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社内恋愛の事情を知ってしまいました!
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声が聞こえたので、後ろを振り返るとショルダーバッグを手に握りしめている吉沢さんが居た。高見沢さんの背中に当たった何かはバッグで、ぶつけたのは吉沢さんらしい。
「見かけたから話をかけようと思ったら…私の話をしてたから聞かないように遠回りして行こうと思ったけど、話、聞こえちゃって…」
「吉、ざ…わ…」
大きな目からは今にも涙が零れ落ちそうな位に溜まっている。震えている声。
「高見、沢…ごめん…ね、彼氏の話したり、して…。も、しない…から」と言って、吉沢さんは走って行ってしまった。
高見沢さんに追いかけるように促したけれど、そんな素振りも見せずに早歩きで行ってしまった。私がふざけて高見沢さんを茶化したからいけないんだ。二人を傷つけてしまったに違いない……。
今日の始まりはとても憂鬱だった。仕事中も高見沢さんは口数少なくて、黙々と仕事をこなしているだけ。吉沢さんは休憩室にも顔を出さず、高見沢さんと会わないように避けているらしい。自分の巻いた種とは言え、………辛い、辛すぎる。どうして良いのか分からず、仕事の合間を見て、フラフラと一颯さんに会いに来てしまった。
「どうした?仕事中に会いに来るなんて珍しいな」
社内専用のスマホから一颯さんに電話をし、支配人室に行って良いかの確認をしてから向かった。一颯さんはPCで仕事をしていたが、私が入室すると手を休めた。
「あの…高見沢さんが…」
私は一颯さんのデスクの前に立ち、話を始める。
「高見沢?今日は元気がなさそうだったな。最近、アイツは上の空だったりして、仕事に身が入ってない気がする…」
「私のせいなんです!私が吉沢さんの話をしなければ、高見沢さんも傷付けなくてすんだのに。高見沢さんから何か聞いていませんか?一颯さんなら何か知ってるんじゃないかと思って。それに…私と一颯さんの関係にもショックを受けてるみたいです…」
「あぁ、高見沢と吉沢か……。高見沢からは何も聞いてないが、二人は大学の先輩後輩だとは言っていたな。……高見沢は吉沢が好きなんだろ?見てれば分かる。知らない人は居ないんじゃないか?って位に分かりやすい」
一颯さんは立ち上がり、私の頭を優しく撫でると「あんまり悩むな。後は当人同士の問題だから」と言ったが、私は気が重かった。
「……それから、誰が何と言おうがお前を選んだのは俺なんだから、手放す気もない。お前は違うのか?」
「………私も手離したくない、です」
一颯さんの手の温もりが頬に降りて、撫でられた。優しい目で私を見て、微笑んだ。一颯さんに見つめられると目を反らせない。
「なら、良かった。仕事に戻りなさい。戻りたくないなら、居ても良いけど…今は構ってはあげられないよ?」
「も、戻ります!邪魔してごめんなさい!」
「………仕事が終わったら、沢山構ってあげるから」
クスクスと笑う一颯さんは「仕事が終わったら連絡して」と言って、もう一度、私の頭を撫でた。名残惜しいが、支配人室を後にして、仕事に戻る。
エグゼクティブフロアにあるブッフェレストランの影から、吉沢さんが居ないかどうか見ていると私を見つけて駆け寄ってくれた。
「篠宮ちゃん、どしたの?」
「あ、えっと…、その…」
「朝の件かな?もうすぐ休憩入れるから、そしたら話そ!」
吉沢さんは私を見ては察したようで、笑顔で迎えてくれた。
休憩中に話をしたら、吉沢さんはいつも笑顔でいるけれど、その裏には抱えきれない程の寂しさを持ち合わせていた。正直、聞かなきゃ良かったなどと身勝手な事を思ってしまった。吉沢さんが彼氏を好きだと言う気持ちがある限り、高見沢さんは救ってあげられない。
「高見沢さん…、コーヒーこぼれてますよ…」
ルームサービスに持って行くコーヒーを用意していた高見沢さんは、コーヒーポットが満タンになっているのにも関わらず注ぎ続けていた。
「あぁ、しまった。どうかしてるな、俺…」
「私が代わりに運びますよ。高見沢さんは休んでいて下さい」
私は高見沢さんの代わりにルームサービスのスイーツセットを客室に運び、こぼしたコーヒーを片付けた。
壁に寄りかかり、項垂れている高見沢さん。
「吉沢に会った?」
「あ、えっと…はい、先程、少しだけ…」
私はいきなりの吉沢さんの話題だったので、どぎまぎしてしまった。
「吉沢の彼氏は浮気性でどうしようもないって話はしただろ?吉沢も何度も別れようとしたんだけど…その度に丸め込まれて信じて泣かされて…。何で別れないのか?って思ってたけど、それはつまり、吉沢が彼氏を忘れる事が出来ないからだ。俺が気持ちを伝えないのも…、現状が居心地が良いから……」
吉沢さんは高見沢さんの気持ちを薄々、気付いてはいたのだと思う。お互いに"友達"というカテゴリーを壊したくなくて、一歩を踏み出したくはなかった。こんなにも思ってくれている高見沢さんとお付き合いしたら、吉沢さんは幸せになれるはずなのに……恋は盲目なのだろう。彼氏を捨てられない。
痛い位に伝わる高見沢さんの気持ちが切ない。
「見かけたから話をかけようと思ったら…私の話をしてたから聞かないように遠回りして行こうと思ったけど、話、聞こえちゃって…」
「吉、ざ…わ…」
大きな目からは今にも涙が零れ落ちそうな位に溜まっている。震えている声。
「高見、沢…ごめん…ね、彼氏の話したり、して…。も、しない…から」と言って、吉沢さんは走って行ってしまった。
高見沢さんに追いかけるように促したけれど、そんな素振りも見せずに早歩きで行ってしまった。私がふざけて高見沢さんを茶化したからいけないんだ。二人を傷つけてしまったに違いない……。
今日の始まりはとても憂鬱だった。仕事中も高見沢さんは口数少なくて、黙々と仕事をこなしているだけ。吉沢さんは休憩室にも顔を出さず、高見沢さんと会わないように避けているらしい。自分の巻いた種とは言え、………辛い、辛すぎる。どうして良いのか分からず、仕事の合間を見て、フラフラと一颯さんに会いに来てしまった。
「どうした?仕事中に会いに来るなんて珍しいな」
社内専用のスマホから一颯さんに電話をし、支配人室に行って良いかの確認をしてから向かった。一颯さんはPCで仕事をしていたが、私が入室すると手を休めた。
「あの…高見沢さんが…」
私は一颯さんのデスクの前に立ち、話を始める。
「高見沢?今日は元気がなさそうだったな。最近、アイツは上の空だったりして、仕事に身が入ってない気がする…」
「私のせいなんです!私が吉沢さんの話をしなければ、高見沢さんも傷付けなくてすんだのに。高見沢さんから何か聞いていませんか?一颯さんなら何か知ってるんじゃないかと思って。それに…私と一颯さんの関係にもショックを受けてるみたいです…」
「あぁ、高見沢と吉沢か……。高見沢からは何も聞いてないが、二人は大学の先輩後輩だとは言っていたな。……高見沢は吉沢が好きなんだろ?見てれば分かる。知らない人は居ないんじゃないか?って位に分かりやすい」
一颯さんは立ち上がり、私の頭を優しく撫でると「あんまり悩むな。後は当人同士の問題だから」と言ったが、私は気が重かった。
「……それから、誰が何と言おうがお前を選んだのは俺なんだから、手放す気もない。お前は違うのか?」
「………私も手離したくない、です」
一颯さんの手の温もりが頬に降りて、撫でられた。優しい目で私を見て、微笑んだ。一颯さんに見つめられると目を反らせない。
「なら、良かった。仕事に戻りなさい。戻りたくないなら、居ても良いけど…今は構ってはあげられないよ?」
「も、戻ります!邪魔してごめんなさい!」
「………仕事が終わったら、沢山構ってあげるから」
クスクスと笑う一颯さんは「仕事が終わったら連絡して」と言って、もう一度、私の頭を撫でた。名残惜しいが、支配人室を後にして、仕事に戻る。
エグゼクティブフロアにあるブッフェレストランの影から、吉沢さんが居ないかどうか見ていると私を見つけて駆け寄ってくれた。
「篠宮ちゃん、どしたの?」
「あ、えっと…、その…」
「朝の件かな?もうすぐ休憩入れるから、そしたら話そ!」
吉沢さんは私を見ては察したようで、笑顔で迎えてくれた。
休憩中に話をしたら、吉沢さんはいつも笑顔でいるけれど、その裏には抱えきれない程の寂しさを持ち合わせていた。正直、聞かなきゃ良かったなどと身勝手な事を思ってしまった。吉沢さんが彼氏を好きだと言う気持ちがある限り、高見沢さんは救ってあげられない。
「高見沢さん…、コーヒーこぼれてますよ…」
ルームサービスに持って行くコーヒーを用意していた高見沢さんは、コーヒーポットが満タンになっているのにも関わらず注ぎ続けていた。
「あぁ、しまった。どうかしてるな、俺…」
「私が代わりに運びますよ。高見沢さんは休んでいて下さい」
私は高見沢さんの代わりにルームサービスのスイーツセットを客室に運び、こぼしたコーヒーを片付けた。
壁に寄りかかり、項垂れている高見沢さん。
「吉沢に会った?」
「あ、えっと…はい、先程、少しだけ…」
私はいきなりの吉沢さんの話題だったので、どぎまぎしてしまった。
「吉沢の彼氏は浮気性でどうしようもないって話はしただろ?吉沢も何度も別れようとしたんだけど…その度に丸め込まれて信じて泣かされて…。何で別れないのか?って思ってたけど、それはつまり、吉沢が彼氏を忘れる事が出来ないからだ。俺が気持ちを伝えないのも…、現状が居心地が良いから……」
吉沢さんは高見沢さんの気持ちを薄々、気付いてはいたのだと思う。お互いに"友達"というカテゴリーを壊したくなくて、一歩を踏み出したくはなかった。こんなにも思ってくれている高見沢さんとお付き合いしたら、吉沢さんは幸せになれるはずなのに……恋は盲目なのだろう。彼氏を捨てられない。
痛い位に伝わる高見沢さんの気持ちが切ない。
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