ソレは若気の至りだったと言う事にしておこう。

桜井 響華

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毎日の様に出入りしているので、半同棲しているかのような関係の今彼の自宅マンションから出勤する。

ホームに立って電車待ちの現在、日射しが眩しくて、思わず手で顔を覆ってしまう。

9月になったと言うのに、残暑は厳しく、通勤するにも朝から汗ばむ始末。

夏は嫌いじゃないが、出勤前から汗の匂いを気にしたり、ベタついたスーツが気に入らない。帰宅途中もそう、満員電車の中でも周囲の目も気になってしまう。

数分後、電車が到着して人が続々と降りてくる。降りてくる人々の波を何気なく見ていた時、事態は急変した。

「…あっ!」

目の前には、会いたくても会えなかった男が立っていた。

何も言わずに私を眺めている。

忘れていた感情を思い出したのか、見られている事が恥ずかしいのか、鼓動は早くなり、頬が赤らむ。

胸が張り裂けそうな位に心臓の鼓動が早くなり、呼吸が出来なくなりそうだった。

辛いから、この場から逃げ出してしまおうか?

後ろを向いて一歩を踏み出そうとした時、腕を捕まれた。

「…ミーナ?」

紛れもなく、私は美波ことミーナ本人。久しぶりに呼ばれたあだ名に動揺を隠せない。ミーナなんて呼ぶ人物は、あの人しか居ない。

ずっと忘れられずに心の片隅に居る、元彼だ。

「…仕事だから、また、ね」

何を話したら良いのか分からずに『またね』と言って立ち去ろうとしたけれど、また会うことなんて無いだろう。

動揺から可笑しな事を言ってしまった。

「ミーナ、真面目なんだね。昔みたいにサボったりしないの?」

「…しない」

以前、この男と付き合っている時は仕事をズル休みして1日中、抱きあったりしていた。

友達から電話がくれば、私を捨てて、約束していた日でもすっぽかされた。

それでも、この男にしがみついていたのは寂しさからだったかもしれない。

今は寂しくなんてない、でも物足りなさはある。




……身体が欲している。
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