上 下
39 / 73
糖度9*傷だらけのウェルカムボード

しおりを挟む
有澄は"副社長"と呼ばれる事があまり好きではないらしく、ちょっと怒らせてしまった。

彩羽コーポレーションは家族経営といっても、社長と副社長が身内なだけで他の役員は違う。

社長の決めた辞令に従っただけの有澄は、陰で若すぎるだの成り上がりだのと言う噂を囁かれている様なので精神的にもキツいのだと思う。

「有澄…温泉楽しみだね。露天風呂が海が見える絶景なんだって!部屋食初めてだから、どんな感じかな?」

暗雲が立ち込めて来たので話題を変えて、ゴールデンウィークに宿泊する温泉の話。

気づけば、あと何日かでゴールデンウィークになり指折り数えた方が早い。

「俺は客室の貸し切り風呂が一番楽しみなんだけど…。貸し切り風呂と部屋食なら、チェックアウトまでは外に出なくていいから、ずっとゆかりと一緒だね」

「うん、ずっと一緒だよ。湯船も何種類もあるんだって。日替わり風呂とか。早く行きたいね」

「いや、そうじゃなくて…。誰にも邪魔されずにゆかりを独占出来るって話」

「うん…、私も有澄を独占出来るね。家とはまた違うよね」

有澄は不機嫌そうに大きく溜息を1つ吐き、

「あーもぅ!ゆかりは鈍感だから…。仕事も家事もないから、ずっと抱き合っていられるねって話だったの。理解した?」

と言って私の方を上目遣いで見る。

「理解、したけど…。お風呂の中でするのは嫌い。のぼせるから…」

「なるべく気をつける」

有澄は最近、何かに焦っている様な、もしくは何かに怯えている様な気がする。

とにかく、独占欲が半端ない。

眠る時も必ず一緒の時間だし、私の方が遅ければ駅までお迎えに来てくれる。

「…もう少し落ち着いたら、引越ししようと思う。ゆかりも一緒に住もうね」

食器を片付けようとして重ねていたら、突然の一言に制止する。

「どうしたの、いきなり?」

「副社長様になったのに、いつまでも1LDKのアパートに住んでるんじゃ、ゆかりに申し訳ないし。ゆかりだって、2LDKの部屋に住んでるのに…」

副社長様って自分で言ってるし・・・。

「お給料に余裕が出てきたから二部屋のアパートに住んでるけど、実際は必要ないよ。最近はあんまり帰ってないから一部屋のアパートに引っ越そうかな?って思ってたから」

社会人3年めにして2LDKに引越ししてみたけれど、女の子がたまに泊まりに来るだけで、一人だと意味のない部屋になっていた。

平日は仕事ばっかりだから誰も来ないし、彼氏も居なかったし、物もそれ程ある訳でもなく・・・ハッキリ言って残りの一部屋は必要なかった。

「じゃあ決まりね!お互いに引越ししたかったんだったら、ちょうど良かったよね…って事でお風呂入ろ!」

食器を流し台まで運ぶと腕を掴まれた。

「片付けしてないっ」

「適当に洗浄機に放り込んでおけばいいよ。はい、終わり。行こっ」

私は一度、水で汚れを流してから食器洗浄機に入れないと嫌なタイプなんだけれど、有澄は『何のための洗浄機なの?』と言って、いつもそのまま入れてしまう。

男性だからか、有澄の性格なのか・・・。

「今日も一緒に入るの?…何も…しない?」

強引に連れて来られたお風呂場の脱衣場の前で立ち止まる。

「保証はしないけど…。もしかして、期待してる、とか?」

私の意見など無視して脱ぎ始める有澄。

「ちがっ…!?し、してないよ。恥ずかしいし、のぼせるから…嫌なの」

「ゆかり、可愛いすぎっ」

上半身裸の有澄が、顔に火照りを感じている私の額にキスをして、服を脱がし始める。

今日もまた流されて、有澄には逆らえない───・・・・・・

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

契約結婚!一発逆転マニュアル♡

伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉ 全てを失い現実の中で藻掻く女 緒方 依舞稀(24) ✖ なんとしてでも愛妻家にならねばならない男 桐ケ谷 遥翔(30) 『一発逆転』と『打算』のために 二人の契約結婚生活が始まる……。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

処理中です...