上 下
2 / 9

しおりを挟む
ここ二週間位の間に車に轢かれそうになったり、頭上から鉢植えが落ちて来て危うく怪我をしそうになったり、熱が出て三日間寝込んだりもした。その他にも肩に何者かが乗っているのではないか?と思う程にずしりとした重みを感じている。

「今度、外で会えませんか?出来れば夜に……」

「……?はい、夜ならば私も都合が良いです」

「なるべく早い方が良いな。今日か明日、どちらか都合はつきますか?」

「今日でも大丈夫ですよ。お店閉めたら上がれますから、おそらく三十分後には……」

「では、近くの公園でお待ちしております」

「はい、なるべく急いで行きます」

何のお誘いなのか分からないままに約束をしてしまった。彼女の存在が謎だったのだが、彼の目を見ていたら不思議と断る事は出来なかった。彼は無表情なままに約束を取り付けると彼女を置いて、先に外に出た。今まで黙って会話を聞いていた綺麗な女性が口を開く。

「あの人、貴方の事もパンの事も気に入っているのよ。普段ならノーマネーの安請け合いはしないから。じゃあ、また買いに来るね」

ヒラヒラと私に向かって手を振り、店を後にした。彼女が私に近付いた時、何となくだが凍り付くような寒さを身近に感じたが気のせいだったのだろうか?

閉店時間になり身支度を急いで整えて、公園へと早歩きをする。過保護な父が「どこに行くんだ?」としつこく聞いて来たが、私も20歳を過ぎた良い大人だから心配しないで!と念を押して自宅を出て来た。

冬の公園は風が冷たくひっそりとしていて、彼だけがベンチに一人座って居た。

「お待たせしました。寒い中、待たせてしまってすみません!」

急いで行きたくて走って来たのだが、来る途中に何かにつまづいて道路上で派手に転んでしまい、両膝からは血が滲んでいた。擦りむいた傷が痛いが私は笑顔を見せる。そんな私の姿を見た彼は立ち上がり、私の目の前に膝まづいてから、私の左膝に右手を充てると目を閉じた。

「……これで傷は癒えたはずです。どうですか?まだ痛みますか?」

「え?どうしてだろう?全く痛くないです!」

彼が右手を触れた左膝は不思議な事に痛みが無くなった。私の症状を確認した彼は直ぐ様、右膝にも右手を充てると痛みが引いたのだった。

不思議な現象に目を丸くする私。触れられた両膝がポカポカと暖かく感じられる。

「ちょっと失礼!少しだけ我慢して貰えますか?」

彼は突然にも私の事を抱き寄せて、右肩をポンポンと叩いた。

「あっ、あのぉ……」

「……やはり、一筋縄では行かぬようだな」

ボソリと彼は呟き、私の肩から何かを剥がしとり、公園の地面の上に叩きつけたかの様に見えた。あんなにも重苦しかった肩が一瞬にして軽々しくなる。

彼は何者………?

彼から解放された私は後ろ手に回った。何故だか分からないが、不穏な空気が漂っていて恐怖を感じた。思わず、彼の背中を右手で掴んでしまう。

「オマエハ  鬼ノ  生キ残リカ?」

「そうだ。お前は何故、この者に取り憑いた?」

「コイツハ  オレがヒカレテ死ニソウニ  ナッテイタノニ   見捨テタカラダ。マダ  死ニタクナド  無カッタ」

最初は見えなかったが、今、目の前には巨大な白犬が存在している。巨大な白犬は私達の方向へと今すぐにでも襲って来そうな体制だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

山蛭様といっしょ。

ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。 和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。 不気味な恋を目指しております。 気持ちは少女漫画ですが、 残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。 表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

式鬼のはくは格下を蹴散らす

森羅秋
キャラ文芸
時は現代日本。生活の中に妖怪やあやかしや妖魔が蔓延り人々を影から脅かしていた。 陰陽師の末裔『鷹尾』は、鬼の末裔『魄』を従え、妖魔を倒す生業をしている。 とある日、鷹尾は分家であり従妹の雪絵から決闘を申し込まれた。 勝者が本家となり式鬼を得るための決闘、すなわち下剋上である。 この度は陰陽師ではなく式鬼の決闘にしようと提案され、鷹尾は承諾した。 分家の下剋上を阻止するため、魄は決闘に挑むことになる。

冥府の花嫁

七夜かなた
キャラ文芸
杷佳(わか)は、鬼子として虐げられていた。それは彼女が赤い髪を持ち、体に痣があるからだ。彼女の母親は室生家当主の娘として生まれたが、二十歳の時に神隠しにあい、一年後発見された時には行方不明の間の記憶を失くし、身籠っていた。それが杷佳だった。そして彼女は杷佳を生んですぐに亡くなった。祖父が生きている間は可愛がられていたが、祖父が亡くなり叔父が当主になったときから、彼女は納屋に押し込められ、使用人扱いされている。 そんな時、彼女に北辰家当主の息子との縁談が持ち上がった。 自分を嫌っている叔父が、良い縁談を持ってくるとは思わなかったが、従うしかなく、破格の結納金で彼女は北辰家に嫁いだ。 しかし婚姻相手の柊椰(とうや)には、ある秘密があった。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

ゴールドの来た日

青夜
キャラ文芸
人間と犬との、不思議な愛のお話です。 現在執筆中の、『富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?』の中の話を短編として再構成いたしました。 本編ではこのような話の他、コメディ、アクション、SF、妖怪、ちょっと異世界転移などもあります。 もし、興味を持った方は、是非本編もお読み下さい。 よろしくお願いいたします。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

 星降る夜のカノン 〜画家の卵が、天才ヴァイオリニストと恋に落ちるまで〜

染島ユースケ
キャラ文芸
北海道の中心、「銀河に一番近い街」と呼ばれた芸術振興都市・星見市。 そこで画家になることを志し、星見学院の芸術科に通うヒロイン・壁井ユカ。 星見学院理事長の御曹司にして、容姿端麗かつ非凡な才能をもつ自由奔放な青年・飛鳥馬ケイト。 2人が星空の下で出会い恋に落ちるまでを描く、全ての夢追い人に捧ぐボーイ・ミーツ・ガール短編。

処理中です...