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三 男爵夫妻の訪問

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「――あらあら、大変だったわね」

 そう言いながらでっぷりとした体を揺すらせて子爵家にやって来たのは遠縁と名乗るバークレイ男爵夫妻だった。男爵夫妻は特徴のあるお二人なので小さい頃に一度くらいしかなかったけれど何処かのお茶会で会ったような覚えがあった。 

 私は泣き腫らした顔で出迎えてしまった。

 喪服にしては派手な格好の男爵夫人がそんな私の手を握り締めてくれた。

「可哀そうね。まだこんな若いのに……。お気の毒だったわ」

 夫人は優しく微笑んで私を慰めてくれた。男爵は夫人とは真逆のガリガリに痩せて無言で佇んでいた。

「あなたはまだ若いし、後のことは私達に任せなさい。こんなときこそ助け合うってものよ」

「おば様。おじ様。ありがとうございます」




 無事に葬儀も済ませ、近隣の挨拶なども終えた頃――。

「落ち着くまで、私達が一緒に住んであげましょう」

「ええ、ありがとうございます」

 両親の死後にしなければならないことが多すぎて、大人であるおば様に相談できるのは心強かった。



「お嬢様。あまり男爵夫人をご信用になられると、それにあの方達は……」

「でも、私は何も分からないし、おば様方は助けてくださっているのよ」

「……」


 おば様方の逗留が長くなってくると執事のサムが心配気に訊ねてきた。使用人からもおば様達のことで不満の声も聞こえてくる。使用人には横柄な態度だとか、まるで自分達が主のように振る舞っているとか。

「ああ、ナターシャ。ここで滞在しているとちょっとドレスが足りなくて、ほら、いろいろお客様がいらっしゃるでしょう?」

「まあ、おば様。それは失礼いたしましたわ。新しいドレスを注文いたしましょうか?」

「いえいえ、そんな。新調しなくてもあなたのお母様のを借りられないかしら?」

「ええ、それは構いませんけれど、その少し、お直ししても難しいかもしれませんわ。費用のことは執事でないと私では分からなくて、おば様のドレス代くらいならきっと新調なさっても大丈夫ですわ」

「あら、まあまあ、ナターシャは本当に優しい子ね」

「お嬢様、それは……」

「ね? おば様は好意でここにいらしてくださっているのだもの」

 横で諌める口調の執事に私はそうお願いした。お母様はほっそりしていらしたから、おば様にお直ししても到底入る気がしない。

「あらあら、当主であるナターシャが良いと言ってくれているのに……」

「ええ、おば様のドレス代くらいは出して差し上げなくては」

「ですが……。分かりました。お嬢様がそう仰るならば」

 まだ何か言いたそうな執事のサムに私は何とかお願いした。執事が下がると、

「ナターシャ、あまり言いたくはないけれど、反抗的な使用人の扱いは考えないといけないわ」

「そうだな。ナターシャは若いから使用人に舐められているのだ。けしからんことだな」

 おば様とおじ様が口々にそう言い立てた。そうすると何だか使用人達の方が悪いような気がしてきた。

 そうして、おば様やおじ様の勧めもあって、何人かの使用人を辞めてもらうことにした。勿論、次の紹介状も付けて丁寧に送り出した。おば様はそんな物は必要ないと言っていたけれど……。
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