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お客様は神さま!……ではありません?
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彼、幸田様の元を離れ、ふう~っと長く息を吐く。客室の廊下に出た瞬間に緊張が解けて、肩の荷が下りた。彼は何が目的なのだろう?高級ホテルに泊まってみたいと言う欲求は私にもあるが、私を呼び付ける理由は何なのだろう?
「……幸田様は篠宮さんを気に入っているんだね。一体どういう関係?中里さんも知ってたでしょ?」
「……はい、以前、レストランの研修に行った時に来ていた配膳会の人です。まだ大学生って言う事は知っていましたが、名前は知りませんでした」
客室を出た後にエグゼクティブフロアのパントリーの隅で会話をする。
「大学生かぁ……。エグゼクティブフロアに泊まる為にお金貯めて来たんだね。精一杯のおもてなしはしてあげたいとは思うけど、何となく曰く付きかなって思うよ」
「そうですよね…」
「とにかくルームサービスは頼まれたから手配して、その他の依頼が来たら俺が行くよ」
フレンチのコースの予約を入れ、その後に優月ちゃんに確認の電話をした。私のせいで優月ちゃんまで巻き込んでしまったが、一緒にルームサービスに行く業務を引き受けてくれた。彼に接客する私を見て高見沢さんは、唯ならぬ雰囲気に気付いたらしい。
高見沢さんには、一颯さんとの帰り道に彼に跡をつけられた事を何となく話しておいた。「ストーカーだとしたら、充分に気をつけなきゃね」と言って、念の為に一颯さんにも連絡をしてくれた。穂坂様の件に引き続き、一颯さんと高見沢さんには余計な心配をかけてしまったが、私が黙っている事により、余計に酷くなる事態は避けたかった。
他の業務をこなしていると一颯さんから職場の携帯に電話があった。
「配膳会のアイツが宿泊に来ていたとはな。回避出来なかった事、大変申し訳ない……」
電話口の一颯さんは落ち込んでいるのか、声が小さく張りがない。回避出来なかったのは一颯さんのせいでも、誰のせいでもない。
新規のお客様として予約してきた限りは拒否する訳にはいかないし、他のホテルのブラックリストにも載っていないのならば受け入れるしかないのだ。予約時は配膳会の彼だとは誰も気付かないし、私も名前を知らなかった。
一颯さんは配膳会として出入りをする方々の名簿は持っていて、名前を知っていたのかもしれないが、あえて私には名前を明かさなかった。
「誰のせいでもないですし、私の個人的な理由で宿泊をお断りする訳にはいきませんので、充分に気をつけた上での接客を致します」
「分かった。可能な限り、俺も手は打っておく。何かあった時には……、勿論、ない方が良いのだが…必ず連絡してくれ。後程、エグゼクティブフロアには顔を出すから」
「はい、分かりました。有難う御座います」
一颯さんの声を聞けた事で、少しだけ不安から解放された気がした。困難に出くわした時、一颯さんが居れば自分の足で立ち向かう事が出来る。きっと大丈夫、そう思って両方の拳に力を入れる。私は一人じゃない。一颯さんも高見沢さんも優月ちゃんも居て、その他にも支えてくれる方々も沢山居るのだから負けない。
本音を言えば怖くて堪らないけれど、相手はお客様として来ている。私が誠実な態度を示せば、きっと大丈夫!
「一颯君に電話で伝えた時に少し取り乱してたけど、あんた絡みだといつも平常心じゃいられなくなるみたいだね」
幸田様の件で一颯さんから電話があったと高見沢さんに報告に行った。高見沢さんはエグゼクティブフロアの事務所内のPCで幸田様の顧客名簿を見て注意事項を打ち込んでいた。幸い、皆が出払っていて周りには誰も居なかった。
「そうですか?」
「そうですか?じゃない!正直言うと、あんた絡みになると威厳のあるキリッとした一颯君じゃなくなるんだよ。……まぁ、うろたえてる一颯君も可愛いから嫌いじゃないけどね」
年上の男性を捕まえて可愛いだなんて!その気持ちは私も分かるから否定は出来ない。高見沢さんは本当に一颯さんが大好きなんだなぁ。上司に対する尊敬の念と言うよりも、お兄ちゃん的な感じかな?
「分かりますー。たまに可愛くなるんですよね!」
誰かに聞かれたらまずいので小さな声で話す。高見沢さんは星野さんと同じ位に一颯さんを理解しているから、話していると私のテンションが高くなってしまい、ついつい声も大きくなりがちだから気をつけなくては!中でも、高見沢さんとは一颯さんの可愛さについて共感出来るから益々テンションが上がって、表情にも大好きな気持ちが溢れてしまっている。
「……あんたさぁ、どうやって一颯君の私生活に潜り込んだの?噂ではミスばっかりして怒られてたって聞いたけど…」
「はい、それは事実ですよ。以前はリゾート系のホテルで働いてて、支配人が私を引き抜いて下さいました」
「それは知ってるんだけど、仕事の鬼が何であんたみたいな人を選んだのかを聞きたい。あんたは一般的には可愛いかもしれないけど、好みじゃないと思うし…。一生懸命な所は認めるけど、それだけじゃ好きになるきっかけにはならないし…」
高見沢さんは私の顔をじっと見ながら問いかけてきた。
「あー、またそれですか!私が可愛いのかどうかはさておき、好みの問題は私も同感します。綺麗な人なら隣に居ても目劣りしないだろうな、とか」
「俺、就職してからは一颯君とはプライベートでは会った事がないから。バーでバイトしてた時に会って、ホテルに誘われて就職したんだ」
「なるほど!私達は支配人に拾われた仲間だったんですね!」
「……っるさいな、調子に乗るな!」
ガチャッ。
高見沢さんが私の頬をぷにっとつねった時にドアの開く音がした。つねられた時には遅し、見られていた。
「高見沢君、留守番有難う。篠宮さんもお疲れ様です。二人は仲が良いのね」
事務所の予約担当の女性、蓮実さんは私達の姿を見て、クスクスと笑った。
「仲良くないです!」
「仲良くな…、って、あんたが先に否定するな!」
高見沢さんが否定する前に私がキッパリと否定したので、怒っている。私達のやり取りを見てはまだクスクスと笑っている蓮実さん。
「……幸田様は篠宮さんを気に入っているんだね。一体どういう関係?中里さんも知ってたでしょ?」
「……はい、以前、レストランの研修に行った時に来ていた配膳会の人です。まだ大学生って言う事は知っていましたが、名前は知りませんでした」
客室を出た後にエグゼクティブフロアのパントリーの隅で会話をする。
「大学生かぁ……。エグゼクティブフロアに泊まる為にお金貯めて来たんだね。精一杯のおもてなしはしてあげたいとは思うけど、何となく曰く付きかなって思うよ」
「そうですよね…」
「とにかくルームサービスは頼まれたから手配して、その他の依頼が来たら俺が行くよ」
フレンチのコースの予約を入れ、その後に優月ちゃんに確認の電話をした。私のせいで優月ちゃんまで巻き込んでしまったが、一緒にルームサービスに行く業務を引き受けてくれた。彼に接客する私を見て高見沢さんは、唯ならぬ雰囲気に気付いたらしい。
高見沢さんには、一颯さんとの帰り道に彼に跡をつけられた事を何となく話しておいた。「ストーカーだとしたら、充分に気をつけなきゃね」と言って、念の為に一颯さんにも連絡をしてくれた。穂坂様の件に引き続き、一颯さんと高見沢さんには余計な心配をかけてしまったが、私が黙っている事により、余計に酷くなる事態は避けたかった。
他の業務をこなしていると一颯さんから職場の携帯に電話があった。
「配膳会のアイツが宿泊に来ていたとはな。回避出来なかった事、大変申し訳ない……」
電話口の一颯さんは落ち込んでいるのか、声が小さく張りがない。回避出来なかったのは一颯さんのせいでも、誰のせいでもない。
新規のお客様として予約してきた限りは拒否する訳にはいかないし、他のホテルのブラックリストにも載っていないのならば受け入れるしかないのだ。予約時は配膳会の彼だとは誰も気付かないし、私も名前を知らなかった。
一颯さんは配膳会として出入りをする方々の名簿は持っていて、名前を知っていたのかもしれないが、あえて私には名前を明かさなかった。
「誰のせいでもないですし、私の個人的な理由で宿泊をお断りする訳にはいきませんので、充分に気をつけた上での接客を致します」
「分かった。可能な限り、俺も手は打っておく。何かあった時には……、勿論、ない方が良いのだが…必ず連絡してくれ。後程、エグゼクティブフロアには顔を出すから」
「はい、分かりました。有難う御座います」
一颯さんの声を聞けた事で、少しだけ不安から解放された気がした。困難に出くわした時、一颯さんが居れば自分の足で立ち向かう事が出来る。きっと大丈夫、そう思って両方の拳に力を入れる。私は一人じゃない。一颯さんも高見沢さんも優月ちゃんも居て、その他にも支えてくれる方々も沢山居るのだから負けない。
本音を言えば怖くて堪らないけれど、相手はお客様として来ている。私が誠実な態度を示せば、きっと大丈夫!
「一颯君に電話で伝えた時に少し取り乱してたけど、あんた絡みだといつも平常心じゃいられなくなるみたいだね」
幸田様の件で一颯さんから電話があったと高見沢さんに報告に行った。高見沢さんはエグゼクティブフロアの事務所内のPCで幸田様の顧客名簿を見て注意事項を打ち込んでいた。幸い、皆が出払っていて周りには誰も居なかった。
「そうですか?」
「そうですか?じゃない!正直言うと、あんた絡みになると威厳のあるキリッとした一颯君じゃなくなるんだよ。……まぁ、うろたえてる一颯君も可愛いから嫌いじゃないけどね」
年上の男性を捕まえて可愛いだなんて!その気持ちは私も分かるから否定は出来ない。高見沢さんは本当に一颯さんが大好きなんだなぁ。上司に対する尊敬の念と言うよりも、お兄ちゃん的な感じかな?
「分かりますー。たまに可愛くなるんですよね!」
誰かに聞かれたらまずいので小さな声で話す。高見沢さんは星野さんと同じ位に一颯さんを理解しているから、話していると私のテンションが高くなってしまい、ついつい声も大きくなりがちだから気をつけなくては!中でも、高見沢さんとは一颯さんの可愛さについて共感出来るから益々テンションが上がって、表情にも大好きな気持ちが溢れてしまっている。
「……あんたさぁ、どうやって一颯君の私生活に潜り込んだの?噂ではミスばっかりして怒られてたって聞いたけど…」
「はい、それは事実ですよ。以前はリゾート系のホテルで働いてて、支配人が私を引き抜いて下さいました」
「それは知ってるんだけど、仕事の鬼が何であんたみたいな人を選んだのかを聞きたい。あんたは一般的には可愛いかもしれないけど、好みじゃないと思うし…。一生懸命な所は認めるけど、それだけじゃ好きになるきっかけにはならないし…」
高見沢さんは私の顔をじっと見ながら問いかけてきた。
「あー、またそれですか!私が可愛いのかどうかはさておき、好みの問題は私も同感します。綺麗な人なら隣に居ても目劣りしないだろうな、とか」
「俺、就職してからは一颯君とはプライベートでは会った事がないから。バーでバイトしてた時に会って、ホテルに誘われて就職したんだ」
「なるほど!私達は支配人に拾われた仲間だったんですね!」
「……っるさいな、調子に乗るな!」
ガチャッ。
高見沢さんが私の頬をぷにっとつねった時にドアの開く音がした。つねられた時には遅し、見られていた。
「高見沢君、留守番有難う。篠宮さんもお疲れ様です。二人は仲が良いのね」
事務所の予約担当の女性、蓮実さんは私達の姿を見て、クスクスと笑った。
「仲良くないです!」
「仲良くな…、って、あんたが先に否定するな!」
高見沢さんが否定する前に私がキッパリと否定したので、怒っている。私達のやり取りを見てはまだクスクスと笑っている蓮実さん。
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