糖度高めな秘密の密会はいかが?

桜井 響華

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糖度12*決断すべき、お別れの時

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「…でも、今のところ、良い返事は貰えてない。アイツにとって、天秤にかける物が2つあるから迷ってるんだと思う。お前と同じく寂しいんだって。迷ってるから、お前に言い出せないんだと思う」

"天秤にかける物が2つ"───1つ目が私だとしたら、もう1つは高橋さんだと思うんだ。

バイヤーに興味を持っていたのは何となく知っていた。

色んな国を飛び回る綾美、想像出来なくもないな。

どちらにしても、仕事の出来る女の綾美なら上手く行くはずだ。

綾美の夢なら、背中を押してあげなきゃいけない。

「…高橋さんの名前もありませんでした?」

「あぁ。アイツも誘おうと思っだけど、良く考えたら、企画とか営業は向いてないからやめた。総務部がのんびりしてるからちょうどいい」

確かに…高橋さんはデスクワーク向きの人。

日下部さんは高橋さんが大好きだから、一緒に仕事したかったのかもしれないけれど…拠点が本社なら、いつでも会える。

「…日下部さんはいつ居なくなっちゃうの?」

「…来年の4月には正式に辞令が出るはずだ。まだ企画開発部に所属しているが、しばらくは同時進行」

「そうなんですね…」

来年の4月には違う誰かが部長の席に座るのか・・・。

日下部さんとの言い合いも、綾美とのコソコソした手紙のやり取りも、佐藤さんと隣り合わせのデスクも・・・皆、なくなってしまうんだ。

物事は日々、進化していくけれど・・・別れも付き物だって事だ。

皆が居ない未来を考えて涙目になっている自分を見られたくないから、窓の外を眺めている振りをした。

涙がこぼれないように唇をキュッと噛みながら───・・・・・・

予定通りの14時にクライアントのLUPINUSバス株式会社に到着し、商談を終えた。

女子社員にって沢山の入浴剤を頂いた。

アロマバスソルトのパッケージが可愛く、袋を鼻に近づけると本の僅かながら、良い香りがする。

「商談が上手くまとまって良かったですね」

「そうだな…」

頂いた入浴剤を車の後部座席に積み、助手席へ座る。

帰りの車の中は話が弾まず、無言も多かった。

新しい店舗の事とか、本当は聞きたい事も沢山あって、けれども・・・言葉を発する事が出来なくて黙る。

同期の立場として聞けば良いんだろうけれど、今の状況を素直に喜べないから上手く聞き出せない。

新しい門出を応援はしてあげたい、でも頭の中の整理が出来てない。

ブラコン、卒業しなきゃなぁ。

日下部さんに頼らない為にも、部署は別々な方が良いに決まってる。

こんな私でも好きになってくれたなら、今のままじゃ駄目だ。

決断すべき、お別れの時。

「…日下部さん」

「…何?」

しばらくの沈黙の後に話しかけたら、いつになく優しい言い方で聞き返された。

「私、ブラコン卒業しますから、日下部さんが部長じゃなくなっても大丈夫です。お兄ちゃんに頼らなくても頑張ります!」

「……うん、そうしてくれたら助かる。安心して移動出来る。俺が居なくても、お前は1人で歩いて行けるから大丈夫」

言葉を選びながら伝える。

今まで見守っていてくれた分、今度は私が見守る立場に立つ。

「それから…え、…っと、お嫁さん候補が出来たら真っ先に紹介して下さいね。妹として、相応しくなかったら反対します!」

「…何でそんなに偉そうなんだよ」

「妹だからです!」

「…まぁ、義理の妹になる日も近いだろうから…もう、それでいいよ」

運転しながらクスクスと笑う日下部さんは、

「俺は妹として見た事は一度もなかった。

今日の商談はお前はほぼ必要なかったけど、新しい店舗の話も出来ないままだったから、職権乱用して連れ出したんだ」

と続けて話をした。

「…前からの約束でしたから、ドライブ行くのは…。商談なら、誰も何も言いませんよ?

日下部さん…ずっと気付けなくてごめんなさい。…好きになってくれて、ありが、と…!?」

べチッ。

「…いたっ!」

「自惚れてんじゃねーよ、バーカッ!」

誠心誠意を込めて、その上、恥ずかしさを忍んで伝えたのに言葉を掻き消すかの様におでこを叩かれた。

こないだまでは運転もままならなかったクセに、片手ハンドル(右)で左手で叩くとは恐るべし。

「…奪ってやろうって思ってたけど、有澄と居る時のお前は本当に楽しそうに笑うから、戦意喪失した。まぁ、俺なら、お前以上の女だって簡単に落とせるから、有澄にくれてやるよ」

うぅっ、まぁ、日下部さんなら簡単に女性が着いて行くでしょうよ?・・・分かってるよ、そんな事は・・・!

「……有澄と破談したら、おいで。第2か、第3夫人位にはしてやる」

「破談しません!それに日本は一夫多妻制じゃないしっ!」

人が真面目に話してるのに茶化して、誤魔化して笑ってるし・・・!

私が膨れっ面をしていると、ふわりと左手が頭の上に触れた。

「…幸せになれよ」って小さく聞こえたので、何も言わずにうなづいた。
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