上 下
4 / 31

04 地方神殿マルクト

しおりを挟む
 私が連れて行かれたのは村から馬車で一週間以上かかるマルクトという街の女神教の神殿だった。

 そこはこのミレニア王国の地方都市の一つだった。

 その神殿では年配から同い年くらいの聖女見習いや神官達などが居て、私はいろいろ教えてもらいながら聖女のことを学んだ。

 ここに来て初めてお古じゃない服を着た。どこも破れてもいない。つぎはぎもない。

 靴だって穴あきじゃない。靴下だってもらえた。

 食事は交代で作り、豪華じゃないけれど三食きちんと食べることができた。

 ここはもしかして女神様のいらっしゃる楽園なのかもしれない。

 古いけれど隅々まで掃き清められて整えられた美しい神殿だった。雨漏りなんてしない。

「ご飯が食べられる」

 私がありがとうと言うと神官のお兄さんと年配の聖女見習いの人が顔を歪ませていた。

「いくらでもと言いたいですが、儀式のときは節制されます。それ以外は一杯食べなさい」

「こんな小さいのに可哀想に……」

 何が可哀想なのか良く分からないけれど毎日家族のご飯の心配をしなくていいのはとても楽だった。

 ……いいのかな。自分だけご飯を一杯食べて……。妹のデリラやお母ちゃんはどうしているのだろう。

 それでも自分一人でもう家に帰ることはできないし、神殿の聖女見習いとして覚えることやお仕事もあってそれどころでなくなった。

 文字の読み書き、話し方やしぐさまで教えられる。まるで小さな子のようだった。

 でも毎日、皆で神殿を綺麗にお掃除して、女神様に供物や祈り捧げる儀式をする。
 
 少しずつ女神様のお話を教えてもらった。

 その昔、女神様は自分の分身として聖女を地上に遣わしたと言い伝えられている。

 そして、モンスターに襲われて逃げ惑うか弱き人々を守らんとして聖女はその力で傷ついた人々を癒し、モンスターに襲われないために領土を守護する大結界を作り出した。

 ただ女神様の祝福の力によって作り出された大結界は聖女の魔力を大量に使用する。

 だから聖女様の任期は短く、女神様の水晶を光らせることが出来る少女が沢山集められた。

 一人では負担が過ぎるため聖女の補佐や見習いとして一緒に祈りを捧げ聖女の結界を支えられるようにした。 

 何せ聖女がこの国を守る大結界に祈りを捧げないと結界が消滅し、モンスターや他国から侵略されることになる。そのため女神様に祈り魔力を捧げ大結界の維持をしなければならない。

 こうしたことをマルクトの神殿で習った。

 そして、ここで私は初めて友人も出来た。

 ジョイという少女でそばかすの目立つ赤毛の元気な女の子だった。

「あー、やだやだ。玉の輿にのるまで我慢だけどお祈りばかりで嫌になっちゃう。そうだ。ミリアが代わりに祈っておいてよ。美味しいお菓子をあげるからさあ。これって街で流行っているんだって」

 ジョイが雑巾を片手に大声で話しかけてくる。 

 彼女は私を汚いとか言って避けたり苛めたりしない。

 それに彼女は家族と違って手伝ったら何かと交換してくれる。

 いつも楽しそうで明るいので一緒にいると私も楽しくなる。私とは全く違う子。

「こらこら、ミリアに何でも押し付けるんじゃない。自分が上達しないぞ」

 神官のお兄さんがジョイに穏やかに諭すように話をする。ここでは誰も怒鳴らない。

 まだ見習いだし、ここに来たばかりだから一般の祈願者と会うことはないから分からないけれど中には治癒や祈願などの結果に祈願者からクレームをつけられたり、怒鳴られたりすることもあるみたい。

 ここで私は夜もぐっすり眠れるようになった。

 お腹が空いて目が覚めることなんてない。

 ひもじくて眠れないなんてこともない。

 朝は祈りの儀式の為に早く起きなきゃいけないけど。

 ここに来てからゆっくりと穏やかな時間が過ぎていった。

「は? ゆっくり? 穏やか? そんなの思っているのはミリアだけじゃん。ここじゃあ、朝は滅茶苦茶早いし、好きな時に食べられないし。勉強はもっと嫌だし。正直聖女見習いの肩書だけ欲しいって感じ」

 ここでは見習いのために文字の読み書き計算から教えてくれる。

 読み書きが出来ないと女神様の儀式が出来ないからだ。

 大聖女様の結界の呪文は複雑だし、魔方陣を描くためにも必要なことだった。

 でも、読み書き出来るといろんなことが分かって楽しい。

 それでもジョイだって口だけでしなければならないことはきちんとしているのを知っている。

 クスクスとよく笑うけれど嫌な感じが全然しなくてジョイを見ているだけで楽しい気分になる。




 そうして私がここに来て何ヶ月も経っていた。

 家が近い者は里帰りするものもいるけれど馬車で片道二週間以上もかかる旅費の工面は出来そうにないのでいつも居残っていた。

 ここでは聖女見習いとして賃金が貰えた。少しだったけどそれでも帰る馬車代にはとても足りそうになかった。

 帰ったらお母ちゃんは喜んでくれるかな……。それともやっぱり要らない子なのかな。

 そう思うと怖く帰ることができなかった。










 ◇◇◇あとがきめいたもの◇◇◇

 毒親の元で健気に頑張っている子どもさんに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~

白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」 ……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。 しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。 何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。 少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。 つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!! しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。 これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。 運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。 これは……使える! だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で…… ・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。 ・お気に入り登録、ありがとうございます! ・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします! ・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!! ・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!! ・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます! ・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!! ・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

処理中です...