上 下
40 / 70
社内恋愛の事情を知ってしまいました!

しおりを挟む
声が聞こえたので、後ろを振り返るとショルダーバッグを手に握りしめている吉沢さんが居た。高見沢さんの背中に当たった何かはバッグで、ぶつけたのは吉沢さんらしい。

「見かけたから話をかけようと思ったら…私の話をしてたから聞かないように遠回りして行こうと思ったけど、話、聞こえちゃって…」

「吉、ざ…わ…」

大きな目からは今にも涙が零れ落ちそうな位に溜まっている。震えている声。

「高見、沢…ごめん…ね、彼氏の話したり、して…。も、しない…から」と言って、吉沢さんは走って行ってしまった。

高見沢さんに追いかけるように促したけれど、そんな素振りも見せずに早歩きで行ってしまった。私がふざけて高見沢さんを茶化したからいけないんだ。二人を傷つけてしまったに違いない……。

今日の始まりはとても憂鬱だった。仕事中も高見沢さんは口数少なくて、黙々と仕事をこなしているだけ。吉沢さんは休憩室にも顔を出さず、高見沢さんと会わないように避けているらしい。自分の巻いた種とは言え、………辛い、辛すぎる。どうして良いのか分からず、仕事の合間を見て、フラフラと一颯さんに会いに来てしまった。

「どうした?仕事中に会いに来るなんて珍しいな」

社内専用のスマホから一颯さんに電話をし、支配人室に行って良いかの確認をしてから向かった。一颯さんはPCで仕事をしていたが、私が入室すると手を休めた。

「あの…高見沢さんが…」

私は一颯さんのデスクの前に立ち、話を始める。

「高見沢?今日は元気がなさそうだったな。最近、アイツは上の空だったりして、仕事に身が入ってない気がする…」

「私のせいなんです!私が吉沢さんの話をしなければ、高見沢さんも傷付けなくてすんだのに。高見沢さんから何か聞いていませんか?一颯さんなら何か知ってるんじゃないかと思って。それに…私と一颯さんの関係にもショックを受けてるみたいです…」

「あぁ、高見沢と吉沢か……。高見沢からは何も聞いてないが、二人は大学の先輩後輩だとは言っていたな。……高見沢は吉沢が好きなんだろ?見てれば分かる。知らない人は居ないんじゃないか?って位に分かりやすい」

一颯さんは立ち上がり、私の頭を優しく撫でると「あんまり悩むな。後は当人同士の問題だから」と言ったが、私は気が重かった。

「……それから、誰が何と言おうがお前を選んだのは俺なんだから、手放す気もない。お前は違うのか?」

「………私も手離したくない、です」

一颯さんの手の温もりが頬に降りて、撫でられた。優しい目で私を見て、微笑んだ。一颯さんに見つめられると目を反らせない。

「なら、良かった。仕事に戻りなさい。戻りたくないなら、居ても良いけど…今は構ってはあげられないよ?」

「も、戻ります!邪魔してごめんなさい!」

「………仕事が終わったら、沢山構ってあげるから」

クスクスと笑う一颯さんは「仕事が終わったら連絡して」と言って、もう一度、私の頭を撫でた。名残惜しいが、支配人室を後にして、仕事に戻る。

エグゼクティブフロアにあるブッフェレストランの影から、吉沢さんが居ないかどうか見ていると私を見つけて駆け寄ってくれた。

「篠宮ちゃん、どしたの?」

「あ、えっと…、その…」

「朝の件かな?もうすぐ休憩入れるから、そしたら話そ!」

吉沢さんは私を見ては察したようで、笑顔で迎えてくれた。

休憩中に話をしたら、吉沢さんはいつも笑顔でいるけれど、その裏には抱えきれない程の寂しさを持ち合わせていた。正直、聞かなきゃ良かったなどと身勝手な事を思ってしまった。吉沢さんが彼氏を好きだと言う気持ちがある限り、高見沢さんは救ってあげられない。

「高見沢さん…、コーヒーこぼれてますよ…」

ルームサービスに持って行くコーヒーを用意していた高見沢さんは、コーヒーポットが満タンになっているのにも関わらず注ぎ続けていた。

「あぁ、しまった。どうかしてるな、俺…」

「私が代わりに運びますよ。高見沢さんは休んでいて下さい」

私は高見沢さんの代わりにルームサービスのスイーツセットを客室に運び、こぼしたコーヒーを片付けた。

壁に寄りかかり、項垂れている高見沢さん。

「吉沢に会った?」

「あ、えっと…はい、先程、少しだけ…」

私はいきなりの吉沢さんの話題だったので、どぎまぎしてしまった。

「吉沢の彼氏は浮気性でどうしようもないって話はしただろ?吉沢も何度も別れようとしたんだけど…その度に丸め込まれて信じて泣かされて…。何で別れないのか?って思ってたけど、それはつまり、吉沢が彼氏を忘れる事が出来ないからだ。俺が気持ちを伝えないのも…、現状が居心地が良いから……」

吉沢さんは高見沢さんの気持ちを薄々、気付いてはいたのだと思う。お互いに"友達"というカテゴリーを壊したくなくて、一歩を踏み出したくはなかった。こんなにも思ってくれている高見沢さんとお付き合いしたら、吉沢さんは幸せになれるはずなのに……恋は盲目なのだろう。彼氏を捨てられない。

痛い位に伝わる高見沢さんの気持ちが切ない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

処理中です...