DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

21話「魔法少女に必要なもの」

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 気温が上がり、じっとしているだけでも汗が出る様になった頃。
 休日ではあるが、俺はアンナ先生が所有する工房へと訪れていた。

 これまでも幾度と無くこの工房を使わせてもらい、ある物を作っていたのだ。
 そして遂に、それが完成した。

 俺の手にあるのは、ミスリルで出来たヘアピン。
 黒オークから手に入れた兜と、アンナ先生の伝手で買い足したミスリルで作った物だ。
 鉱石のままで仕入れることが出来たので随分安く手に入った。それでも結構な値段ではあったが。

 一見するとただのヘアピンだが、勿論ただのヘアピンではない。

「とりあえず、アンナ先生に報告かな・・・・・・。」

 工房にある備品も使わせてもらったり、手伝ってもらったりしたしな。一番に報告したい。
 今は製図室で図面と格闘中だろう。
 コンコンと製図室の扉をノックして開く。

「失礼します・・・・・・、先生?」

 机に突っ伏して爆睡中である。
 傍らにある目覚まし時計はセットされていないので、単なる寝落ちのようだ。

「先生、起きてください。」

 肩を掴んで揺すってみる。

「ん・・・・・・ぁ・・・・・・ぐー。」

 目覚める様子は無さそうだ。
 俺は目覚ましを一分後にセットし、部屋の外へ退避する。
 【ばくおんくん。】俺作の目覚まし時計で、その名の通り先生を爆音で起こしてくれる優れものだ。
 ただ音の衝撃で針が狂ってしまうので、毎回時間を合わせないといけないのが玉に瑕だが。

 俺はしっかり耳を塞いで爆音に備えた。
 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1――

 ズシン、と工房が揺れる。
 無事に作動したようだ。
 再度製図室に入ると、椅子から落ちてひっくり返ったアンナ先生と目が合う。

「やぁ、おはようアリューシャ君。」
「おはようございます、アンナ先生。」

「どうやら眠ってしまっていたようだ。」
「ちゃんとベッドで眠った方が良いですよ。」

 先生といつもの会話しながら【ばくおんくん。】の時間を合わせ直す。

「分かってはいるのだがね。・・・・・・それより、何か用事があるんじゃないのかい?」
「完成しましたよ、先生。」

 自分の髪に付けたヘアピンを指差す。

「おお、ついに完成したのかい? ふむ・・・・・・、随分と簡素な形にしたんだね。」

 まぁ・・・・・・パっと見はただのヘアピンだからな。

「まだ試作品ですから。完成すれば装飾を付けたいですね。」
「なるほどね、では早速使って見せてくれるかい?」

 先生から少し離れて距離を取る。
 右手を突き上げ、天に向かって起動語を叫ぶ。

「≪魔装転身≫!!」

 別にポーズをとったりする必要は無いんだが・・・・・・そこはそれ、ロマンというやつである。

 起動語を唱え終わると同時にヘアピンから強烈な光が発生し、俺を包み込む。
 そして俺から魔力を吸い上げ、小さな魔法陣が空中に描かれた。

 魔法陣から小さな鎧のパーツが飛び出してくる。
 この鎧はミスリルの特性を利用し、限界まで圧縮しているのだ。
 召喚された鎧のパーツは本来の大きさへと戻り、カチリと音が鳴って身体に装着される感覚。

 鎧、とは言ってもフルアーマーと呼ばれるような物ではなく、要所を護る軽鎧だ。
 服の上から自動装着させる為、作りも簡単にしてある。

 全てのパーツの装着が終わると俺を包んでいた光が徐々に収まっていき、可愛らしい鎧を纏った俺の姿が顕になった。・・・・・・筈だ。

「おぉ・・・・・・! 素晴らしいじゃないか!」

 身体を少し動かしてみるが、特に違和感は無い。
 鎧も左右逆などにもならず、きちんと装着されている。

「どうやら成功のようです、アンナ先生。」
「うむ、私も使ってみて構わないかね?」

「勿論です。≪魔装解除≫!」

 解除用の起動語を唱えると先程と同じ様に光が俺を包み込む。
 鎧のパーツが一つ外れ、みるみる内に小さく圧縮されていく。

 ギギギギギと嫌な金属の悲鳴が聴こえるが、まぁ大丈夫だろう。多分。

 小さくなったパーツは空中に描かれた小さな魔法陣の中へ飛び込んで消える。
 全てのパーツが収納されると、光が収まった。
 髪からヘアピンを外し、先生に渡す。

「どうぞ、先生。」

 受け取った先生は早速自身の髪にヘアピンを着ける。

「よし、では・・・・・・≪魔装転身≫!!」

 ポーズはとらなくて良いと言うのを忘れていたな。
 光が発生し、アンナ先生を包み込む。

 うおっ、まぶしっ!

 もう少し光量を抑えた方がいいかもしれない。
 ゴオォォォと部屋の中を風が吹き荒れる。

 そういや、そんな機能も付けてたな。

 使用者を中心に風が渦巻くようにしていた筈だ。
 さっきは自分が中心に居たので気付かなかったのだろう。

 光と風が収まり、服の上から可愛らしい鎧を纏ったアンナ先生が姿を現した。
 同時に呻き声を上げながら先生がガクリと崩れ落ちる。

「ぐふぉぁ・・・・・・っ!」
「せ、先生!?」

 一体何が起こったのだろうか。
 鎧は先生の身体のサイズにピッタリ合うように展開されており、失敗しているようには感じられない。

「ア・・・・・・アリューシャ君・・・・・・こ、これは・・・・・・ダメ・・・・・・だ。」
「先生、一体何が・・・・・・!?」

 息も絶え絶え言葉を続ける。

「ま、魔力の・・・・・・消費、が・・・・・・。」

 ガクリ、と力尽きた。

「・・・・・・あ~、そうか。」

 起動語を唱えた時に出現する魔法陣は【異次元ポケット】と言われる魔法陣だ。
 その名の通り異次元に色々収納できる魔法陣で、転生者の間ではポピュラーな魔法陣らしい。
 レンシアに教えて貰い、それをアレンジして小さな収納スペースになるよう設計している。

 魔法陣はその出入り口になっており、その大きさの物であれば通過でき、鎧が最小の状態で通るように魔法陣の大きさを合わせているのだが、あの大きさでも先生が倒れてしまうくらいの魔力消費量のになってしまうのだろう。
 更に鎧を魔法陣に通すため、召喚時と収納時に魔力を使って小さくしている、それも原因の一つか?

 転生者であれば全く問題はないだろうが、普通の人では鎧を召喚する事すら無理だろう。
 フィーぐらいの魔力であれば使えると思うが、ヒノカやリーフでは先生の様になってしまいそうだ。

 普通の人は実践では使えないか・・・・・・。
 先生から鎧を外し、ベッドへ運び寝かせる。
 今日はゆっくりと休んで貰おう。

「ふぅ・・・・・・どう改良すっかなー、これ。」

 ヘアピンを指で弄びながら設計書や仕様書を引っ張り出してくる。
 半分、いや五分の四ほど寝ながら書いた物もあり、判別が難しい。

「んー、魔法陣はこれ以上小さく出来ないしなぁ・・・・・・。」

 ペラペラと仕様書をめくっていく。
 ピタリ、と、あるページで指が止まった。

「・・・・・・あ。」

 そのページには変身時の光に関する記述が書かれている。

 <とにかくド派手に光らせる。>

 その部分に関する設計を確認すると、かなりの光量で変身中に持続させているのが分かる。
 あれだけの光量になると魔力の消費も多いはずだ。
 それが際限なく使われるよう設計されている。

「・・・・・・この辺削るか。」

 ただの演出なので必要無い部分ではあるのだが、無いと寂しい気もする。
 戦隊モノや魔法少女モノで演出の無い変身シーンを想像してみて欲しい。

 ただまぁ、背に腹は代えられない。
 人の持つ魔力は有限なのだ。

「削るのも勿体無いし、切り替えられるようにしよう。」

 早速仕様書に変更点を書き加え、作業に取り掛かろうと気合を入れる。
 ・・・・・・と、工房にある巨大鳩時計が真夜中を告げた。

 ポッポー!! ガンッ!! ポッポー!! ガンッ!!

 ガンッ!!という音は鳩が飛び出す度に棚に当たっている音だ。
 おかげで棚は傷だらけになっている。鳩は無傷だが。
 ちなみに鳩時計はアンナ先生作。
 【ばくおんくん。】を作っている時の話の流れで先生も作る事になり、なぜかあのデッカい物が出て来た。

「もうこんな時間か、今日は帰るかな・・・・・・。」

 工房を簡単に片づけ、灯りを落として施錠する。
 この作業も随分と慣れてしまったな。

*****

 工房を出た俺は、学院に向かってゆったりと夜の街を歩く。
 街灯一本すらない、月と星の明かりだけが頼りの夜道だ。
 ただその暗闇も静寂も、使った頭を休ませるには心地よい。

 学院への近道となる裏通りへ足を踏み入れる。
 治安は悪いが五分くらいは短縮できるのだ。

 ただまぁ、運が良いと――

「おっとお嬢ちゃん、こんな時間に何処行くのかな?」

 ――こうなる。
 行く手を遮ったのは背が低いの、ひょろ長、太った男の三人組だ。

「夜遊びはいけねぇよ、特に此処ではナ。キヒヒヒ。」
「ち、ちっちゃくて、う、美味そうな子だぁ。グフフフ。」

 ただのチンピラさん達のようだ。

「見た感じあそこの生徒だな。だったら金ぐらい持ってんだろ?」
「金持ちが多いからナ。」
「オ、オレ、あの子と遊び、たい。グフフ。」

「あぁ・・・・・・まぁ好きにしろよ。とりあえず素直にしときゃ、命だけは助けてやるぜ?」
「ホラ、さっさと金を出しナ。」

 予想を裏切ることなく大体テンプレ通りの事を言ってきたので、とりあえず丁重にお断りしておく。

「貴方たちに施すようなお金はないです。」
「ハハハ! 中々元気の良いお嬢ちゃんだな、ああん!?」

 怒気を孕んだ言葉を浴びせてくるが脅しにもなっていない。
 この間戦った黒豚ちゃんの方がまだ怖かった。

 まぁ、こういうチンピラ達は大抵冒険者になる事も出来ない・・・・・・言うなれば雑魚というやつだ。
 転生前の俺ならまだしも、今の俺にとっては恐怖の対象にはならない。

「ヤ、ヤっちまおう、は、早く。グフフ。」
「そうだぜ、こういうガキは痛い目を見た方が大人しくナる。」

 無駄とは知りつつも、一応忠告だけはしておく。

「貴方たちの方が痛い目を見ますよ?」

 魔法で作り出した触手は既に男たちの隣で鎌首をもたげている。

「ア? 言っとくけど、オレたちはガキでも容赦しねえからな?」

 三人がそれぞれナイフを見せびらかす様に弄ぶ。
 忠告はしたのでもう良いだろう。

「それじゃあ私も容赦しませんね。早く帰って寝たいので。」

 触手達が唸りを上げる。

「ギャハハハハ! 何言ってんだこい――――ヅッ!!」
「お、おい? どう――――ガッ!!」
「は? は? 何――――グァッ!!」

 必殺の触手パンチ。パンチなのかは分からんが。
 魔力で創った触手は肉眼では見えないため、三人には何が起こったか分からなかっただろう。

 ただ、剣の達人とかには避けられる事もある。
 気配とかで察知できるらしい。

 倒れた三人を足で小突いてみる。
 しっかりと気絶しているようだ。
 三人の懐から財布を抜き取り、中身を確認する。

「銀貨5枚に銅貨が・・・・・・そこそこか。」

 ゴロツキにしては持っている方だろう、多分。
 用の無くなった三人をうつ伏せに転がして三人が持っていたナイフを拾い上げ、首の後ろにナイフを突き立てる。
 ズブリ、と根元まで刃を沈みこませ、持ち主に返してやった。
 ビクン、と痙攣し、一人目の男はそれ以上動かなくなる。
 二人目、三人目も同様に止めを刺した。

 こう見えても山賊や盗賊殲滅の仕事だってこなしてきたのだ、今更悪人相手に情けを掛けるべくもない。

 三人が息絶えたのを確認し、物陰に隠れているもう一人の方へ視線を向ける。
 ・・・・・・と、一人の少女が飛び出してきた。

「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ! 違うにゃ、あちしはそいつらとは関係ないにゃ! 小さい子が絡まれてるから助けてやろうと思っただけにゃ! ホントにゃ!」

 物陰から飛び出して来たのは猫耳少女。
 背丈はニーナくらいで、褐色の肌、手入れのされていない灰色の髪に、頭の上から猫耳が生えている。

 獣人や亜人と呼ばれる種族で、人からは忌み嫌われている為、人里に下りてくる事はほとんど無いらしい。
 実際に見るのは俺も初めてだ。

 獣に近い姿だと獣人族、人に近い姿だと亜人族と大別されている。
 要はケモナー歓喜なのが獣人で、萌え豚歓喜なのが亜人ということだ。

 そういう意味では彼女は亜人と呼ぶのが正しいだろう。
 ただ、しっかりと定義されている訳ではないので、総称として獣人や亜人と呼ぶ人もいる。

「御覧の通り私は問題ありません。心配してくれてありがとうございました。」

 頭を下げるが一応警戒は解かない。

「ぶ、無事ならそれで良かったにゃ! ・・・・・・と、ところで・・・・・・その~。」
「何か?」

「それ、食べないんだったら貰っても・・・・・・いいかにゃ?」

 彼女が指差す先には三人の死体が転がっている。
 食う気かこいつ!

「・・・・・・ばっちいから止めなさい。」
「そんにゃ~! せ、せめて腕の一本だけでも――」

 ぐぅ~~~~。と彼女の代わりに腹の虫が意見を主張する。

「はぁ・・・・・・、これ食べる?」

 ポケットから取り出したのは携帯食やお菓子の残り。
 アンナ先生の工房に来る時は、いつも多めに持ってきているのだ。

「い、いいにゃ?」
「その代わり、あっちは無しだからね。」

「う、うぅ~~~~。」

 お菓子と死体を交互に見比べる猫耳ちゃん。

「・・・・・・多分、こっちの方が美味しいよ。」

 その言葉が決め手となったのか、彼女はそっとお菓子を手に取ったのだった。

*****

 風に流されていく男たちの遺灰を名残惜しそうに見つめる猫耳ちゃん。

「あぁ・・・・・・、散っていくにゃ・・・・・・。」

 さっさと燃やして正解だったかもしれん。
 さすがに猫耳少女が人間の死体に齧り付くのは見たくない。

「私の持ってた食べ物はあれで全部だからね。美味しかった?」
「うまかったにゃ! 初めて食べた味だったにゃ!」

「そう、良かった。それじゃあ私は帰るね。キミも早く帰った方がいいよ。」
「フフ、あちしは旅をしてるから帰る場所なんて無いにゃ! えっへん!」

 威張るような事ではないと思うが。

「宿は取って無いの・・・・・・?」
「やど・・・・・・? って何にゃ?」

「えっと・・・・・・何処で寝泊まりしてるの?」
「・・・・・・? その辺にゃ。」

 つまりは野宿か。

「・・・・・・お金は持ってる?」
「・・・・・・にゃ????」

 銅貨を見せてみる。

「こういうの。」
「持ってるにゃ! ほら!」

 彼女は懐から銅貨を一枚取り出し、誇らしげに掲げる。

「あちしの方がピカピカだから、あちしの勝ちにゃ!」
「えーっと・・・・・・それ一枚だけ?」

「そうにゃ!」

 獣人や亜人の知能は人と遜色ないと本には書いてあったが・・・・・・、この子が特別アレなだけだろうか。
 十分子供な見た目だが、更にずっと子供に思える。

「ご飯とかはどうしてるの?」
「外の森で狩りをするにゃ!」

 確かに外の森なら狩りくらいは出来るだろうが、門には見張りが居て許可証なんかが無ければ通れない筈だ。
 ギルド証なら一発だが、この猫耳少女が持っている筈もないだろう。

「そもそも・・・・・・この街にどうやって出入りしてるの?」
「壁を登ってにゃ。」

 マジか。結構高いぞ。流石は猫と言ったところか。

「そうだにゃ! 食い物のお礼をしないといけないにゃ!」
「いいよ別に。残り物だし。」

「ダメにゃ! 食い物のお礼はちゃんとするのが掟にゃ!」

 と言っても・・・・・・何が出来るんだ?

「えーと・・・・・・何が出来るの?」

 思った事がそのまま口に出た。

「な、何でもするにゃ! 何かして欲しい事は無いのかにゃ!?」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」

「う・・・・・・、あ、あちしに出来る事なら・・・・・・。」
「よし・・・・・・それじゃあ――」

*****

 やってきたのは裏通りにある宿の一つで、お金の無い旅人なんかが利用する安宿だ。

「二人お願いします。」

 そう言ってカウンターに大銅貨を4枚並べた。

「ウチは獣人はとらないよ。」

 ギロリと恰幅の良い女将が後ろの猫耳ちゃんを睨みつける。
 カウンターに追加で銀貨を1枚並べた。
 まぁ、どうせチンピラさん達から頂いたお金だ。
 少々大盤振る舞いしても構わないだろう。

「二人お願いします。」
「ウチは獣人様も大歓迎さね。二階の一番奥の部屋を使って頂戴な。」

 コロッと態度を変えた女将に部屋の鍵を渡される。
 更に追加で銀貨を1枚カウンターに置いた。

「あり合わせで構いませんので食事を頼めますか?」
「勿論ですとも! すぐにご用意致しますので部屋の方でお待ち下さいな。」

 そう言ってさっさと奥へ消える女将。

「アンタァ! いつまで寝てんだい! 仕事だよ!!!」

 ガタン、バタンと聴こえてくる音を無視して階段を上がった。
 鍵に付いた札を確認して一番奥の部屋に入り、備え付けのランプを灯す。
 が、あまり明るくならないので魔力で光を生み出し、天井に張りつけた。

「わ! すごい明るくなったにゃ!」

 部屋は古くて狭いが、それなりに掃除はされているようだ。
 安宿にしては・・・・・・まぁまぁ良い部屋ではないだろうか。

 地べたに座ろうとする猫耳ちゃんを椅子に座らせた。
 暗い場所では気付かなかったが猫耳ちゃんは大分薄汚れている。
 あと――

「――ちょっと臭い。」
「し、失礼にゃ! ちゃんと毎日毛づくろいして綺麗にしてるにゃ!」

「少しの間じっとしててね。」

 そう言って猫耳ちゃんの正面に立ち、掌を向ける。

「ひっ! ご、ごめんなさいにゃ!」

 怒られるとでも思ったのか、部屋の隅に丸まってしまった。

「ちょっと綺麗にするだけだから、そこに座って。痛い事はしないから。」
「ほ、ほんとにゃ・・・・・・?」

「うん、だから座って少しじっとしてて。」
「わ、わかったにゃ・・・・・・。」

 椅子に座りなおした猫耳ちゃんに≪洗浄≫もどきを発動させる。
 灰色に薄汚れていた毛並みが、雪のように真っ白な輝きを取り戻す。
 褐色の肌とのコントラストが素晴らしい。

「わ! わ! すごいにゃ! 生まれたてみたいだにゃ!」

 暗がりでは分からなかったが、よく見ると喜ぶ猫耳ちゃんの瞳は左右非対称。
 右目は薄い青色の瞳、左目は薄い黄色の瞳になっている。
 オッドアイというやつだ。

「あ! そんなにあちしの目を見ちゃダメにゃ! 不幸になっちゃうにゃ!」

 そう言ってその手で顔を覆い隠してしまった。

「どうして?」
「あちしの目は悪魔が棲み着いたから色が変わっちゃったにゃ。だから見ると不幸になっちゃうにゃ。」

 そういう設定なのか。

「ふぅん、それで追い出されたんだ?」
「何で分かったにゃ!?」

 適当にカマを掛けてみたがそういう事らしい。
 だが可愛い顔が見れないのは残念なので何とかしよう。

「それで、それは誰に言われたの?」
「長が昔からの言い伝えだって言ってたにゃ。」

「ふぅん、それじゃあ私が悪魔が棲んでいるか確かめてあげるよ。」
「何でにゃ!?」

「その長さんもちゃんと確かめてないんでしょ? そういうのは得意だから見てあげる。」

 勿論ハッタリだが。

「で、でもそんな事したら危険にゃ!」
「私が強いのは見ていて知っているでしょう? ほら、手をどけてちゃんと見せて。」

「う、うぅ・・・・・・どうなっても知らないにゃ・・・・・・。」

 観念したのかゆっくりと手を下ろす。
 クイっと顎を持ち上げて瞳を覗き込む。

「なんか恥ずかしいにゃ・・・・・・。」
「動かないでね。」

 念の為魔力の流れを視てみるが・・・・・・特に何も無い。
 本当にただの遺伝的なものだろう。

「ど、どうにゃ・・・・・・?」
「あー・・・・・・うん、居るねぇ。」

「や、やっぱりかにゃ・・・・・・。」

 しゅんと肩を落とす猫耳ちゃん。

「ほら、だから動かないで。」
「は、はいにゃ。」

「ちょっと変な感じがするけど動いちゃダメだよ。」

 ゆっくりと左のこめかみの辺りから魔力濃度を薄めた触手を侵入させる。

「ひぃっ! 何か入ってきたにゃ!」

 左目の奥辺りでクニクニと適当に触手を動かす。

「ひぃぃぃぃっ!」

 まぁ、こんなもんだろう。
 スッとこめかみから触手を抜いてやる。

「はい、終わったよ。」
「何したにゃ!?」

「悪魔退治。元々そんな所に棲む悪魔だからね、弱いんだよ。左目の辺りスッキリしてない?」
「してるにゃ・・・・・・! スッキリしてるにゃ!」

 ま、違和感から解放されたんだからスッキリした感じにはなるわな。

「でも変わっちゃった瞳の色は戻らないし、悪魔が棲み着きやすくなってるから気をつけてね。」
「そんな・・・・・・また悪魔が来ちゃうにゃ・・・・・・?」

「ちゃんと良い子にしてる事。それだけ守ってれば大丈夫。」
「ほんとにゃ!?」

「良い子の所は居心地が悪いから悪魔が拠りつかないんだよ。」
「分かったにゃ! 良い子にしてるにゃ!」

 まぁ、嘘も方便。とりあえずは一件落着かな。

*****

 コンコン、と扉がノックされる。
 扉を開けると気の弱そうなおじさんが料理を持って立っていた。
 その顔には真新しい痣が・・・・・・すまぬ、おじさん。

「お、お食事をお持ちしました。お待たせして申し訳ありません。」

 部屋に招き入れると机に料理を並べてくれた。

「いえ、こちらこそ夜中に御免なさい。」
「お客様のご都合もおありでしょうから、お気になさらず。それでは失礼します。」

「あぁ、ちょっと待って下さい。」

 部屋を去ろうとするおじさんを呼び止め、銀貨を一枚握らせる。

「実は、私は名前を出せない御方のお使いなのです。どうか【あの子】の事はご内密に。奥様にもそうお伝えください。あと、【あの子】に合うフードがあればお譲り頂きたいのですが。」
「わ、わわわわわ分かりました・・・・・・。」

 さて、これで噂が広まってくれれば猫耳ちゃんも少しは安全になるかな?
 誰だって獣人にちょっかい掛けてまで名前を出せない御方の報復なんて受けたくないだろうしな。
 報復するのは俺だが。

「お、美味しそうにゃ・・・・・・。」
「全部食べていいよ。私はもう済ませてあるしね。」

「い、いいにゃ!?」
「うん、どうぞ。」

 返事を聞くやすぐにガツガツと食べ始める。
 コンコン、とまたノックの音。
 扉を開くと先程のおじさんが立っている。

「こ、このような物しか御座いませんが・・・・・・。」

 手渡されたのはフード付きのマントだ。
 汚れてはいるが生地もしっかりとしている。
 ただ少し猫耳ちゃんには大きいが・・・・・・尻尾も隠れるのでちょうど良いだろう。

「いえ、助かります。ありがとうございました。」

 おじさんを見送り、部屋へ戻ると料理を綺麗に平らげていた。
 満足そうな表情である。
 とりあえず受け取ったマントを魔法で綺麗にし、部屋の隅に掛けておく。

「美味しかった?」
「うん! うまかったにゃ!」

「それなら良かった。それじゃあそろそろ始めようか。」
「う・・・・・・ほ、ほんとにそんなので良いにゃ? か、狩りとかでもあちしは大丈夫にゃよ?」

「うん、いいのいいの。ほら、そこのベッドに寝転んで。」

 背中を押してベッドに寝かせる。

「わ! フカフカにゃ!」

 俺もベッドに乗り、猫耳ちゃんの隣に座る。

「ふふふ、じゃあいくよ?」
「あ、あの・・・・・・い、痛くはしないで・・・・・・欲しいにゃ。」

「分かってるって!」

*****

 猫耳にツーッと指を這わせると、猫耳ちゃんの身体がピクリと反応する。

「にゃん・・・・・・っ。」

 ピクピクと跳ねる猫耳を優しく指で摘む。

「ふにゃっ。」

 猫耳を摘んだまま、耳の中にふぅーっと息を吹きかけた。
 猫耳ちゃんが身を捩って抗う。

「にゃぁぁぁんっ。や、やめるにゃぁ~。」
「ふふふ、逃げちゃダメだよ~。」

 逃げた猫耳ちゃんの頭をガシリとロックし、俺の膝の上に乗せると、猫耳ちゃんのウルウルとした色違いの瞳と目が合った。
 猫耳ちゃんが視線を逸らす。

「ぁ、あんまり見られると恥ずかしいにゃふっ・・・・・・。にゃにふるにゃぁ~。」

 ふにふにと猫耳ちゃんのほっぺを引っ張る。

「恥ずかしがり屋さんだね。」
「ら、らって~~。」

 頭を撫で撫で。
 気持ち良いのか、頭を擦り付けて「もっと」とせがんでくる。

「もっと撫でて欲しいにゃ~。」
「分かってるよ。」

 雪色の髪を手櫛で梳いてやる。
 絹のような手触り。
 甘える猫耳ちゃんの耳の中に指を挿し入れる。

「ふにぁあ・・・・・・っ!」

 悶える彼女の猫耳を更に弄る。

「んにゃ・・・・・・あっ・・・・・・ふにゃぁ・・・・・・っ。」

 暫く可愛がっていると、段々と蕩けた表情になってくる。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・んっ・・・・・・にゃぁ・・・・・・な、なんか・・・・・・おなかのあたり・・・・・・ムズムズするにゃ。」

 猫耳ちゃんが下腹部に手を伸ばそうとしたのを触手で縛って止めた。

「ふあ・・・・・・な、何するにゃ? いじわるしないでほしいにゃ・・・・・・。」
「ふふ、代わりにこっちを可愛がってあげる。」

 無防備になっていた尻尾の先をそっと握る。

「ふにゃぁあぁああん・・・・・・っ!」

 指先で尻尾をクニクニと弄ぶ。

「そ、それ・・・・・・やぁっ・・・・・・んっ・・・・・・あっ。」

 悶える猫耳ちゃんの尻尾を軽く握ったまま、付け根まで撫で上げた。

「にゃあああぁぁぁぁっ・・・・・・!!」

 そのまま尻尾の付け根を擽るように指を動かす。

「あっ・・・・・・んぅ・・・・・・や、めてぇ・・・・・・おかしくなっちゃうにゃぁ・・・・・・。」
「いいよ、おかしくなっても。」

 耳を触っていた手で頬を撫でてやると、その手に猫耳ちゃんが甘噛みしてきた。
 猫耳ちゃんの耳元にそっと口を寄せ、囁く。

「ダメだよ。噛んじゃ。」

 人差し指と中指を猫耳ちゃんの口内へ侵入させ、ゆっくりとかき回す。
 口内に溜まっていた体液が頬に溢れ、トロリ、と糸をひいた。

「ふぁ、ふぁい・・・・・・んっ・・・・・・ちゅ・・・・・・ちゅぷ・・・・・・。」

 猫耳ちゃんが歯を立てないように、ザラザラとした舌で二本の指を舐り始める。
 続けて耳元で囁いた。

「気持ち良い?」
「んっ・・・・・・ふぁ、わからにゃいにゃぁ・・・・・・れも、もっと・・・・・・して・・・・・・にゃぁ・・・・・・。」

「うん、いいよ。」

 尻尾への攻勢を強める。

「あっ・・・・・・んっ・・・・・・にゃっ・・・・・・ら、らめぇ・・・・・・ちゅ・・・・・・れろ・・・・・・ちゅぷっ・・・・・・へ、へんに・・・・・・なっひゃうにゃぁ・・・・・・ちゅぅ。」

 猫耳ちゃんが切ない表情でこちらに訴えかけるような視線を向ける。

「大丈夫だよ、そのまま・・・・・・ちゅ。」

 額に軽くキス。

「ふにゃあああぁぁぁぁ―――――――――ッッ!!!」

*****

 十分に尻尾と猫耳のモフモフを堪能した俺は満足してベッドに横になった。

「うぅ・・・・・・もうおヨメにいけないにゃぁ・・・・・・。」

 さすがに眠くなってきたが、まだ少しやる事がある。
 欠伸を噛み殺しながらギルド証の情報画面を呼び出し、学院の校則項目へスライドさせる。

「何してるにゃ?」

 空中に浮かぶウィンドウを興味津々に見つめる猫耳ちゃん。

「ちょっと調べ物を・・・・・・っと、あったあった。」

 目次から目当ての項目を見つけ、そのページへ飛ぶ。

「ふーん、よく分からないけど面白そうにゃ!」

 ウィンドウに触ろうと伸ばしてくる手を避ける。

「はいはい、邪魔しないで早く寝てね。」

 そう言って展開していた光の魔法を霧散させると、部屋が一気に暗くなる。
 情報画面はそれ自体が薄く発光しているため見えなくなる事はない。

「むー、つまんないにゃー。」

 もぞもぞと動き丸くなるとすぐに寝息を立て始める。さすが寝子と言ったところか。
 寝つきが良くて羨ましい限りだ。

 多少の時間をかけ、情報の整理を終えた俺は欠伸を一つして情報画面を消した。
 今度こそ本当に真っ暗になった部屋で目を閉じる。

 明日が休日で良かったと思いながら。
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ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

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