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がっこうにいこう!
96話「おかしなダンジョン」
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甘い、甘い匂いが鼻をくすぐる。
スポンジケーキに生クリーム、クッキーにチョコレートにキャンディーなどなど。
床も壁も天井も、見渡す限り視界にはお菓子しか映らない。
「お菓子! お菓子だぁ~!!」
ニーナがスポンジケーキの壁に手を伸ばす。
また見えない壁に阻まれると思いきや、予想外にニーナの手はスポンジケーキにずぶずぶと埋まっていく。
その手を抜き出すと、大きなスポンジケーキの塊がごそっと取れた。
大きな塊に負けじとニーナが大きく口を開いてかぶりつく。
「おいひ~~!」
「あちしも食べるにゃ!」
「・・・・・・わたしも。」
食いしん坊達は置いておき、ヒノカ達とキョロキョロと周囲を見渡す。
「無いようだな。」
「えぇ・・・・・・無いみたいね。」
・・・・・・道が。
周囲は全てお菓子の壁で埋まっているのだ。
「掘って進めって事かなぁ・・・・・・多分。」
「やっぱり、そうなるわよね・・・・・・はぁ・・・・・・。」
ニーナ達の隣に立ち、壁のスポンジケーキを触ってみると、ふわふわとした感触が返ってくる。
そのまま手を埋め、手のひら大の塊を掘りだした。
少し齧ってみると、確かにケーキの味だ。
壁はいくつかの層に別れており、ツヤツヤとした薄い小麦色の場所を掘ってみると、今度はプルプルと震える塊が取れた。
齧るとプリンの味が口の中に広がる。
「一応食べられるっぽいけど、流石に手掴みはちょっとアレだな・・・・・・。」
手に持っていた塊を腹の中に納め、服で手を拭いながら荷車から予備の土を取り出した。
その土で少し大きめのスプーンを人数分作って配る。
「ちょっと・・・・・・これで掘り進むつもりなの?」
「まさか、とりあえずリーフ達も飽きるまで食べなよ。ニーナ達もまだ掛かりそうだしさ。」
「確かに、次の場所でも甘い物にありつけるとは限らないだろうしな。」
「多分腐らないだろうし、次に行く前に土の箱に詰めて持っていけば良いよ。」
「それは良い考えね。是非そうしましょう!」
女の子は甘い物に目がない、というのは何処の世界でも共通なのだ。
「あるーはもう食べないにゃ?」
「あぁ・・・・・・うん。今食べたしね。」
一つ、分かった事がある。
女の子の身体になっても甘い物は別腹にはならない、という事だ。
*****
「もう食べられないにゃぁ~~・・・・・・。」
「私も、もう限界・・・・・・けれど、全然進んでいないわね・・・・・・。」
いくら甘い物は別腹といえども、流石に食べながら掘り進むなんてのは無茶な話だろう。
実際、壁の規模に比べれば虫食い程度の穴しか空いていない。
これでは埒が明かないが、方法はある。
「まぁ、その辺は大丈夫だよ。・・・・・・お願いね、フラム。」
「ぇ? ・・・・・・ぇ?」
「フラムの魔法ならきっと道が作れると思うからさ。」
「そういうことね、それなら避難しましょう、皆。」
フラムの魔法と聞いて、いそいそと俺の後ろへ皆が移動する。
「ぁ・・・・・・あの・・・・・・?」
「あそこの壁に半分くらいの力で撃ってくれれば良いから。」
食い荒らされて虫食い穴だらけになった壁を指差す。
フラムはその壁をじっと見つめ、ギュッと拳を握って頷いた。
「ぅ、うん・・・・・・。」
「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ。」
ポンとフラムの肩を叩いてから後ろに下がり、水の障壁を張る。
同時にフラムの魔力が高まりだし、周囲の温度が少しずつ上がっていく。
「≪火弾≫!」
一瞬の閃光が目を覆い、吹き付ける熱風が水の障壁を煮え滾らせる。
遠くで爆発音が鳴り、熱風が収まったのを確認して閉じていた目を開くと、フラムの正面には大きな穴が空いていた。
温かい風が焦げた甘い匂いを運んで来る。
「お疲れ様、フラム。結構いったみたいだね。」
陽炎が揺れる大穴の先は何部屋かをぶち抜いており、終点までは確認できない。
「これなら楽に進めそうだけれど、フラムは大丈夫なの?」
「連続は流石に辛いだろうし、次は私がやるよ。」
威力はフラムに劣るが、そこは数でカバーすれば問題無いだろう。
「さて・・・・・・それじゃあ、この穴を進んで行こうか。」
進もうとした俺の服の袖をサーニャが掴んで止める。
「あちしもうお腹いっぱいで動けないにゃ!」
「えぇ~・・・・・・。」
胸を張って言う事じゃないだろ・・・・・・。
「ふむ、そうかそれは仕方ないな。今日はここで休むことにしよう。」
「ちょ・・・・・・ちょっと、ヒノカさん?」
「私もそうするのが良いと思うわ。さぁ、野営の準備をしましょう。」
「リーフまで!?」
「ボクもさんせー!」
「・・・・・・賛成。」
「わ、私もその方が良いかなー・・・・・・なんて。」
「・・・・・・・・・・・・まぁ、フラムも疲れてるだろうし、しょうがないか。」
「ご、ごめん、なさぃ・・・・・・。」
「いやいや、フラムを責めてるわけじゃないからね?」
「・・・・・・けぷ。」
顔を紅くし、慌てて口元を押さえるフラム。
「あー・・・・・・うん。とりあえず野営の準備をしよう。」
*****
お菓子の迷宮を彷徨うこと数日。
持ち込んでいた紅茶とコーヒーは既に底を尽きていた。
「うぅ~、苦いコーヒーが飲みたい・・・・・・。」
ニーナにここまで言わせるとは恐るべし、お菓子迷宮。
手に入る食料はお菓子ばかりなので仕方ないだろう。
壁を掘れば食べられるのに、モンスターのドロップまでお菓子なのである。
正直もう見たくねぇ。
「あちしもお菓子はもういらないにゃ・・・・・・。一体どこまで続いてるにゃ、ここ?」
「ん~、二割くらいは地図埋められてると思うし、最悪今までの道のりをあと四回ってとこかな・・・・・・。」
この迷宮の造り自体は単純で、5メートルほどの厚さの壁が格子状に設けられており、体育館ほどの広さの空間が縦横50ずつあるようだ。
つまり2500部屋。考えただけで帰りたくなる。
まぁ、外周を埋めた時点での推測なので、他の場所がどうなっているかは分からないのだが。
ちなみに最初の地点は迷宮のほぼ中心。
そこから一直線に外周へ抜け、螺旋状に地図を埋めながら進んでいる。
外周の壁は見えない壁で遮られ、掘り進む事が出来なくなっているのだが、以前の迷宮の様な仕掛けが無いかと調べながらの探索だったため、少し時間が掛かってしまった。
「はぁ・・・・・・食料がもてば良いのだけれど。」
リーフの”食料”という言葉に、お菓子は含まれていない。脳が拒否しているのだ。
他の皆もそれは同様である。
「まだ大丈夫だよ。ただまぁ・・・・・・あと二~三日したら”壁”を二食にした方が良いかもね。」
現在は一日三食のうち一食をお菓子で賄っている状態で、その割合を増やす、ということである。
「太らないと良いのだけれど・・・・・・。」
「全然太ってないよ・・・・・・まだ。」
「ま、まだ!? どういう意味よそれ!?」
「はいはい、掘るから退がっててね。」
「もぉ~!」
フラムと同じ要領で火の力を圧縮し、壁に向かって撃ち出す。
俺の放った火の魔法は何枚かの壁を貫通して消滅した。
次に氷の板を魔法で作り、焼けた地面の上に乗せる。
ジュウジュウと音を立てて融け、地面の熱を奪っていく。
これで歩けるくらいにはなっただろう。足はべちゃべちゃになってしまうが。
「ふむ・・・・・・向こうに魔物の気配がするな。」
そう言って、ヒノカはまだ熱の残る穴の中を進んで行った。
それを追いかけるように俺も後に続く。
「あちち・・・・・・一人で進むと危ないよ、ヒノカ。」
「いや大丈夫だ、この感じは・・・・・・。」
穴を抜けた先の部屋の中央には巨大なケーキが鎮座している。
この迷宮で何度か見かけたモンスターだ。
「あー・・・・・・なるほど、ケーキのゴーレムか。」
「うむ、見ての通りだ。」
言葉と共に壁にあった手のひら大のクッキーを剥がして手に取るヒノカ。
それを巨大なケーキに向かって手裏剣の様に投げる。
勢いよく回転して飛んで行ったクッキーは、もふっと巨大なケーキに突き刺さった。
その瞬間、ゴゴゴゴゴと巨大なケーキが呻りだし、手と足が生え、天井に届きそうな程のゴーレムがお菓子の大地に屹立する。
――ぐちゃ! ――ボトッ! ――ボトボトボトッ!!
だが、ケーキを素材にして造られたゴーレムがその巨体を支えきれる筈も無く、そのまま自壊。
ドロップアイテムであるホールケーキと突き刺さっていたクッキーを残し、消え去ってしまったのだった。
クッキーを剥がした際に指に付いたクリームをぺろりと舐め取るヒノカ。
「しかし随分と退屈な所だな、ここは。」
無理もない。
この迷宮に出現するモンスターは全て身体がお菓子で作られており、脆いのだ。
今のゴーレムの様に自壊するものは少ないが、俺の強化魔法なしの体当たりでも倒せてしまえる程度なのである。
ヒノカやフィーにとっては物足りないのも当然だろう。
穴を掘って進まないといけないうえ、出てくるモンスターも強敵となれば面倒な事この上ないので、俺としては助かるのだが・・・・・・確かに退屈だ。
「二人とも、怪我は無い?」
遅れて穴を通って来たリーフに大丈夫だと返す。
「うん。それより、あのケーキはどうする?」
ゴーレムがドロップしたホールケーキを指さす。かなりの大きさだ。
しばらくそれを見つめるリーフ。
「・・・・・・・・・・・・次の部屋へ行きましょう。」
まぁ、いらないよね。
*****
彷徨うこと更に数日。
食料は底が見えかけており、一日三食お菓子の日も設けている状況だ。
マイブームはフルーツ類だけほじくり返して食べる事である。
壁を掘る作業も随分手慣れ、最小の魔力弾で一枚だけ撃ち抜くという芸当も可能になった。
火への変換も行っていないので穴を冷やす必要もない。
ちなみに以前作った【掘削】能力付きのナイフは、その威力を発揮してくれなかった。
まぁ、お菓子は掘削するものではないからな・・・・・・。
俺は魔法でさながら機械の様に壁に穴を開け、次の部屋へと踏み込む。
「む・・・・・・? アリス、あそこの壁だけ雰囲気が違うぞ。」
ヒノカの示した壁は他の色どり鮮やかなものとは違い、随分と地味な色合いだ。
近づいて調べてみると、羊羹やら饅頭やら煎餅やら・・・・・・所謂和菓子で構成されている。
試しに柱の様に積まれた煎餅を一枚抜いて齧った。
バリッ! ボリ・・・・・・ボリ・・・・・・ボリ・・・・・・。
旨ぇ・・・・・・砂糖で蹂躙され尽くした舌に、しょうゆ味が染みるぜ・・・・・・。
もう一枚。・・・・・・もう一枚。
そんな俺を見た皆も壁から煎餅を抜きだし、齧る。
それからしばらく、俺達は無心無言で煎餅を貪るのだった――
「――って、煎餅食ってる場合じゃねぇ!」
そう長い時間は経っていないだろうが、何枚食ったのか全く覚えてねぇ。
「ど・・・・・・どうしたのよ、急に。びっくりするじゃない。」
「あ、あぁ・・・・・・ごめん。そろそろこの壁の向こう調べてみない?」
「ふむ、確かに気になるな。」
「そうね・・・・・・もし何もなくても、少し寄り道になるだけだもの。良いんじゃないかしら。」
異論はなし。
「なら、善は急げかな。穴開けるからみんな退がってて。」
目の前の壁を吹き飛ばすと、出来た穴から部屋の中央に門が聳え立っているのが見える。ビンゴ。
しかし、その前に鎮座する影が一つ。
鎧武者の恰好をしたモンスターだ。
・・・・・・この部屋が和菓子の壁で囲まれているからだろうか?
「ほう・・・・・・中々面白そうな相手だな。」
強張った笑みを浮かべ、刀に手をかけてヒノカが穴を進んで行く。
部屋の中に足を踏み入れると鎧武者が反応して立ち上がり、腰の刀に手をかけた。
鎧武者からはピリピリと嫌な気配が伝わってくる。
コイツは強そうだ。
「ニーナとサーニャはこっちに残って皆をお願い。お姉ちゃんはついて来て。」
「・・・・・・わかった。」
ヒノカの後を追って部屋に入り、剣を抜いて構える。
相手の気配にフィーも緊張の色を隠せないようだ。
鎧武者の体がぐっと沈み込んだかと思うと、次の瞬間その姿は視界から外れていた。
速い・・・・・・っ!
「なにっ!?」
気付けば鎧武者はヒノカの眼前で刀を抜き放っていた。
反応が少し遅れながらも、なんとかその斬撃を受け止める。
――パキン。
刀の刃先が宙を舞った。
鎧武者の持っていた刀が中ほどから折れたのだ。
さらに刀を振り抜いた腕は肘の下から砕け、地面を転がった。
ふらりとよろめいた鎧武者は脛から先の無い足で地に膝をついたが、今度はその膝が砕ける。
脛から先はというと、鎧武者の元居た場所に転がっていた。
砕けた断面はいずれも白一色で統一されている。
「い、一体何なのだ・・・・・・?」
「そうか、これ・・・・・・砂糖細工だ。」
まるで本物のように見えた刀も甲冑も、全て砂糖細工で作られた物だったのだ。
しかしその身体は自身の能力に耐え切れず、砕けてしまったのである。
最初の踏み込みで足が。次の斬撃で腕が。
正に捨て身の攻撃、という訳だ。
自らの身体を知ってか知らずか、初撃に全てを込めたその一撃は、もし受け止められていなかったら砂糖菓子の刀と言えど軽い怪我程度では済まなかっただろう。
「ふむ・・・・・・出来れば、きちんと手合わせを願いたかったな。」
崩れ去った鎧武者に黙祷を捧げたヒノカは、静かに刀を納めた。
スポンジケーキに生クリーム、クッキーにチョコレートにキャンディーなどなど。
床も壁も天井も、見渡す限り視界にはお菓子しか映らない。
「お菓子! お菓子だぁ~!!」
ニーナがスポンジケーキの壁に手を伸ばす。
また見えない壁に阻まれると思いきや、予想外にニーナの手はスポンジケーキにずぶずぶと埋まっていく。
その手を抜き出すと、大きなスポンジケーキの塊がごそっと取れた。
大きな塊に負けじとニーナが大きく口を開いてかぶりつく。
「おいひ~~!」
「あちしも食べるにゃ!」
「・・・・・・わたしも。」
食いしん坊達は置いておき、ヒノカ達とキョロキョロと周囲を見渡す。
「無いようだな。」
「えぇ・・・・・・無いみたいね。」
・・・・・・道が。
周囲は全てお菓子の壁で埋まっているのだ。
「掘って進めって事かなぁ・・・・・・多分。」
「やっぱり、そうなるわよね・・・・・・はぁ・・・・・・。」
ニーナ達の隣に立ち、壁のスポンジケーキを触ってみると、ふわふわとした感触が返ってくる。
そのまま手を埋め、手のひら大の塊を掘りだした。
少し齧ってみると、確かにケーキの味だ。
壁はいくつかの層に別れており、ツヤツヤとした薄い小麦色の場所を掘ってみると、今度はプルプルと震える塊が取れた。
齧るとプリンの味が口の中に広がる。
「一応食べられるっぽいけど、流石に手掴みはちょっとアレだな・・・・・・。」
手に持っていた塊を腹の中に納め、服で手を拭いながら荷車から予備の土を取り出した。
その土で少し大きめのスプーンを人数分作って配る。
「ちょっと・・・・・・これで掘り進むつもりなの?」
「まさか、とりあえずリーフ達も飽きるまで食べなよ。ニーナ達もまだ掛かりそうだしさ。」
「確かに、次の場所でも甘い物にありつけるとは限らないだろうしな。」
「多分腐らないだろうし、次に行く前に土の箱に詰めて持っていけば良いよ。」
「それは良い考えね。是非そうしましょう!」
女の子は甘い物に目がない、というのは何処の世界でも共通なのだ。
「あるーはもう食べないにゃ?」
「あぁ・・・・・・うん。今食べたしね。」
一つ、分かった事がある。
女の子の身体になっても甘い物は別腹にはならない、という事だ。
*****
「もう食べられないにゃぁ~~・・・・・・。」
「私も、もう限界・・・・・・けれど、全然進んでいないわね・・・・・・。」
いくら甘い物は別腹といえども、流石に食べながら掘り進むなんてのは無茶な話だろう。
実際、壁の規模に比べれば虫食い程度の穴しか空いていない。
これでは埒が明かないが、方法はある。
「まぁ、その辺は大丈夫だよ。・・・・・・お願いね、フラム。」
「ぇ? ・・・・・・ぇ?」
「フラムの魔法ならきっと道が作れると思うからさ。」
「そういうことね、それなら避難しましょう、皆。」
フラムの魔法と聞いて、いそいそと俺の後ろへ皆が移動する。
「ぁ・・・・・・あの・・・・・・?」
「あそこの壁に半分くらいの力で撃ってくれれば良いから。」
食い荒らされて虫食い穴だらけになった壁を指差す。
フラムはその壁をじっと見つめ、ギュッと拳を握って頷いた。
「ぅ、うん・・・・・・。」
「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ。」
ポンとフラムの肩を叩いてから後ろに下がり、水の障壁を張る。
同時にフラムの魔力が高まりだし、周囲の温度が少しずつ上がっていく。
「≪火弾≫!」
一瞬の閃光が目を覆い、吹き付ける熱風が水の障壁を煮え滾らせる。
遠くで爆発音が鳴り、熱風が収まったのを確認して閉じていた目を開くと、フラムの正面には大きな穴が空いていた。
温かい風が焦げた甘い匂いを運んで来る。
「お疲れ様、フラム。結構いったみたいだね。」
陽炎が揺れる大穴の先は何部屋かをぶち抜いており、終点までは確認できない。
「これなら楽に進めそうだけれど、フラムは大丈夫なの?」
「連続は流石に辛いだろうし、次は私がやるよ。」
威力はフラムに劣るが、そこは数でカバーすれば問題無いだろう。
「さて・・・・・・それじゃあ、この穴を進んで行こうか。」
進もうとした俺の服の袖をサーニャが掴んで止める。
「あちしもうお腹いっぱいで動けないにゃ!」
「えぇ~・・・・・・。」
胸を張って言う事じゃないだろ・・・・・・。
「ふむ、そうかそれは仕方ないな。今日はここで休むことにしよう。」
「ちょ・・・・・・ちょっと、ヒノカさん?」
「私もそうするのが良いと思うわ。さぁ、野営の準備をしましょう。」
「リーフまで!?」
「ボクもさんせー!」
「・・・・・・賛成。」
「わ、私もその方が良いかなー・・・・・・なんて。」
「・・・・・・・・・・・・まぁ、フラムも疲れてるだろうし、しょうがないか。」
「ご、ごめん、なさぃ・・・・・・。」
「いやいや、フラムを責めてるわけじゃないからね?」
「・・・・・・けぷ。」
顔を紅くし、慌てて口元を押さえるフラム。
「あー・・・・・・うん。とりあえず野営の準備をしよう。」
*****
お菓子の迷宮を彷徨うこと数日。
持ち込んでいた紅茶とコーヒーは既に底を尽きていた。
「うぅ~、苦いコーヒーが飲みたい・・・・・・。」
ニーナにここまで言わせるとは恐るべし、お菓子迷宮。
手に入る食料はお菓子ばかりなので仕方ないだろう。
壁を掘れば食べられるのに、モンスターのドロップまでお菓子なのである。
正直もう見たくねぇ。
「あちしもお菓子はもういらないにゃ・・・・・・。一体どこまで続いてるにゃ、ここ?」
「ん~、二割くらいは地図埋められてると思うし、最悪今までの道のりをあと四回ってとこかな・・・・・・。」
この迷宮の造り自体は単純で、5メートルほどの厚さの壁が格子状に設けられており、体育館ほどの広さの空間が縦横50ずつあるようだ。
つまり2500部屋。考えただけで帰りたくなる。
まぁ、外周を埋めた時点での推測なので、他の場所がどうなっているかは分からないのだが。
ちなみに最初の地点は迷宮のほぼ中心。
そこから一直線に外周へ抜け、螺旋状に地図を埋めながら進んでいる。
外周の壁は見えない壁で遮られ、掘り進む事が出来なくなっているのだが、以前の迷宮の様な仕掛けが無いかと調べながらの探索だったため、少し時間が掛かってしまった。
「はぁ・・・・・・食料がもてば良いのだけれど。」
リーフの”食料”という言葉に、お菓子は含まれていない。脳が拒否しているのだ。
他の皆もそれは同様である。
「まだ大丈夫だよ。ただまぁ・・・・・・あと二~三日したら”壁”を二食にした方が良いかもね。」
現在は一日三食のうち一食をお菓子で賄っている状態で、その割合を増やす、ということである。
「太らないと良いのだけれど・・・・・・。」
「全然太ってないよ・・・・・・まだ。」
「ま、まだ!? どういう意味よそれ!?」
「はいはい、掘るから退がっててね。」
「もぉ~!」
フラムと同じ要領で火の力を圧縮し、壁に向かって撃ち出す。
俺の放った火の魔法は何枚かの壁を貫通して消滅した。
次に氷の板を魔法で作り、焼けた地面の上に乗せる。
ジュウジュウと音を立てて融け、地面の熱を奪っていく。
これで歩けるくらいにはなっただろう。足はべちゃべちゃになってしまうが。
「ふむ・・・・・・向こうに魔物の気配がするな。」
そう言って、ヒノカはまだ熱の残る穴の中を進んで行った。
それを追いかけるように俺も後に続く。
「あちち・・・・・・一人で進むと危ないよ、ヒノカ。」
「いや大丈夫だ、この感じは・・・・・・。」
穴を抜けた先の部屋の中央には巨大なケーキが鎮座している。
この迷宮で何度か見かけたモンスターだ。
「あー・・・・・・なるほど、ケーキのゴーレムか。」
「うむ、見ての通りだ。」
言葉と共に壁にあった手のひら大のクッキーを剥がして手に取るヒノカ。
それを巨大なケーキに向かって手裏剣の様に投げる。
勢いよく回転して飛んで行ったクッキーは、もふっと巨大なケーキに突き刺さった。
その瞬間、ゴゴゴゴゴと巨大なケーキが呻りだし、手と足が生え、天井に届きそうな程のゴーレムがお菓子の大地に屹立する。
――ぐちゃ! ――ボトッ! ――ボトボトボトッ!!
だが、ケーキを素材にして造られたゴーレムがその巨体を支えきれる筈も無く、そのまま自壊。
ドロップアイテムであるホールケーキと突き刺さっていたクッキーを残し、消え去ってしまったのだった。
クッキーを剥がした際に指に付いたクリームをぺろりと舐め取るヒノカ。
「しかし随分と退屈な所だな、ここは。」
無理もない。
この迷宮に出現するモンスターは全て身体がお菓子で作られており、脆いのだ。
今のゴーレムの様に自壊するものは少ないが、俺の強化魔法なしの体当たりでも倒せてしまえる程度なのである。
ヒノカやフィーにとっては物足りないのも当然だろう。
穴を掘って進まないといけないうえ、出てくるモンスターも強敵となれば面倒な事この上ないので、俺としては助かるのだが・・・・・・確かに退屈だ。
「二人とも、怪我は無い?」
遅れて穴を通って来たリーフに大丈夫だと返す。
「うん。それより、あのケーキはどうする?」
ゴーレムがドロップしたホールケーキを指さす。かなりの大きさだ。
しばらくそれを見つめるリーフ。
「・・・・・・・・・・・・次の部屋へ行きましょう。」
まぁ、いらないよね。
*****
彷徨うこと更に数日。
食料は底が見えかけており、一日三食お菓子の日も設けている状況だ。
マイブームはフルーツ類だけほじくり返して食べる事である。
壁を掘る作業も随分手慣れ、最小の魔力弾で一枚だけ撃ち抜くという芸当も可能になった。
火への変換も行っていないので穴を冷やす必要もない。
ちなみに以前作った【掘削】能力付きのナイフは、その威力を発揮してくれなかった。
まぁ、お菓子は掘削するものではないからな・・・・・・。
俺は魔法でさながら機械の様に壁に穴を開け、次の部屋へと踏み込む。
「む・・・・・・? アリス、あそこの壁だけ雰囲気が違うぞ。」
ヒノカの示した壁は他の色どり鮮やかなものとは違い、随分と地味な色合いだ。
近づいて調べてみると、羊羹やら饅頭やら煎餅やら・・・・・・所謂和菓子で構成されている。
試しに柱の様に積まれた煎餅を一枚抜いて齧った。
バリッ! ボリ・・・・・・ボリ・・・・・・ボリ・・・・・・。
旨ぇ・・・・・・砂糖で蹂躙され尽くした舌に、しょうゆ味が染みるぜ・・・・・・。
もう一枚。・・・・・・もう一枚。
そんな俺を見た皆も壁から煎餅を抜きだし、齧る。
それからしばらく、俺達は無心無言で煎餅を貪るのだった――
「――って、煎餅食ってる場合じゃねぇ!」
そう長い時間は経っていないだろうが、何枚食ったのか全く覚えてねぇ。
「ど・・・・・・どうしたのよ、急に。びっくりするじゃない。」
「あ、あぁ・・・・・・ごめん。そろそろこの壁の向こう調べてみない?」
「ふむ、確かに気になるな。」
「そうね・・・・・・もし何もなくても、少し寄り道になるだけだもの。良いんじゃないかしら。」
異論はなし。
「なら、善は急げかな。穴開けるからみんな退がってて。」
目の前の壁を吹き飛ばすと、出来た穴から部屋の中央に門が聳え立っているのが見える。ビンゴ。
しかし、その前に鎮座する影が一つ。
鎧武者の恰好をしたモンスターだ。
・・・・・・この部屋が和菓子の壁で囲まれているからだろうか?
「ほう・・・・・・中々面白そうな相手だな。」
強張った笑みを浮かべ、刀に手をかけてヒノカが穴を進んで行く。
部屋の中に足を踏み入れると鎧武者が反応して立ち上がり、腰の刀に手をかけた。
鎧武者からはピリピリと嫌な気配が伝わってくる。
コイツは強そうだ。
「ニーナとサーニャはこっちに残って皆をお願い。お姉ちゃんはついて来て。」
「・・・・・・わかった。」
ヒノカの後を追って部屋に入り、剣を抜いて構える。
相手の気配にフィーも緊張の色を隠せないようだ。
鎧武者の体がぐっと沈み込んだかと思うと、次の瞬間その姿は視界から外れていた。
速い・・・・・・っ!
「なにっ!?」
気付けば鎧武者はヒノカの眼前で刀を抜き放っていた。
反応が少し遅れながらも、なんとかその斬撃を受け止める。
――パキン。
刀の刃先が宙を舞った。
鎧武者の持っていた刀が中ほどから折れたのだ。
さらに刀を振り抜いた腕は肘の下から砕け、地面を転がった。
ふらりとよろめいた鎧武者は脛から先の無い足で地に膝をついたが、今度はその膝が砕ける。
脛から先はというと、鎧武者の元居た場所に転がっていた。
砕けた断面はいずれも白一色で統一されている。
「い、一体何なのだ・・・・・・?」
「そうか、これ・・・・・・砂糖細工だ。」
まるで本物のように見えた刀も甲冑も、全て砂糖細工で作られた物だったのだ。
しかしその身体は自身の能力に耐え切れず、砕けてしまったのである。
最初の踏み込みで足が。次の斬撃で腕が。
正に捨て身の攻撃、という訳だ。
自らの身体を知ってか知らずか、初撃に全てを込めたその一撃は、もし受け止められていなかったら砂糖菓子の刀と言えど軽い怪我程度では済まなかっただろう。
「ふむ・・・・・・出来れば、きちんと手合わせを願いたかったな。」
崩れ去った鎧武者に黙祷を捧げたヒノカは、静かに刀を納めた。
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ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
無能なので辞めさせていただきます!
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
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「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
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