ジプシーの娘

江馬 百合子

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ジプシーの娘

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 それは、嵐の晩だった。
 男はいつものように暖炉の前に腰掛け、パチパチと爆ぜる火を見つめながら、ちびちびと酒を飲んでいた。
 安い酒なので風味も何もあったものではない。しかしそれでも酒は酒だ。それも特別強い酒だった。
 飲んでいる間は、 何もかも忘れられる。侮蔑の目を向ける輩も、好奇の目を向ける奴らも、そして、彼を裏切った者たちでさえ。

 風が轟々と鳴り渡る。窓や扉や屋根までもが、ガタガタと揺れ始めた。人里離れた森の奥に佇む小屋のような家なのだ。もしかしたら今すぐにでも潰れてしまうかもしれない。現に雨の打ち付ける音が、まるで雷のように響いている。
 それでも、そんなことは気にならない。彼はただぼんやりと酒を煽り明日のことを考える。

 明日はそろそろ薪を割らなければならない。もうほとんど春になりかけてはいるものの、急に寒くなられたときに薪がなくては事切れてしまう。
 それから寂しくなってきた食糧庫のことを考えた。野菜は家の裏手で幾分か育てている。育ち盛りをとうに過ぎた男一人には十分過ぎる量だ。しかし肉と魚はどうにもならない。稀にうさぎを狩ることもあるが、到底それでは間に合わない。いつものように隣町から盗って来ることにしよう。

 男の目は黒々と深く炎を映している。汚く伸ばされた髭に酒の水滴が付く。
 ガラクタだらけの部屋の中で漫然と酒を煽る彼の姿は、まるで屑かごに入れられた吸い殻のようだった。


――――……


 かつて彼は村一番の学者の一人息子であり、彼自身もまた将来を嘱望された若き学者であった。
 当時はこんな辺鄙な土地ではなく、とある田舎町の中心地の大きな家に、両親と共に暮らしていた。
 村を歩けば、娘たちは頬を染めてうつむき、男衆には教えてほしいことがあると呼び止められた。

 彼には友もいた。名はクリストフ・ハング。金色の髪に茶色の瞳を持つ美男子で、彼もまた学者であった。二人は共に若い情熱を分かち合い、日々切磋琢磨し合っていた。

「ヨシュア! 今回は負けないぞ」

 クリスは会うたびにそう言って笑った。
 二人は多くの論文を競い合うように発表し、抜きつ抜かれつ新たな発見を世に送り出していた。町の住人たちはそんな若き二人を誇りに思い、いつも温かく見守っていた。

 そしてまたヨシュアには婚約者がいた。エンジェラという、非常に美しい娘であった。
 その金色の髪が輝けば、まるで天使が地上に舞い降りてきたかのように思われ、滑らかな象牙色の肌は若い活力に満ちていた。男たちは競って彼女の青い瞳に映ろうと泥臭い争いを繰り広げていた。
 だが彼女はそんな男たちには目もくれず、いつもヨシュアを褒め称えた。

「貴方の黒い髪も思慮深い瞳も何もかもが愛おしいわ」

 彼女はそう言って、太陽のように笑った。

 ヨシュアは自身の将来を疑わなかった。このまま父の跡を継ぎ、皆に望まれる学者となり、人々を支え、そしてエンジェラと夫婦になり、クリスとは生涯の友としてこの先もずっと付き合っていくのだ、と。
 そんな未来がどれほど不確かなものであったか。若く善良なヨシュアでは、気づくことができなかった。

 ある日ヨシュアはいつものように帰路を急いでいた。
 授業が終わってもついつい先生と話し込んでしまうのだ。早くしなければ、母にまた夕食が冷めてしまったと文句を言われてしまう。

 ようやく村の中心地に入った。
 今日の夕食は何だろう。そんなことを考えながらふと何気なく家のある方角を見て、ヨシュアは呆然とした。ちょうど彼の家のある辺りから煙が上がっていたのだ。
 衝動的にヨシュアは駆け出していた。
 木材の焦げる、むせ返るような臭いが鼻をつく。これ以上進みたくない。そんな本能的な拒絶を感じながらもヨシュアはひたすら走った。

 見慣れた道に多くの人々がひしめき合っている。その中を、彼は脇目も振らず駆け抜けた。彼の目は立ち昇る煙だけを捉え、心は家に居るであろう両親だけが占めていた。
 だから彼は気がつかなかった。駆け抜ける彼を見つめる人々の瞳に込められた、悪意に。

 とうとう彼は家にたどり着いた。
 彼の家はもはや見る影もなく朽ちていた。黒々とした焼け跡に夕日の赤が照り映え、周囲を取り囲む人々の影が長く伸びている。

「……なぜ」

 彼の口をついたのは、たったこれだけだった。

 何故、誰も火を消してくれなかったのか。
 何故、誰も両親を助けなかったのか。

 呆然と立ち尽くすヨシュアに人々はざっと向き直った。ヨシュアはようやくその侮蔑の視線に気づく。その中に腕を組んだエンジェラがいたことに愕然とした。
 そしてその人垣の間から、ある男がゆっくりと現れた。それは疑うべくもない。一番の親友、クリストフ・ハングであった。
 彼はわざとらしく悲痛な表情を作ると、大仰に身振り手振りを交えて語り始めた。

「ヨシュア、君は隠し通せるとでも思っていたのか?」

 彼は「残念だ」「生涯の友がまさかこんな」と、悲嘆にくれた表情でヨシュアを罵った。ヨシュアにとって、その時間は永遠とも刹那とも感じられた。彼が何を言っているのか全く頭に入ってこない。
 かろうじて混乱した頭が捉えることのできた情報は、「ヨシュアが、クリスが発見した情報を盗み、それを発表した」という部分と「以前ヨシュアの父親が発表した薬品には依存性があり、それを服用した人々が悲惨な末路を迎えている」といった部分のみであった。

 ヨシュアは何と返せば良いのか分からなかった。盗んだ情報とは何のことだろう。クリストフから彼の研究の話など聞かされたこともない。まして、彼から秘密裏に情報を奪ったことなど、あるはずがない。
 父の薬が発表されたのも、今から十年以上前の話だ。これまでも多くの人々に処方され、彼らの命を救ってきた。しかしその薬に依存性などありはしない。そんな重要事項を見逃すほど、父も自分も愚かではなかった。

 ヨシュアは焼け焦げた懐かしい生家を見つめた。理解は追いついていないのに、彼の純粋な黒い瞳からは、はらはらと涙が溢れた。

「……父さん、母さん、ごめん」

 きっと彼らは両親を手厚く葬ることすら、許してはくれないだろう。ヨシュアは俯き、強く奥歯を噛み締めた。

「ヨシュア、君たちは許されないことをした。しかし君は僕の親友だ。僕にはとても君を罰することはできない。だから、どうか僕たちの目の届かない所へ行ってくれ」

 エンジェラとともに並び立つクリストフは、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 それから、ヨシュアは身一つで村を離れた。
 二日間はほとんど飲まず食わずで歩き続けた。そして三日目に生まれて初めて物を盗んだ。
 生き生きとした美しい瞳は次第に輝きを失い、若々しい頬は疲労と悲しみで痩けていった。
 そして一週間後、彼は木こりだった祖父の住んでいた小屋にようやくたどり着いたのである。


――――……


 雨が雹に変わったようだ。ばちばちと不穏な音が鳴り響き始めた。
 明日薪を割るのは諦めた方がいいかもしれない。そんなことを考えながらうつらうつらとし始めたとき、一際大きな音が扉を響かせた。
 初めは突風か雹だと思った。しかしその音は突風にしては規則正しく、雹にしては弱々しい。
 そしてどんどんという音の合間に、微かに人の声が聞こえるようになった。
 ヨシュアはのっそりと立ち上がると、暖炉のそばにかけてあった猟銃を手に取った。前に訪れた客は、扉を開けるなり訳のわからないことを喚きながら掴みかかってきたのである。

「誰だ」

 低い声で呟く。
 すると、扉の向こうの声が一際大きくなった。風音にかき消され何を言っているのかは分からないが、どうやら女のようだ。

 警戒しつつもゆっくりと錠を外す。すると扉を開けるなり、ずぶ濡れの女が体を割り込ませてきた。

「お願い!!」

 その気迫に、ヨシュアは気圧される。
 黒い巻き毛に浅黒い肌。露出の多い服にぼろぼろのマント。すぐに彼女は流民であるとヨシュアは悟った。そしてそんな彼女の腕には幼児が抱かれていた。

「この子を、どうか、お願い!」

 眉を寄せて固まるヨシュアに女は更に詰め寄った。

「狙われているの!」

 女はヨシュアの返事も待たずに、彼の腕に幼児を押し付けた。反射的に受け取ってしまった幼児と女を見比べる。

「どういうことだ」

 しかし女はその問いには答えず、涙を流しながら床に頭をつけた。

「私は、きっと、助からないわ。だから、どうか、その子だけでも、助けて」

 ヨシュアは女をじっと見つめた。

「お前はどうするんだ」

 女はよろよろと立ち上がり、強く微笑んだ。

「どうか、その子を、お願い」

 そして女はするりと闇の中へと消えていった。

 暫くの間、彼は女の消えた扉を見つめていた。
 しかしすぐに腕の中の存在に気がついた。
 女のマントのようなぼろぼろの布でしっかりと包まれている。
 ヨシュアはそっとその布を取り払った。

 その子は母親譲りの黒い巻き毛と長い睫毛が印象的な子だった。その肌はヨシュアと同じかそれ以上に白く透き通っている。年は五才程だと思われた。

「……おい」

 思わず呼びかけてみる。しかしその子は目を覚まさない。
 少しだけ強く揺すぶってみた。しかしその子はやはり苦しげに眉を寄せるだけだ。

「……まさか」

 ヨシュアはさっとその子の額に手を当ててみた。思った通りその額は熱した鉄のように熱かった。

 それから数日の間、彼はほとんど一睡もせずにその子の看病を続けた。自身の食べるものすら満足に摂ることができない中、その子のためにスープを作る自分に最も驚いていたのは彼自身だったろう。

 正直、心の底から面倒だと思っていた。しかし目の前で衰弱していく子供を、そのまま見殺しにしておくわけにはいかない。
 彼はこの十余年の間に堕落し、ほとんど道を踏み外してはいたものの、平気で人が殺せるほど落ちぶれてはいなかった。

 彼の適切な処置が功を奏したのか、とうとう四日目には熱も下がり、はっきりとした意識のもとで言葉を発することができるようになった。

 第一声は、彼も予想していた通り「お母さんは?」というものだった。だから彼も用意していた答えを返した。

「今は遠いところに出かけている。ここで暫く良い子にしていれば、いつか迎えに来ると言っていた」

 正直、苦しい答えだったと思う。しかしその子は暫くシーツを見つめると、そのまま「そっか」と呟いた。
 年齢の割には物分りがよすぎる気がするが、駄々をこねないでいてくれるのは、率直に言って助かった。
 名前を問うと「アリア」と端的な答えが返ってきた。

 初めは無口な子なのだろうと高を括っていた。しかし彼の予想に反し、少女は非常によく喋った。それも彼の後を付いて回って、しきりに話しかけてくる。

「おじさん! あの家の裏手に生えてる木は何ていうの? すごく素敵な木だわ。私に話しかけてくれたのよ。いらっしゃい、歓迎するよって。きっと、妖精が住んでる木って、ああいう木のことをいうのね。ねぇ、あの木に登ってもいいかしら?」

 ヨシュアはうんざりした表情を隠しもせずに答える。

「だめだ」

 そうしてまた黙々と野菜の収穫を続けた。少女はそんな彼を興味深げに見つめる。

「おじさんは靴を持っているのね。素敵だわ。もし私にも靴があれば、岩の上にいる鷲に会いに行くことができるのに。あの大きな羽根の上に乗せてもらえたら、きっとすごく気持ちがいいだろうと思うわ」

 そう言われて初めて、ヨシュアは少女の身なりを細かく見直した。
 ボロ切れのような服に、薄汚れた髪に肌。そして、あかぎれのできた手足。

 彼は鍬を納屋に立てかけると、ため息を吐きながら家へと入っていった。そして少女に「家の中で待ってろ」と言い含めると、そのまま出かけて行った。

 数時間後、大きな麻袋に子供用の服や靴などをたらふく詰めて男は帰宅した。これまで少しずつ貯めてきた蓄えをよもや子供に使うことになろうとは。
 しかしそんな男の心境など、少女には知る由もない。
 簡素ではあるがしっかりとした生地の服に、アリアは目を輝かせた。

「おじさん! これ、みんな私のなの? 嘘みたい!」

 ヨシュアは「汚い手で触ると服が汚れるぞ」と、アリアを風呂釜へと投げ入れた。

「綺麗になったら出てこい」

 そう言って立ち去ろうとすると、後ろから「おじさん」と控えめに呼び止められた。
 「何だ」と幾分不機嫌に振り返れば、「自分じゃ洗えないわ」と少女は困ったように眉を下げた。
 つくづくうんざりする。そう思いながらも結局風呂に入れてやる羽目になった。

 夜になると、少女はヨシュアに物語をせがんだ。
 ヨシュアの使っていたベッドに気持ちよさそうに横たわり枕に頬ずりをすると、アリアはヨシュアの手を握った。
 枕元の椅子に腰かけたヨシュアは眉間にしわを寄せ黙っている。

「……今夜はもう遅い。早く寝ろ」

 かろうじてそう呟くヨシュアに、アリアは不思議そうな目を向けた。

「おじさんはここで寝ないの?」

 ヨシュアは少女の手を離そうとしたが、その手は固く握られていた。

「おじさん、私、一人で寝るのは怖いわ」

 そのときヨシュアは少女の瞳に涙が浮かんでいるのに気づいた。指先も僅かに震えている。
 ヨシュアは、娘を庇い一人闇の中に消えた母親のことを思った。
 この少女は何に怯えているのか。また一人にされるのが恐ろしいのか。これほど細く小さな体に一体何を背負っているのだろう。
 とうとうヨシュアは彼女の手を振り払うことができなかった。
 少女の隣に横たわりそっと口を開く。

「……これは遠い、遠い東の国の話だ」

 少女がやって来てから、ヨシュアには酒を飲む暇もぼんやりする暇も無くなってしまった。
 アリアは常に後について何かを喋り続けているし、何より彼女に満足な食べ物と着るものを与えなければならない。

 ヨシュアは畑を広げ、効率の良い栽培方法を考えるようになった。
 またこれまでは家の裏手の森には入らないようにしていたのだが、アリアがあまりにもしつこくねだるため、結局彼女を連れて森に踏み入ることになった。
 結果としてそこには沢山の食料が眠っていた。また森の奥の湖に魚がいることに、彼は初めて気がついた。

 アリアのわがままはそれだけではなかった。
 数週間のうちに彼に学があることを見抜いたアリアは、彼に勉強を教えてほしいとせがんだ。初めはヨシュアも相手にしていなかったのだが、昼夜を問わず迫ってくるものだから、とうとう彼も折れてしまった。
 石板に数冊の本。日々の生活すら危うい中、そんな贅沢品を買い与えなければならない自身につくづく嫌気がさす。ヨシュアはアリアに聞かれないよう静かに悪態をついた。悪態は教育に悪い。アリアは何でも真似をしたがるのだ。

 一方、アリアはわがままを言うだけではなかった。
 ヨシュアが何かを運んでいれば代わりに持つと走ってやってくるし、ヨシュアが畑を耕している間は隣で雑草を抜いていた。
 食べ物にも決して文句を言わなかった。生活が苦しいときには木の根を食べるようなときもあった。しかしどんなものであっても彼女は幸せそうに食べた。そして食べ終わるといつも「おじさん、ありがとう」と笑った。
 しかし少々食べ過ぎるきらいがある点は玉に瑕だった。彼女に食べさせるために、ヨシュアは更に畑を大きくした。

 勉強もどうせ三日坊主だろうと決めてかかっていたのだが、予想に反し彼女は信じられないほどに飲み込みも早く好奇心も強かった。そして何より、努力を続けることを全く厭わなかった。

 半年のうちには、ヨシュアは毎朝畑に出かけ、午後には森に食べ物を採りに行くようになった。
 アリアもその後をついて回る。

 半年前にはがりがりに痩せ細った痛ましい子供だったのが信じられないほどに、彼女はふっくらとしてきた。
 それから急激に背が伸び始めていた。これまで栄養が足りなかったがために、成長が止まっていたのだろう。

 アリアは合わなくなった服を繕いそれを着続けた。ヨシュアの目から見てもそれはとても素人に繕われたもののようには見えない。

「お前にも美点が有ったんだな」

 嘯くヨシュアを叩きながらも、アリアは嬉しそうに笑った。

「おじさん、初めて笑ったわね」

 そう言われて初めて、ヨシュアは自身の表情が柔らかくなっていることに気づいた。
 表情だけではない。酒で血走っていた目は黒く澄み、青黒かった顔色も今ではすっかり健康的な色へと変わっていた。
 また日々の運動で体も鍛えられているのか、いくら動き回っても以前のような疲労は感じない。

「おじさんは、実は、思っていたほどおじさんじゃなかったのね」

 そう言うとアリアは気持ち良く笑った。
 それからというもの、アリアは次第に彼を「ヨシュアさん」と呼ぶようになった。

 一年が経つ頃には、アリアは自由に外へ出歩くようになった。夕方には帰ってくるため彼も別段気に止めていない。
 しかしある日畑を耕していると、街道へと通じる道の先から「アリアさーん!」という声が聞こえてきたのには度肝を抜かれた。「はーい!」と答えて家を出て行ったアリアに再び目を剥く。

 どうやらアリアは周囲の住民とも上手くやっているらしい。彼は呆れたように天を仰いだ。
 近隣に住民がいたなんて十年以上住んでいた彼でさえ、把握していなかった。

 そのうち彼らは敷地の中にまで入って来るようになった。当然畑で働いているヨシュアは、自然と彼らの目にとまる。

「あら、あんたが噂のヨシュアさんね! あたしかい? あたしゃロザンヌさ。よろしくねぇ」

 彼が何か口を挟む前に、彼らはそうして我が物顔で家の扉を叩いた。大抵の場合何か品物を携えて。

「アリアちゃーん! 鹿肉の煮物作り過ぎちまったんだよ! ヨシュアさんと一緒に食べなぁ」

 そのように言われては、ヨシュアも見て見ぬ振りをしておくわけにはいかない。

「……どうも、すみません。いつも、アリアが世話になっているようで……」

 飛び跳ねるアリアを窘めながら、彼らと歓談する羽目になる。
 初めのうちは正直なところ、煩わしくて仕方がなかった。しかし一度彼らの名前を覚えてしまえば、もはや鬱陶しい存在ではなくなってしまう。
 ヨシュアは次第に和かに客を迎えるようになっていった。

 そうしているうちにもアリアの背はぐんぐん伸びた。
 それからまた二年もすると、体つきもしっかりし、弱々しかった声にもしっかりとした力がこもるようになってきた。

 そんなある日、ヨシュアがいつものように野菜を収穫していると、背後から不躾な足音が聞こえてきた。
 ここを訪れる人々は皆一様にのんびりとした速度で歩く。しかしその足音はあまりに性急だった。
 ヨシュアは野菜を籠へ放り込むと、さっと後ろへ向き直る。その際側にあった草刈り用のナイフを袖へ忍ばせた。

「誰だ」

 ヨシュアの目が招かれざる客へと向けられる。
 相手の出方次第ではすぐにでも応戦するつもりだった。これまで生きるためにはどんなことでもしてきた。戦うことには何のためらいもない。
 しかし予想に反し、彼らはヨシュアに向かい合うとただ冷たい視線を向けるだけだった。
 軍服にしては煌びや過ぎる衣装を纏った三人組をヨシュアも冷静に見返す。
 すると中央の男が一歩前へ出た。そして平坦な声でこう告げた。

「この辺りでジプシーの親子を見かけなかったか。どんな情報でもそれなりの褒美は用意してある」

 ヨシュアは心臓がどきりと跳ねるのを感じた。
 しかし、どこかでいつかこんな日が来るだろうことを予想していた彼は、無表情という名の仮面を貼り付け無愛想に切り返す。

「知らん。何故あんたらみたいなのがジプシーなど追っているんだ」

 男はぎらりと目を光らせると、一歩距離を詰めた。

「生意気な農民だ」

 そして、ヨシュアの腹にナイフを突き立てた。

 かすかな呻きが口の端から漏れる。しかし何としてでも声を抑えなければならなかった。もし、何か不審な音を立ててしまえば、家の中で繕い物をしているアリアが出てきてしまう。
 朦朧とする意識の端で「この辺りにはもういないようだ」という事務的な報告が聞こえた。


 次に聞こえたのはすすり泣きの声だった。
 細く、押し殺した泣き声。
 こんなことが遠い昔にもあった気がする。
 あれはいつだったか。
 あのとき、肺炎になったヨシュアの周りには温かな家族と、そして――

「……エンジェラ……?」

 暗転する意識の淵で、かつての婚約者の笑顔が瞬いた。

 再び意識が浮上したとき、辺りはしんと静まり返っていた。ぼんやりとした焦点を徐々に合わせていく。
 一番初めに飛び込んできたのは、赤い夕日の光だった。窓から差し込む夕焼けが部屋中を染めている。
 それから枕元の椅子に眠る一人の少女を捉えた。

 波打つ黒髪、健康的な白い肌。長い睫毛が白桃のような頬に影を落としている。夕焼けの光がぼんやりと彼女を照らす。
 粗末な服の上からでも分かる、丸みを帯びた二の腕、脚。そして胸元。

 これが本当にあのアリアなのか。
 この一人の女性が本当にあのアリアだというのか。

 昨日も物語を聞かせながら、これまでずっとそうしてきたように共に眠ったではないか。以前より少し窮屈になってきたとは感じていた。それは無理もない。アリアは成長期なのだから。
 ヨシュアはいつの日からかアリアを娘のように愛し始めていたのである。

 食べ物が限られる日は痩せ我慢をしてでもアリアに食べさせた。
 服も決して高価なものは買えないが、雀の涙ほどの収入の中で彼女に似合いそうなものをなるべく不自由のないように買い与えてきた。
 後ろをついて回り、無条件の信頼を寄せる子供が可愛くないはずがない。
 そのはずだ。それだけの、はずだった。

 そのとき、アリアの瞳がゆっくりと開かれた。
 ヨシュアは小さく息を飲む。
 その潤んだ大きな眼に見つめられた瞬間悟った。
 彼女はもう、子供ではない。

 アリアはヨシュアの手を握ると、ぽろぽろと涙を流した。

「ヨシュアさん……よかった……」

 どうして気がつかなかったのだろう。その声の持つ深さ、優しさ、そして温かさに。

 ヨシュアは彼女の涙を拭うと、頭をくしゃくしゃと撫でた。かつて幼子だった彼女にしていたように。

「……大きくなったな」

 ヨシュアは目を細めて、アリアを見つめた。
 するとアリアは、何を言うのかと笑った。

「……当たり前でしょう。今年で十六になるんだもの」

 ヨシュアはすんでのところで叫び声を抑えた。しかし驚きのあまり、今にも叫び出しそうだった。十六。
 そう、今や彼女は大人の女性にしか見えない。しかしあの幼かった少女が実は十三才かそこらであったというのか。到底信じられなかった。

「……ここへ来る前は、何をしていたんだ」

 ついそんな質問が口をついて出てしまう。特に他意があったわけではない。しかしアリアは、はっと目を見開いた後そっと目を逸らした。
 ヨシュアもすぐに彼女の母に思い至る。

「……すまない。浅慮だった」

 すぐに話題を変えようと口を開きかけた。しかし声を発したのは彼女の方が早かった。

「母と逃げ続けてたの。色んな所を旅しながら」

 彼女の母親の言葉を思い出す。そう、彼女達は「狙われて」いたのだ。

「誰から追われていたんだ」

 こんな無害な親子二人が、何故食べるものすらままならなくなるほど、追い詰められなければならなかったのか。
 アリアはヨシュアをじっと見つめる。その瞳には無条件の信頼が確かに浮かんでいた。

「私の父は貴族の人なの。それで、私の存在が邪魔だから、消してしまおうとしているんだって聞いたわ」

 ぽつり、とそれだけ呟かれた。
 しかしそれだけで十分だった。
 ヨシュアの目にちらりと炎が瞬く。

「そいつの名を知っているか」

 かろうじてヨシュアにのみ届く声で、アリアの告げた名は「エドワード・キャンベル」――この国の者なら誰もが知る一大名家の跡取りであり、また思い出すのも忌々しい、かつての故郷の領主であった。


――――……


 その夜、ヨシュアは久方ぶりに一人で暖炉の炎を見つめていた。しかしその手に握られていたのは酒の入ったグラスではなく、一枚の紙切れであった。

 本来ならアリアは、こんな狭くカビ臭い小屋で一生を終えるべき娘ではない。
 その美しい声は多くの人々に笑顔をもたらし、その笑顔は人々に幸せをもたらす。
 広い大地でたくさんの人々に囲まれ、自由に駆け回ることができるはずなのだ。

 ヨシュアはずきりと痛む腹を抑え、外套を羽織った。
 外は、あの日彼女の母親が去ったときと同じように、暗い闇に覆われていた。


――――……


 それから、ヨシュアは歩き続けた。
 十余年前、茫然自失の状態で歩いたのとはわけが違う。今度は王都まで二週間あまりかかる、長い長い旅だった。
 しかしヨシュアはもはや盗みを働かなかった。行く先々の村で簡単な手伝いを申し出、その見返りとして僅かばかりの食料を乞うた。
 勿論、食料は十分ではなかった。また、ときには働かせるだけ働かせて、踏み倒されることもあった。
 しかし、ヨシュアの瞳が濁ることはなかった。若々しい声音に弱さが滲むこともなかった。
 彼の脳裏には常に、向日葵のようなアリアの笑顔が浮かんでいた。

 ヨシュアはボロボロになった衣服を引きずり、とうとう王都へと至った。華やかな人々が颯爽と練り歩く活気のある美しい街。その中でヨシュアは明らかに浮いていた。しかし彼は周囲の視線など、全く気にならなかった。

 彼は王城を目指した。一枚の紙切れを携えて。

 ようやく城門に辿り着く。
 あまりの迫力に意気を挫かれそうになりながら、それでもヨシュアは一人の兵にその紙切れを手渡した。
 何事かと目を剥く兵に深く頭を下げた。

「俺はヨシュア・ダルシアナというしがない学者だ。頼む。どうかこの紙を、どうか陛下へ」

 若い兵士はヨシュアを払いのけた。

「何だこの汚い紙切れは! こんなものを陛下の御前にお持ちできるわけがないだろう! 乞食風情が……!」

 そしてその若い兵はなおも食い下がろうとするヨシュアに拳を向けた。
 ヨシュアは殴られても蹴られても引き下がるつもりはなかった。だが、思わず反射的に目を閉じる。
 しかしその拳がヨシュアに当たることはなかった。
 もう一方の壮年の兵がその手を掴み、ヨシュアに詰め寄ったのである。

「ダルシアナと言ったな。もしやお前はルールコック殿の息子ではないか?」

 ヨシュアは驚きに目を見開きながらも、ゆっくりと頷く。
 すると男はヨシュアの紙にざっと目を通し、刮目した。

「お前は本当にあのルールコック・ダルシアナ殿の一人息子なんだな! 急いでくれ! 妻も、あの病に苦しんでいるんだ」

 それからヨシュアはすぐに王の御前へと通された。
 王も急いでやって来たのか簡易な衣を纏うのみで、護衛すら申し訳程度に控えているだけだった。
 王の手にはあの紙が握られている。

「これを携え余の元へ参ったということそれ自体が、其方がかのルールコック殿の息子ヨシュア・ダルシアナである何よりの証拠である。しかし、まさか生きていたとは」

 そこでヨシュアはクリストフ・ハングの末路を聞かされた。彼は「ヨシュア・ダルシアナ」に成り代わり、かつてダルシアナ親子の手にしていたもの全てを受け継いでいたのだという。また、ヨシュアの家は火災で片が付けられていた。
 しかし彼の栄華も長くは続かなかった。
 八年ほど前から流行りだした病に、彼は一向に対応策を打ち出せなかったのである。
 不審に思った王は近衛兵に命じ、秘密裏に調査を進めることにした。
 初めはどの村人も俯いて押し黙っていた。しかし一人の病に苦しむ村人がこう明かしたのを皮切りに、どの村人も涙を流してあの悲惨な事件の全貌を語り始めたのである。

「あれはヨシュアではない。クリストフ・ハングという全くの別人だよ。今になってようやく分かった。彼は我々を騙しヨシュアを陥れたのだと。我々は何ということをしてしまったのか。これまで罪悪感を感じない日はなかった。あの日のヨシュアの顔が、今でも忘れられないよ」

 こうして、クリストフ・ハングは王命により一族郎等死罪となった。
 その後すぐにヨシュアの捜索が開始されたのだが、とうとう見つからないまま、昨年捜索は中止されたのである。

「これまで一体どこにいたのだ。病に苦しむ民を見て、何とも思わなかったのか」

 王の目には涙が浮かんでいた。
 無理もないとヨシュアは思う。ここに来る途中の村々でヨシュアは何度も、一昨年妃が病で御隠れになった話を聞いていた。そしてまた、王女も同じ病に蝕まれているらしい。
 ヨシュアは深く頭を下げた。

「私は父母を焼き殺され、村を追われ、そして祖父の遺した木こり小屋に十余年の間籠っておりました。誰とも顔を合わせず、世間から隔離された小屋で、たった一人で」

 王は痛ましげに目を伏せた。
 妃を亡くした王にとって、身近な者の死はあまりに鮮烈な痛みだった。

「何もかもを恨みました。両親の遺体を弔うことすらできなかった自分に絶望すらしました。周囲の人々のことなど、考えることもできなかったのです」

 しんと、堂内が静まり返る。
 その沈黙を破ったのは王だった。

「……よく出てきてくれた。そしてよくこれらの薬をもたらしてくれた」

 王の手に握られていたのは、ヨシュアの父、ルールコックが発見した薬に依存性があるということを打ち消す論だった。
 ヨシュアはあの薬に依存性などないことを知っていた。しかしあの薬にある植物の成分を混ぜると、一種の毒性を発し、依存性にも似た害をもたらすことを発見したのである。
 ヨシュアは、クリストフが父の薬に故意にその植物を混入させていたのだろうと踏んでいた。無論、今となっては確かめる術もない。

 そしてまたその副産物として、父の薬の秘めた無限の可能性についても発見していたのである。

 小屋の裏手にある森には、未知の植物、そしてこの国には自生していないと言われてきたあらゆる植物が眠っていた。
 ヨシュアは学者としての人生などとうに捨てたつもりでいた。しかし未知のものを見つけてしまっては、どうしてもその好奇心を無視することなどできなかった。
 アリアの好奇心を間近で感じていたためなのかもしれない。

 結果としてヨシュアはルールコックの薬を応用し、あらゆる薬を開発していた。
 無論書物も経費も無い。全て自身の頭に入っている知識と勘によるものだった。
 実用化にはまだまだ研究を重ねなければならない。しかし、もしこれらの薬が世に出回れば、どれほどの人々の命が救えるだろうか。

 ヨシュアは元気に走り回るアリアを見ながら、それらの薬を世に出すべきか苦悩し続けた。
 しかしアリアを安全に育てることが何よりの優先事項であると、人々を救いたいという良心に蓋をし続けてきたのである。

「私は数え切れないほど多くの人々を見殺しにしてきました。……救えたはずの命だったのです」

 ヨシュアは涙声で頭を下げた。

「どうか、あの森の植物を栽培させてください。私により多くの薬を作らせてください」

 王はまたしばらくの間黙っていた。それから、厳かに切り出した。

「……願っても無いことだ。どれほどの民が其方の薬を心待ちにしていることか。これで、妃の遺した娘の命も助かるやもしれぬ」

 王の声が僅かに震えた。

「しかし何故今、其方は危険を冒してまでこの王城へ訪れたのか。其方の真意を問わねばならぬ」

 王はじっとヨシュアを見つめた。
 ヨシュアは太陽の下に微笑むアリアを想った。

「大切な人が、できたのです」

 どんな形であれ、彼女を守る盾になりたい。

「彼女はエドワード・キャンベル公の隠し子であることで、命を狙われています。私は学者としてなるべく多くの人々の命を救いたい。しかし、私は」

 ヨシュアは泣きながら懇願した。

「一人の人間として、彼女を守りたいのです。
 どうか、お力をお貸しください」

 もしアリアがいなければ、こんな感情を抱くことはなかっただろう。もう世間と交わることなどごめんだと殻の中で怯えていたに違いない。
 世界の美しさを教えてくれたのも、自分にこれほど美しい感情を与えてくれたのも、全て彼女だったのだ。

 王は、ふ、と力を抜くと不敵に笑った。

「キャンベル公か。無下にはできぬ奴だが……しかし、其方には多くの民の命がかかっておる故……」

 「面を上げよ」と言われ、ヨシュアは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。

「ヨシュア・ダルシアナ。其方に伯爵の位を与える。今後はその娘と共に、この王宮で数多の国民の命を救うことに全力を傾けよ。またキャンベル公には余が話を通しておく故、その娘を王宮へ連れて参れ」

 ヨシュアは言葉が見つからなかった。まさか、これほど話が大きくなろうとは考えてもみなかったのである。
 しかしヨシュアが口を開くより先に、中央の大扉がけたたましく開かれた。

「お父様、その必要はなくってよ!」

 そう言って突如堂内へ乱入してきたのは、言うまでもなくこの国の王女セレーネだった。
 そしてその後ろには、慣れない場所に緊張しながらも、凛と胸を張ったアリアが立っていた。

 あまりのことに開いた口が塞がらない。
 確かに王城へ行く旨の置き手紙は残してきた。大人しく待っているように、とも。
 しかし少女の足でどうやってここまで辿り着いたというのか。
 それらの疑問は全て王女が説明した。

「この子は貴方を追って馬車を乗り継いで来たのよ。裏手から侵入しようとしているところを偶然見つけたから、事情を聞いて連れてきたの」

 「偶然」に力を込めた王女。
 王は心なしか顔色が悪い。

「セレーネ、お前は、寝ていなければといつもあれほど……」

 理解の追い付かないヨシュアは、ただただ呆然としている。
 しかしそんなヨシュアの胸に、アリアは全力で飛び込んだ。
 ずきり、と傷が痛む。疲労と緊張で倒れそうだった。しかしヨシュアはしっかりと彼女を受け止めた。

「心配したのよ……私、心配したんだから……」

 そう言って子供のように泣きじゃくるアリアを、ヨシュアは抱きしめ頭を撫でた。

「……すまなかった。アリア。大丈夫だ。これからも、お前が望むうちは、俺がずっと守り続けてやる。約束だ。……お前は、俺の娘なのだから」

 それを聞いて、王は頭痛を感じ額に手を当てた。


――――……


 それから二人は王宮近くの屋敷を王から貰い受けた。
 ヨシュアの父親の汚名も王により完全に拭い去られ、彼は早朝から深夜まで王宮に篭り研究に励んだ。

 今更都合良く出てきて、伯爵の地位まで賜ったヨシュアに反感を抱く輩は非常に多かった。
 しかし、自身の知識、考え、そして発見した植物を、惜しみなくどのような人々に対しても平等に与える彼のやり方は、次第に多くの人々に受け入れられていった。
 また、一つでも多くの命を救おうと、昼夜を問わず研究に明け暮れる彼の姿はいつしか、周囲の尊敬を集めるまでになっていった。
 彼の薬は王命により国中の各拠点に送り届けられるようになる。命を助けられた人々は、涙を流してその喜びを噛み締め、中にはその拠点に留まり、医術を学び始めた者もいるらしい。

 もう一つ、良い知らせがある。
 アリアの母が見つかったのである。
 ヨシュアですら再び相見えることはかなわないだろうと半ば諦めていたのだが、王宮に連れられてきた彼女はからからと美しく笑った。

「私もあのときはもうだめだと思ったんだけど、神様が味方してくれたのよ」

 曰く、しばらく逃げ続けているうちに、キャンベル公の奥方が亡くなられたという知らせが入ったのである。

「それからは、何故か追手も失速気味だったのよ」

 それから彼女はにやりと笑った。

「今からあいつの横っ面を張り倒しに行くのが楽しみだわ」

 ヨシュアは手傷を負わされたことを一瞬忘れ、思わずキャンベル公へ祈りを捧げずにはいられなかった。


――――……


 季節は何度も巡った。きっと、この先もずっと、巡り続ける。

 アリアは医女として、町中の人々の様子を見回っている。
 そしてその合間には、子どもたちと共に路地裏を駆け回り、路上の楽団の演奏に合わせて踊った。
 アリアの踊りが始まると、周囲には人だかりができた。快活にスカートの裾を翻して周囲を巻き込み踊りを舞うアリアを、ヨシュアは王宮の窓から見つめる。

 彼女の笑顔は本当に向日葵のようなのだ。
 悪い虫がつかなければ良いが。
 すっかり子煩悩になってしまったと自嘲して、ヨシュアは窓辺を去った。


 アリアの気持ちがヨシュアに届くのも、ヨシュアが自身の気持ちを素直に受け入れられるのも、もう少し、先の話。

 
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