84 / 453
がっこうにいこう!
60話「一方通行」
しおりを挟む
ゴツゴツとした岩肌に散りばめられた小さな宝石の原石たちが光を反射し、鬱屈とした部屋内を星空のように彩っている。
地下三階、最奥の部屋へと辿り着いた俺達は、そんな光景に飲まれていた。
「・・・・・・見事なものだな。」
ヒノカでさえも惚けさせる風景。
今までが暗くて殺風景な景色ばかりであったために、一入だろう。
足を踏み入れ、プラネタリウムとなっている部屋内を見渡す。
上下左右、目の休まる場所は無い。
試しに足元の宝石を触手で掘りだそうとしてみたが、背景となっており無理なようだ。
一際目を惹くのは、入り口対面の壁に剥きだしとなっている大きな水晶の一部。
近づいてみると、その水晶は俺の姿を鈍く映し出した。
「ねぇ、お姉ちゃん。ツルハシ貸して。」
「うん、いいよ。」
フィーからツルハシを受け取り、大きな水晶に打ちつけた。
カツンと部屋内に音が響く。
リーフが慌てて俺を止めにかかる。
「ちょ、ちょっと何やってるのよ、アリス!?」
「え? 掘ってみたんだけど。」
鶴嘴で打った場所には傷一つ付かなかったが、水晶からはゴトリと欠片が吐き出された。
拳大のその欠片を拾い上げる。
吸い込まれそうなほど透明な水晶の欠片。
これなら飾ってもそれなりに見栄えはするだろう。
まぁ、お洒落な文鎮くらいには使えるか。
「ちゃんと採掘できるみたいだね、ほら。」
欠片をリーフの掌に乗せる。
「そうみたい・・・・・・ね。でも、どうなっているのかしら?」
「まぁ、そういう場所だから。細かい事は気にしない方がいいよ。」
もう一度鶴嘴を打ちつけてみると、水晶は新たな欠片を生み出した。
もう一度。ゴトリ。
もう一度。ゴトリ。
もう一度。ゴトリ。
まだまだ掘れそうな感じだ。
「ねぇねぇ、ボクも! ボクも掘ってみたい!」
隣に並んだニーナに場所を譲ると、ニーナは両手で握ったツルハシを力一杯振り下ろした。
ガツンと大きな音が響き、俺の物より二周り程大きな欠片が転がり出てきた。
「ニーナ、ちょっとごめん、試させて。」
ツルハシをコツンと水晶に当ててみると、今度はポロリと小さな欠片が現れた。
何度か試してみたが、結果は同じ。
どうやら鶴嘴を当てた強さで採れる欠片の大きさが決まるようだ。
それを伝えると、武闘派たちの心に火が付いたらしい。
即ち――
「よーし、誰が一番デッカイの採れるか勝負だよ!」
こういう事である。
*****
勝負の結果は言わずもがな。
「ごめんだけど・・・・・・これは持っていけないね、キシドー。」
しゅんと肩を落とす優勝者。
まぁ、単純に力だけの勝負であればそうなるだろう。
「お姉ちゃんのも・・・・・・無理だね。」
「うん・・・・・・。」
準優勝のフィー。
どちらも荷車に載らないのだから仕方あるまい。
持ち帰ったところで処分に困るだけな気もするが。
漬物石にするにしてもデカ過ぎる。
「それで・・・・・・どうするのよ、これ?」
リーフが示した周囲には、掘り出された水晶の欠片がゴロゴロと。
ちなみに掘っている間に水晶が枯渇する事は無かった。
ツルハシで叩けばまだまだ出てくるだろう。
とは言っても――
「ん~、仕方ないね。鉱石の半分と入れ替えようか。」
荷車は既に限界なのだ。
持ちきれないのなら無限に採れようが意味が無い。
「全部じゃなくて? こちらの方がお金になると思うけれど・・・・・・。」
「それはそうなんだけどね。もしかしたら鉱石との組み合わせで何か作れるかもしれないし。」
確かに、持ち帰って換金するだけなら水晶の方が芽はあるだろう。
だが目的は鍛冶屋で使えるかどうかの確認なのだ。
試せる物は多い方が良い。
「よく分からないけれど・・・・・・、皆はそれで構わないかしら?」
反対意見は無いようだ。
荷物の整理を終えると、最後に記念として各々で好きな欠片を採り、その部屋を後にした。
*****
ガタンと音を立てて昇降機が止まり、地下一階を示す数字が点灯した。
見た感じ、他の階と様相は変わらないようだ。
ただ、一つ違う点。
トロッコである。
他の階に線路はあったものの、終ぞ見当たらなかったトロッコである。
それが昇降機のある部屋から伸びる線路に、四連結でデンと乗っかっている。
トロッコというよりジェットコースターみたいだ。
「これは何か分かるか、アリス?」
「トロッコって言うんだけど・・・・・・鉱石とかを運ぶために、地面に敷かれた専用の道を走る荷車みたいなものだよ。」
「なるほど、荷車か。」
ヒノカが中を覗いたり、つついたりして確かめている。
こうして置いてあるということは何かあるのだろう。
トロッコの隣に意味ありげに設置されたレバーがそれを物語っている。
「みんな、少し離れてて。」
みんなが距離をとったのを確認し、そのレバーを倒してみた。
ガタン・・・・・・ガタン・・・・・・と音が鳴り、トロッコがゆっくりと動き出す。
どういう仕組かは分からないが、平坦な道にも関わらず徐々にスピードを上げ、部屋を飛び出して行った。
「・・・・・・行ってしまったわね。」
部屋の外からはゴーーッとトロッコが走る音が聞こえてくる。
轢かれては堪らないので、その音が聞こえなくなるまではと部屋で待っていると、五分もしない内にトロッコが戻ってきてゆっくりと元の位置に収まった。
トロッコが完全に止まると、倒したレバーが音を立てて元の状態に戻る。
言うまでもなく、レバーを倒せばトロッコが発車する仕組みらしい。
止まったトロッコを押したり引いたりしてみたが、レバーを倒さない限り動かないようだ。
「どうするのだ、こいつは?」
「この棒を倒さないと動かないみたいだから、とりあえず置いといて・・・・・・この階の探索かな。」
探索を開始した俺達は、線路を辿るように迷宮を進む。
俺の提案で、まずはトロッコが通った道を確認してみる事にしたためだ。
荷車は昇降機の部屋に置き、8人+2体で線路上を歩く。
その内死体でも見つけてしまうかもしれないな、この世界では珍しくもないが。
「あ、あそこにもさっきの棒があるにゃ!」
サーニャが指差した先を眼を凝らして見ると、線路の脇にレバーが設置されている。
そして案の定、線路はT字の形に分かれていた。
皆を線路上から待避させ、レバーを動かしてみる。
思った通り、レバーの動きに合わせて分岐点が切り替わった。
「な、何か動いているわよ、大丈夫なの?」
「うん、これでさっきのトロッコが走る道を切り替えてるんだよ。レバーはこっちに倒れていたから・・・・・・多分向こうの方だね。」
分岐点のレバーを元に戻し、トロッコが進んだと思われる方向へ足を向ける。
更にいくつかの分岐点を発見し、一周して昇降機の部屋まで戻って来た。
ノートに書き込みながらラビが問う。
「戻ってきちゃったけど、どうするの?」
「次は分岐先を全部調べる、かな。」
少し面倒ではあるが、地下二~三階と同じ規模であるなら三日も掛からないだろう。
*****
暗く、暗く、底が見えない大穴。
覗くだけで、くらくらと目眩が襲ってくる。
線路の分岐点を全て調べると、一つのパターンを除いて元の部屋へと戻される事が分かった。
そしてその例外が示す場所が、目の前の大穴という訳だ。
線路は大穴の淵で上に伸びるように曲がり、途切れていた。
対岸には同様に曲がった線路が敷かれ、奥へと伸びているのが見て取れる。
普通に縄を渡しても通れそうではあるが、見えない壁に阻まれてそれは叶わない。
「向こうにも道があるようだが、このままでは行けないようだな。」
「・・・・・・多分、トロッコに乗ってここを飛び越えるんだと思うよ。」
ゲームではよくある仕掛けだが、実際目の前にすると・・・・・・正直やりたくないな。
普通に落ちそうだ。
「そんな事が出来るのか?」
「確実とは言えないけど、他に方法が思い浮かばないしね。とりあえず、最初の部屋に戻ろう。」
スタート地点の部屋へと戻り、トロッコを前に皆で相談を始めた。
「二手に別れようと思う。」
「な、何を言ってるのよ、アリス!?」
「荷車は簡単に載せられないからね。向こうに渡る組と、居残り組で分けよう。」
「危険だわ、そんなの。まだ行っていない階も残っているのだし、まずはそちらを調べましょう?」
確かに、地上一階はまだ手つかず。
どこに次の門があるか分からない以上、結局はどちらに行っても同じだ。
昇降機での移動が若干手間になる可能性はあるが、些細な問題である。
それなら危険度の低い方から潰してしまう方が良いだろう。
「んー・・・・・・それもそうだね。先にそっち行っちゃおうか。みんなもそれで良い?」
特に意見が割れる事も無く決し、地上一階を先に探索する事に決まった。
*****
「・・・・・・何も無かったわね。」
そう、結論から言うと何も無かった。
いや、目の前には次の迷宮への門が鎮座しているのだが。
それまでの道程に何も無かっただけである。
外へと続く一本道。差し込む光。
あったとすれば、それだけだ。
俺達が地上一階に着いてから十分も経っていないだろう。
光に導かれるように一本道を進み、門を見つけたのだ。
炭坑の入り口周辺は森に囲まれた広場になっており、門はその中央に位置している。
森の中へは見えない壁に阻まれて進めない。
「随分と・・・・・・あっけなかったな。」
ヒノカの言葉に、どっと疲れが押し寄せてくる。
結果論とは言え、ゴールのない場所をずっと探しまわっていた事になるのだ。
まだまだ元気そうなニーナが首を傾げながら問う。
「ねぇ、それじゃあさっきの所はもう行かないの?」
トロッコで進む場所の事だ。
こうなっては行く必要も無いのだが、確かにあの先は気になる。
もしかすると、また別の鉱床が眠っているかもしれない。
「うーん、そうだね。一回戻っ――痛っ!」
炭坑の中へ戻ろうと踵を返すと、何かに頭をぶつけた。
「ど、どうしたのアリス?」
頭をぶつけた場所に触れてみると、炭坑の入り口を塞ぐ様に見えない壁が張られているようだ。
原因はこいつらしい。
「いや、なんか壁が・・・・・・中に戻れなくなってる?」
コンコンと叩いてみたり、押してもビクともしない。
ラビも不思議そうな顔で見えない壁に触れる。
「どうなってるの、これ?」
他の仲間達も同様に、はてな顔で見えない壁を調べている。
「駄目だな、隙間も無い。」
「・・・・・・本当に入れないみたいね。どうしてかしら?」
すると、ゴゴゴゴゴと足元から響く大地の唸り声。
「こ、今度はなに!?」
その声が大きくなるにつれて揺れを伴い、とても立っていられなくなる。
地震だ。
こういう時こそ落ち着いて対処しなければならない。
避難訓練の事を思い出すのだ。
「みんな、落ち着いて机の下に!」
「落ち着きなさい、アリス! 無いわよそんなの! みんな、広場の中央に集まって!」
「・・・・・・・・・・・・はい。」
地面を這って門の近くへと移動し、寄り添うように集まる。
やがて揺れは収まり、辺りには静寂が訪れた。
「みんな、怪我は無いかしら?」
全員欠ける事なく揃っており、怪我人もいない。
しかし――
「どうやら、あっちは崩れてしまったようだな。」
ヒノカの視線の先―――炭坑は落盤で崩れ、入り口は大きな瓦礫で埋まってしまっていた。
瓦礫を退かそうにも、見えない壁で触れる事も出来ない。
完全に閉め出されてしまったようだ。
ガンガンとニーナが見えない壁を叩く。
「ダメだー、向こうに行けなくなっちゃった。」
「一度出たら閉まる仕掛けみたいだね。」
「ええーっ、どうして!?」
「此処を拠点に探索させない・・・・・・ってところかな。」
随分と手の込んだ事をしてくれる。
「その・・・・・・ごめんなさい。私がこちらの探索を優先させてしまったせいで・・・・・・。」
「そんなこと言わないでよ、リーフ。こんなの誰も想定出来ないんだしさ。」
もう一度同じ迷宮に当たれば話は別だろうが・・・・・・確率は低そうだ。
まぁ、こうなってしまった以上次へ進むしか無いだろう。
戻る道は塞がれ、行く道も無いのだ。
「気を取り直して先に進もう。此処に居たって仕方ないしね。」
「うむ、そうだな。それにまだ二つ目なのだ、少し急がねばなるまい。」
確かに時間を掛けすぎてしまっている。
こうして俺達は急ぎ足で門をくぐるのだった。
地下三階、最奥の部屋へと辿り着いた俺達は、そんな光景に飲まれていた。
「・・・・・・見事なものだな。」
ヒノカでさえも惚けさせる風景。
今までが暗くて殺風景な景色ばかりであったために、一入だろう。
足を踏み入れ、プラネタリウムとなっている部屋内を見渡す。
上下左右、目の休まる場所は無い。
試しに足元の宝石を触手で掘りだそうとしてみたが、背景となっており無理なようだ。
一際目を惹くのは、入り口対面の壁に剥きだしとなっている大きな水晶の一部。
近づいてみると、その水晶は俺の姿を鈍く映し出した。
「ねぇ、お姉ちゃん。ツルハシ貸して。」
「うん、いいよ。」
フィーからツルハシを受け取り、大きな水晶に打ちつけた。
カツンと部屋内に音が響く。
リーフが慌てて俺を止めにかかる。
「ちょ、ちょっと何やってるのよ、アリス!?」
「え? 掘ってみたんだけど。」
鶴嘴で打った場所には傷一つ付かなかったが、水晶からはゴトリと欠片が吐き出された。
拳大のその欠片を拾い上げる。
吸い込まれそうなほど透明な水晶の欠片。
これなら飾ってもそれなりに見栄えはするだろう。
まぁ、お洒落な文鎮くらいには使えるか。
「ちゃんと採掘できるみたいだね、ほら。」
欠片をリーフの掌に乗せる。
「そうみたい・・・・・・ね。でも、どうなっているのかしら?」
「まぁ、そういう場所だから。細かい事は気にしない方がいいよ。」
もう一度鶴嘴を打ちつけてみると、水晶は新たな欠片を生み出した。
もう一度。ゴトリ。
もう一度。ゴトリ。
もう一度。ゴトリ。
まだまだ掘れそうな感じだ。
「ねぇねぇ、ボクも! ボクも掘ってみたい!」
隣に並んだニーナに場所を譲ると、ニーナは両手で握ったツルハシを力一杯振り下ろした。
ガツンと大きな音が響き、俺の物より二周り程大きな欠片が転がり出てきた。
「ニーナ、ちょっとごめん、試させて。」
ツルハシをコツンと水晶に当ててみると、今度はポロリと小さな欠片が現れた。
何度か試してみたが、結果は同じ。
どうやら鶴嘴を当てた強さで採れる欠片の大きさが決まるようだ。
それを伝えると、武闘派たちの心に火が付いたらしい。
即ち――
「よーし、誰が一番デッカイの採れるか勝負だよ!」
こういう事である。
*****
勝負の結果は言わずもがな。
「ごめんだけど・・・・・・これは持っていけないね、キシドー。」
しゅんと肩を落とす優勝者。
まぁ、単純に力だけの勝負であればそうなるだろう。
「お姉ちゃんのも・・・・・・無理だね。」
「うん・・・・・・。」
準優勝のフィー。
どちらも荷車に載らないのだから仕方あるまい。
持ち帰ったところで処分に困るだけな気もするが。
漬物石にするにしてもデカ過ぎる。
「それで・・・・・・どうするのよ、これ?」
リーフが示した周囲には、掘り出された水晶の欠片がゴロゴロと。
ちなみに掘っている間に水晶が枯渇する事は無かった。
ツルハシで叩けばまだまだ出てくるだろう。
とは言っても――
「ん~、仕方ないね。鉱石の半分と入れ替えようか。」
荷車は既に限界なのだ。
持ちきれないのなら無限に採れようが意味が無い。
「全部じゃなくて? こちらの方がお金になると思うけれど・・・・・・。」
「それはそうなんだけどね。もしかしたら鉱石との組み合わせで何か作れるかもしれないし。」
確かに、持ち帰って換金するだけなら水晶の方が芽はあるだろう。
だが目的は鍛冶屋で使えるかどうかの確認なのだ。
試せる物は多い方が良い。
「よく分からないけれど・・・・・・、皆はそれで構わないかしら?」
反対意見は無いようだ。
荷物の整理を終えると、最後に記念として各々で好きな欠片を採り、その部屋を後にした。
*****
ガタンと音を立てて昇降機が止まり、地下一階を示す数字が点灯した。
見た感じ、他の階と様相は変わらないようだ。
ただ、一つ違う点。
トロッコである。
他の階に線路はあったものの、終ぞ見当たらなかったトロッコである。
それが昇降機のある部屋から伸びる線路に、四連結でデンと乗っかっている。
トロッコというよりジェットコースターみたいだ。
「これは何か分かるか、アリス?」
「トロッコって言うんだけど・・・・・・鉱石とかを運ぶために、地面に敷かれた専用の道を走る荷車みたいなものだよ。」
「なるほど、荷車か。」
ヒノカが中を覗いたり、つついたりして確かめている。
こうして置いてあるということは何かあるのだろう。
トロッコの隣に意味ありげに設置されたレバーがそれを物語っている。
「みんな、少し離れてて。」
みんなが距離をとったのを確認し、そのレバーを倒してみた。
ガタン・・・・・・ガタン・・・・・・と音が鳴り、トロッコがゆっくりと動き出す。
どういう仕組かは分からないが、平坦な道にも関わらず徐々にスピードを上げ、部屋を飛び出して行った。
「・・・・・・行ってしまったわね。」
部屋の外からはゴーーッとトロッコが走る音が聞こえてくる。
轢かれては堪らないので、その音が聞こえなくなるまではと部屋で待っていると、五分もしない内にトロッコが戻ってきてゆっくりと元の位置に収まった。
トロッコが完全に止まると、倒したレバーが音を立てて元の状態に戻る。
言うまでもなく、レバーを倒せばトロッコが発車する仕組みらしい。
止まったトロッコを押したり引いたりしてみたが、レバーを倒さない限り動かないようだ。
「どうするのだ、こいつは?」
「この棒を倒さないと動かないみたいだから、とりあえず置いといて・・・・・・この階の探索かな。」
探索を開始した俺達は、線路を辿るように迷宮を進む。
俺の提案で、まずはトロッコが通った道を確認してみる事にしたためだ。
荷車は昇降機の部屋に置き、8人+2体で線路上を歩く。
その内死体でも見つけてしまうかもしれないな、この世界では珍しくもないが。
「あ、あそこにもさっきの棒があるにゃ!」
サーニャが指差した先を眼を凝らして見ると、線路の脇にレバーが設置されている。
そして案の定、線路はT字の形に分かれていた。
皆を線路上から待避させ、レバーを動かしてみる。
思った通り、レバーの動きに合わせて分岐点が切り替わった。
「な、何か動いているわよ、大丈夫なの?」
「うん、これでさっきのトロッコが走る道を切り替えてるんだよ。レバーはこっちに倒れていたから・・・・・・多分向こうの方だね。」
分岐点のレバーを元に戻し、トロッコが進んだと思われる方向へ足を向ける。
更にいくつかの分岐点を発見し、一周して昇降機の部屋まで戻って来た。
ノートに書き込みながらラビが問う。
「戻ってきちゃったけど、どうするの?」
「次は分岐先を全部調べる、かな。」
少し面倒ではあるが、地下二~三階と同じ規模であるなら三日も掛からないだろう。
*****
暗く、暗く、底が見えない大穴。
覗くだけで、くらくらと目眩が襲ってくる。
線路の分岐点を全て調べると、一つのパターンを除いて元の部屋へと戻される事が分かった。
そしてその例外が示す場所が、目の前の大穴という訳だ。
線路は大穴の淵で上に伸びるように曲がり、途切れていた。
対岸には同様に曲がった線路が敷かれ、奥へと伸びているのが見て取れる。
普通に縄を渡しても通れそうではあるが、見えない壁に阻まれてそれは叶わない。
「向こうにも道があるようだが、このままでは行けないようだな。」
「・・・・・・多分、トロッコに乗ってここを飛び越えるんだと思うよ。」
ゲームではよくある仕掛けだが、実際目の前にすると・・・・・・正直やりたくないな。
普通に落ちそうだ。
「そんな事が出来るのか?」
「確実とは言えないけど、他に方法が思い浮かばないしね。とりあえず、最初の部屋に戻ろう。」
スタート地点の部屋へと戻り、トロッコを前に皆で相談を始めた。
「二手に別れようと思う。」
「な、何を言ってるのよ、アリス!?」
「荷車は簡単に載せられないからね。向こうに渡る組と、居残り組で分けよう。」
「危険だわ、そんなの。まだ行っていない階も残っているのだし、まずはそちらを調べましょう?」
確かに、地上一階はまだ手つかず。
どこに次の門があるか分からない以上、結局はどちらに行っても同じだ。
昇降機での移動が若干手間になる可能性はあるが、些細な問題である。
それなら危険度の低い方から潰してしまう方が良いだろう。
「んー・・・・・・それもそうだね。先にそっち行っちゃおうか。みんなもそれで良い?」
特に意見が割れる事も無く決し、地上一階を先に探索する事に決まった。
*****
「・・・・・・何も無かったわね。」
そう、結論から言うと何も無かった。
いや、目の前には次の迷宮への門が鎮座しているのだが。
それまでの道程に何も無かっただけである。
外へと続く一本道。差し込む光。
あったとすれば、それだけだ。
俺達が地上一階に着いてから十分も経っていないだろう。
光に導かれるように一本道を進み、門を見つけたのだ。
炭坑の入り口周辺は森に囲まれた広場になっており、門はその中央に位置している。
森の中へは見えない壁に阻まれて進めない。
「随分と・・・・・・あっけなかったな。」
ヒノカの言葉に、どっと疲れが押し寄せてくる。
結果論とは言え、ゴールのない場所をずっと探しまわっていた事になるのだ。
まだまだ元気そうなニーナが首を傾げながら問う。
「ねぇ、それじゃあさっきの所はもう行かないの?」
トロッコで進む場所の事だ。
こうなっては行く必要も無いのだが、確かにあの先は気になる。
もしかすると、また別の鉱床が眠っているかもしれない。
「うーん、そうだね。一回戻っ――痛っ!」
炭坑の中へ戻ろうと踵を返すと、何かに頭をぶつけた。
「ど、どうしたのアリス?」
頭をぶつけた場所に触れてみると、炭坑の入り口を塞ぐ様に見えない壁が張られているようだ。
原因はこいつらしい。
「いや、なんか壁が・・・・・・中に戻れなくなってる?」
コンコンと叩いてみたり、押してもビクともしない。
ラビも不思議そうな顔で見えない壁に触れる。
「どうなってるの、これ?」
他の仲間達も同様に、はてな顔で見えない壁を調べている。
「駄目だな、隙間も無い。」
「・・・・・・本当に入れないみたいね。どうしてかしら?」
すると、ゴゴゴゴゴと足元から響く大地の唸り声。
「こ、今度はなに!?」
その声が大きくなるにつれて揺れを伴い、とても立っていられなくなる。
地震だ。
こういう時こそ落ち着いて対処しなければならない。
避難訓練の事を思い出すのだ。
「みんな、落ち着いて机の下に!」
「落ち着きなさい、アリス! 無いわよそんなの! みんな、広場の中央に集まって!」
「・・・・・・・・・・・・はい。」
地面を這って門の近くへと移動し、寄り添うように集まる。
やがて揺れは収まり、辺りには静寂が訪れた。
「みんな、怪我は無いかしら?」
全員欠ける事なく揃っており、怪我人もいない。
しかし――
「どうやら、あっちは崩れてしまったようだな。」
ヒノカの視線の先―――炭坑は落盤で崩れ、入り口は大きな瓦礫で埋まってしまっていた。
瓦礫を退かそうにも、見えない壁で触れる事も出来ない。
完全に閉め出されてしまったようだ。
ガンガンとニーナが見えない壁を叩く。
「ダメだー、向こうに行けなくなっちゃった。」
「一度出たら閉まる仕掛けみたいだね。」
「ええーっ、どうして!?」
「此処を拠点に探索させない・・・・・・ってところかな。」
随分と手の込んだ事をしてくれる。
「その・・・・・・ごめんなさい。私がこちらの探索を優先させてしまったせいで・・・・・・。」
「そんなこと言わないでよ、リーフ。こんなの誰も想定出来ないんだしさ。」
もう一度同じ迷宮に当たれば話は別だろうが・・・・・・確率は低そうだ。
まぁ、こうなってしまった以上次へ進むしか無いだろう。
戻る道は塞がれ、行く道も無いのだ。
「気を取り直して先に進もう。此処に居たって仕方ないしね。」
「うむ、そうだな。それにまだ二つ目なのだ、少し急がねばなるまい。」
確かに時間を掛けすぎてしまっている。
こうして俺達は急ぎ足で門をくぐるのだった。
0
お気に入りに追加
203
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる