上 下
65 / 70
誕生日も仕事でしたが、人生最高の日になりました!

しおりを挟む
白く大きめな皿にいちごのショートケーキやピンクのマカロン、小さめなガトーショコラやフルーツなどが上品良く乗せられて周りには生花が飾られている。Happybirthday! ERINAとチョコでデコレーションしてある。何とも華やかで可愛らしい。

「専用ラウンジにも行きたかったけど、食事の後は二人で過ごしたかったから…」

「バースデープレートまでお部屋に届くなんて、本物のお姫様みたいです!」

感激し過ぎて、自分でも何を言っているのか混乱中。そんな中、一颯さんは……

「どうぞ、お姫様、こちらにおかけ下さいませ」

と言った。夜景が見えるソファーにエスコートされて、腰を降ろす。

「お姫様は紅茶で宜しいでしょうか?」

「はい、紅茶を頂きます」

バースデープレートと一緒に届いたポットの紅茶をカップに注いで出された。その後に隣に座った一颯さんと目が合って、お互いに笑い出した。

「一颯さんの執事、もっと見たいです」

「悪ふざけはもう終わりにする……」

思いの外、一颯さんが執事みたいな口振りをするから、おねだりしたくなった。一颯さんは我に返ったみたいで、顔が赤くなる。

バースデープレートを食べる前に写真を撮らせてもらい、紅茶を一口含んでから食べ始めた。フレンチは美味しかったのだが、お腹が満たされるよりも心が満たされた感が強く、甘い物が何よりも嬉しかった。一颯さんがガトーショコラだけ食べたいと言ったので、フォークで掬い口に運んであげた。

「恵里奈、コレも受け取ってくれる?」

私が紅茶を飲んでいると一颯さんがジャケットのポケットから何かを取り出した。

「一生かけて幸せにします。結婚して頂けますか?」

紺色の四角の箱だった。返事をする前にポロリ、と涙が零れ落ちた。感極まってしまい、返事が出来ない。

「現在は同じサービススタッフとして仕事内容も理解していて、生活リズムもさほど変わらない。けれども結婚してからは互いの仕事が変わるかもしれないし、恵里奈が専業主婦になる日が来るかもしれない。今後の予測は出来ず、それによって不憫な思いもするかもしれないが……

何があっても全力で恵里奈を守るから、これから先の人生を共に歩んで下さい」

「はい…」

ポロポロと涙を流している私の左手を取って、薬指に指輪をはめてくれた。

婚約指輪は、センターにダイヤモンド、その両脇にピンクダイヤモンド、プラチナのリングの部分はひねりが加えてあり全体的に調和が取れているデザインの物。先日、一緒に見ていたブライダル情報雑誌に掲載されていて、私が「可愛い」と声を漏らしてしまったデザインと同じだった。私には勿体ない位の素敵なデザインの婚約指輪だ。

「ダイヤモンドは4月の誕生石で永遠の絆と言う意味合いもあるらしい。その隣はピンクダイヤモンド」

「……っふぇ、す、ごく、きれ…いれす…。それにコレ、こないだ一緒に…見て、た指、わ…」

「いい加減、泣き止め」

嬉しいのに涙が止まらず、困り果てた一颯さんは私の額にキスを落とす。そして、子供みたいにティッシュで鼻元を拭かれた。私のせいでロマンティックな雰囲気は台無しだったが、涙が止まって来て、一颯さんに抱き着いた。

「だって、嬉しくて…。大好き、一颯さん!こんな私で良かったら、一生一緒に居て下さいね」

「俺は他の誰かじゃなく、お前じゃなきゃ嫌なんだ。ずっと傍に居て、俺を支えて下さい」

一颯さんと目と目が合い、引き寄せられたかのようにキスを交わす。

「……ん、」

深みを増していくキスに歯止めをかけられ、一颯さんにお姫様抱っこされて連れて行かれたのはバスルーム。扉を開けるとふんわりとアロマの入浴剤の良い香りと薔薇の香りが漂っていた。バトラーとして要望があれば薔薇風呂を用意するのだが、今日は用意された側だった。色とりどりの薔薇が湯船に浮かんでいて、非常に綺麗。薔薇風呂を用意している時も花の効力で癒されるが、入る立場としては段違いだ。

「ゆっくり入っておいで」

いつもはお風呂に一緒に入りたがる一颯さんが、何故だか遠慮している。

「……一緒に入らないんですか?」

「薔薇風呂は抵抗がある…」

「先に入ってますから、後から来て下さいね」

「いつもは一緒に入るのは嫌がるくせに…」

「今日は特別です。せっかくの薔薇風呂なので、一人で入ってもつまらないです!」

私はお風呂に入る前に婚約指輪を外し、ベッドのサイドテーブルに置いた。

実際に湯船に入ってみると非日常の空間が日頃の疲れを浄化してくれる。普段は慌ただしく仕事をしているけれど、たまには安らぎも必要だと思った。今日はお姫様的な扱いをされて、人生最高の誕生日になった。

下旬の一颯さんの誕生日はどうしよう?お祝いと今までのお返しとして盛大にしたいけれど、一颯さんみたいにスイートルームを借りれる訳でも、フレンチレストランに行ける訳でもない。正社員と言えど、ホテルのサービススタッフは世間一般の会社よりも月給が低いのだ。公休も繁忙期は月に7回しかなく、その上、残業も多いくせに……!

結婚するまでに貯金も増やしたい。一颯さんの誕生日が終わったら、貯金額も増額しよう……。

「薔薇の香りがキツイ…」

「そうですか?私は嫌いじゃないですよ」

考え事をしながら湯船に浸かっていると一颯さんが入って来た。確かに薔薇の香りは独特なので、苦手な人もいるかもしれない。

一颯さんと話をしながら、ゆっくりと湯船に浸かった後はベッドのサイドテーブルに置いた婚約指輪を再び身につけて、ポスッとベッドに寝転がった。

天井の灯りに向けて、手を伸ばしてかざす。キラキラと光輝いているダイヤモンド達。綺麗だなぁ……。

「気に入ってくれた?」

お風呂から上がった一颯さんはバスローブ姿で私の横に座った。バスローブの隙間から見える鎖骨とサラサラな前髪をかきあげる仕草が何とも言えずに艶っぽい。

「はい、とっても。一颯さん、こんなに素敵な指輪を有難う御座います。それに何気なく呟いた事を覚えててくれて嬉しいです」

私は起き上がり、一颯さんの背後からギュッと抱きしめる。ペタッと背中に顔をつける。大好きが溢れていて、どんなに抱きしめても足りない。

「恵里奈が気に入った物が良いと思って選んだだけだ。そんなに喜んで貰えるなら贈りがいがあったな」

一颯さんはクスッと笑って、私を見た。

「一颯さんは誕生日に欲しい物はありますか?」

目が合ったので、一颯さんに欲しい物を尋ねては見たものの……抱きしめていた両腕を解かれて、ベッドに押し倒された。

「恵里奈以外は何もいらない」

「そ、そんな事言われても……!」

一颯さんは私を見つめた後、目を逸らして赤くなっている私をからかっているかのようにクスクスと笑っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

処理中です...