DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

121話「身分いろいろ」

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「う、嘘・・・・・・ヒノカ姉が負けちゃった・・・・・・?」

 呆然とニーナが呟く。
 せっかく集まったのだからと、ララたちとの試合を組んでみたのだが、以外にもヒノカがあっさりと負けてしまったのである。
 カウンターの構えをとったヒノカにララがスゥッと近づき、短刀を突きつけた。
 傍から見ればそんな試合内容だった。

「ぬぅ・・・・・・ま、参りました。」

 当のヒノカもキツネに抓まれたような顔で頭を捻るばかり。
 さて、もう一つの試合もそろそろ決着となりそうである。

「うにゃー!」
「・・・・・・っ。」

 向かってくるサーニャにルラが短刀を突き出して牽制、それをサーニャが猫パンチで弾きルラに掴みかかろうとするが、上手く身を躱して反撃に転じるルラ。
 そんな攻防が続くが、身体能力の差でルラがジリジリと追い詰められ、終いにはサーニャがルラの腕を掴んで組み敷いた。
 ルラの頬をサーニャがペロリと舐め、勝ち鬨を上げる。

「にゃははー! 勝ったにゃー!」
「ひゃぅ・・・・・・ま、参りました・・・・・・。」

 二人の試合を見て、目をキラキラさせながら拍手する見学組のネルシー。

「おー、にゃー先輩もルラもすごーい。」

 リーフは驚きを隠せない表情を見せている。

「大人しそうな子だったのにサーニャとあそこまで渡り合えるなんて・・・・・・凄いわね。もう一人の子もヒノカに勝ってしまうし・・・・・・。」

 試合を終え、戻って来た四人に俺は労いの声をかけた。

「みんな、お疲れさま。ヒノカは随分あっさりやられちゃったね。」

 ばつの悪そうなヒノカに表情を曇らせたニーナが駆け寄る。

「ヒノカ姉、どうしたの? 身体の調子でも悪い?」
「いや、そうではないのだが・・・・・・。何と言えば良いか・・・・・・いつものように身体が動かなくてな。」

「ラランシャ、貴女一体何を致しましたの?」
「わ、私は普通にしただけです、リヴィアーネ様。」

「ふむ・・・・・・ララは誰から戦い方を学んだのだ? 良ければ教えてくれないか。」
「えっと、父と母から・・・・・・です。」

「ご両親は戦いを生業とされているのか? 二人とも随分と鍛えられているようだが。」
「え、えっと・・・・・・その~・・・・・・。」

 こちらへ目線を向けるララ。
 ・・・・・・まぁ、これから付き合うこともあるだろうし、先に言ってしまった方が二人にとっても気が楽だろう。
 小さく頷いて二人に合図を送る。

「両親が暗殺者をやっていまして、護身のためにと暗殺術を習いました。」
「なるほどな・・・・・・私はまんまと殺されてしまった訳か。アリスも黙っているとは人が悪い。」

「でも、良い刺激にはなったでしょ?」
「うむ、私もまだまだのようだ。」

「ちょ、ちょっと! 暗殺者ですって!? そんなこと聞いていませんわよ!?」

 俺の背に隠れながら声を上げるリヴィ。
 盾にするな盾に。

「い、いえ、その・・・・・・リヴィアーネ様には聞かれませんでしたので・・・・・・。」
「ううっ・・・・・・ずっと暗殺者と同じ部屋で寝食を共にしていたなんて・・・・・・おぞましいっ!」

 リヴィの心境も分からないでもない。
 暗殺のターゲットになるなんて金持ちか権力者と相場が決まっているのだし、リヴィはその筆頭と言っても良く、彼女の反応も当然である。
 だったら黙っていれば良いだけの話なのだが、ただのルームメイトであればそれも良いだろう。
 しかし、本意を問わず彼女らは学院の規則に則ってパーティを組んでいるのだ。

 入学した以上、誰であれ先日の課外授業のように魔物と対峙する機会も少なからずある。
 生活のためにギルドの仕事もこなすとなれば、その確率も跳ね上がるだろう。学生用の安全な依頼でも、だ。
 そんな時に互いの能力も把握していません、では話にならない。

 ただ、暗殺術なんて能力を持っていれば今と同じ様な話の流れになるのは必然。
 特にリヴィのような貴族が居れば尚更。遅いか早いか、それだけの違いだ。
 つまるところ、これは彼女らがパーティとして成り立つために越えねばならない壁なのである。

 ・・・・・・とは言え折角後輩が出来たのに、その彼女らが別れてしまうのを黙って見ているのは忍びない。

「ともかく、二人とも私とフラムから離れなさい! 今すぐ!」

 リヴィにキツい口調で言われ、ララとルラはゆっくりと後ろ足で距離を取る。

「ま、まぁまぁリヴィ。そもそも暗殺する気なら、今までいくらでも機会はあったでしょ?」
「そうですけれど・・・・・・これから先も、そうとは限りませんわ!」

 それはまぁ・・・・・・もっともな話だわな。

「それとも、アリス様は二人が信頼の足る人物だとお分かりになるのですか?」
「うーん・・・・・・リヴィが納得するかは分からないけど、リヴィが襲われそうになった時、ララとルラが助けようとしていたのは見たよ。」

 仲間の危機に咄嗟に動く、なんて事は中々出来ないだろう。
 ・・・・・・身体が勝手に反応しただけかもしれないが。

「本当・・・・・・ですの?」
「で、でも結局は・・・・・・その・・・・・・。」「身体が、動きませんでしたので・・・・・・。」

 この二人もリヴィと同じで、咄嗟に構えを取ったのは良かったものの、魔物の殺気に気圧されて動けなかったのである。

「だから私にバレちゃったんだけどね。」
「で、ではアリス様は分かっておられながら、それからもずっと黙っていたのですか!? 何故!?」

「え・・・・・・別に言いふらすような事じゃないし・・・・・・。」
「アリス様は口封じで暗殺されるとお考えにならなかったのですか!?」

「あ~・・・・・・その発想は無かった。」
「どうしてですの? アリス様ほど聡明な方であれば真っ先に思い当たる可能性ですのに・・・・・・。」

「そもそも”仕事”はしたこと無いって話だったからね。」
「そんな言葉を鵜呑みして良いのですか?」

「いやまぁ・・・・・・二人とも可愛い後輩だし?」
「私は違いますの!!?」

 そこに突っ込むの!?

「い、いや、リヴィだってそうだよ?」
「せんぱーい、わたしはー?」

「ネ、ネルシーもね・・・・・・。」
「わたしだけおざなりー?」

 指をくわえてしょんぼりとして見せるネルシー。

「ネルシエーヌ、貴女はどう考えていますの?」
「何がですかー?」

「ラランシャとルランシャの事についてです。」
「う~~~ん・・・・・・。ねぇ、二人ともー。わたしのご飯、おいしくなかったー?」

「い、いえ、そんなことは・・・・・・。」「た、大変美味しかったです。」
「う~~~~~~ん、本当かなー・・・・・・?」

 頭をぐるぐると捻るネルシーに溜め息を吐くリヴィ。

「貴女はもう良いですわ・・・・・・。とにかく、二人には即刻パーティから――」
「ま・・・・・・待って、リヴィ!」

「――フラム? ・・・・・・って貴女、何をしていますの? 止まりなさい!」

 リヴィの制止を聞かず、フラムがララとルラの方へ歩み寄る。
 困惑するララとルラが後ろへ更に下がろうとするが、フラムが首を横に振ってそれを止めた。
 フラムが二人の手をそっと握る。

「ぁ、あのね、リヴィ。ふ、二人は、悪いことなんか・・・・・・し、しないよ。」
「どうしてそんな事が言い切れますの?」

「ア、アリスが・・・・・・そう言ってる、から。」
「だからと言って、それだけでは・・・・・・。」

「リ、リヴィは・・・・・・アリスのこと、信じないの?」
「ぅ・・・・・・そ、それは・・・・・・。」

 こちらを窺うように見るリヴィと目が合う。

「あー・・・・・・フラム。その言い方はちょっと乱暴じゃないかな。」
「ど、どう、して・・・・・・?」

「私のことを頭から信頼してくれるのは嬉しいけど、傾倒するのはちょっと違うと思うしね。フラムが私と違う考えを持っているなら、それを教えてくれた方が嬉しいよ。・・・・・・それで、フラム自身は二人の事をどう思ってるの?」
「ゎ、私・・・・・・自身?」

「そ、ララとルラがリヴィを暗殺すると思う?」
「そんなこと・・・・・・し、しないと、思う。」

「どうしてそう思うの?」
「ぇ・・・・・・そ、その・・・・・・・・・・・・しないと、思う・・・・・・から。」

「答えになっていませんわ、フラム!」

 声を荒げるリヴィにビクリと身体を竦ませる。

「まぁまぁ、私はフラムの答えはそれで良いと思うよ。信頼関係なんてそんなもんだろうしね。」

 貴族としては少し危機管理が足りない気もするが、それも合わせてフラムの良いところだとも言えるだろう。

「で、リヴィはどうして二人が危険だと思うの?」
「私に向けて送られた刺客であるかも知れないからですわ。」

「じゃあ、どうして二人はわざわざ学院に入学したのかな?」
「それは・・・・・・・・・・・・わ、私に近づくためですわ。」

「金貨十枚も払って?」
「・・・・・・き、貴族であれば・・・・・・それくらい・・・・・・。」

「ふむ・・・・・・で、首尾よく近づけたけど、一年以上リヴィを暗殺してない理由は?」
「そ・・・・・・それ、は・・・・・・・・・・・・わ、私が十三歳になるのを待って、決闘をけしかけて殺すつもりなのですわ!」

「えっと・・・・・・それならリヴィが学院を卒業してからでもいいし、そもそも暗殺じゃないよね?」
「うっ・・・・・・。」

「それで、リヴィならそんな悠長な計画を立てる暗殺者を雇う?」
「・・・・・・・・・・・・雇いません、わ。」

 そう言うとリヴィは唇を尖らせてぷいとそっぽを向いてしまった。
 少しいじめ過ぎたか。

「ごめんごめん。けど、少し考え方を変えればリヴィにとって良い出会いだとも言えるよ。」
「どういうことですの・・・・・・?」

「リヴィなら二人が優秀なのは解るよね?」
「えぇ、まぁ・・・・・・。」

 並以上の身体能力に、ヒノカを仕留められる技術を持っているのだ。これは中々凄い事である。
 そのヒノカだって故郷の剣術大会での優勝経験者である。
 実力は折り紙付きと言っていいだろう。

「だったら、二人とも雇っちゃえば良いんだよ。それなら安心でしょ?」
「わ、私は誰かを暗殺するなんて卑怯な真似は致しません!!」

「そうじゃなくて、リヴィの護衛として雇うんだよ。」
「・・・・・・護衛?」

「暗殺術に精通しているなら、それを防ぐ事だって出来るでしょ。二人とも年の近い女の子なんだし、護衛にするならピッタリなんじゃないかな。」
「それは・・・・・・そうです、けれど。」

「じゃあさ、二人が他所の貴族に雇われちゃっても構わない?」
「そ、それは困りますわ!」

「なら、話は決まりだね。」
「・・・・・・貴女様には敵いませんわ。」

「ララとルラも、それで構わないかな?」
「は、はい。」「私達は、それで・・・・・・。」

「じゃあまずは・・・・・・契約金代わりに、リヴィと愛称で呼び合える権利なんてどうかな?」
「ア、アリス様は何を仰っているのですか!?」

「せんぱーい。わたしだけ仲間はずれー?」
「そうだったね。ネルシーは料理人として雇っちゃおう。」

「わーい。」
「えっ・・・・・・ちょっ・・・・・・!?」

「食事代とかはリヴィが出しているみたいだし、お給金はそれでいいかな?」
「はーい。」

「ど、どうしてアリス様が話を進めているのです!?」
「まぁまぁ、冷静になって考えてみて、リヴィ。今までと生活は変わらないから。」

 リヴィは頭を捻り、今までの話を反芻するように考え込む。

「・・・・・・・・・・・・た、確かに・・・・・・そうです、わね。」
「愛称で呼び合うってところだけかな、変わるのは。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 まるで燃え上がるように顔を紅くするリヴィ。

「ななな、何を仰って・・・・・・、そ、そそそれでは・・・・・・た、ただのお、お友達では、ありませんか・・・・・・。」
「リヴィは嫌?」

「そうでは・・・・・・そうでは、ありませんけれど・・・・・・私は、貴族ですのよ・・・・・・?」

 コホンと態とらしく咳払いをしたアンナ先生が注目を集める。

「フム・・・・・・それなら我が魔道具科の愛おしい生徒であるリヴィアーネ君に助言を授けよう。」
「せ、先生・・・・・・?」

「この学院に所属している間、キミ達は等しく学生という身分だ。そこには貴族や庶民という外の身分は介在しない。故に、キミはただの一学生として心の赴くままに考えるだけで良い。同じく机を並べる彼女らを友とするか否か・・・・・・いや、友としたいか否かをね。」

 勿論、先生の言っている事はただの詭弁、綺麗事である。
 結局は此処も外の家柄・・・・・・主に財力がものを言う場所なのだ。
 ただ、先生の言葉は間違っている訳ではない。
 ちゃんと学院の規則に書いているのだ。学生はみな平等である、と。
 まぁ、今みたいな屁理屈をこねる時ぐらいにしか使えないが。

「先生の言う通り、リヴィが好きに決めちゃって良いんだよ。本当に嫌だと思うなら断るのも相手のためだしね。」
「い、いえ・・・・・・そう言う訳では・・・・・・。」

「他に何か問題が?」
「皆さんは・・・・・・私と、お友達に・・・・・・なって下さるのでしょうか・・・・・・?」

「それは聞いてみないと分からないけど・・・・・・ダメだったら私の胸で泣いていいよ。まぁ、きっと大丈――」
「本当ですのっ!?」

「う、うん・・・・・・。」
「分かりましたわ、アリス様!」

 顔を上げ、リヴィは胸を張って言い放った。

「皆さんに、私を愛称で呼ぶ許可を与えますわ!」

 その辺はブレないのね・・・・・・。
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