!」
山盛りの皿を抱えてブンブンと手を振るサーニャ。
流石にフィーやニーナは控えめに盛っているようだが、明らかに他のテーブルとは食事の減りが違う。
回転率を上げて対応しているのだろう。
「こんな状況でよく食べてられるわね、貴女たち・・・・・・。」
「リーフは食べてないの?」
「いえ、少し頂いたけれど・・・・・・とても美味しかったわよ。」
「それは楽しみだね。私達も食べよっか、フラム。」
テーブルに用意された空の皿に手を伸ばすと、サーニャが「あっ」と声を上げる。
「どうしたの、サーニャ?」
「ある~・・・・・・、こぼしちゃったにゃ・・・・・・。」
サーニャの方へ目を向けると、彼女の持った皿から零れたソースがドレスにべったりと掛かっている。
そしてそれを見た貴族の女の子が数人、白目を剥いて倒れた。
・・・・・・そんなにショックなのかよ。
「はぁ・・・・・・お姉ちゃん、お願い。」
「・・・・・・≪むぐ≫。」
フィーが肉を咥えたまま魔法を唱えると、サーニャのドレスは立ち所にその輝きを取り戻した。
周囲の貴族たちから小さな歓声が沸き上がる。
「ありがとにゃ、ふぃー!」
「ありがとうね、お姉ちゃん。ちゃんと気を付けなきゃダメだよ、サーニャ。」
「分かったにゃ!」
ホントに分かってるんだか・・・・・・。
気を取り直してもう一度空の皿へ手を伸ばすと、今度は周囲から盛大な拍手が起こった。
何事かと見渡すと、それは俺達ではなく壇上に現れた人物に向けてのもののようだ。
壇上へ目をやると、ロールと彼女のお父さんが立っている。
「皆さま、本日は我が娘の為に御足労いただき、誠にありがとうございます――」
風の魔法が挨拶の口上をホール内に響き渡らせる。
数人の使用人たちが組んでやっているようで、この広いホールの端までしっかりと声が届いているようだ。
ロールのお父さんが長い挨拶を終えると、その場所を娘に譲った。
次はロールの挨拶のようだ。
前に出たロールがスカートの裾を少し持ち上げ、頭を垂れる。
「私が御紹介に与りました、ローエルミル・ウィスターナと申しま・・・・・・す――」
おぉ、噛まなかった。偉いぞ。
滑り出しが良かったためか、その後の言葉も饒舌に紡がれ、父親の半分程の時間で挨拶を終えると、盛大な拍手に送られながら二人は壇上を降りていった。
ホールへと降り立ったロールは貴族たちに囲まれ忙しそうだ。
まぁ、さっき会ったんだし、落ち着いてからまた話せばいいだろう。
「ロール、きちんと挨拶出来て良かったわね。」
「うん、見てるこっちがハラハラしちゃったけど。」
今度こそ皿を手に取り、その皿を宛がいながらテーブルに用意された小さな串が刺さった肉料理を半分ほど齧った。
立食パーティ形式なので、基本は手で摘まんだり串に刺されたものをそのまま頬張れるよう料理は一口大サイズになっている。
皿はそれでも一口で食べられないお上品な方用のもので、決して自分の分を確保するためにあるわけではない。
子供の身体だと流石に一口は無理なので俺は使っているが。
「うん、美味しいね、これ。」
何かの肉らしいが、噛むとホロリと崩れるほど柔らかく、濃厚で甘辛いソースの味が口の中に染み渡る。
しかし、噛むたびに薄らとハーブの香りが鼻を抜けていき、こってり味なのに後味はサッパリという、なんとも不思議な料理だ。
「ア、アリス・・・・・・あーん。」
フラムが雛鳥のように口を開く。
「分かったよ、ちょっと待ってね。」
テーブルの方へ手を伸ばすと、フラムの声がそれを遮る。
「そ、そっちは・・・・・・い、いいの。」
フラムの視線は俺の持つ皿の上。
・・・・・・食べかけの方を御所望ですか。
「で、でも新しいのまだいっぱい残ってるよ?」
「むー・・・・・・。」
抗議の視線。
「わ、分かったよ・・・・・・はい、あーんして。」
「あーん。」
ぱくりと残った肉を頬張るフラム。
うぅ・・・・・・、こっちが恥ずかしいぞ。
横で見ていたヒノカも同じ料理を取り、口の中へ放り込む。
「ふむ・・・・・・どれも美味いのだが、欲を言えば白飯が欲しいところだな。」
「あー、確かにそうかも。」
他の料理も味が濃そうなものが多いので、ご飯があれば捗りそうだ。
流石にそこまで贅沢は言えないが。
パンはちゃんと用意されているしな。
次の料理に手を伸ばそうとすると、後ろから声がかけられた。
「あの、アリスちゃん。”しろめし”って何かな?」
「ロ、ロール!? え、えっと・・・・・・お米を炊いたのだけど、無理に――」
「マルジーヌ、”しろめし”を用意させて!」
「承知いたしました、お嬢様。料理人に伝えて参ります。」
近くで待機していたマルジーヌが早足で去って行く。
しまったな・・・・・・ロールに聞かれるとは。
そもそも米があるかすらも分からないというのに。
この世界で米が流通しているのはヒノカの故郷であるアズマの国かレンシアの街くらい。
その街に住んでいる学院生のロールですら、知らないのだ。
認知度など推して知るべし。
そして、いくらもしない内にマルジーヌが料理服を着た中年の男を連れて戻って来た。
料理人は怯えた様子で、こちらの姿を見るなり顔を青く染め上げる。
「も、申し訳ありません! こ、米というものはあるのですが、その・・・・・・私どもには”シロメシ”という料理についての知識がありませんで・・・・・・ど、どうかお情けを!」
こちらが声を掛ける前に料理人は地に手と額を擦りつけて謝罪する。
土下座というやつである。
しかしまた面倒な事になってしまったな。
とは言え・・・・・・周囲の目もあるし、とりあえずこの場を納めるしかないだろう。
「顔を上げて下さい、料理人さん。今回は私の我が儘で迷惑をかけてすみませんでした。また美味しい料理をお願いしますね。」
「めめ、滅相も御座いません! 私如きにはもったいのうお言葉に御座います!」
「あ・・・・・・後はお願いします、マルジーヌさん。」
「私からも感謝を、アリューシャ様。」
深く頭を下げた後、早足で戻って行く料理人を見送る。
はぁ・・・・・・こんな事ならいっそ制服で来れば良かったな・・・・・・。
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