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糖度12*決断すべき、お別れの時
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その後はまた気まづい雰囲気になり、お互いに口を開かなかった。
何を話したら良いのか、分からなくなった。
窓の外を眺めていると高層ビルが増えてきて、会社に近付いて来ているのが分かる。
もうそろそろ、お別れ。
「起きろっ!」
「……もう着きました?」
見渡すと駐車場に着いていて、いつの間にか会社に戻って来た様だった。
話が弾まなくてスマホ見ているフリをして、有澄と綾美に『もうすぐ戻るね』ってメッセージを送って・・・その後は記憶がない。
「もうすぐ着くのに寝るなんて、信じられない奴だな!」
「あぁっ、ケーキ忘れてました!」
帰りにケーキ食べさせてくれるって言ってたのに・・・寝てしまった。
「起こしたのに起きないから勝手に選んだ。俺が許すから有澄と一緒に食べて来て」
小さなケーキの箱を目の前に差し出され、車から降ろされた。
日下部さんは会社付近のパティスリーでケーキを購入してくれていたらしい。
良く分からないけれど、「30分だけ行って来て」と言われてコソコソしながら副社長室に向かう。
エレベーターを降りて、通路で誰にも会いませんように・・・!と恐る恐る副社長室の前まで来ると、表札が来客中にはなっていないのでドアをノックする。
部屋の中から「どうぞ」と聞こえたので、ゆっくりと扉を開けると、有澄はデスクワーク中だった。
「さっき帰って来て、ケーキは日下部さんからお土産です。一緒に食べよ。相良さんは居ないの?」
「…おかえり。ありがと。相良は秘書室に居る」
日下部さんから受け取ったケーキの箱を応接テーブルにそっと置く。
デスクワークしていて集中しているのか、ご機嫌斜めなのか、ぶっきらぼうな答え方の有澄。
デスクの前に立って居ても、カチャカチャとキーボードを叩く音しか聞こえず、有澄は私を見ようともしない。
日下部さんと二人で外回り行って来たから、怒ってるの?
「あーりとっ。紅茶入れて来ようか?」
ご機嫌を取るかの様に、有澄の椅子の横まで行って顔を覗き込む。
「……ゆかり…」
有澄は急に立ち上がり、両手を束縛されデスクに押し倒された。
冷たく硬い感触が背中に伝わり、書類やペンが床に散らばる。
有澄に上から見下ろされ、思わず目線を反らす。
「…有澄、怒ってる?」
恐る恐る聞いたが返答はなく、唇を塞がれただけだった。
息も出来ない位の激しいキスの途中で、ブラウスのボタンを外す感触に気付く。
身動きが取れず、いつもとは違う優しさがない強引過ぎる有澄が少し怖くて目から涙がこぼれた。
「……ごめん、考えすぎだった」
右手で口を覆い隠す様にして話す有澄は私から離れて、椅子に座る。
私もゆっくりと上半身を起こし、ブラウスのボタンを止める。
「有澄が心配してる様な事は何もないよ?」
デスクの上に座ったまま、涙をぬぐいながら有澄に微笑む。
「信じてたんだけど…旅行に行った時にゆかりが"日下部さんの跡消して"って言ってたから、今日1日気になって仕方なかったんだ…。本当にごめん」
デスクに突っ伏し、うなだれる有澄。
旅行の日の夜は酔っていて記憶がないのだけれど、今まで隠していた日下部さんとの事を話していたらしい。
有澄は記憶がない私が話した事を聞かなかった事にしようとしていたらしいけれど、気付かぬ内にストレスを抱えていたのだろう。
全部、私が悪いんだ。
隠し事はなしって決めていたのに、私が話そうとしなかったから。
私達の間にわだかまりがあるとしたら、日下部さんとの出来事だったと思う。
「…ずっと前に日下部さんに告白されたの。言わなくてごめん。でも、今日ちゃんとブラコンは卒業するって言って来たよ」
私はデスクの上から降りて、有澄を包むように抱きしめる。
「本当にごめん…」
心配かけてごめんなさい。
「…ゆかりが謝る事なんてないよ。単なる俺のヤキモチだから…」
罪悪感に苛まれた大きな溜息が聞こえる。
私にしてみれば、有澄がこんなにもヤキモチを妬いてくれる事は幸せな事だ。
愛されてるんだな、私。
「…大好きだよ、有澄」
耳元で囁いてから、耳にチュッと軽く唇を触れさせて、
「ケーキ食べよっ」
と言って有澄から離れてソファーに座る。
「……!?い、今のは不意打ち過ぎるでしょ!」
「いつもの不意打ちのお返しっ!」
頬がほんのり赤く染まっている有澄がブツブツと独り言を言っていたが、私は構わずにケーキの箱を開けた。
ベイクドチーズケーキが3個。
スフレの様なふわふわなチーズケーキでもなく、アプリコットジャムが上に塗られているチーズケーキでもなく、ベイクドチーズケーキを選んでくれた辺りが日下部さんが私を見てきてくれた証拠だ。
ベイクドチーズケーキが大好きな事、覚えていてくれたんだ。
日下部さん、ありがとう。
感謝しながらいただきます。
今日の外回りの話をしながら、有澄と一緒にケーキを食べて、あっという間に約束の30分は過ぎてしまった。
ヤキモチ妬いたままなのか、有澄は不服そうだったので、「仕事だからしょうがないじゃん」と反抗したら「分かってるけど!」と言いながらも膨れっ面は変わらず。
何を話したら良いのか、分からなくなった。
窓の外を眺めていると高層ビルが増えてきて、会社に近付いて来ているのが分かる。
もうそろそろ、お別れ。
「起きろっ!」
「……もう着きました?」
見渡すと駐車場に着いていて、いつの間にか会社に戻って来た様だった。
話が弾まなくてスマホ見ているフリをして、有澄と綾美に『もうすぐ戻るね』ってメッセージを送って・・・その後は記憶がない。
「もうすぐ着くのに寝るなんて、信じられない奴だな!」
「あぁっ、ケーキ忘れてました!」
帰りにケーキ食べさせてくれるって言ってたのに・・・寝てしまった。
「起こしたのに起きないから勝手に選んだ。俺が許すから有澄と一緒に食べて来て」
小さなケーキの箱を目の前に差し出され、車から降ろされた。
日下部さんは会社付近のパティスリーでケーキを購入してくれていたらしい。
良く分からないけれど、「30分だけ行って来て」と言われてコソコソしながら副社長室に向かう。
エレベーターを降りて、通路で誰にも会いませんように・・・!と恐る恐る副社長室の前まで来ると、表札が来客中にはなっていないのでドアをノックする。
部屋の中から「どうぞ」と聞こえたので、ゆっくりと扉を開けると、有澄はデスクワーク中だった。
「さっき帰って来て、ケーキは日下部さんからお土産です。一緒に食べよ。相良さんは居ないの?」
「…おかえり。ありがと。相良は秘書室に居る」
日下部さんから受け取ったケーキの箱を応接テーブルにそっと置く。
デスクワークしていて集中しているのか、ご機嫌斜めなのか、ぶっきらぼうな答え方の有澄。
デスクの前に立って居ても、カチャカチャとキーボードを叩く音しか聞こえず、有澄は私を見ようともしない。
日下部さんと二人で外回り行って来たから、怒ってるの?
「あーりとっ。紅茶入れて来ようか?」
ご機嫌を取るかの様に、有澄の椅子の横まで行って顔を覗き込む。
「……ゆかり…」
有澄は急に立ち上がり、両手を束縛されデスクに押し倒された。
冷たく硬い感触が背中に伝わり、書類やペンが床に散らばる。
有澄に上から見下ろされ、思わず目線を反らす。
「…有澄、怒ってる?」
恐る恐る聞いたが返答はなく、唇を塞がれただけだった。
息も出来ない位の激しいキスの途中で、ブラウスのボタンを外す感触に気付く。
身動きが取れず、いつもとは違う優しさがない強引過ぎる有澄が少し怖くて目から涙がこぼれた。
「……ごめん、考えすぎだった」
右手で口を覆い隠す様にして話す有澄は私から離れて、椅子に座る。
私もゆっくりと上半身を起こし、ブラウスのボタンを止める。
「有澄が心配してる様な事は何もないよ?」
デスクの上に座ったまま、涙をぬぐいながら有澄に微笑む。
「信じてたんだけど…旅行に行った時にゆかりが"日下部さんの跡消して"って言ってたから、今日1日気になって仕方なかったんだ…。本当にごめん」
デスクに突っ伏し、うなだれる有澄。
旅行の日の夜は酔っていて記憶がないのだけれど、今まで隠していた日下部さんとの事を話していたらしい。
有澄は記憶がない私が話した事を聞かなかった事にしようとしていたらしいけれど、気付かぬ内にストレスを抱えていたのだろう。
全部、私が悪いんだ。
隠し事はなしって決めていたのに、私が話そうとしなかったから。
私達の間にわだかまりがあるとしたら、日下部さんとの出来事だったと思う。
「…ずっと前に日下部さんに告白されたの。言わなくてごめん。でも、今日ちゃんとブラコンは卒業するって言って来たよ」
私はデスクの上から降りて、有澄を包むように抱きしめる。
「本当にごめん…」
心配かけてごめんなさい。
「…ゆかりが謝る事なんてないよ。単なる俺のヤキモチだから…」
罪悪感に苛まれた大きな溜息が聞こえる。
私にしてみれば、有澄がこんなにもヤキモチを妬いてくれる事は幸せな事だ。
愛されてるんだな、私。
「…大好きだよ、有澄」
耳元で囁いてから、耳にチュッと軽く唇を触れさせて、
「ケーキ食べよっ」
と言って有澄から離れてソファーに座る。
「……!?い、今のは不意打ち過ぎるでしょ!」
「いつもの不意打ちのお返しっ!」
頬がほんのり赤く染まっている有澄がブツブツと独り言を言っていたが、私は構わずにケーキの箱を開けた。
ベイクドチーズケーキが3個。
スフレの様なふわふわなチーズケーキでもなく、アプリコットジャムが上に塗られているチーズケーキでもなく、ベイクドチーズケーキを選んでくれた辺りが日下部さんが私を見てきてくれた証拠だ。
ベイクドチーズケーキが大好きな事、覚えていてくれたんだ。
日下部さん、ありがとう。
感謝しながらいただきます。
今日の外回りの話をしながら、有澄と一緒にケーキを食べて、あっという間に約束の30分は過ぎてしまった。
ヤキモチ妬いたままなのか、有澄は不服そうだったので、「仕事だからしょうがないじゃん」と反抗したら「分かってるけど!」と言いながらも膨れっ面は変わらず。
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