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LAST*社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

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時は流れて彩羽コーポレーションの社員となった私は、以前に相良さんが話していたオーベルジュでの食事会、幹部会を無事に済ませて、大きいイベントの残りは保育園の完成披露パーティーを残すのみとなった。

オーベルジュでの食事会は彩羽コーポレーションが保育園を設立する事を知った社長の父(副社長の祖父)、つまり花野井不動産の会長が海外から一時帰宅し、関係者を集めた食事会だった。

食事会の後は副社長と秋葉さんと一緒に花野井家を訪れ、雑談をした後は次の日が休日な事もあり無理矢理に泊まる事に。

広々とした部屋で秋葉さんと社長と三人で女子会トークをしながら、夜中まで話し込んだ。

世間ではやり手な女社長で通っているけれど、社長の仮面を外せば、お姉さんの様に親しみやすく夢のある女性だと思う。

「和奏は緊張しないの?食事会でも慌てずに堂々としていたから驚いた…」

「さすがに緊張はしますよー。…ただ、相良さんが後ろ指刺されるのは嫌なので、努力はしました」

「ピアノコンクールの時と変わってないね。本番になると誰よりも堂々としてて、物怖じしない」

「…そんな事はないですけど……」

食事会と花野井家からの帰り道、送りの車の中で相良さんに褒められた。

褒められるのはくすぐったくもあり、どこか気恥しい。

「一緒に住む?とか社長は言ってたけど、和奏が気が引けると思うから…和奏が良ければだけど、うちの近くに引っ越しして来たら?」

花野井家での会話の中で『一緒に住めば良いのに』と社長や会長御夫婦は言って下さったけれど、まだ入籍もしていないし、私まで花野井家にお世話になってしまったら申し訳がない。

直ぐにでも相良さんが花野井家を出て、同棲したり結婚したり出来ない事情も考慮しての私の近場への引っ越しなんだと理解する。

「えぇー…!?引っ越ししたいですけど、でも、家賃が高そう!」

「探して見れば?それとも一緒に探そうか?」

「はい、宜しく御願いします」

土地感もなく、不動産に行くにも緊張してしまう私には一人で探す事などは無理な話で相良さんの申し出は嬉しかった。

「引っ越し出来れば、もっと長い時間一緒に居られると思うし…朝も一緒に出勤出来る」

保育園は会社のビルの裏手にあたる場所に建築予定であり、凄く近いのだ。

朝も一緒に出勤…だとか、私はこんなにも幸せ過ぎて良いのでしょうか?

「っふふ、今が生きている中で一番幸せです。有難う御座います!」

「…生きている中で一番幸せとか言われても困る。だって、これから先は結婚したり、子供産まれたりするんだよ?一番の幸せは塗り替えられて行かなきゃ」

「……え?」

「え?じゃなくて、近い将来の話をしてるんだけど…。和奏が嫌だったら良いんだけど!」

嫌なはずなどある訳が無い。

ダメ元で告白した時に貰った返事ぐらい驚き過ぎて、頭の中がついていけない。

相良さんの口からあっさりと"結婚"の二文字が出た上に子供の話までしてくるなんて…!

夢の中なのか、狐に摘まれたのか位の衝撃で嬉しさよりも、呆気に取られている方が大きい。

「…っう、結婚に子供とか!幸せ過ぎて不幸が訪れたらどうしましょ?」

「これ位で不幸が訪れるなら、とっくに地球は滅亡してるよ」

自分の答えに対して、運転しつつ笑いを堪えている相良さんはどことなく可愛げがある。

ポーカーフェイスを崩したくないのか、あまり笑わない相良さんだけれど、我慢しないでもっと笑ったら良いのに。

「……有澄君が先に入籍しない事には先には進めないけど、近い内に和奏の御両親の所に御挨拶に伺いたいと思ってるよ」

「わ、…私なんかで良かったら結婚して欲しいですけど!でもでもっ、付き合い始めたばかりなのに…本当に良いのかな?」

「俺が和奏を束縛したいのもあるんだけど…結婚すれば、誰にも遠慮せずに堂々としてられる。付き合いの長さじゃなくて、これからも一緒に居たいと思ったから結婚の選択肢も良いかなって思った。……まぁ、和奏次第なんだけど…」

これから先の未来を考えてくれているからこそ、社長や副社長に私の事を紹介してくれたり、今後の住む場所の事も親身になってくれているんだ。

私にとって相良さんはかけがいのない存在になってしまっていて、破談する未来など考えたくもないので、独り占め出来たりするのは心から嬉しい。

"結婚"と言う名の堂々と隣に居られる幸せが現実味を帯びて来て、嬉しさに顔がほころんでしまう。

勇気を出して告白して良かったな。

相良さんに出会ってから沢山の幸せを貰っている。

退屈な毎日を繰り返すだけだった東京での生活も相良さんの繋がりにより、秋葉さんの様な素敵な友人も出来たし、諦めていた保育園で働く事も出来る。

大好きな気持ちと一緒に沢山の感謝の気持ちで一杯です。

「…そう言えば、私が保育士の資格を持ってるって何で知ってたんですか?」

「…あぁ、それね。受付で和奏のネームを見て、もしかしてコンクールの優勝者?と思って人事課で調べた時に知った」

「あははっ、職権乱用じゃないですか!相良さんでもそんな事するんですね」

「……片隅に置いてきた初恋だったからね、自分でも呆れる位に諦め悪くて驚いたよ」

「ふふっ、そんなに思ってくれていたなんて嬉しいです」

「調子乗るな…」

そう言って私の頭を左手でグリグリと撫で回し、最後にポンポンと軽く叩いてから手を離された。

この相良さんの行動も日常茶飯事になり、頭に触れられる事に緊張感が無くなったので、すんなりと受け入れては心地良さを実感している。

「……私、全国大会で優勝しましたけど…、本当はね、お姉ちゃんの方がピアノに打ち込んでたんです。三歳年上のお姉ちゃんがピアノを弾く姿が素敵で軽い気持ちから私も始めたんですが…いつの間にか、楽しくなってました。
本当は大好きだったんですよね、ピアノが…」

「何で急に辞めたの?俺はずっと探してたのに…」

「…他にもやって見たい事があるかな?って探したかったからです」 

「……ふぅん…、そう」

誰にも言ってない事がある。

ピアノコンクールで入賞したりする度に、お姉ちゃんよりも上の賞が付与された時などは子供ながらに接し方がキツくされた。

両親は喜んでくれたがお姉ちゃんからは冷たくあしらわれて憎悪しか感じられなくなり、精神的に疲れてしまい、中学校の時にはピアノを弾くのを辞めた。

それでも私の心の奥底ではピアノが大好きだったんだろう…、子供好きな事もあってか、ピアノとも関わりのある保育士を目指す事を決意する。

ピアノから一旦離れてもお姉ちゃんとの仲は修復出来ない事もあり、実家から飛び出すようにして東京の短大に入学した。

今、振り返れば…、運命の人との歯車は動き出していたに違いない。

ピアノが結んだ縁を大切にしなきゃね───……
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