完【R15】盗賊騎士と愛を知らない修道女

えとう蜜夏☆コミカライズ中

文字の大きさ
上 下
32 / 35
三章 新たな世界へ

三十一 結婚式

しおりを挟む
 隣国王子の歓迎会に出席させてもらえないなんてやはり人前に出るには私はまだまだダメなのだろう。どうしたって、修道院育ちの私では貴族のマナーなんて分からないもの。

 メロウ夫人に教えていただいていたけれど所詮付け焼刃だったんだわ。


 鬱々と考えていたけれど、それ以上にアシュレイ様からのアプローチにまだ動揺していた。

 あれから何事も無かったかのように振る舞うアシュレイ様だけど隙あらば私に触ってくるものだから周囲に見られていると思うと恥ずかしくて。

 ドレスを着つけるときにキスの痕が目立つところにあったらしくアシュレイ様はお義母様からこってり怒られていた。だけど当のアシュレイ様本人は全く気にされていない。私はいたたまれなさでいっぱいだというのに。




 あっという間に結婚式当日となり、式はあっさりとしたもののはずだけど城内にある厳かな礼拝堂で一族や領地の有力人物の出席もあり、私から見れば豪華な式だと思っていた。お互いが誓いを交わすと参加者から祝われたので、嬉しくもありお恐れ多くもあった。

 城下においても住民らに振る舞われた酒や食べ物で浮かれたお祭り騒ぎになっていた。お披露目として城下を馬車で一周する。笑顔が張り付いていたけれどベール越しなので少しほっとしていた。



 その後は、ほとんどアシュレイ様の腕の中でいたのであまり覚えていなかった。いつの間にか私にとって彼の腕の中は安心する場所であり心地よくて離れられないものとなっていた。

 王都で開催される大舞踏会に向けての準備も行われた。ここに来たときとは違い馬車を用意されて供のものもつけての大仰な出発となった。


 私とアシュレイ様は舞踏会に先駆けて国王に挨拶をした。国王様はアシュレイ様に祝福の言葉を贈ると私をじっとご覧になられると何か思い出そうとするふうだった。

 アシュレイ様は早々に国王の御前を下がった。

「やれやれ、これで堅苦しいのは終わりだ」

「もう、アシュレイ様は……」

 私の頬にキスをされるとアシュレイ様は舞踏会の会場へと向かった。会場に入ると国王様によって英雄に祭り上げられているアシュレイ様のもとには挨拶の人が押し寄せてきた。

 私はいつの間にかアシュレイ様から離れてしまっていたが、あの輪の中に戻ることは躊躇われた。

「あなたが、アシュレイ殿の奥方ですか?」

 そこにはたおやかな笑みを浮かべた美青年が立っていた。豪奢な金髪とブルーの瞳は極上の顔立ちだった。

「はい、あの……」

「ああ、私は、ドナテアのコルスと申します」

 私はその名に覚えがあった。

「ドナテア国のコルス王子様でしたか、先日はご挨拶もせず申し訳ありません。先日まで私は修道院でいましたので……」

 それがメロウ夫人やアシュレイ様と相談して作った今の自分の経歴だった。実際メロウ夫人に協力してもらって、夫人の領地にある修道院の書類はそうなっているそうだった。

 修道院の名前さえ間違わなければほとんど嘘をつく必要のないものにしてあった。あまり事実と違いすぎると私も覚えられないし、不自然さが出るからと言われた。

 コルス王子様は国王陛下と同じように自分の面差しに何かを探すようなふうに見つめてくる。私もまた王子のその瞳と面差しに何か懐かしいものを感じていた。

 暫く何を話すと言うでもなく二人でバルコニーへと向かい中庭にまで出ていた。辺りを静けさが包んでいた。ゆっくりと王子様が口を開いた。

「あなたが過ごした修道院はどんなところでしたか?」

「女性ばかりのところで……。特にお話するような珍しいこともないところでございましたが……」

 コルス王子の優しげな微笑みに私も次第に警戒心が薄れていた。それに隣国王子となれば自分としても無下にもするわけにもいかない。

 一歩間違えば国交問題になってしまう。

 それはアシュレイ様にご迷惑をかけてることになる。

 でも、なんだか王子様には心惹かれるものがある。どうしたというのだろうか? 自分にはアシュレイ様と言う立派で十分は過ぎるほどの夫がいるというのに。

 ただ、コルス王子様が私に注ぐ視線は人妻に言い寄るというものではなく、彼自身も自分の行動に戸惑っているような様子だった。私は何か話そうと口を開きかけた。

「リリー! どこだ?」

 アシュレイ様の鋭い声が聞こえてきた。王子様もその声に気づきすっと完璧な微笑みを浮かべて私の代わりに答えた。

「アシュレイ殿。あなたの愛しい方はこちらにいらっしゃいますよ」

 コルス王子様の声は大きい訳でもないのによく通ったのでアシュレイ様はその声を頼りにこちらに駆け寄ってきた。アシュレイ様は息も乱れた様子もなく王子に礼をした。

「私の妻のお相手をして頂いていたようで光栄でございます。殿下」

 その声はアシュレイ様を知っているものには怒りに耐えている状態であることが分かった。

「いえ、このような美しい方を放っておいて、心配なさらないあたり流石英雄殿ですね」

 先ほどまでの私とのやり取りがウソのように王子様とアシュレイ様の間ではけん制しあうものが産まれていた。

「ええ、自分と彼女は誰よりも分かちがたく結ばれていますから」

 珍しく余裕のない口調でアシュレイ様は言い放った。王子様はアシュレイ様のそんな様子にかまわず優雅な笑みを浮かべると挨拶をして立ち去っていった。

「よろしいんですか? 王子様にあのようなことを言って……」

「自分でもどうしようもない。君が私以外の男に話しかけたり微笑んだりしているのを見ているだけで相手の男をどうにかしてしまいたくなるほどだ」

「どうしてそんな」

 自分にはそんな価値はない。そう言おうとしたが彼の顔を見ると何も言えなくなった。なぜなら自分もそんな制御できない想いを味わっているからだ。彼を取り巻こうとする女性たちに対して胸が焼けつくように苦しくなる。

「どうしてだろうな」

「そうですね」
 
 私は同意を示すようにアシュレイ様の首に手を回して抱きついた。彼もまた私をそっと包み込むように抱きしめてきた。

 大舞踏会はまだこれからだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

その神子は胃袋を掴まれている

成行任世
恋愛
ーーー私は出来損ないだから とある事情で、辺境の館に暮らす盲目の公爵令嬢シャーロット。家族からも使用人からも冷遇されていた彼女のもとに、ある日突然毛色の違う使用人達が現れる。 「今日は野菜スープが飲みたいです」 これは、心優しき盗賊と冷遇される神子の始まりの物語。 ※この物語は、身体に障害を持つ方を差別するような表現がありますが、そのような意図は一切ありません。 ご了承下さい。

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

処理中です...