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条件9*ハイスペック彼氏に所有されるなら自分磨きをする事!

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現在の自分が置かれている状況が分からない───……

食事交代が終わり、お腹いっぱいで眠くなりそうな午後。

受付カウンターの電話が鳴り、秘書室からの電話だったので心踊らせて電話を受けた。

耳に入る声は愛しの相良さんの声で、「退勤後に副社長室に来て下さい」とだけ伝えられ、返事もする間も与えられずに電話を切られる。

内線の声の主が私だと気付いてくれた事は喜ばしい事だが、言いたい事だけ言って切るのは、秘密の彼女だとは言え失礼な人。

退勤後、副社長室のドアをドキドキしながらノックすると…副社長と相良さん、他にもう一人の男性が応接テーブルに集まっていた。

「お疲れ様です、失礼致します」

「胡桃沢さん、お疲れ様。紅茶とコーヒーどっちが好き?」

「えっと…コーヒーが好きです」

副社長室に入ると副社長が優しく出迎えてくれてソファーに座る様に促された。

「相良、胡桃沢さんはコーヒーだって」
「…かしこまりました」

「わ、私、自分で入れてきます!」
「これも仕事の内ですから遠慮なく…」

「大貴、俺も紅茶のお代わり!」
「かしこまりました」

立ち上がろうとした私を阻止した相良さんは仕事モードそのもので、眼鏡をかけてクールを装っている。

もう一人の男性が名前で呼んでいるけれど、相変わらずの無表情で笑わず、スタイルを崩さない。

休日の甘さは何処にも感じられない。

飲み物が届く前に広げられた書類。

設計図?

何の場所だろう?

隣に座る男性が広げた設計図らしき書類は、調理室とか保育室とか書いてある。

もしかすると企業内保育施設?

「胡桃沢さんをお呼びしたのは、来年度に向けて企業内に保育園を作ろうと計画してまして、是非御意見をいただけたら…と思います。…まぁ、勤務中じゃないし、堅苦しいのは無しにしよっか。

胡桃沢さんは保育士免許を持っていると聞いたので呼んだんだ。意見も聞きたいんだけど、同時に先生として働きませんか?」

棚からぼた餅、落ちてきた。

この会社内で保育士免許の話をした事はなく、もちろん相良さんにだって話していないが、履歴書を見れば分かる事かもしれない。

けれども履歴書を見たにしても、不自然。

派遣受付嬢の履歴書なんて、社内の人達には関係がないはず…。

凄い展開に驚きを隠せずに言葉が出ません。

「……えっ、と…」

「この子が和奏ちゃん?…初めまして、花野井不動産の一級建築士の花野井  煌(はなのい  こう)です。大貴の彼女なんでしょ?ちっちゃくて可愛い!…そう言えば、ゆかりちゃんは?」

言葉に詰まっていると隣の男性が私の手を取って握手をしながら、自己紹介をしてくれた。

自己紹介をした後も話は止まらず、秋葉さんがいるか居ないか確認する。

「まだ仕事中だから。煌君、ゆかりに近付きすぎるから会わせたくない。胡桃沢さんをそっちに座らせたのも間違えだった…」

副社長が溜め息をつきながら、書類を手に取って眺める。

私、社外では相良さんの公認の彼女になれているみたい。

相良さん本人が紹介してくれたのか、副社長が紹介してくれたのかは分からないが純粋に嬉しい。

相良さんが戻るまでは、主に副社長と建築士の花野井さんの世間話で盛り上がっていたが、戻って来ると同時に威圧感が感じられて話は直ぐ様すり替えられた。

「胡桃沢さんは保育施設がオフィス内にあるのとオフィス付近に建物を建てるのと、どちらが良いと思いますか?」

副社長に訪ねられると心の内を1つ1つ丁寧に話した。

「私はオフィス内にあれば、お子様との時間も増えますし、熱が出てしまった時も即時にお迎えの対応が出来て良いと思います。もちろん、オフィス付近に建物を立てれば、他の企業とも共同出来るメリットもありますので、一概には言えませんが…」

事務所内保育施設とは無認可保育園にあたり、企業主導型保育と呼ばれる。

企業主導型保育では、地域の複数の企業が共同で保育が出来て、更には地域の子供も受け入れ可能。

補助金の関係もあるので、 会社としてのメリットとデメリットを良く考慮してから考えるべきだ。

「…胡桃沢さんの御意見は大変参考になりました。早速、アンケートを取り入れる事にします」

相良さんが入れてくれたコーヒーを片手に話が進み、従業員食堂に保育施設についての匿名アンケートを置く事になった。

「胡桃沢さん、是非、保育施設で働いて下さいね。資格を持っていて、役立てないのは勿体無いですから。給与等は社長を含め、検討させて頂きますので改めて提示させて下さい」

並べられた資料をまとめながら副社長が穏やかな口調で、私に再度のオファーをする。

願ってもいない出来事に驚いたが、こんなチャンスは滅多にないのでお引き受けする事にした。

資格が無駄にならずに済んだし、子供達と過ごせる夢の様な仕事についに就職出来るかと思うと心が踊る。

就職情報誌とはおさらばだし、需要がある限りは定年まで働ける仕事なので有難い気持ちでいっぱいになった。

「…煌君、どう?オフィス内でも引き受けてくれる?」

「大体の構想は浮かんでるけどね、有澄や大貴のお願いは聞きたくないよね…。和奏ちゃんからお願いされたら、頑張るよ?」

副社長が花野井さんに尋ねると跳ね返り、私に振られてドギマギしてしまう。

隣に座る花野井さんから流し目で訴えられる。

花野井さんは副社長の御親戚だけあって、顔の系統が副社長に似ているのか、どちらかと言えば女顔で、大人の色気を放つ男性だ。

隣からは、ふんわりと甘く良い香りが絶えずに漂っていた。

「…よ、よろしく、お願いします」

「ふふっ、リョーカイ。そんなに怯えなくても食べたりしないよ?和奏ちゃんはハムスターみたいで可愛い。男に免疫なさそうなとこ、もっと可愛い…」

ソファーの端に寄り、途切れ途切れにお願いの言葉を言いながら、座ったままでお辞儀をすると頭にはいつの間にか、ふわりと乗せられた手があった。

乗せられた手は花野井さんの手で、優しく頭を撫でられた。

「…ふ、ぇ!?」

ゆっくりと頭を上げると「上目遣い禁止!可愛過ぎだから。…大貴が夢中になるの分かる気がするよ!…またね、和奏ちゃん。大貴に怒られない内に帰るね」と言って微笑みながら席を立った。

ビ、ビックリしたぁ…。

甘い言葉が飛び出す度に、花野井さんの視線から逃れられなくなった。

「煌君、可愛い女の子が大好きだから気をつけてね」

「…は、はいっ」

副社長は呆然とする私に注意を促し、尚且つ、「相良、もう帰っていいよ。胡桃沢さんを引き止めてしまったから送ってあげて。…業務命令、ね!」と相良さんにお願いをした。

「まだ仕事が残ってるなら大丈夫ですっ」

私が相良さんに話をかけたら、不機嫌そのもの。

「…業務命令なので、退勤します。お疲れ様でした」

「うん、お疲れ様でした」とニッコリと微笑みかけて手を振ってくれた副社長に対して、相良さんはぶっきらぼうに、膨れた様に対処して副社長室を後にした。

私も副社長に深々と挨拶とお礼を言って、部屋から出た。

バックの中のスマホが光ったので取り出すと相良さんからで、駐車場で待っていてとの指示。

気付けば午後7時を過ぎていた。
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