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十一 困った人達
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それから何度かダグラス様とは一緒にお出掛けをして楽しく過ごすことができた。
そんなある日、いつものようにダグラス様とレストランで食事をしていると、
「ナターシャ? ナターシャじゃないか! 探したんだぞ」
聞きなれた傲慢な感じの男性の声が聞こえてきて、そちらを振り向くとそこには女性を連れたマクレーン子爵の子息のジョンがお店に入ってきたところだった。
ずかずかと品の無い歩き方で女性を置いていく勢いでこちらに向かってきた。
「ナターシャ! 君がいないから、支払いが滞っているんだぞ! どうにかしろ! 君にはそれくらいしか価値が無いんだからな!」
――はい? 私達はもう赤の他人ですよね? 何故、私があなたのものを支払うのでしょうか?
「はあぁ、これがあのナターシャ? ミアの方が断然可愛いじゃん。うふふ。ジョンの言う通り、お金しか取り柄がないんだから、さっさと払ってよね。支払いが溜まっているから私達は何にも買えないんだからね」
「え? どなたかしら?」
――初対面ですよね? ミアってもしかして……。
「やだぁ。ミアって今言ったじゃん。耳、聞こえてる? 馬鹿じゃないのぉ」
「ナターシャ。この方たちは一体?」
――そうよ。私の席にはダグラス様だっていらっしゃるのよ。挨拶も無しにいきなり話しかけるなんて、とても失礼だわ。
私はダグラス様の方を向くと平静に答えた。
「さあ、存じ上げませんわ」
「「はあ?!」」
ジョンとミアは同時に叫んでいた。周りのことなど一切考えてないようだった。周囲の客が何事かとこちらを見始めた。
――本当にどこまでも自己中心的なお二人だこと。
「何言ってるんだ! 私はマクレーン子爵のジョンだぞ。君とは婚約していた仲じゃないか! それも忘れたのか、呆れたな。まあ、君とのことは伯爵家という名誉だけで婚約していただけだった。所詮そんなものは真実の愛には勝てやしないんだよ」
鼻息荒くジョンが訳の分からないことを捲し立てた。それを聞いて横でミアと言った女が私を見下すようにクスクスと笑いだしだ。
「確かに婚約はとうの昔にあなたからの申し出で破棄されました。所詮、あなたが仰ったように貴族同士の婚約は家の繋がりだけですからね」
店内はいつの間にか静まっていた。
……この騒ぎに興味津々で他の客の注目が集まっているのが分からないのかしらね?
私の言葉にジョンが顔を顰めて叫んだ。
「なんだ。そんな昔のことを言って、そんなの今の話に関係無いじゃないか!」
「いいえ、あなたからの婚約破棄承諾書には今後お互い一切関係ない、再び婚約もしないという一文があります。私達は最早全く関係のない赤の他人です。これからもずっとそう。ですから私があなたとこうして話すことも、ましてやあなたの物を私が支払う必要など一切ありませんわ」
私がそう言って睨むとやっと理解してくれたようだった。驚いたようにジョンは口をぱくぱくして、私を指差すだけだった。本当にマナーのなってない人よね。それでも子爵家の息子なのかしら。
「何と見苦しい。それでも子爵家の子息の言うことか、女性を貶めるとは騎士道に反する。いや貴族の末席にもおけんな」
「何だと、偉そうに、……な? お前、いえ、あなた様は、まさか、……ナターシャなんかと何故一緒に」
「これは名乗らず失礼した。どうやら、君は私のことを知っているようだな。私は王国騎士団副隊長ダグラス・ノーザンバレーだ」
「へえー、あなた騎士なの? ジョンより、全然格好いいじゃん! 私、今度はあなたにするわ!」
ミアはジョンにしなだれかかっていた腕を振り払うようにすると、今度はダグラス様へと向かって突進した。しかし、ダグラス様は立ち上がるとスルリと躱された。ミアは椅子を巻き込んでガタガタと派手な音を立ててすっ転んだ。
「ミア! ああ、なんて酷いことをするんだ! やっぱり、ナターシャは」
――ですから、私は何も関係ありません。
「痛い! 痛いの! 酷いわ。私を避けるなんて! ジョンなんとかしてよ」
「私は何もしていないが、勝手に君が突っ込んで来たんじゃないか。それより、君達はそれ以上のことをナターシャにしでかしているだろう?」
「そんな、ナターシャなんて関係ないじゃない! 私がこんな酷い目に遭っているのに!」
「やれやれ、お話しにならないな」
そこへ、店長らしき人がやってきた。
「お客様、店内で騒ぎは困ります。どうかお静かにお願いいたします」
「ああ、悪かった。支払いは私に、迷惑料も追加しておいてくれ」
騒ぎにやってきた店長にダグラス様が謝った。
――ダグラス様は悪くないのに。
そして、泣き叫ぶミアとジョンを置いてダグラス様と一緒に私は店を出た。
ジョンに今まで言い返すことなどしたことなかったから、さぞかしジョンは驚いたのだろう。
あんなに驚いた顔のジョンを見たのは初めてなのでおかしくて思い出すと笑いそうになった。本当に久しぶりに胸がすっとした。
そんなある日、いつものようにダグラス様とレストランで食事をしていると、
「ナターシャ? ナターシャじゃないか! 探したんだぞ」
聞きなれた傲慢な感じの男性の声が聞こえてきて、そちらを振り向くとそこには女性を連れたマクレーン子爵の子息のジョンがお店に入ってきたところだった。
ずかずかと品の無い歩き方で女性を置いていく勢いでこちらに向かってきた。
「ナターシャ! 君がいないから、支払いが滞っているんだぞ! どうにかしろ! 君にはそれくらいしか価値が無いんだからな!」
――はい? 私達はもう赤の他人ですよね? 何故、私があなたのものを支払うのでしょうか?
「はあぁ、これがあのナターシャ? ミアの方が断然可愛いじゃん。うふふ。ジョンの言う通り、お金しか取り柄がないんだから、さっさと払ってよね。支払いが溜まっているから私達は何にも買えないんだからね」
「え? どなたかしら?」
――初対面ですよね? ミアってもしかして……。
「やだぁ。ミアって今言ったじゃん。耳、聞こえてる? 馬鹿じゃないのぉ」
「ナターシャ。この方たちは一体?」
――そうよ。私の席にはダグラス様だっていらっしゃるのよ。挨拶も無しにいきなり話しかけるなんて、とても失礼だわ。
私はダグラス様の方を向くと平静に答えた。
「さあ、存じ上げませんわ」
「「はあ?!」」
ジョンとミアは同時に叫んでいた。周りのことなど一切考えてないようだった。周囲の客が何事かとこちらを見始めた。
――本当にどこまでも自己中心的なお二人だこと。
「何言ってるんだ! 私はマクレーン子爵のジョンだぞ。君とは婚約していた仲じゃないか! それも忘れたのか、呆れたな。まあ、君とのことは伯爵家という名誉だけで婚約していただけだった。所詮そんなものは真実の愛には勝てやしないんだよ」
鼻息荒くジョンが訳の分からないことを捲し立てた。それを聞いて横でミアと言った女が私を見下すようにクスクスと笑いだしだ。
「確かに婚約はとうの昔にあなたからの申し出で破棄されました。所詮、あなたが仰ったように貴族同士の婚約は家の繋がりだけですからね」
店内はいつの間にか静まっていた。
……この騒ぎに興味津々で他の客の注目が集まっているのが分からないのかしらね?
私の言葉にジョンが顔を顰めて叫んだ。
「なんだ。そんな昔のことを言って、そんなの今の話に関係無いじゃないか!」
「いいえ、あなたからの婚約破棄承諾書には今後お互い一切関係ない、再び婚約もしないという一文があります。私達は最早全く関係のない赤の他人です。これからもずっとそう。ですから私があなたとこうして話すことも、ましてやあなたの物を私が支払う必要など一切ありませんわ」
私がそう言って睨むとやっと理解してくれたようだった。驚いたようにジョンは口をぱくぱくして、私を指差すだけだった。本当にマナーのなってない人よね。それでも子爵家の息子なのかしら。
「何と見苦しい。それでも子爵家の子息の言うことか、女性を貶めるとは騎士道に反する。いや貴族の末席にもおけんな」
「何だと、偉そうに、……な? お前、いえ、あなた様は、まさか、……ナターシャなんかと何故一緒に」
「これは名乗らず失礼した。どうやら、君は私のことを知っているようだな。私は王国騎士団副隊長ダグラス・ノーザンバレーだ」
「へえー、あなた騎士なの? ジョンより、全然格好いいじゃん! 私、今度はあなたにするわ!」
ミアはジョンにしなだれかかっていた腕を振り払うようにすると、今度はダグラス様へと向かって突進した。しかし、ダグラス様は立ち上がるとスルリと躱された。ミアは椅子を巻き込んでガタガタと派手な音を立ててすっ転んだ。
「ミア! ああ、なんて酷いことをするんだ! やっぱり、ナターシャは」
――ですから、私は何も関係ありません。
「痛い! 痛いの! 酷いわ。私を避けるなんて! ジョンなんとかしてよ」
「私は何もしていないが、勝手に君が突っ込んで来たんじゃないか。それより、君達はそれ以上のことをナターシャにしでかしているだろう?」
「そんな、ナターシャなんて関係ないじゃない! 私がこんな酷い目に遭っているのに!」
「やれやれ、お話しにならないな」
そこへ、店長らしき人がやってきた。
「お客様、店内で騒ぎは困ります。どうかお静かにお願いいたします」
「ああ、悪かった。支払いは私に、迷惑料も追加しておいてくれ」
騒ぎにやってきた店長にダグラス様が謝った。
――ダグラス様は悪くないのに。
そして、泣き叫ぶミアとジョンを置いてダグラス様と一緒に私は店を出た。
ジョンに今まで言い返すことなどしたことなかったから、さぞかしジョンは驚いたのだろう。
あんなに驚いた顔のジョンを見たのは初めてなのでおかしくて思い出すと笑いそうになった。本当に久しぶりに胸がすっとした。
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