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【番外編】湯河原日誌(side:湯河原)
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三人が事務所内から居なくなり、留守番は自分一人になった。果凛さんが訪ねてくる時間の前にお湯を沸かし、野上さんが買い置きしてくれているお茶菓子も用意する。後は果凛さんが訪ねてくるまで仕事を進めて……。
「こんにちは……、あれ? 一人なの?」
「こんにちは。皆、外出しちゃいました」
言い渡された予定時刻よりも早めに訪れた果凛さん。いつものパンツスタイルのスーツだが、ジャケットから見えるブラウスがフリルが付いていて可愛い。
お客様用のテーブルに案内してからコーヒーを淹れる。コーヒーカップを持ち上げる腕が細く、指も長くて綺麗だ。対面に座ってと言われ、一緒にコーヒーを飲むことにしたが、胸の高まりがおさまらない。
「ジロジロ見られると飲みにくいんだけど」
「わっ、す、すみません!」
果凛さんの放つオーラは華やかで、ここに居るだけで存在感がある。
「試験、一発合格できそう?」
「努力はしています」
果凛さんは自分の方を見ながら問う。
「……そう。家事は得意?」
「え? 両親が共働きで下に兄弟もいますので、それなりには手伝っていますが……」
「料理と掃除、どちらが好き?」
特別どちらも好きだと思ったことはないが、やり始めるとのめり込む性格なので、ついつい気合いが入ってしまう。
「どちらが好きというのはないですが、それなりにはできるつもりです」
「ふぅん。結婚はしたい派?」
「け、結婚は……いずれはしたいです」
クールな表情を崩さないままで、淡々と質問してくる果凛さん。こっちの方が照れくさくなってしまう。
「でも、何でこんな質問を……?」
「んー? 花婿候補探し。君のこと、度胸あるから気に入ってる。家事もできるなら尚更、気に入った」
果凛さんはふふっと笑った。果凛さんのご両親が経営している大手事務所を蹴って、瀬山法律事務所に就職したことが、果凛さんにとってはツボである。
果凛さんの笑顔が可愛い。見蕩れてしまう。
「頑張りますね、候補じゃなくて花婿になれるように」
果凛さんに向けて笑顔を向けると、顔を横向きにして目線を逸らされた。ほんのりだけれど、果凛さんの頬が赤く染まっている。照れているのかな?
「まずは試験頑張ってね」
そう言うと果凛さんは立ち上がり、バッグを持ち上げる。
「先生に用事があったのでは?」
「え? 特にないよ。ただ、何となく遊びに寄っただけ。じゃあね!」
果凛さんはバッグの中から名刺を取り出して、テーブルに置いて颯爽と立ち去る。去り際に「試験対策、一緒に考えてあげても良いよ。いつでも連絡して」と言った。名刺の裏にはメッセージアプリのIDと個人番号が書いてある。今、ここで書いた形跡はなかったので予め用意してくれていたのだろうか?
脈ナシだと思っていたが、もしかしたら脈アリかもしれない。名刺をスマホのケースにしまい、気合いを入れる。不純な動機かもしれないが、果凛さんに認めてもらうために何がなんでも一発合格したい。
その後、名刺をスマホケースにしまったままで果凛さんに連絡したのは夜だった。『湯河原くぅん? 連絡おっそーい! これだから草食系は……!』メッセージを送ったのに、無料通話がかかってきた。かなり酔っているような気がする。でも、酔っている果凛さんは、おしゃべりで舌っ足らずで可愛い。
先生には手に負えないからやめとけと言われているけれど、どんどん深みに嵌ってしまいそうだ。
【END】
「こんにちは……、あれ? 一人なの?」
「こんにちは。皆、外出しちゃいました」
言い渡された予定時刻よりも早めに訪れた果凛さん。いつものパンツスタイルのスーツだが、ジャケットから見えるブラウスがフリルが付いていて可愛い。
お客様用のテーブルに案内してからコーヒーを淹れる。コーヒーカップを持ち上げる腕が細く、指も長くて綺麗だ。対面に座ってと言われ、一緒にコーヒーを飲むことにしたが、胸の高まりがおさまらない。
「ジロジロ見られると飲みにくいんだけど」
「わっ、す、すみません!」
果凛さんの放つオーラは華やかで、ここに居るだけで存在感がある。
「試験、一発合格できそう?」
「努力はしています」
果凛さんは自分の方を見ながら問う。
「……そう。家事は得意?」
「え? 両親が共働きで下に兄弟もいますので、それなりには手伝っていますが……」
「料理と掃除、どちらが好き?」
特別どちらも好きだと思ったことはないが、やり始めるとのめり込む性格なので、ついつい気合いが入ってしまう。
「どちらが好きというのはないですが、それなりにはできるつもりです」
「ふぅん。結婚はしたい派?」
「け、結婚は……いずれはしたいです」
クールな表情を崩さないままで、淡々と質問してくる果凛さん。こっちの方が照れくさくなってしまう。
「でも、何でこんな質問を……?」
「んー? 花婿候補探し。君のこと、度胸あるから気に入ってる。家事もできるなら尚更、気に入った」
果凛さんはふふっと笑った。果凛さんのご両親が経営している大手事務所を蹴って、瀬山法律事務所に就職したことが、果凛さんにとってはツボである。
果凛さんの笑顔が可愛い。見蕩れてしまう。
「頑張りますね、候補じゃなくて花婿になれるように」
果凛さんに向けて笑顔を向けると、顔を横向きにして目線を逸らされた。ほんのりだけれど、果凛さんの頬が赤く染まっている。照れているのかな?
「まずは試験頑張ってね」
そう言うと果凛さんは立ち上がり、バッグを持ち上げる。
「先生に用事があったのでは?」
「え? 特にないよ。ただ、何となく遊びに寄っただけ。じゃあね!」
果凛さんはバッグの中から名刺を取り出して、テーブルに置いて颯爽と立ち去る。去り際に「試験対策、一緒に考えてあげても良いよ。いつでも連絡して」と言った。名刺の裏にはメッセージアプリのIDと個人番号が書いてある。今、ここで書いた形跡はなかったので予め用意してくれていたのだろうか?
脈ナシだと思っていたが、もしかしたら脈アリかもしれない。名刺をスマホのケースにしまい、気合いを入れる。不純な動機かもしれないが、果凛さんに認めてもらうために何がなんでも一発合格したい。
その後、名刺をスマホケースにしまったままで果凛さんに連絡したのは夜だった。『湯河原くぅん? 連絡おっそーい! これだから草食系は……!』メッセージを送ったのに、無料通話がかかってきた。かなり酔っているような気がする。でも、酔っている果凛さんは、おしゃべりで舌っ足らずで可愛い。
先生には手に負えないからやめとけと言われているけれど、どんどん深みに嵌ってしまいそうだ。
【END】
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