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がっこうにいこう!
118話「ひよっこ暗殺者」
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焚火の中へ新たに薪を放り込むと、火の粉が一瞬フワリと舞い踊る。
その様子をボーっと眺めながら欠伸を一つ吐いた。
「ふぁ~・・・・・・ねむ。」
睡魔に負けじとコーヒーを啜るが、それもあまり効果は望めない。
さっさと帰って柔らかい布団でぐっすりと眠りたいものだ。
「何も・・・・・・聞かれないのですね。」
無機質で、感情の感じられない声。今日の夜のお相手、ララのものだ。
いつもの臆病で他人を窺うような表情ではなく、能面のような無表情でゆらゆらと揺れる火を瞳に映している。
普段の振る舞いは演技で、こちらが彼女の素の顔なのだろう。
「人には色々事情があるだろうしね。詮索するつもりは無いよ。」
ララとルラが普通の子ではない、という事は薄々気付いていた。
基本リヴィアーネの後ろで隠れるように縮こまっている所為で分かりにくいが、身のこなしが”ちょっと運動神経が良い”くらいのレベルではないのだ。
先程の魔物との戦いで、二人が見せた構えからもその片鱗を窺い知ることができた。
「けど、何が出来るかを教えてくれると助かるかな。さっきみたいな時に指示を出し易いから。」
「何が出来るか・・・・・・ですか。」
「例えば魔物と戦えるって言うなら、それを考慮して指示を出すし。」
「・・・・・・・・・・・・。」
何かを考えるかのように黙りこくったララだが、表情からその考えは読み取れない。
「両親から護身のためにと暗殺術を習いました。・・・・・・それ以上は分かりません。」
「ということは・・・・・・お父さんとお母さんは二人とも暗殺者ってことかな?」
「はい。」
いわゆる”アサシン”というやつだ。その名の通り、色々と危ないお仕事である。
護身のために暗殺術とは中々奇抜な考えではあるが、二人に与えられるものがそれしかなかった、とも言えるだろう。
「それ以上分からないっていうのは・・・・・・どういう意味?」
「その・・・・・・”仕事”をしたことはありませんので。」
「ん~・・・・・・実戦経験が無いって事でいい?」
「はい。」
「なるほどねぇ・・・・・・。」
リヴィアーネと同じ、という訳だ。
「それなら、今度私達と一緒に仕事しようか。」
「”殺し”ですか?」
「い、いや・・・・・・冒険者ギルドのね? まぁ、間違ってはいないか・・・・・・相手は魔物だけど。」
「お邪魔ではないですか?」
「ううん、ただ稽古に参加してもらおうかな。」
「稽古・・・・・・?」
「学校の授業が終わった後に剣の稽古とかしてるんだよ。ララ達の動きとかも分からないと連携出来ないからね。」
「分かりました・・・・・・是非。」
暗殺術の使い手なんて滅多に相手に出来ないだろうし、ヒノカ達にも良い刺激になるだろう。
「それより、アリス先輩はどうお思いでしょうか?」
「え・・・・・・何が?」
「暗殺者という存在は忌避される、と聞いておりましたので。」
「あ~・・・・・・私は特にそういうのは無いかな。他の人には言わない方が良いと思うけど・・・・・・パーティの子にはその内ちゃんと言った方が良いかもね。」
ゲームなんかじゃ”アサシン”なんて別に珍しくもないので普通に受け入れてしまったが、殺し屋やってます宣言だもんな。
そりゃ忌避されるのも当然な話か。
冒険者だって山賊やら盗賊やら、果てはチンピラ紛いまで相手にする事もあるので”殺し”も仕事の内と言えるが・・・・・・まぁ、基本は罪人みたいなのが相手だからな。
暗殺者とは少し事情が違ってくる。
「二人は将来両親の様になりたいの?」
「・・・・・・分かりません。父と母は、私達をそうしたくないと言っていました。」
「だから学院に・・・・・・か。」
「どうして分かるのですか?」
「え・・・・・・だってその方が職業選択の幅が広がるし・・・・・・。」
「そうなのですか?」
「それが普通――」
言いかけて口を噤む。
この世界ではそれが普通ではないのだ。
学院など行かず、自分の故郷で育ち、大人になれば家業を継ぐ。それがこっちの普通である。
学院に通っている生徒でも、親が通わせているような生徒は大半が卒業すれば家業を継ぐことになるだろう。貴族も然り。
ただ、自分の金で通っているような冒険者連中なんかは箔付け目的なので、職業選択の幅を広めるためと言っても過言ではない。
言ってしまえば”学歴”なのだから。
ギルドでも頭脳労働みたいな依頼があれば優先的に回されるようになるし、運と実力があれば騎士科でなくとも騎士として抱えられる可能性だってあるのだ。
彼女らの両親は冒険者寄りの思考で二人を学院に通わせているのだろう。
「ん~、例えばさ・・・・・・ララが料理屋をしたいと思っても、料理の作り方を知っていないとダメでしょ?」
「・・・・・・はい。」
「今は無理でも、学院の料理科で勉強すれば出来るかもしれないよね? 何ならネルシーに教えてもらっても良いんだし。」
「では、私は料理屋になれば良いのですか?」
「い・・・・・・いやいや、例えばの話だからね? そこはちゃんと自分で考えた方が良いと思うよ。」
「自分で・・・・・・。」
ララはそう呟いてまた考え込んでしまった。
静かに燃える焚火の中で灰が崩れ落ち、カサリと音を立てる。
「あの・・・・・・、アリス先輩はどうするか決めておられるのですか?」
「あ~・・・・・・特には決めてないかな~・・・・・・。」
おいおい、この言い方だとまるで遊び惚けてるダメな大学生ではないか。
慌てて言い繕う。
「あ、いや! 私は冒険者だし、それを変える気もないからね。まぁ、ちょっとは報酬が増えれば良いかな~とは思うけど。そもそも、大きな目的があって入学した訳じゃないしなぁ・・・・・・。」
冒険者達が入学する目的は、やはり”騎士を目指す”というのが断トツだ。
待遇は雲泥の差だろうしな。
言ってしまえば、日雇い労働者と国家公務員くらいの差である。
実力さえあればヒラの騎士より冒険者の方が稼げるが、”安定”の二文字は無い。
「では、どのような目的で?」
「う~~ん・・・・・・、学院での生活を楽しむため・・・・・・みたいな?」
「・・・・・・??」
俺の答えに理解が追いつかず、脳が強制停止してしまったようだ。
自分で言っておいて何だが、酷い答えである。やっぱりダメな大学生じゃねえか!
「わ、私の事については特殊過ぎて参考にならないだろうから気にしないで。急いで答えを出す必要なんてないし、ゆっくり考えれば良いよ。」
「・・・・・・はい。」
その後も俺とララは静かに言葉を交わし、気付けば交代の時間となっていた。
*****
「朝にゃー!!」
サーニャに叩き起こされ、目覚めきっていない身体で低い陽の下へと這い出す。
まだ太陽に暖められていない空気が肌を撫ぜ、体温を少しばかり奪う代わりに朝食の匂いも運んできた。
「ん~・・・・・・うまそう・・・・・・。」
「どーぞ、先輩!」
「ありがと~・・・・・・。」
ネルシーから謎の草と茸のスープが入ったカップを受け取り、皆と軽く挨拶を交わしてからフラムの隣に腰を落ち着ける。
「あれ、リヴィアーネさんはまだ寝てるの?」
彼女以外は全員揃っている。大体俺が最後なのだが、珍しいな。
「起こしてくるにゃ!」
サーニャが無遠慮にテントを開き、中にズカズカと足を踏み入れる。
「なーんだ、もう起きてたにゃ? 早くしないとご飯なくなっちゃうにゃ!」
「え、ちょ、ちょっとお待ちに――」
サーニャにグイグイと引かれ、テントから引き摺り出されるリヴィアーネ。
「おはよう、リヴィアーネさん。」
「う・・・・・・ぉ、おはよう・・・・・・ございます・・・・・・。」
リヴィアーネもネルシーからカップを受け取ると、焚火の前に腰を下ろした。
・・・・・・が、そっぽを向いてこちらと顔を合わせようとはしない。
フラムも顔を伏せ、若干空気が重く感じられる。
まぁ、昨日の今日だし仕方が無いか。
沈黙の多い朝食の時間を終え、食器の片付けに入る。
といっても、使った物を土に戻すだけの簡単お手軽作業だ。冷たい水に手を晒すまでもない。
戻した土を踏み固めていると、顔を伏せていたフラムが意を決した表情で立ち上がった。
「ぁ、あの・・・・・・あのね、リヴィ・・・・・・。」
「・・・・・・何か御用ですの?」
「き、昨日は・・・・・・その、ごめ・・・・・・ごめんなさい。」
「どうして・・・・・・貴女が謝るのです?」
「だ、だって・・・・・・その・・・・・・な、仲直り、して・・・・・・む、昔みたいに・・・・・・その・・・・・・仲良く、し、したい・・・・・・から。」
フラムが涙の溜まった瞳でリヴィアーネを見つめる。
リヴィアーネが視線を逸らすが、それでもフラムは真っすぐ見つめるのを止めない。
あぁなると強いんだよなぁ、フラムは・・・・・・。
まぁ、俺はすぐ折れるけど。
「わ、私は・・・・・・その・・・・・・・・・・・・。」
リヴィアーネが二の句を出せず、しばし沈黙が流れる。
その間も、フラムの瞳はリヴィアーネを捉えて離さなかった。
「わ、私は・・・・・・自らの行いに非が無いのに謝るような方とは仲良く出来ませんわ。」
「あ・・・・・・ぅ・・・・・・ご、ごめ・・・・・・っ。」
「・・・・・・それに、貴女も自らの非を詫びようとしない方とは・・・・・・仲良くしたくありませんでしょう?」
「そ、そんな・・・・・・ことは・・・・・・。」
「で・・・・・・ですから! ・・・・・・その・・・・・・昨日は当たってしまって申し訳ありませんでした・・・・・・フラム。」
「う・・・・・・うん・・・・・・?」
す、素直じゃないな・・・・・・。
そしてフラムはリヴィアーネの言葉を理解出来ていないみたいだ。
・・・・・・変に拗れる前に助け船を出してやろう。
「フラム。リヴィアーネさんは”ごめんなさい。仲良くしましょう。”だってさ。」
「ぅ、うん!」
「よ、余計な事を言わないで下さいまし!」
耳を真っ赤にして俺に怒鳴り付けたリヴィアーネが、今度は急にしおらしくなる。
「そ、それから・・・・・・アリューシャ様。」
「ん?」
「昨日は助けて頂いてありがとうございました。このお礼は後日改めてさせて頂きますわ。」
「いや、そこまで気にしなくても・・・・・・。」
「いいえ、アストリア家次期当主として、そのような真似は出来ません。」
「は、はぁ・・・・・・。」
まぁ、高そうな菓子折りでも持って来てくれるのだろう。
・・・・・・そう思っていた時期が俺にもありました。
その様子をボーっと眺めながら欠伸を一つ吐いた。
「ふぁ~・・・・・・ねむ。」
睡魔に負けじとコーヒーを啜るが、それもあまり効果は望めない。
さっさと帰って柔らかい布団でぐっすりと眠りたいものだ。
「何も・・・・・・聞かれないのですね。」
無機質で、感情の感じられない声。今日の夜のお相手、ララのものだ。
いつもの臆病で他人を窺うような表情ではなく、能面のような無表情でゆらゆらと揺れる火を瞳に映している。
普段の振る舞いは演技で、こちらが彼女の素の顔なのだろう。
「人には色々事情があるだろうしね。詮索するつもりは無いよ。」
ララとルラが普通の子ではない、という事は薄々気付いていた。
基本リヴィアーネの後ろで隠れるように縮こまっている所為で分かりにくいが、身のこなしが”ちょっと運動神経が良い”くらいのレベルではないのだ。
先程の魔物との戦いで、二人が見せた構えからもその片鱗を窺い知ることができた。
「けど、何が出来るかを教えてくれると助かるかな。さっきみたいな時に指示を出し易いから。」
「何が出来るか・・・・・・ですか。」
「例えば魔物と戦えるって言うなら、それを考慮して指示を出すし。」
「・・・・・・・・・・・・。」
何かを考えるかのように黙りこくったララだが、表情からその考えは読み取れない。
「両親から護身のためにと暗殺術を習いました。・・・・・・それ以上は分かりません。」
「ということは・・・・・・お父さんとお母さんは二人とも暗殺者ってことかな?」
「はい。」
いわゆる”アサシン”というやつだ。その名の通り、色々と危ないお仕事である。
護身のために暗殺術とは中々奇抜な考えではあるが、二人に与えられるものがそれしかなかった、とも言えるだろう。
「それ以上分からないっていうのは・・・・・・どういう意味?」
「その・・・・・・”仕事”をしたことはありませんので。」
「ん~・・・・・・実戦経験が無いって事でいい?」
「はい。」
「なるほどねぇ・・・・・・。」
リヴィアーネと同じ、という訳だ。
「それなら、今度私達と一緒に仕事しようか。」
「”殺し”ですか?」
「い、いや・・・・・・冒険者ギルドのね? まぁ、間違ってはいないか・・・・・・相手は魔物だけど。」
「お邪魔ではないですか?」
「ううん、ただ稽古に参加してもらおうかな。」
「稽古・・・・・・?」
「学校の授業が終わった後に剣の稽古とかしてるんだよ。ララ達の動きとかも分からないと連携出来ないからね。」
「分かりました・・・・・・是非。」
暗殺術の使い手なんて滅多に相手に出来ないだろうし、ヒノカ達にも良い刺激になるだろう。
「それより、アリス先輩はどうお思いでしょうか?」
「え・・・・・・何が?」
「暗殺者という存在は忌避される、と聞いておりましたので。」
「あ~・・・・・・私は特にそういうのは無いかな。他の人には言わない方が良いと思うけど・・・・・・パーティの子にはその内ちゃんと言った方が良いかもね。」
ゲームなんかじゃ”アサシン”なんて別に珍しくもないので普通に受け入れてしまったが、殺し屋やってます宣言だもんな。
そりゃ忌避されるのも当然な話か。
冒険者だって山賊やら盗賊やら、果てはチンピラ紛いまで相手にする事もあるので”殺し”も仕事の内と言えるが・・・・・・まぁ、基本は罪人みたいなのが相手だからな。
暗殺者とは少し事情が違ってくる。
「二人は将来両親の様になりたいの?」
「・・・・・・分かりません。父と母は、私達をそうしたくないと言っていました。」
「だから学院に・・・・・・か。」
「どうして分かるのですか?」
「え・・・・・・だってその方が職業選択の幅が広がるし・・・・・・。」
「そうなのですか?」
「それが普通――」
言いかけて口を噤む。
この世界ではそれが普通ではないのだ。
学院など行かず、自分の故郷で育ち、大人になれば家業を継ぐ。それがこっちの普通である。
学院に通っている生徒でも、親が通わせているような生徒は大半が卒業すれば家業を継ぐことになるだろう。貴族も然り。
ただ、自分の金で通っているような冒険者連中なんかは箔付け目的なので、職業選択の幅を広めるためと言っても過言ではない。
言ってしまえば”学歴”なのだから。
ギルドでも頭脳労働みたいな依頼があれば優先的に回されるようになるし、運と実力があれば騎士科でなくとも騎士として抱えられる可能性だってあるのだ。
彼女らの両親は冒険者寄りの思考で二人を学院に通わせているのだろう。
「ん~、例えばさ・・・・・・ララが料理屋をしたいと思っても、料理の作り方を知っていないとダメでしょ?」
「・・・・・・はい。」
「今は無理でも、学院の料理科で勉強すれば出来るかもしれないよね? 何ならネルシーに教えてもらっても良いんだし。」
「では、私は料理屋になれば良いのですか?」
「い・・・・・・いやいや、例えばの話だからね? そこはちゃんと自分で考えた方が良いと思うよ。」
「自分で・・・・・・。」
ララはそう呟いてまた考え込んでしまった。
静かに燃える焚火の中で灰が崩れ落ち、カサリと音を立てる。
「あの・・・・・・、アリス先輩はどうするか決めておられるのですか?」
「あ~・・・・・・特には決めてないかな~・・・・・・。」
おいおい、この言い方だとまるで遊び惚けてるダメな大学生ではないか。
慌てて言い繕う。
「あ、いや! 私は冒険者だし、それを変える気もないからね。まぁ、ちょっとは報酬が増えれば良いかな~とは思うけど。そもそも、大きな目的があって入学した訳じゃないしなぁ・・・・・・。」
冒険者達が入学する目的は、やはり”騎士を目指す”というのが断トツだ。
待遇は雲泥の差だろうしな。
言ってしまえば、日雇い労働者と国家公務員くらいの差である。
実力さえあればヒラの騎士より冒険者の方が稼げるが、”安定”の二文字は無い。
「では、どのような目的で?」
「う~~ん・・・・・・、学院での生活を楽しむため・・・・・・みたいな?」
「・・・・・・??」
俺の答えに理解が追いつかず、脳が強制停止してしまったようだ。
自分で言っておいて何だが、酷い答えである。やっぱりダメな大学生じゃねえか!
「わ、私の事については特殊過ぎて参考にならないだろうから気にしないで。急いで答えを出す必要なんてないし、ゆっくり考えれば良いよ。」
「・・・・・・はい。」
その後も俺とララは静かに言葉を交わし、気付けば交代の時間となっていた。
*****
「朝にゃー!!」
サーニャに叩き起こされ、目覚めきっていない身体で低い陽の下へと這い出す。
まだ太陽に暖められていない空気が肌を撫ぜ、体温を少しばかり奪う代わりに朝食の匂いも運んできた。
「ん~・・・・・・うまそう・・・・・・。」
「どーぞ、先輩!」
「ありがと~・・・・・・。」
ネルシーから謎の草と茸のスープが入ったカップを受け取り、皆と軽く挨拶を交わしてからフラムの隣に腰を落ち着ける。
「あれ、リヴィアーネさんはまだ寝てるの?」
彼女以外は全員揃っている。大体俺が最後なのだが、珍しいな。
「起こしてくるにゃ!」
サーニャが無遠慮にテントを開き、中にズカズカと足を踏み入れる。
「なーんだ、もう起きてたにゃ? 早くしないとご飯なくなっちゃうにゃ!」
「え、ちょ、ちょっとお待ちに――」
サーニャにグイグイと引かれ、テントから引き摺り出されるリヴィアーネ。
「おはよう、リヴィアーネさん。」
「う・・・・・・ぉ、おはよう・・・・・・ございます・・・・・・。」
リヴィアーネもネルシーからカップを受け取ると、焚火の前に腰を下ろした。
・・・・・・が、そっぽを向いてこちらと顔を合わせようとはしない。
フラムも顔を伏せ、若干空気が重く感じられる。
まぁ、昨日の今日だし仕方が無いか。
沈黙の多い朝食の時間を終え、食器の片付けに入る。
といっても、使った物を土に戻すだけの簡単お手軽作業だ。冷たい水に手を晒すまでもない。
戻した土を踏み固めていると、顔を伏せていたフラムが意を決した表情で立ち上がった。
「ぁ、あの・・・・・・あのね、リヴィ・・・・・・。」
「・・・・・・何か御用ですの?」
「き、昨日は・・・・・・その、ごめ・・・・・・ごめんなさい。」
「どうして・・・・・・貴女が謝るのです?」
「だ、だって・・・・・・その・・・・・・な、仲直り、して・・・・・・む、昔みたいに・・・・・・その・・・・・・仲良く、し、したい・・・・・・から。」
フラムが涙の溜まった瞳でリヴィアーネを見つめる。
リヴィアーネが視線を逸らすが、それでもフラムは真っすぐ見つめるのを止めない。
あぁなると強いんだよなぁ、フラムは・・・・・・。
まぁ、俺はすぐ折れるけど。
「わ、私は・・・・・・その・・・・・・・・・・・・。」
リヴィアーネが二の句を出せず、しばし沈黙が流れる。
その間も、フラムの瞳はリヴィアーネを捉えて離さなかった。
「わ、私は・・・・・・自らの行いに非が無いのに謝るような方とは仲良く出来ませんわ。」
「あ・・・・・・ぅ・・・・・・ご、ごめ・・・・・・っ。」
「・・・・・・それに、貴女も自らの非を詫びようとしない方とは・・・・・・仲良くしたくありませんでしょう?」
「そ、そんな・・・・・・ことは・・・・・・。」
「で・・・・・・ですから! ・・・・・・その・・・・・・昨日は当たってしまって申し訳ありませんでした・・・・・・フラム。」
「う・・・・・・うん・・・・・・?」
す、素直じゃないな・・・・・・。
そしてフラムはリヴィアーネの言葉を理解出来ていないみたいだ。
・・・・・・変に拗れる前に助け船を出してやろう。
「フラム。リヴィアーネさんは”ごめんなさい。仲良くしましょう。”だってさ。」
「ぅ、うん!」
「よ、余計な事を言わないで下さいまし!」
耳を真っ赤にして俺に怒鳴り付けたリヴィアーネが、今度は急にしおらしくなる。
「そ、それから・・・・・・アリューシャ様。」
「ん?」
「昨日は助けて頂いてありがとうございました。このお礼は後日改めてさせて頂きますわ。」
「いや、そこまで気にしなくても・・・・・・。」
「いいえ、アストリア家次期当主として、そのような真似は出来ません。」
「は、はぁ・・・・・・。」
まぁ、高そうな菓子折りでも持って来てくれるのだろう。
・・・・・・そう思っていた時期が俺にもありました。
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