上 下
7 / 70
公休日は予想外な一日!?

しおりを挟む
疲れているはずなのに深い眠りにつけず、何度も目を覚ましては時間を確認する。

やっと眠りについた時には、朝8時を過ぎていてカーテンの隙間から、陽射しが入り込んでいた。

寝不足気味で火照りのある身体、更には疲れが抜けずに気だるく、鉛の様に重だるい脚でベッドから降りる。

カーテンを勢い良く開けて、心地良い柔らかな陽射しを全身に受け止め、まだ寝ていたい気持ちをリセットする。

急遽、支配人とお出かけする事になり、楽しみな気持ちもあったが緊張感も重なり、何度も目を覚ましてしまったのである。

今日は暖かい一日になるらしいので、フリルのついたオフホワイトのブラウスにスカート、春らしく淡いグリーンのカーディガンという清楚系なコーディネートに決めた。

いつもなら楽さを選んで、ジーンズにシャツとかチュニックとかの組み合わせにしちゃうけれど…支配人とお出かけするんだから、少しでも綺麗に見られたい。

…そう思う事態が恋の始まりなんだろうか?

本当は明日、月曜日が公休だったが、支配人が今日、日曜日が休みになったので、同様に変更された。

決定された月間シフトの公休だが、明日は希望休ではなかった為に支配人の一存で変更されてしまったのだ。幸い、友達との約束もなく何にも予定はなかったのだが…。

社員寮を出て、十時に指定された待ち合わせ場所まで行くとカジュアルな服装に身を包んだ支配人が立っていた。

「おはようございます!」

ジャケットに黒いインナー、ベージュのチノパン、前髪を下ろしているので雰囲気も違うが、すぐに支配人だと気付いた。

職場でのスリムなスーツに身を包んだ姿とは違うギャップに、ドキリと跳ね上がる心音。スーツ姿もカッコイイと思うけれど、これはコレでキュンキュンする要素が満載。

「……おはよう。ちょっと予想外な私服に驚いた。もっと子供っぽい感じだと思っていたから…」

支配人に声をかけるとすぐに気付き、私の姿を見て驚いた様だった。

支配人の中での私のイメージは、どんなに幼稚さがあるのだろう?…と考えると気持ちが沈んでしまう。

ショックを隠せずに下を向いていると支配人が申し訳なさそうに私に言い寄る。

「公休を変更して悪かったな。明日も休むか?」

「いえ、特に用事はなかったですから大丈夫です。明日はきちんと行きますよ」

「…分かった」

凹み気味な心を隠して、愛想笑いをする。

支配人は愛想笑いに気付いたのか、それとも私とは特に話題もないからか、少しの間、無言で歩いた。

私から話をかけても良いのかな?折角のお誘いなんだし、出来る事ならば沢山話をしたい。

緊張しながらも話かける決心をして口を開くと…

「し、支配人っ、」
「篠宮、」

お互いに話をかけようとしていたらしく、言葉が混じり合い、顔を見合わせる。

「何だよ、篠宮」

自分からも話をかけてきたはずなのに、私だけが話をかけてきた流れにしようとしている。

クスクスと笑いながら流し目で見られたら、まともに顔を合わせる事も出来ずに目線を反らす。

不意打ちで毒牙(色気)を振り撒くのは、心臓に悪いからやめて欲しい。

「しーのーみーや?…篠宮さん?」

「……っ」

「……篠宮?」

待ち合わせ場所は人気の少ない通りで、今は私達の周りには誰も歩いてはいない。

支配人の事が目線に入らないように下を向いて歩いていたが、ピタリと足が止まったので私も立ち止まる。

「やっぱり帰るか?」

少しだけ悲しげな表情をした支配人が小さく呟いた言葉が、私の胸の奥に突き刺さる。強引に誘ったくせに、今更…。

「嫌ですっ、帰りませんっ!」

ブンブンと首を横に振り、抵抗をして拒否をして、キッと目尻に力を入れて睨み付ける。

「下を向いて歩く程に嫌がってるなら、無理強いはしない。…嫌だよな、休日まで上司と一緒に居るなんて…」

「……ち、違うんですっ。嫌、だか、ら…じゃないんです…」

私の態度が支配人を傷付けてしまっていた。職場での傲慢な態度ではなく、か細く消えてしまいそうな声で私に話しかける。

私も語尾に近付くにつれ、小さくなりながらも否定をする。

前を向けなかったのは…、顔を見て話せなかったのは意識をしてしまい、恥ずかしかったから…。

「…むしろ、逆なんです」

「逆?」

「…支配人の毒牙にやられて、顔を見れないんです。と、とにかくっ、上司と部下の関係は保ちたいので、あんまり毒牙を振り撒かないで下さいっ」

必死に声を絞り出し、思いの丈を伝えた。

恋なのか、恋じゃないのか、今はまだ分からないけれど…、一緒に居れば居る程に上司と部下の関係は崩れて行くだろう。

優しくされればされる程、支配人を知れば知る程、深みに嵌るのは自分だけだと思う。

支配人程の聡明で周りからの信頼も厚く、麗しさを併せ持つ人が、私なんかを好きになるはずがない。

───だから、その前に、好きになる前に気持ちを抑えるしかないんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...