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糖度11*戦う女!

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私はハンカチを強く握り締め、覚悟を決めて話し出す。

有澄はやっと私の方を見てくれて、まだムスッとしている様な表情で頷いた。

「言わなきゃと思っていて、日にちだけが過ぎちゃってたんだけど…女の子の日が来ないの。旅行にぶつかるかなって思って、休みの初日に計画してもらったけど、もう10日近くは遅れてる」

「…えっ…!?」

怒っていた表情が緩んで、驚きを隠せない様子の有澄。

結婚したいって思ってくれてるのかもしれないけれど、"妊娠したかもしれない"は想定外だったよね。

嫌がらせよりも重荷になるなら、言わない方が良かったかな?

けれども、一人で検査薬を試す勇気も無くて・・・有澄にも言い出せなくて・・・。

「月初めなのに帰るって言わないからおかしいなっては思ってた。長い休暇だから、くるまでは俺に合わせて居てくれてるのかな?って勘違いしてた。
男だから、女の子の身体の事は良く知らなくて気づいてあげれなくてごめん…」

肩を抱き寄せられて、頭が有澄の胸板に収まる。

女の子の日が近づく前後は自分のアパートに帰ると約束しているが、ゴールデンウィークの9連休と重なる為、きたら帰ろうと思っていたのだけれど、こなかった為にズルズルと一緒に居たのは確かだ。

「結婚もするつもりだったし、俺は逃げたりしないから。帰ったら検査してみよ?」

頭を優しく撫でられ、いつも通りに戻った有澄に安心して寄りかかる。

「プロポーズは段取り踏んでからとか言っときながら、順序が逆になってしまったらごめん。それから、仕事の事もゆかりの事も…何て言ったら良いのか分からないけど、とにかくごめん」

有澄は一通り謝って、寄りかかっていた私を後ろから抱きしめた。

首筋にチュッと唇が触れる。

「…赤ちゃん、ゆかりに似て可愛い女の子がいいな。男の子だったら、外で沢山遊んであげるんだ」

「分かんないよ、まだ。遅れてるだけかもしれないし…」

「うん、でも、子供がいる未来も想像したら楽しそうだよね」

不安はないのか、目の前の状況を受け入れてくれようとしている有澄に私の心は救われた。

万が一、拒否された時の事を考えたら怖くてどうしようもなかったけれど、有澄が一緒なら結果が陽性だとしても乗り越えられそう。

「子供出来ました、結婚させて下さいって御両親に言ったら殴られるかな?」と有澄が心配しながら言うので、「逆に結婚してくれてありがとうって言うんじゃない?お見合いと孫まごうるさかったし」と言って二人で笑った。

この場所が"副社長室"だという事も忘れて、まるで自宅でくつろいでいるかの様に過ごしてしまった事は反省すべきところだけれど・・・。

笑った後に、有澄は

「…ゆかりが傷つくなら、このまま帰ってもいいし、ほとぼりが冷めるまで休んでもいいんだよ」

と言ってくれたけれど私は・・・。

「さっき、同じ台詞を誰かさんから聞いた気がする。私には有澄がいてくれるから、頑張れるよ」

職場でも日下部さんに同じ様な台詞を言われた。

そうだよ、迷っている暇はないんだ。

「迷惑かけてもいいって言ってくれたから、正々堂々戦うの。逃げたら思う壷だって言ったのは有澄でしょう?それに逃げても、モヤモヤして仕事も手につかないもん…」

「…そっか」

「…ねぇ、有澄。もう戻るから、ぎゅっとしてくれる?」

「うん…」

私は向きを変えて、有澄の胸に顔を埋める様にしてギュッと抱きしめる。

泣き腫らした目が重たくて悲鳴をあげているのに、瞼を閉じるとまた涙が出そうになる。

本当は色々と怖い。

入社して初めての嫌がらせ。

人生初の身体の変化。

「…色々、ありがと。私、前にも言ったけど、デザインの仕事、大好きなの。簡単に諦めるなんてしないよ。

だから…戦って来るね。もう逃げない」

多岐川さんとも戦う、検査が陽性だったとしても受け止める。

赤ちゃんが産まれて、この職場に復帰出来ないとしても自分の思いを貫く場所はきっとあると思うから・・・。

「有澄、ありがと。よしっ、行って来ます!」

そう言って立ち上がろうとしても、有澄が離してくれない。

「…っん、」

口角を上げられて唇が重なる。

唇が離れると、人差し指を立てて「相良には内緒ね!」と言ってから再び、重なる。

有澄の側を離れるのは名残り惜しいけれど、長い時間、職場を離れてしまったので戻らなきゃ。

そう言えば、有澄に抱き抱えられる様に職場を出たんだった・・・。

何とも恥ずかしいし・・・かなり気まづいなぁ。

「一緒に行こうか?」

「……大丈夫、一人で行ける。有澄、本当にありがと!」

職場に戻る決心をして、副社長室を後にした。

エレベーターが到着すると、降りてきたのは相良さんだった。

「相良さん、お疲れ様です。御迷惑おかけしてしまい、申し訳ありません」

すかさずお詫びを述べ、深々と頭を下げる。

「いえ、頭を上げてください。副社長の指示となれば業務ですからご心配なさらず。それより…」

「…はい」

「これは副社長の"知り合い"として聞きたいのですが…。花野井はいつもあんなにベタベタしてくるんですか?」

何を言われるのか、副社長室に長居してしまったからお説教かな?と思い内心ドキドキしていたが、拍子抜けした質問で思わず笑みがこぼれる。
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