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糖度9*傷だらけのウェルカムボード
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「はい、紅茶。明日からGWだから皆は残業しないで帰ってしまったし…そう言えば、ゆかりちゃんと二人で残業って初めてね」
「ありがとうございます。いただきます。いつもは皆が居ましたからね。佐藤さん…お身体大丈夫ですか?急な残業に付き合わせてしまいごめんなさい…」
佐藤さんの入れてくれた紅茶を飲みながらの作業。
いつもなら佐藤さんも紅茶を飲むのに、妊娠してるから今日は暖かいココアだった。
「私、あんまりつわりが酷くないみたいで、気持ち悪くてダルいんだけど、体調はそんなに悪くないの。体質かな?…それに明日からお休みだからちょっと位は大丈夫よ」
にこやかに笑う陰で、目に涙を沢山溜めているのが分かった。
涙をこぼさないように必死で耐えている佐藤さんは、本当は仕事を辞めたくはないのだろう。
そんな姿を見ていたら、私はまた涙を流してしまった。
お互いがお互いの涙を見ない様に作業を進めて、しばしの沈黙を破る様に日下部さんと綾美が戻って来た。
「近くの画材屋で買って来たよ!あとおにぎり買って来た」
綾美は元気良く入って来て、私のデスクにコンビニのおにぎりの袋を置いた。
それとは裏腹に日下部さんの嫌味な一言。
「佐藤さんも飛んだ災難ですね」
「ううん、私が手伝いしたいのよ。綾美ちゃんの元気な声を聞けるのも、日下部君の嫌味を聞けるのも、ゆかりちゃんの隣で仕事するのも、もうすぐ終わりだと思うと…脱力感しかないの。妊娠中だから、余計に心細いのかな…」
佐藤さんの目から涙がこぼれて、手でぬぐう。
綾美もつられて涙を流す。
この後は3人で泣いてしまい、日下部さんは戸惑ってあたふたしていた。
泣きながらの作業は目が腫れぼったい感じになり、パソコンを見るのが辛かった。
佐藤さんと綾美を長い時間引き止めるのは刻なので、自宅で出来る作業だけ残して帰ることに決定。
帰り際、スマホが鳴ったと思ったら有澄からでウェルカムボードを持ち帰るなら相良さんが車で送って行くと言われたので迷わず佐藤さんを送り届けて!とお願いした。
・・・そんなこんなで相良さんの車の中で、綾美は一緒に乗らずに高橋さんと待ち合わせしてるからと行って駅に向かい、日下部さんはちゃっかり一緒に乗車。
佐藤さんを一番で送り届けた後、いつもの有澄の王子要素はどこに行ってしまったのか・・・険悪なムード。
「…で、何でゆかりの作ったボードが切り裂かれていた訳?」
「俺が知るか!こっちが聞きたい!」
佐藤さんが助手席に乗っていて、降りてからも私達は後部座席に3人で乗っていたので、真ん中に挟まれている私は気まづい。
相良さん、どこかに停車して下さい。
私は助手席に乗りたい!
「ゆかり、こっちおいで」
有澄に肩を組まれ、胸に倒れかかる姿勢になる。
「相良、先に降ろしてくれる?電車で帰った方がマシ!」
「それは、こっちのセリフだ」
私の身体が有澄に力強く確保されているので、逃げ道がない。
「ケンカするなら、皆降ろしますよ。私だって暇じゃないんですからね」と言う相良さんの呆れた声が運転席から聞こえた。
そんな声が聞こえたのか二人は無言になり、誰一人として話さない帰り道。
日下部さんが先に降りて、肩の荷が降りた感じがした。
私達も有澄の自宅前で降ろして貰い、ウェルカムボードを持って階段を登る。
「…待っててくれてありがとう」
鍵を開けている有澄の横で、小さな声で伝えた。
ガチャッとドアが開いて玄関先に入ると、電気も付けずに「お疲れ様。大変だったね」って抱きしめられた。
有澄に抱きしめられたら、憤りも悔しさも落ち着いた。
いつの間にか、こんなにも心が落ち着く、心地良い体温になっていた有澄。
知らない間に大好きになっていたんだと再確認する。
「ゆかりからボードがやり直しだから遅くなるってメールが来た時は何でだろう?って考えてたけど…まさかの嫌がらせだなんて思ってもみなくて…嫌がらせだって知らされたのも日下部さんからだったし。色々と複雑な気持ち…」
「有澄…」
「ゆ、ゆかり、いきなり何!?」
「有澄にキスしたくなっただけ…」
頬に触れて唇に軽くキスをしたら、有澄が照れている様に感じられた。
不意打ちのキスは、いつもなら有澄からしかしないけれど今はしてみたくなった。
「ゆかり…」
有澄からのお返しのキスは息が切れる程の長いキスで、煽ってしまう結果になり失敗したと思った。
佐藤さんと作業している間にチラリと様子を見に来ていたのは知ってる。
有澄は企画開発部に入っても来なかったので、佐藤さんも居たし知らないフリをしてしまったのだけれど・・・。
自分の仕事が終わっても、相良さんを巻き込みつつ待っていてくれた。
「今日は遅いし、たまにはコンビニ弁当にしよっか?」
「賛成!」
先程、綾美に貰ったコンビニおにぎりを食べたのは内緒!
明日からはゴールデンウィーク。
嫌な事は忘れて、明日からはまた思い出作ろう!
「ありがとうございます。いただきます。いつもは皆が居ましたからね。佐藤さん…お身体大丈夫ですか?急な残業に付き合わせてしまいごめんなさい…」
佐藤さんの入れてくれた紅茶を飲みながらの作業。
いつもなら佐藤さんも紅茶を飲むのに、妊娠してるから今日は暖かいココアだった。
「私、あんまりつわりが酷くないみたいで、気持ち悪くてダルいんだけど、体調はそんなに悪くないの。体質かな?…それに明日からお休みだからちょっと位は大丈夫よ」
にこやかに笑う陰で、目に涙を沢山溜めているのが分かった。
涙をこぼさないように必死で耐えている佐藤さんは、本当は仕事を辞めたくはないのだろう。
そんな姿を見ていたら、私はまた涙を流してしまった。
お互いがお互いの涙を見ない様に作業を進めて、しばしの沈黙を破る様に日下部さんと綾美が戻って来た。
「近くの画材屋で買って来たよ!あとおにぎり買って来た」
綾美は元気良く入って来て、私のデスクにコンビニのおにぎりの袋を置いた。
それとは裏腹に日下部さんの嫌味な一言。
「佐藤さんも飛んだ災難ですね」
「ううん、私が手伝いしたいのよ。綾美ちゃんの元気な声を聞けるのも、日下部君の嫌味を聞けるのも、ゆかりちゃんの隣で仕事するのも、もうすぐ終わりだと思うと…脱力感しかないの。妊娠中だから、余計に心細いのかな…」
佐藤さんの目から涙がこぼれて、手でぬぐう。
綾美もつられて涙を流す。
この後は3人で泣いてしまい、日下部さんは戸惑ってあたふたしていた。
泣きながらの作業は目が腫れぼったい感じになり、パソコンを見るのが辛かった。
佐藤さんと綾美を長い時間引き止めるのは刻なので、自宅で出来る作業だけ残して帰ることに決定。
帰り際、スマホが鳴ったと思ったら有澄からでウェルカムボードを持ち帰るなら相良さんが車で送って行くと言われたので迷わず佐藤さんを送り届けて!とお願いした。
・・・そんなこんなで相良さんの車の中で、綾美は一緒に乗らずに高橋さんと待ち合わせしてるからと行って駅に向かい、日下部さんはちゃっかり一緒に乗車。
佐藤さんを一番で送り届けた後、いつもの有澄の王子要素はどこに行ってしまったのか・・・険悪なムード。
「…で、何でゆかりの作ったボードが切り裂かれていた訳?」
「俺が知るか!こっちが聞きたい!」
佐藤さんが助手席に乗っていて、降りてからも私達は後部座席に3人で乗っていたので、真ん中に挟まれている私は気まづい。
相良さん、どこかに停車して下さい。
私は助手席に乗りたい!
「ゆかり、こっちおいで」
有澄に肩を組まれ、胸に倒れかかる姿勢になる。
「相良、先に降ろしてくれる?電車で帰った方がマシ!」
「それは、こっちのセリフだ」
私の身体が有澄に力強く確保されているので、逃げ道がない。
「ケンカするなら、皆降ろしますよ。私だって暇じゃないんですからね」と言う相良さんの呆れた声が運転席から聞こえた。
そんな声が聞こえたのか二人は無言になり、誰一人として話さない帰り道。
日下部さんが先に降りて、肩の荷が降りた感じがした。
私達も有澄の自宅前で降ろして貰い、ウェルカムボードを持って階段を登る。
「…待っててくれてありがとう」
鍵を開けている有澄の横で、小さな声で伝えた。
ガチャッとドアが開いて玄関先に入ると、電気も付けずに「お疲れ様。大変だったね」って抱きしめられた。
有澄に抱きしめられたら、憤りも悔しさも落ち着いた。
いつの間にか、こんなにも心が落ち着く、心地良い体温になっていた有澄。
知らない間に大好きになっていたんだと再確認する。
「ゆかりからボードがやり直しだから遅くなるってメールが来た時は何でだろう?って考えてたけど…まさかの嫌がらせだなんて思ってもみなくて…嫌がらせだって知らされたのも日下部さんからだったし。色々と複雑な気持ち…」
「有澄…」
「ゆ、ゆかり、いきなり何!?」
「有澄にキスしたくなっただけ…」
頬に触れて唇に軽くキスをしたら、有澄が照れている様に感じられた。
不意打ちのキスは、いつもなら有澄からしかしないけれど今はしてみたくなった。
「ゆかり…」
有澄からのお返しのキスは息が切れる程の長いキスで、煽ってしまう結果になり失敗したと思った。
佐藤さんと作業している間にチラリと様子を見に来ていたのは知ってる。
有澄は企画開発部に入っても来なかったので、佐藤さんも居たし知らないフリをしてしまったのだけれど・・・。
自分の仕事が終わっても、相良さんを巻き込みつつ待っていてくれた。
「今日は遅いし、たまにはコンビニ弁当にしよっか?」
「賛成!」
先程、綾美に貰ったコンビニおにぎりを食べたのは内緒!
明日からはゴールデンウィーク。
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