【完】婚約破棄された伯爵令嬢は騎士様と花咲く庭で

えとう蜜夏☆コミカライズ中

文字の大きさ
上 下
1 / 12

一 それは婚約破棄から始まる

しおりを挟む
 サザンプトン伯爵の令嬢ナターシャは婚約者と街のお洒落なカフェでお茶をしていた。

「僕達の婚約は無かったことにしたい。君には悪いけど僕は愛情を抱ける人と結婚したいんだ。そう運命の恋に落ちてね」

「それは……」

 私は何も言い返さずに目前のマクレーン子爵子息のジョンをじっと見返した。

 彼とは十四歳の時に婚約して三年が経とうとしていた。そもそも貴族同士の結婚に恋愛感情など考える方が難しい。私達も親戚筋からの薦めで引き合わされて特に断る理由もなく婚約していた。

 けれど最近の世間の風潮として運命の恋と出会って婚約破棄をするという変わったことが流行っている。

 よくあるのが王立学園の卒業パーティーで、一時は何組もがそんなことになって卒業パーティーでの婚約破棄は無効との取り決めができたほど。今度はそう、お洒落なカフェでの婚約破棄が流行りだしているそうな。

 ――まさか、それが自分の身の上に起こるとは考えてもいなかった。

「子爵家のおじ様方は何と?」

「……僕の好きなようにしていいと言っている」

 私の家は伯爵家、子爵家の彼らからすれば上の爵位か、裕福な家を狙っているのかもしれない。まだ今年の社交シーズンは始まったばかりで、ジョンだってまだ二十歳になってないからこれからよりどりみどりだろう。私の方はちょっと年齢的に厳しいし、やはり頭の固い年寄りなどは傷物と思われて縁遠くなるのは間違いないと思う。

 そもそも私が伯爵家の一人娘だから、ジョンは入り婿という形になる約束だった。ジョンは子爵家の次男だけど、ひょっとしたらもっと良い条件のご令嬢と考えているのかもしれない。

「分かりました」

 私は何とか平静を保って返事をすると、

「いいのか?」

 少し驚いた様子でジョンが聞き返してきた。

 ――そんなに驚かなくても、あなたが先にそう仰ったのじゃない。私はそれを受け入れるだけです。

「それなら、これにサインをしてくれ。これは婚約破棄の承諾書だ」

 ……何て用意周到なのかしら、まあいいわ。でも少しは抗議をしておかないと。

「こんなところで……」

「こんなところ? 人前だからいいんだよ。君も大騒ぎして悪目立ちしたくないだろう? 後々のことを考えると承諾書が必要なんだ。婚約破棄を円満にするためだと思ってくれ。後から揉めるのはお断りからな」

 私はそれにざっと眼を通すと、一方的にジョンの方が良い条件となっていた。だけど構わない。こんな人ともう関わりたくない。

「……それではこれと同じものをいただきます」

「同じもの?」

 私の申し出に驚いた様子だったが、簡単な文面だったので直ぐ従者が用意をしてくれた。

 一つ、これは円満な婚約破棄であるのでお互いに慰謝料は求めない。

 一つ、これは婚約破棄後はお互いに権利を主張しない。

 一つ、これは……。

「それに再び私達が婚約することはないという一文も入れてください」

「あ、ああ。構わない」

「はい。署名は終わりました」

「もっと慰謝料とか言ってごねるかと思ったけれど冷静だな。まあ、そういうところが可愛げがないんだよな。ナターシャは。やっぱり可愛い女と結婚したいよな。君に比べれば、ミアの方が断然可愛い。おっと……」

「……」

 ――ミアって誰よ? もしかして、他に女が出来てたの? それで婚約破棄? 浮気がバレたら高額の慰謝料が発生するものね。

「も、もう遅いぞ! お前はこの婚約破棄の同意書にサインをしたんだ」

「ミアさんとは?」

「もう、お前とは関係なくなったんだ。そんなことをお前に言う必要はないだろ!」

 そんな捨て台詞を言いながら、ジョンは乱暴に承諾書を奪い取ると支払いもせずにカフェからさっさと出て行った。まあ今までだって、デート代は伯爵家の方が裕福だからと私に出すように言われて支払っていたけどね。

 ジョンが流行の服が欲しいとか何とかが欲しいと言う度に散々色々買わされていたのよ。家政を管理する執事のサムからそのことで嫌味を言われていたけどそれもこれから気にしなくていいのね!

 そうして、私、ナターシャ・サザンプトン伯爵令嬢の婚約破棄が本日成立したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

政略結婚の為の婚約破棄など貴方には言えなかった

青空一夏
恋愛
私は、第三王女なので、政略結婚はしなくて良いと父である王様に言われていた。だから私は大好きな騎士団長ワイアットとの愛を育んでいた。けれど、大国の王に望まれた私は戦争を避けるために嫁ぐことになった。その大国の王は老人でその王が亡くなると側妃や愛妾は全て一緒に埋葬されるという風習も知った。 二度とワイアットに会えないことを悟った私は、ワイアットに憎まれることを選んだ。私のことなど忘れてワイアットには幸せになってほしかった。 「あなたみたいな貧乏貴族より、大国の王に嫁ぐわ」そんな心にもないことを言って、私は大好きな男性に恨まれ蔑まれ嫌われた。 泣く泣く嫁入りをした私だが、その3年後に嫁ぎ先の王が亡くなる前に私を祖国に帰してくれた。帰ってきた私に大金持ちになったワイアットが結婚を申し込むが、これは彼の復讐だった。 私は、この結婚で愛が掴めるのでしょうか? よくありがちなお話の流れです。

結婚相手が見つからないので家を出ます~気づけばなぜか麗しき公爵様の婚約者(仮)になっていました~

Na20
恋愛
私、レイラ・ハーストンは結婚適齢期である十八歳になっても婚約者がいない。積極的に婿探しをするも全戦全敗の日々。 これはもう仕方がない。 結婚相手が見つからないので家は弟に任せて、私は家を出ることにしよう。 私はある日見つけた求人を手に、遠く離れたキルシュタイン公爵領へと向かうことしたのだった。 ※ご都合主義ですので軽い気持ちでさら~っとお読みください ※小説家になろう様でも掲載しています

完【R15】盗賊騎士と愛を知らない修道女

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 シスター見習いの私は周囲からグズでのろまな醜いアヒルと蔑まれてきた。  ある日、腕に傷を負った男性を助けるも私をガリガリの案山子だと言って立ち去った。  急に頼まれた布教活動の帰りに私は盗賊に攫われ、その巣窟で助けた盗賊の男と再会する。  そのとき王宮からの騎士団が盗賊討伐をして助けられる。  だけどもう私は二度とあの修道院には帰りたくない。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

処理中です...