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バトラーとしての品格とは?
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10月下旬、バトラーとしての仕事がスタートして忙しい日々を送っている。
バトラーはホテル内でも別格なエグゼクティブフロアが主な仕事場所なので、全てが特別感が溢れている。特別感に慣れるまでは緊張ばかりで、部屋から見える夜景などに感動している隙間はなかった。
普段はエグゼクティブフロアの常駐バトラーとして働いているので、ロイヤルスイートルームの各部屋の専属バトラーのシフトはごく稀にしか入らない。
専属バトラーとしての初めてのお客様は結婚記念日に来店されたご夫婦で、食事と記念撮影以外のお申し付けはなかった。二人で思い出を振り返りながら、ゆったりとした時間を過ごしたかったのだろう。
その後も順調にバトラーとしての仕事をこなして居たのだが、本日のお客様はお忍びで来る方らしく、今から緊張している。
現在は仕事中の小休憩にて、従業員食堂でティータイム中。
「一颯君に言われて支店に来たけど、本当は本店に帰りたいんだからね。一颯君がどうしてもって言うから来たんだからね」
私の隣でホットレモンティーを飲みながらボヤいているのは本店から引き抜いたバトラーの先輩で、バトラー責任者の高見沢 たくとさん。高見沢さんは私よりも一つ年下だから、一颯さんにとってはもっと年下だ。それなのに関わらず、一颯さんの事を"君付け"で呼んでいる強者だ。付き合っている私でさえ、"さん付け"なのに……。
本店に見習として行った時は、高見沢さんとは別の方が指導係だった為に接点はあまりなかった。時々接点があったとしても、私の事は気に入らないらしく、難癖はつけてくる。高見沢さんは英語、フランス語もペラペラな帰国子女だ。ハーフやクォーターではないらしいが髪の毛も茶色みを帯びていて、顔立ちも綺麗でそこそこ身長もある申し分ないスタイルだが……性格に難がある。
「一颯君もさ、何であんたなんかをバトラーにしようと思ったのか理解出来ないよ。まさかとは思うけど…、男女の関係とかじゃないよね?」
ギクリ。
持参のホットレモンティーをカップに継ぎながらの高見沢さんからの指摘に慌てる。高見沢さんはギロリ、と私を睨みつける。私は思わず、目線を反らしてしまう。
「あんたさぁ、英語もまずまずだし、接客もまぁまぁだし、何か取り柄でもあるの?そんなんで一颯君に取り入ろうとか有り得ないから!」
「は、はい……。仰る通りです…」
「顔だけは可愛いかもしれないけど、一颯君に相応しくないからね。…こんな相応しくない奴が一颯君の彼女の訳ないよね?……ねぇ?」
ぎゅむ。
高見沢さんに鼻を摘まれ、息も出来ないし、何より痛い。私に対する憎しみからか、摘んでいる指の力が強いから涙が滲む。
「コラッ!高見沢、止めなさい!」
「いてっ。……あ、一颯君!」
高見沢さんの背後に現れたのは一颯さんで、手に持っていたファイルで軽く頭を叩いた。一颯さんを見るなり嬉しそうな顔をして、私の鼻から指を離してくれた。私の鼻はきっと真っ赤になっているはずだ。少しだけヒリヒリ痛い。
「篠宮はバトラーとしては新人だから面倒見てやってくれ。高見沢はパーフェクトに仕事が出来るから、教育係にうってつけなんだから頼んだぞ」
「うん、分かった。頑張る!」
一颯さんに褒められて御機嫌になった高見沢さんはニコニコしている。高見沢さんの隣に座った一颯さんが、気付かれないように斜め前に座っている私に微笑んだ。
「……それはそうと一颯君はさ、何で篠宮さんみたいな人をバトラーにしようとか思った訳?」
「篠宮は確かに英語は上手く話せないかもしれないが、気が利くし、温かみがある接客が出来るから向いていると思ったんだ」
「それだけ?男女の関係とかじゃないよね?」
「そうだな。高見沢の考え方だったら、引き抜いた人達が全員、俺と男女の関係になってしまうな」
一颯さんは笑って誤魔化すが、高見沢さんは納得したようだった。
「それもそうだね。そもそも、篠宮さんみたいな人、タイプじゃないよね。一颯君の奥さんになる人は俺の審査が必要だからね」
「……はいはい」
高見沢さんは一颯さんと話している時と接客している時以外は、ムスッとしていて感じ悪いけれど…一颯さんの前では可愛らしく笑うんだな。高見沢さんから感じるこの感情表現が信頼なのか、愛情なのかは不明だけれども……。
「そろそろ行くよ、篠宮さん。今日はお忍びで来る方だから、粗相のないようにしなきゃ」
「は、はい!頑張ります!」
「気合いだけじゃ駄目なんだよね……」
高見沢さんはボソリと呟いて、舌打ちをした。一颯さんも一緒に従業員食堂を出て、別れ際にお互いに目線を合わせて微笑んだ。
会える時間が減っても、一颯さんからの愛情は変わらず、連絡はこまめにくれるし、顔も見に来てくれる。それだけで仕事も頑張る事が出来るし、幸せを感じられる。
エグゼクティブフロアの専用フロントに立ち寄り、本日のバトラー付きのロイヤルスイートルームへの予約状況を確認する。
「……お忍びで来るのは芸能人だね。女の子希望だって言うから、顧客名簿調べたら、あの俳優じゃん」
お忍びで来る方の顧客名簿は外部に漏れないように配慮されている為、当日にしか見れない事になっている。事前に年齢、性別や食事の希望などはチェック出来るが、名前等は極秘なのだ。私達は顧客名簿を見せてもらい、作戦を立てる。
「知ってる?あのタラシで有名な俳優だよ」
「あの方、記事の通りにそんなに取っかえ引っ変えしてるんでしょうか?」
「何人もホテルで激写されてるんだから、そうなんじゃない?」
この方に限っては当日になっても名前は極秘になっており、イニシャルがI·Hとしか公表されていない。その情報から推測する。予約人数は二人。彼女だろうか?
バトラーはホテル内でも別格なエグゼクティブフロアが主な仕事場所なので、全てが特別感が溢れている。特別感に慣れるまでは緊張ばかりで、部屋から見える夜景などに感動している隙間はなかった。
普段はエグゼクティブフロアの常駐バトラーとして働いているので、ロイヤルスイートルームの各部屋の専属バトラーのシフトはごく稀にしか入らない。
専属バトラーとしての初めてのお客様は結婚記念日に来店されたご夫婦で、食事と記念撮影以外のお申し付けはなかった。二人で思い出を振り返りながら、ゆったりとした時間を過ごしたかったのだろう。
その後も順調にバトラーとしての仕事をこなして居たのだが、本日のお客様はお忍びで来る方らしく、今から緊張している。
現在は仕事中の小休憩にて、従業員食堂でティータイム中。
「一颯君に言われて支店に来たけど、本当は本店に帰りたいんだからね。一颯君がどうしてもって言うから来たんだからね」
私の隣でホットレモンティーを飲みながらボヤいているのは本店から引き抜いたバトラーの先輩で、バトラー責任者の高見沢 たくとさん。高見沢さんは私よりも一つ年下だから、一颯さんにとってはもっと年下だ。それなのに関わらず、一颯さんの事を"君付け"で呼んでいる強者だ。付き合っている私でさえ、"さん付け"なのに……。
本店に見習として行った時は、高見沢さんとは別の方が指導係だった為に接点はあまりなかった。時々接点があったとしても、私の事は気に入らないらしく、難癖はつけてくる。高見沢さんは英語、フランス語もペラペラな帰国子女だ。ハーフやクォーターではないらしいが髪の毛も茶色みを帯びていて、顔立ちも綺麗でそこそこ身長もある申し分ないスタイルだが……性格に難がある。
「一颯君もさ、何であんたなんかをバトラーにしようと思ったのか理解出来ないよ。まさかとは思うけど…、男女の関係とかじゃないよね?」
ギクリ。
持参のホットレモンティーをカップに継ぎながらの高見沢さんからの指摘に慌てる。高見沢さんはギロリ、と私を睨みつける。私は思わず、目線を反らしてしまう。
「あんたさぁ、英語もまずまずだし、接客もまぁまぁだし、何か取り柄でもあるの?そんなんで一颯君に取り入ろうとか有り得ないから!」
「は、はい……。仰る通りです…」
「顔だけは可愛いかもしれないけど、一颯君に相応しくないからね。…こんな相応しくない奴が一颯君の彼女の訳ないよね?……ねぇ?」
ぎゅむ。
高見沢さんに鼻を摘まれ、息も出来ないし、何より痛い。私に対する憎しみからか、摘んでいる指の力が強いから涙が滲む。
「コラッ!高見沢、止めなさい!」
「いてっ。……あ、一颯君!」
高見沢さんの背後に現れたのは一颯さんで、手に持っていたファイルで軽く頭を叩いた。一颯さんを見るなり嬉しそうな顔をして、私の鼻から指を離してくれた。私の鼻はきっと真っ赤になっているはずだ。少しだけヒリヒリ痛い。
「篠宮はバトラーとしては新人だから面倒見てやってくれ。高見沢はパーフェクトに仕事が出来るから、教育係にうってつけなんだから頼んだぞ」
「うん、分かった。頑張る!」
一颯さんに褒められて御機嫌になった高見沢さんはニコニコしている。高見沢さんの隣に座った一颯さんが、気付かれないように斜め前に座っている私に微笑んだ。
「……それはそうと一颯君はさ、何で篠宮さんみたいな人をバトラーにしようとか思った訳?」
「篠宮は確かに英語は上手く話せないかもしれないが、気が利くし、温かみがある接客が出来るから向いていると思ったんだ」
「それだけ?男女の関係とかじゃないよね?」
「そうだな。高見沢の考え方だったら、引き抜いた人達が全員、俺と男女の関係になってしまうな」
一颯さんは笑って誤魔化すが、高見沢さんは納得したようだった。
「それもそうだね。そもそも、篠宮さんみたいな人、タイプじゃないよね。一颯君の奥さんになる人は俺の審査が必要だからね」
「……はいはい」
高見沢さんは一颯さんと話している時と接客している時以外は、ムスッとしていて感じ悪いけれど…一颯さんの前では可愛らしく笑うんだな。高見沢さんから感じるこの感情表現が信頼なのか、愛情なのかは不明だけれども……。
「そろそろ行くよ、篠宮さん。今日はお忍びで来る方だから、粗相のないようにしなきゃ」
「は、はい!頑張ります!」
「気合いだけじゃ駄目なんだよね……」
高見沢さんはボソリと呟いて、舌打ちをした。一颯さんも一緒に従業員食堂を出て、別れ際にお互いに目線を合わせて微笑んだ。
会える時間が減っても、一颯さんからの愛情は変わらず、連絡はこまめにくれるし、顔も見に来てくれる。それだけで仕事も頑張る事が出来るし、幸せを感じられる。
エグゼクティブフロアの専用フロントに立ち寄り、本日のバトラー付きのロイヤルスイートルームへの予約状況を確認する。
「……お忍びで来るのは芸能人だね。女の子希望だって言うから、顧客名簿調べたら、あの俳優じゃん」
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「知ってる?あのタラシで有名な俳優だよ」
「あの方、記事の通りにそんなに取っかえ引っ変えしてるんでしょうか?」
「何人もホテルで激写されてるんだから、そうなんじゃない?」
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