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「こんにちは。皇大郎と貴子に紹介されて買いに来ました。コッペパンのジャムバターが好きなんですがありますか?」
「いらっしゃいませ。有りますよ、コッペパンに挟むジャムをこちらから選んで下さいね。お好きな組み合わせでお作り致します」
紹介されて買いに来てくれたのは、可愛らしいお客様だった。少しだけ目がつり上がっている小柄な女の子。おそらく、あやかしなのだろう。
「バターとイチゴ、バターとブルベリ、バターと粒あんの組み合わせで三つお願いします」
「かしこまりました」
女の子に見えるが本当は何歳なんだろうか?コッペパンにバターを塗りながらふと考える。あやかしだとしたら、何百歳とかなのかな?
コッペパンを三つ、お好みに仕上げて袋に入れて手渡すと女の子はニッコリと微笑んだ。笑うと目が更に細くなる女の子は、狐に似ていた。
午後は忙しくパンが飛ぶように売れてしまい、彼が来る19時迄、店を開けている事が困難になってしまった。
クリームメロンパンを二個確保したのだが、彼が来店する前には売り切れてしまい、とうとう18時前には閉店時間となった。
確保したのに彼に渡せないなんて……!
店を閉めてしまうと言う事は、そもそも彼に会えないのと同じなのだ。今日は諦めるしかないか、と思った時に普段着の彼が現れた。
ベージュのチノパンに黒系の綺麗めなロングコートを着ていて、それはそれで似合っている。
今日はもう会えないのだと諦めかけていたのに彼が登場したので、私は思わず、「今日は会えないかと思った……」と口に出してしまった。
彼は聞き逃す事などせず、「他の妖がパンが無くなると教えてくれたので、早めに来ました。そもそも今日は土日に出勤した振替で休みでしたし……」と頬を赤らめながら反応してくれた。
彼女でも何でもない私に言う権利なんて無いけれど我儘を言うならば、休みならば早めに来てくれたら良かったのに。
クリームメロンパンを昨日のお礼だと言って渡す。彼は嬉しそうに受け取り、「父上に挨拶がしたい」と言い出した。
「む、無理ですよ!私達付き合っても居ないですし、それにお父さんが凄く怒っていて……!」
「お任せ下さい。私が父上をなだめてみせます」
いやいや、そうじゃなくて!挨拶する前に付き合ってないでしょ、私達?
私がオロオロして右往左往している間に父がパンの在庫を見に店内へとやって来た。父は彼を見つけるなり、「いつも有難うございます!沢山のお客様を連れて来て下さり、お陰様で大繁盛ですよ」と言って彼に近寄る。
彼は「こちらこそ美味しいパンをご提供して下さり、感謝しております。お話出来たのが運のツキ、私を弟子にしては貰えませんか?」とすぐ様、返事をした。
お父さんはお父さんで涙ぐんでしまい、「ウチは跡継ぎが居なくてな……、私がパンを作れなくなったら店じまいする予定だったんだよ」と話をして彼に握手を求めていた。
お父さんは昨日の外出の件で怒ってたんじゃないの?私とは朝から話もロクにしなかったクセに!
お父さんは跡継ぎ問題が解決したのが余程嬉しかったのか、彼を自宅に上がらせて仕事が休みな土日を中心に手伝いに来てくれる様に頼んでいた。
私と彼の恋愛は進展しないまま、彼と父の方が先に親密になった。彼の腕前はなかなか良いらしく、五回くらい手伝いに来た日に「今日は晩餐だ!」などと言って店を早々と閉める準備を始めた。
意気投合した二人はお酒を交わすらしく、私と彼とで買い出しに行かされる事になった。
「いらっしゃいませ。有りますよ、コッペパンに挟むジャムをこちらから選んで下さいね。お好きな組み合わせでお作り致します」
紹介されて買いに来てくれたのは、可愛らしいお客様だった。少しだけ目がつり上がっている小柄な女の子。おそらく、あやかしなのだろう。
「バターとイチゴ、バターとブルベリ、バターと粒あんの組み合わせで三つお願いします」
「かしこまりました」
女の子に見えるが本当は何歳なんだろうか?コッペパンにバターを塗りながらふと考える。あやかしだとしたら、何百歳とかなのかな?
コッペパンを三つ、お好みに仕上げて袋に入れて手渡すと女の子はニッコリと微笑んだ。笑うと目が更に細くなる女の子は、狐に似ていた。
午後は忙しくパンが飛ぶように売れてしまい、彼が来る19時迄、店を開けている事が困難になってしまった。
クリームメロンパンを二個確保したのだが、彼が来店する前には売り切れてしまい、とうとう18時前には閉店時間となった。
確保したのに彼に渡せないなんて……!
店を閉めてしまうと言う事は、そもそも彼に会えないのと同じなのだ。今日は諦めるしかないか、と思った時に普段着の彼が現れた。
ベージュのチノパンに黒系の綺麗めなロングコートを着ていて、それはそれで似合っている。
今日はもう会えないのだと諦めかけていたのに彼が登場したので、私は思わず、「今日は会えないかと思った……」と口に出してしまった。
彼は聞き逃す事などせず、「他の妖がパンが無くなると教えてくれたので、早めに来ました。そもそも今日は土日に出勤した振替で休みでしたし……」と頬を赤らめながら反応してくれた。
彼女でも何でもない私に言う権利なんて無いけれど我儘を言うならば、休みならば早めに来てくれたら良かったのに。
クリームメロンパンを昨日のお礼だと言って渡す。彼は嬉しそうに受け取り、「父上に挨拶がしたい」と言い出した。
「む、無理ですよ!私達付き合っても居ないですし、それにお父さんが凄く怒っていて……!」
「お任せ下さい。私が父上をなだめてみせます」
いやいや、そうじゃなくて!挨拶する前に付き合ってないでしょ、私達?
私がオロオロして右往左往している間に父がパンの在庫を見に店内へとやって来た。父は彼を見つけるなり、「いつも有難うございます!沢山のお客様を連れて来て下さり、お陰様で大繁盛ですよ」と言って彼に近寄る。
彼は「こちらこそ美味しいパンをご提供して下さり、感謝しております。お話出来たのが運のツキ、私を弟子にしては貰えませんか?」とすぐ様、返事をした。
お父さんはお父さんで涙ぐんでしまい、「ウチは跡継ぎが居なくてな……、私がパンを作れなくなったら店じまいする予定だったんだよ」と話をして彼に握手を求めていた。
お父さんは昨日の外出の件で怒ってたんじゃないの?私とは朝から話もロクにしなかったクセに!
お父さんは跡継ぎ問題が解決したのが余程嬉しかったのか、彼を自宅に上がらせて仕事が休みな土日を中心に手伝いに来てくれる様に頼んでいた。
私と彼の恋愛は進展しないまま、彼と父の方が先に親密になった。彼の腕前はなかなか良いらしく、五回くらい手伝いに来た日に「今日は晩餐だ!」などと言って店を早々と閉める準備を始めた。
意気投合した二人はお酒を交わすらしく、私と彼とで買い出しに行かされる事になった。
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