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DT in ガール!?
12話「がっこうにいこう!」
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ルーナさんが旅立ってから数ヶ月が過ぎようとしていた。
フィー、ニーナとの訓練に冒険者ギルドの依頼、ババ様に調合を教えて貰ったりと、忙しい時間を過ごしている。
今日も三人でいつもの河原で特訓中だ。
天気は快晴、良い日和だ。
ドサリと大の字になって寝転ぶニーナ。
「あ~ダメだ、勝てな~い。」
ぷくっと頬を膨らます。
「アリスはともかく、フィーにも勝てないなんて・・・・・・。きょうかまほうだっけ? ズルくない?」
「ニーナさんにも掛けてるよ?」
「だって~すぐ効果なくなるんだもん。」
「ご、ごめんね、ニーナちゃん。」
訓練のときは強化魔法を掛けているのだが、ニーナだけが未だに自分で使えない。
早々にマスターしたフィーが異常なのだろう。強化魔法に関してはすでに俺より上手くなっている。
昔の事件が原因かも知れない。
フィーが倒れた一件からグングンと魔力量が増えていったのだ。
いわゆる超回復でパワーアップ的なアレだ。
ただ、俺のように触手を出したり、土から剣を作ったりは出来ないようだ。
皆が使うような”魔法”は強化魔法を使えるようになってからも使えているみたいだが、俺と何が違うのだろう?
ニーナの場合、体内での魔力の循環が上手く出来ていないせいで、流し込んだ魔力が徐々に漏れ出し、効果が切れてしまっているようだ。
フィーと違って魔力量が少ないのも原因かもしれない。
と言っても、同じ歳の子と比べればニーナも断然多いが。
最初の数合はニーナの方が上回っているが、時間が経てば徐々に強化魔法の効果が薄れ、最後にはフィーに逆転されてしまう、というのが最近のお決まりの流れになっている。
ニーナが何か思い出したように口を開いた。
「そうだ、そろそろおばあさまが帰ってくるみたいだよ。」
「ルーナさんが?」
「うん、昨日手紙がとどいたの。戻るのは今くらいになるだろうって。」
剣は売れたのだろうか。
いくらかでも足しになればいいが・・・・・・所詮、土の塊だしな。
ギルドの依頼でも稼げないことはないが、やはり時間が掛かる。
何か良い方法はないだろうか。
「それにしても、一体何しに行ったんだろ?」
二人にはまだ魔術学院に行くつもりであることを話していない。
お金の問題が解決してから話すつもりだ。
期待させてやっぱり無理でした、なんて事にはしたくないからな。
「きっと戻ってきたら教えてくれるよ、早く戻ってくるといいね。」
「え~、もうちょっとおばあさまのいない日常を・・・・・・。」
「「「あはは!」」」
俺達の笑い声が河原に響いた。
*****
一週間後。
フィーと一緒にいつもの河原に行くと、ニーナとルーナさんがすでに特訓を始めていた。
「おかえりなさい、ルーナさん。」
「お、おかえりなさい。」
ルーナさんは手を止めてこちらへ向きニッコリと微笑む。
「ただいま、アリス、フィー。」
「や・・・・・・やっときた二人とも~。」
すでにニーナはへろへろだ。
フィーがニーナに駆け寄って肩を貸す。
その間に俺は二人に聞こえないようルーナさんと小声で話す。
「どうでしたか?」
「ふふ、バッチリよ。後でウチに来て頂戴、お金を渡すわ。」
「魔術学院への入学金には足りていますか?」
「ええ、貴方達三人で行っても残る方が多いわよ。」
「そ、そんなに・・・・・・?」
一体何をしたんだこの人は・・・・・・元は土だぞ?
「金額は後のお楽しみよ。それより、二人にはまだ言ってないんでしょう?」
これでお金の問題は解決できた、後は本人達次第だろう。
「・・・・・・そうですね。」
俺は二人に近づいて話しかける。
「お姉ちゃん、ニーナさん、話があるの。」
フィーが首を傾げ、ぐったりとしたニーナがだるそう答える。
「・・・・・・どうしたの?」
「おー、どうした?」
早速本題を切り出す。
「二人とも、レンシア魔術学院に行かない?」
だが二人は即座に否定した。
「・・・・・・いや、ウチにそんなお金ないよ。」
「そ、そうだよアリス。お父さんもお母さんもこまっちゃうよ!」
「お金は何とかなったから大丈夫。私は行くつもりだけど、二人はどうする? あー、お金は二人の分もあるから気にしないで。」
ポカンとする二人。
「な、なんとかって・・・・・・ええ!?」
「ど、どういうこと?。」
こちらの輪に入ってきたルーナさんが楽しそうに笑う。
「フフ、二人とも吃驚してるわね。」
「お、おばあさま知ってたの!?」
「今回の旅でアリスの作った剣を売ってきたの、そのお金よ。アリスに感謝しなさい、ニーナ。」
「・・・・・・うん! すごい、すごいよフィー! 学院だよ!」
フィーの手を取ってぶんぶんと振るニーナ。
まだ自体が飲み込めないのか、呆然としたまま為すがままにされるフィー。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「・・・・・・うん、アリス・・・・・・ほんとうに行くの?」
その問いに俺は即答する。
「うん、そのつもり。」
フィーからの更なる問い。
「お父さんとお母さんはどうするの?」
「えっと・・・・・・それは・・・・・・。」
何も考えてなかった。
すっかり忘れていたが、フィーはまだ八歳。さすがに親元を離れるのは辛いか。
パン、パンと手を叩く音に考えを中断させられる。
「さあさあ、今日はもう戻りましょう。三人ともゆっくり考えなさい。アリスは私の家に寄ってからね。」
*****
ルーナさんに通された居間にある椅子へと腰掛けた。
「そこでゆっくり待っていて、アリス。」
一人暮らしのようで、元魔法騎士とは思えない質素な部屋だ。
「よいしょ・・・・・・と。」
ドン、とテーブルの上に何かが大量に詰まった袋が置かれた。
縛り口が緩み、なんか金色のやつが顔を覗かせている。
「全部で金貨115枚よ。」
「・・・・・・は?」
「全部で金貨115枚よ。」
「ええええ!? る、ルーナさん一体何したんですか!?」
明らかにおかしいだろ、あれ土の塊だぞ!?
「ふふ、お金はあるところにはあるのよ?」
それは・・・・・・そうだろうけども。
袋の中を覗けば金貨のみ、銅貨も銀貨も混じっていない。
「と、とりあえずルーナさんの取り分は60枚でいいですか?」
「私の分はもう旅費として頂いてるからいいのよ、アリス。」
だが、こんな大金どうしろと。
「元は貴方が作った物です。堂々と受け取りなさいな。」
「は、はい・・・・・・。」
「向こうでも何かと入用になると思います、大事にするのですよ。」
「わ、分かりました。」
「あら、そういえばお客様だというのにお茶をお出ししてなかったわね。」
断る間もなくルーナさんはお茶を淹れに行ってしまった。
予想より遥かに多い金額だ。嬉しさより驚きのほうが大きい。
とりあえず15枚は入学金で残りはピッタリ100枚。
1up出来ないだろうか。
しばらく考えてから金貨を一枚袋から取り出し、靴底に忍ばせた。
これで残り99枚。
「あらあら、貴方も一人前の冒険者ね。」
お茶を淹れて戻ってきたルーナさんに見られてしまったようだ。
「・・・・・・なんだか、ズルをした気分ですが。」
「貴方が稼いだお金ですよ、それは。私はただお手伝いしただけです。さぁ、どうぞ。」
ルーナさんがテーブルにお茶とお菓子を並べていく。
「いただきます。」
紅茶のようだ、少し苦いが美味しい。
「それで、貴方はどうするのですか?」
「どう、とは?」
「学院のことです。」
「早めに行きたいと思っています。」
善は急げだ。
「それなら、次の春ですね。入学受付はもう始まっているはずですよ。」
その頃には六歳。入学すればピカピカの一年生。丁度良い頃合いだろう。
「貴方とフィーなら大丈夫でしょう。ニーナは・・・・・・もう少し扱く必要がありますね。」
南無三、ニーナ。
ニーナは剣の腕はいいのだが、魔法が今ひとつ伸び悩んでいる。
フィーはその逆だが、強化魔法で補えるのが強みだ。
「二人はどうするでしょうか?」
「きっと、貴方に着いて行きますよ。」
「そうでしょうか?」
「ふふ、貴方に置いて行かれるのは悔しいでしょうからね。」
ルーナさんは楽しそうに笑っていた。
*****
家に帰ると、両親とフィーが揃ってお出迎え。
「おかえり、アリス。」
「おう、戻ったか。」
「お、おかえり。」
挨拶を返す。
「ただいま。」
ちょうどいい具合に皆が揃っているな。
夕食の準備を始めるのにもまだ早い時間なので、さっさと話してしまおう。
「お父さん、お母さん、話があるの。」
「何だよ・・・・・・またか。何の話だ?」
「どうしたの?」
フィーの手を取って両親に向き合う。
「お姉ちゃんと一緒にレンシア魔術学院に行こうと思うの。」
ポカンと口を開いたままの両親。
「そんな金ねぇぞ・・・・・・。」
頭を抱えるエルク。
サレニアも困り顔だ。
「お金なら大丈夫だよ。」
テーブルの上に金貨袋を置き、中を見せる。
「おいおい! どうしたんだよこれ!」
「あらあら・・・・・・。」
三人とも目を丸くして袋を覗き込む。
「ルーナさんが私の作った剣を売ってきてくれたの。そしたらこの金額に・・・・・・。」
エルクが壁に立て掛けてある自分の剣にチラリと目をやり、納得顔になる。
「あー・・・・・・なるほどな。」
フィーが抗議の視線を向けてくる。
「あ、アリス、私まだ行くって・・・・・・。」
「でも私と、多分ニーナさんも行っちゃうよ?」
「うぅ~、でもお父さんとお母さんが・・・・・・。」
「それなんだけど、このお金で向こうの家を買って、そっちで暮らさない?」
相場なんて分からないが、これだけあれば小さな家くらいなら買えるだろう。
フィーの顔がパッと明るくなる。
「それはダメだ。この村には世話になってるしな。てか五歳の娘に家を買わせる親って・・・・・・。」
ますます頭を抱えるエルク。
サレニアも引っ越しには乗り気では無さそうだ。
「そうねぇ、学院には二人で行ってきなさい。」
フィーの顔は先程から一転して今にも泣き出しそう。
「で、でも・・・・・・お母さぁん。」
「ふふ、私たちのことは心配しないで。あなたも行きたいんでしょう、フィー?」
サレニアの言葉にゆっくりと頷くフィー。
「それなら、行ってきなさい。」
「うん・・・・・・。」
大体話はまとまってきたかな。
「それじゃあ魔術学院行ってもいい?」
「金まで自分で作ったんだ、好きにしろ。」
「ふふ、そうね、好きにしなさい。」
翌日、ニーナの決心も変わらず、三人で魔術学院に入学することに決まった。
*****
春の少し前。
俺達三人は村の入口に集まっている。
俺とフィーは少し離れた場所で見送ってくれている両親に手を振った。
エルクは豪快に、サレニアは小さく手を振り返す。
村の入り口を出てすぐの所には、馬が二頭繋がった大きな馬車。
この馬車がこれから俺達をレンシア魔術学院のある街まで運んでくれるのだ。
その御者台にはルーナさんの姿。
レンシア魔術学院のある街まで、保護者として同伴して貰う事になっている。
馬車の操縦にも慣れているのか、その佇まいは堂々としたものだ。
ルーナさんが御者台からこちらに声を掛けた。
「それじゃあ行きましょうか。」
その声に俺達三人は元気よく返事をする。
「「「おー!」」」
三人で我先にと馬車の荷台へ飛び乗った。
ルーナさんが御者台から俺達が乗ったのを確認すると、馬に鞭を入れる。
馬が嘶き、景色がゆっくりと流れだす。
ガラガラと車輪の立てる音が大きくなるにつれて、景色の流れも早くなってゆく。
段々と小さくなっていく、今まで育ってきた村を見つめた。
何もない小さな田舎の村だったが、長閑で良い場所だった。
胸を締め付けるような想い。
あの場所も、今では立派な俺の故郷となってしまった。
しかし、すぐには戻って来れないだろう。
しばしの別れだ。
村が見えなくなっても、暫くの間見つめ続けた。
俺と同じ様に村の方向を見つめている二人に声をかける。
「ねぇ、二人とも。これ食べない?」
俺は土で作った箱を取り出し、蓋を開いて中を二人に見せた。
街に行った時に保存のきくお菓子を買って、詰めておいた物だ。
「わぁ、おかし!」
「ホントに食べていいの!?」
馬車内のしんみりとした空気が一気に吹き飛ぶ。
「いいよ。」
瞳を輝かせながら箱の中に手を伸ばす二人。
彼女らにかかればあっという間だろう。
旅立ちの宴と言うにはささやかではあるが、俺達の門出を祝して乾杯だ。
旅慣れない二人が揺れる馬車の中でお菓子を食べてどうなったかは、記さないでおこう。
フィー、ニーナとの訓練に冒険者ギルドの依頼、ババ様に調合を教えて貰ったりと、忙しい時間を過ごしている。
今日も三人でいつもの河原で特訓中だ。
天気は快晴、良い日和だ。
ドサリと大の字になって寝転ぶニーナ。
「あ~ダメだ、勝てな~い。」
ぷくっと頬を膨らます。
「アリスはともかく、フィーにも勝てないなんて・・・・・・。きょうかまほうだっけ? ズルくない?」
「ニーナさんにも掛けてるよ?」
「だって~すぐ効果なくなるんだもん。」
「ご、ごめんね、ニーナちゃん。」
訓練のときは強化魔法を掛けているのだが、ニーナだけが未だに自分で使えない。
早々にマスターしたフィーが異常なのだろう。強化魔法に関してはすでに俺より上手くなっている。
昔の事件が原因かも知れない。
フィーが倒れた一件からグングンと魔力量が増えていったのだ。
いわゆる超回復でパワーアップ的なアレだ。
ただ、俺のように触手を出したり、土から剣を作ったりは出来ないようだ。
皆が使うような”魔法”は強化魔法を使えるようになってからも使えているみたいだが、俺と何が違うのだろう?
ニーナの場合、体内での魔力の循環が上手く出来ていないせいで、流し込んだ魔力が徐々に漏れ出し、効果が切れてしまっているようだ。
フィーと違って魔力量が少ないのも原因かもしれない。
と言っても、同じ歳の子と比べればニーナも断然多いが。
最初の数合はニーナの方が上回っているが、時間が経てば徐々に強化魔法の効果が薄れ、最後にはフィーに逆転されてしまう、というのが最近のお決まりの流れになっている。
ニーナが何か思い出したように口を開いた。
「そうだ、そろそろおばあさまが帰ってくるみたいだよ。」
「ルーナさんが?」
「うん、昨日手紙がとどいたの。戻るのは今くらいになるだろうって。」
剣は売れたのだろうか。
いくらかでも足しになればいいが・・・・・・所詮、土の塊だしな。
ギルドの依頼でも稼げないことはないが、やはり時間が掛かる。
何か良い方法はないだろうか。
「それにしても、一体何しに行ったんだろ?」
二人にはまだ魔術学院に行くつもりであることを話していない。
お金の問題が解決してから話すつもりだ。
期待させてやっぱり無理でした、なんて事にはしたくないからな。
「きっと戻ってきたら教えてくれるよ、早く戻ってくるといいね。」
「え~、もうちょっとおばあさまのいない日常を・・・・・・。」
「「「あはは!」」」
俺達の笑い声が河原に響いた。
*****
一週間後。
フィーと一緒にいつもの河原に行くと、ニーナとルーナさんがすでに特訓を始めていた。
「おかえりなさい、ルーナさん。」
「お、おかえりなさい。」
ルーナさんは手を止めてこちらへ向きニッコリと微笑む。
「ただいま、アリス、フィー。」
「や・・・・・・やっときた二人とも~。」
すでにニーナはへろへろだ。
フィーがニーナに駆け寄って肩を貸す。
その間に俺は二人に聞こえないようルーナさんと小声で話す。
「どうでしたか?」
「ふふ、バッチリよ。後でウチに来て頂戴、お金を渡すわ。」
「魔術学院への入学金には足りていますか?」
「ええ、貴方達三人で行っても残る方が多いわよ。」
「そ、そんなに・・・・・・?」
一体何をしたんだこの人は・・・・・・元は土だぞ?
「金額は後のお楽しみよ。それより、二人にはまだ言ってないんでしょう?」
これでお金の問題は解決できた、後は本人達次第だろう。
「・・・・・・そうですね。」
俺は二人に近づいて話しかける。
「お姉ちゃん、ニーナさん、話があるの。」
フィーが首を傾げ、ぐったりとしたニーナがだるそう答える。
「・・・・・・どうしたの?」
「おー、どうした?」
早速本題を切り出す。
「二人とも、レンシア魔術学院に行かない?」
だが二人は即座に否定した。
「・・・・・・いや、ウチにそんなお金ないよ。」
「そ、そうだよアリス。お父さんもお母さんもこまっちゃうよ!」
「お金は何とかなったから大丈夫。私は行くつもりだけど、二人はどうする? あー、お金は二人の分もあるから気にしないで。」
ポカンとする二人。
「な、なんとかって・・・・・・ええ!?」
「ど、どういうこと?。」
こちらの輪に入ってきたルーナさんが楽しそうに笑う。
「フフ、二人とも吃驚してるわね。」
「お、おばあさま知ってたの!?」
「今回の旅でアリスの作った剣を売ってきたの、そのお金よ。アリスに感謝しなさい、ニーナ。」
「・・・・・・うん! すごい、すごいよフィー! 学院だよ!」
フィーの手を取ってぶんぶんと振るニーナ。
まだ自体が飲み込めないのか、呆然としたまま為すがままにされるフィー。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「・・・・・・うん、アリス・・・・・・ほんとうに行くの?」
その問いに俺は即答する。
「うん、そのつもり。」
フィーからの更なる問い。
「お父さんとお母さんはどうするの?」
「えっと・・・・・・それは・・・・・・。」
何も考えてなかった。
すっかり忘れていたが、フィーはまだ八歳。さすがに親元を離れるのは辛いか。
パン、パンと手を叩く音に考えを中断させられる。
「さあさあ、今日はもう戻りましょう。三人ともゆっくり考えなさい。アリスは私の家に寄ってからね。」
*****
ルーナさんに通された居間にある椅子へと腰掛けた。
「そこでゆっくり待っていて、アリス。」
一人暮らしのようで、元魔法騎士とは思えない質素な部屋だ。
「よいしょ・・・・・・と。」
ドン、とテーブルの上に何かが大量に詰まった袋が置かれた。
縛り口が緩み、なんか金色のやつが顔を覗かせている。
「全部で金貨115枚よ。」
「・・・・・・は?」
「全部で金貨115枚よ。」
「ええええ!? る、ルーナさん一体何したんですか!?」
明らかにおかしいだろ、あれ土の塊だぞ!?
「ふふ、お金はあるところにはあるのよ?」
それは・・・・・・そうだろうけども。
袋の中を覗けば金貨のみ、銅貨も銀貨も混じっていない。
「と、とりあえずルーナさんの取り分は60枚でいいですか?」
「私の分はもう旅費として頂いてるからいいのよ、アリス。」
だが、こんな大金どうしろと。
「元は貴方が作った物です。堂々と受け取りなさいな。」
「は、はい・・・・・・。」
「向こうでも何かと入用になると思います、大事にするのですよ。」
「わ、分かりました。」
「あら、そういえばお客様だというのにお茶をお出ししてなかったわね。」
断る間もなくルーナさんはお茶を淹れに行ってしまった。
予想より遥かに多い金額だ。嬉しさより驚きのほうが大きい。
とりあえず15枚は入学金で残りはピッタリ100枚。
1up出来ないだろうか。
しばらく考えてから金貨を一枚袋から取り出し、靴底に忍ばせた。
これで残り99枚。
「あらあら、貴方も一人前の冒険者ね。」
お茶を淹れて戻ってきたルーナさんに見られてしまったようだ。
「・・・・・・なんだか、ズルをした気分ですが。」
「貴方が稼いだお金ですよ、それは。私はただお手伝いしただけです。さぁ、どうぞ。」
ルーナさんがテーブルにお茶とお菓子を並べていく。
「いただきます。」
紅茶のようだ、少し苦いが美味しい。
「それで、貴方はどうするのですか?」
「どう、とは?」
「学院のことです。」
「早めに行きたいと思っています。」
善は急げだ。
「それなら、次の春ですね。入学受付はもう始まっているはずですよ。」
その頃には六歳。入学すればピカピカの一年生。丁度良い頃合いだろう。
「貴方とフィーなら大丈夫でしょう。ニーナは・・・・・・もう少し扱く必要がありますね。」
南無三、ニーナ。
ニーナは剣の腕はいいのだが、魔法が今ひとつ伸び悩んでいる。
フィーはその逆だが、強化魔法で補えるのが強みだ。
「二人はどうするでしょうか?」
「きっと、貴方に着いて行きますよ。」
「そうでしょうか?」
「ふふ、貴方に置いて行かれるのは悔しいでしょうからね。」
ルーナさんは楽しそうに笑っていた。
*****
家に帰ると、両親とフィーが揃ってお出迎え。
「おかえり、アリス。」
「おう、戻ったか。」
「お、おかえり。」
挨拶を返す。
「ただいま。」
ちょうどいい具合に皆が揃っているな。
夕食の準備を始めるのにもまだ早い時間なので、さっさと話してしまおう。
「お父さん、お母さん、話があるの。」
「何だよ・・・・・・またか。何の話だ?」
「どうしたの?」
フィーの手を取って両親に向き合う。
「お姉ちゃんと一緒にレンシア魔術学院に行こうと思うの。」
ポカンと口を開いたままの両親。
「そんな金ねぇぞ・・・・・・。」
頭を抱えるエルク。
サレニアも困り顔だ。
「お金なら大丈夫だよ。」
テーブルの上に金貨袋を置き、中を見せる。
「おいおい! どうしたんだよこれ!」
「あらあら・・・・・・。」
三人とも目を丸くして袋を覗き込む。
「ルーナさんが私の作った剣を売ってきてくれたの。そしたらこの金額に・・・・・・。」
エルクが壁に立て掛けてある自分の剣にチラリと目をやり、納得顔になる。
「あー・・・・・・なるほどな。」
フィーが抗議の視線を向けてくる。
「あ、アリス、私まだ行くって・・・・・・。」
「でも私と、多分ニーナさんも行っちゃうよ?」
「うぅ~、でもお父さんとお母さんが・・・・・・。」
「それなんだけど、このお金で向こうの家を買って、そっちで暮らさない?」
相場なんて分からないが、これだけあれば小さな家くらいなら買えるだろう。
フィーの顔がパッと明るくなる。
「それはダメだ。この村には世話になってるしな。てか五歳の娘に家を買わせる親って・・・・・・。」
ますます頭を抱えるエルク。
サレニアも引っ越しには乗り気では無さそうだ。
「そうねぇ、学院には二人で行ってきなさい。」
フィーの顔は先程から一転して今にも泣き出しそう。
「で、でも・・・・・・お母さぁん。」
「ふふ、私たちのことは心配しないで。あなたも行きたいんでしょう、フィー?」
サレニアの言葉にゆっくりと頷くフィー。
「それなら、行ってきなさい。」
「うん・・・・・・。」
大体話はまとまってきたかな。
「それじゃあ魔術学院行ってもいい?」
「金まで自分で作ったんだ、好きにしろ。」
「ふふ、そうね、好きにしなさい。」
翌日、ニーナの決心も変わらず、三人で魔術学院に入学することに決まった。
*****
春の少し前。
俺達三人は村の入口に集まっている。
俺とフィーは少し離れた場所で見送ってくれている両親に手を振った。
エルクは豪快に、サレニアは小さく手を振り返す。
村の入り口を出てすぐの所には、馬が二頭繋がった大きな馬車。
この馬車がこれから俺達をレンシア魔術学院のある街まで運んでくれるのだ。
その御者台にはルーナさんの姿。
レンシア魔術学院のある街まで、保護者として同伴して貰う事になっている。
馬車の操縦にも慣れているのか、その佇まいは堂々としたものだ。
ルーナさんが御者台からこちらに声を掛けた。
「それじゃあ行きましょうか。」
その声に俺達三人は元気よく返事をする。
「「「おー!」」」
三人で我先にと馬車の荷台へ飛び乗った。
ルーナさんが御者台から俺達が乗ったのを確認すると、馬に鞭を入れる。
馬が嘶き、景色がゆっくりと流れだす。
ガラガラと車輪の立てる音が大きくなるにつれて、景色の流れも早くなってゆく。
段々と小さくなっていく、今まで育ってきた村を見つめた。
何もない小さな田舎の村だったが、長閑で良い場所だった。
胸を締め付けるような想い。
あの場所も、今では立派な俺の故郷となってしまった。
しかし、すぐには戻って来れないだろう。
しばしの別れだ。
村が見えなくなっても、暫くの間見つめ続けた。
俺と同じ様に村の方向を見つめている二人に声をかける。
「ねぇ、二人とも。これ食べない?」
俺は土で作った箱を取り出し、蓋を開いて中を二人に見せた。
街に行った時に保存のきくお菓子を買って、詰めておいた物だ。
「わぁ、おかし!」
「ホントに食べていいの!?」
馬車内のしんみりとした空気が一気に吹き飛ぶ。
「いいよ。」
瞳を輝かせながら箱の中に手を伸ばす二人。
彼女らにかかればあっという間だろう。
旅立ちの宴と言うにはささやかではあるが、俺達の門出を祝して乾杯だ。
旅慣れない二人が揺れる馬車の中でお菓子を食べてどうなったかは、記さないでおこう。
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色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
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