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三章 新たな世界へ
三十一 結婚式
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隣国王子の歓迎会に出席させてもらえないなんてやはり人前に出るには私はまだまだダメなのだろう。どうしたって、修道院育ちの私では貴族のマナーなんて分からないもの。
メロウ夫人に教えていただいていたけれど所詮付け焼刃だったんだわ。
鬱々と考えていたけれど、それ以上にアシュレイ様からのアプローチにまだ動揺していた。
あれから何事も無かったかのように振る舞うアシュレイ様だけど隙あらば私に触ってくるものだから周囲に見られていると思うと恥ずかしくて。
ドレスを着つけるときにキスの痕が目立つところにあったらしくアシュレイ様はお義母様からこってり怒られていた。だけど当のアシュレイ様本人は全く気にされていない。私はいたたまれなさでいっぱいだというのに。
あっという間に結婚式当日となり、式はあっさりとしたもののはずだけど城内にある厳かな礼拝堂で一族や領地の有力人物の出席もあり、私から見れば豪華な式だと思っていた。お互いが誓いを交わすと参加者から祝われたので、嬉しくもありお恐れ多くもあった。
城下においても住民らに振る舞われた酒や食べ物で浮かれたお祭り騒ぎになっていた。お披露目として城下を馬車で一周する。笑顔が張り付いていたけれどベール越しなので少しほっとしていた。
その後は、ほとんどアシュレイ様の腕の中でいたのであまり覚えていなかった。いつの間にか私にとって彼の腕の中は安心する場所であり心地よくて離れられないものとなっていた。
王都で開催される大舞踏会に向けての準備も行われた。ここに来たときとは違い馬車を用意されて供のものもつけての大仰な出発となった。
私とアシュレイ様は舞踏会に先駆けて国王に挨拶をした。国王様はアシュレイ様に祝福の言葉を贈ると私をじっとご覧になられると何か思い出そうとするふうだった。
アシュレイ様は早々に国王の御前を下がった。
「やれやれ、これで堅苦しいのは終わりだ」
「もう、アシュレイ様は……」
私の頬にキスをされるとアシュレイ様は舞踏会の会場へと向かった。会場に入ると国王様によって英雄に祭り上げられているアシュレイ様のもとには挨拶の人が押し寄せてきた。
私はいつの間にかアシュレイ様から離れてしまっていたが、あの輪の中に戻ることは躊躇われた。
「あなたが、アシュレイ殿の奥方ですか?」
そこにはたおやかな笑みを浮かべた美青年が立っていた。豪奢な金髪とブルーの瞳は極上の顔立ちだった。
「はい、あの……」
「ああ、私は、ドナテアのコルスと申します」
私はその名に覚えがあった。
「ドナテア国のコルス王子様でしたか、先日はご挨拶もせず申し訳ありません。先日まで私は修道院でいましたので……」
それがメロウ夫人やアシュレイ様と相談して作った今の自分の経歴だった。実際メロウ夫人に協力してもらって、夫人の領地にある修道院の書類はそうなっているそうだった。
修道院の名前さえ間違わなければほとんど嘘をつく必要のないものにしてあった。あまり事実と違いすぎると私も覚えられないし、不自然さが出るからと言われた。
コルス王子様は国王陛下と同じように自分の面差しに何かを探すようなふうに見つめてくる。私もまた王子のその瞳と面差しに何か懐かしいものを感じていた。
暫く何を話すと言うでもなく二人でバルコニーへと向かい中庭にまで出ていた。辺りを静けさが包んでいた。ゆっくりと王子様が口を開いた。
「あなたが過ごした修道院はどんなところでしたか?」
「女性ばかりのところで……。特にお話するような珍しいこともないところでございましたが……」
コルス王子の優しげな微笑みに私も次第に警戒心が薄れていた。それに隣国王子となれば自分としても無下にもするわけにもいかない。
一歩間違えば国交問題になってしまう。
それはアシュレイ様にご迷惑をかけてることになる。
でも、なんだか王子様には心惹かれるものがある。どうしたというのだろうか? 自分にはアシュレイ様と言う立派で十分は過ぎるほどの夫がいるというのに。
ただ、コルス王子様が私に注ぐ視線は人妻に言い寄るというものではなく、彼自身も自分の行動に戸惑っているような様子だった。私は何か話そうと口を開きかけた。
「リリー! どこだ?」
アシュレイ様の鋭い声が聞こえてきた。王子様もその声に気づきすっと完璧な微笑みを浮かべて私の代わりに答えた。
「アシュレイ殿。あなたの愛しい方はこちらにいらっしゃいますよ」
コルス王子様の声は大きい訳でもないのによく通ったのでアシュレイ様はその声を頼りにこちらに駆け寄ってきた。アシュレイ様は息も乱れた様子もなく王子に礼をした。
「私の妻のお相手をして頂いていたようで光栄でございます。殿下」
その声はアシュレイ様を知っているものには怒りに耐えている状態であることが分かった。
「いえ、このような美しい方を放っておいて、心配なさらないあたり流石英雄殿ですね」
先ほどまでの私とのやり取りがウソのように王子様とアシュレイ様の間ではけん制しあうものが産まれていた。
「ええ、自分と彼女は誰よりも分かちがたく結ばれていますから」
珍しく余裕のない口調でアシュレイ様は言い放った。王子様はアシュレイ様のそんな様子にかまわず優雅な笑みを浮かべると挨拶をして立ち去っていった。
「よろしいんですか? 王子様にあのようなことを言って……」
「自分でもどうしようもない。君が私以外の男に話しかけたり微笑んだりしているのを見ているだけで相手の男をどうにかしてしまいたくなるほどだ」
「どうしてそんな」
自分にはそんな価値はない。そう言おうとしたが彼の顔を見ると何も言えなくなった。なぜなら自分もそんな制御できない想いを味わっているからだ。彼を取り巻こうとする女性たちに対して胸が焼けつくように苦しくなる。
「どうしてだろうな」
「そうですね」
私は同意を示すようにアシュレイ様の首に手を回して抱きついた。彼もまた私をそっと包み込むように抱きしめてきた。
大舞踏会はまだこれからだった。
メロウ夫人に教えていただいていたけれど所詮付け焼刃だったんだわ。
鬱々と考えていたけれど、それ以上にアシュレイ様からのアプローチにまだ動揺していた。
あれから何事も無かったかのように振る舞うアシュレイ様だけど隙あらば私に触ってくるものだから周囲に見られていると思うと恥ずかしくて。
ドレスを着つけるときにキスの痕が目立つところにあったらしくアシュレイ様はお義母様からこってり怒られていた。だけど当のアシュレイ様本人は全く気にされていない。私はいたたまれなさでいっぱいだというのに。
あっという間に結婚式当日となり、式はあっさりとしたもののはずだけど城内にある厳かな礼拝堂で一族や領地の有力人物の出席もあり、私から見れば豪華な式だと思っていた。お互いが誓いを交わすと参加者から祝われたので、嬉しくもありお恐れ多くもあった。
城下においても住民らに振る舞われた酒や食べ物で浮かれたお祭り騒ぎになっていた。お披露目として城下を馬車で一周する。笑顔が張り付いていたけれどベール越しなので少しほっとしていた。
その後は、ほとんどアシュレイ様の腕の中でいたのであまり覚えていなかった。いつの間にか私にとって彼の腕の中は安心する場所であり心地よくて離れられないものとなっていた。
王都で開催される大舞踏会に向けての準備も行われた。ここに来たときとは違い馬車を用意されて供のものもつけての大仰な出発となった。
私とアシュレイ様は舞踏会に先駆けて国王に挨拶をした。国王様はアシュレイ様に祝福の言葉を贈ると私をじっとご覧になられると何か思い出そうとするふうだった。
アシュレイ様は早々に国王の御前を下がった。
「やれやれ、これで堅苦しいのは終わりだ」
「もう、アシュレイ様は……」
私の頬にキスをされるとアシュレイ様は舞踏会の会場へと向かった。会場に入ると国王様によって英雄に祭り上げられているアシュレイ様のもとには挨拶の人が押し寄せてきた。
私はいつの間にかアシュレイ様から離れてしまっていたが、あの輪の中に戻ることは躊躇われた。
「あなたが、アシュレイ殿の奥方ですか?」
そこにはたおやかな笑みを浮かべた美青年が立っていた。豪奢な金髪とブルーの瞳は極上の顔立ちだった。
「はい、あの……」
「ああ、私は、ドナテアのコルスと申します」
私はその名に覚えがあった。
「ドナテア国のコルス王子様でしたか、先日はご挨拶もせず申し訳ありません。先日まで私は修道院でいましたので……」
それがメロウ夫人やアシュレイ様と相談して作った今の自分の経歴だった。実際メロウ夫人に協力してもらって、夫人の領地にある修道院の書類はそうなっているそうだった。
修道院の名前さえ間違わなければほとんど嘘をつく必要のないものにしてあった。あまり事実と違いすぎると私も覚えられないし、不自然さが出るからと言われた。
コルス王子様は国王陛下と同じように自分の面差しに何かを探すようなふうに見つめてくる。私もまた王子のその瞳と面差しに何か懐かしいものを感じていた。
暫く何を話すと言うでもなく二人でバルコニーへと向かい中庭にまで出ていた。辺りを静けさが包んでいた。ゆっくりと王子様が口を開いた。
「あなたが過ごした修道院はどんなところでしたか?」
「女性ばかりのところで……。特にお話するような珍しいこともないところでございましたが……」
コルス王子の優しげな微笑みに私も次第に警戒心が薄れていた。それに隣国王子となれば自分としても無下にもするわけにもいかない。
一歩間違えば国交問題になってしまう。
それはアシュレイ様にご迷惑をかけてることになる。
でも、なんだか王子様には心惹かれるものがある。どうしたというのだろうか? 自分にはアシュレイ様と言う立派で十分は過ぎるほどの夫がいるというのに。
ただ、コルス王子様が私に注ぐ視線は人妻に言い寄るというものではなく、彼自身も自分の行動に戸惑っているような様子だった。私は何か話そうと口を開きかけた。
「リリー! どこだ?」
アシュレイ様の鋭い声が聞こえてきた。王子様もその声に気づきすっと完璧な微笑みを浮かべて私の代わりに答えた。
「アシュレイ殿。あなたの愛しい方はこちらにいらっしゃいますよ」
コルス王子様の声は大きい訳でもないのによく通ったのでアシュレイ様はその声を頼りにこちらに駆け寄ってきた。アシュレイ様は息も乱れた様子もなく王子に礼をした。
「私の妻のお相手をして頂いていたようで光栄でございます。殿下」
その声はアシュレイ様を知っているものには怒りに耐えている状態であることが分かった。
「いえ、このような美しい方を放っておいて、心配なさらないあたり流石英雄殿ですね」
先ほどまでの私とのやり取りがウソのように王子様とアシュレイ様の間ではけん制しあうものが産まれていた。
「ええ、自分と彼女は誰よりも分かちがたく結ばれていますから」
珍しく余裕のない口調でアシュレイ様は言い放った。王子様はアシュレイ様のそんな様子にかまわず優雅な笑みを浮かべると挨拶をして立ち去っていった。
「よろしいんですか? 王子様にあのようなことを言って……」
「自分でもどうしようもない。君が私以外の男に話しかけたり微笑んだりしているのを見ているだけで相手の男をどうにかしてしまいたくなるほどだ」
「どうしてそんな」
自分にはそんな価値はない。そう言おうとしたが彼の顔を見ると何も言えなくなった。なぜなら自分もそんな制御できない想いを味わっているからだ。彼を取り巻こうとする女性たちに対して胸が焼けつくように苦しくなる。
「どうしてだろうな」
「そうですね」
私は同意を示すようにアシュレイ様の首に手を回して抱きついた。彼もまた私をそっと包み込むように抱きしめてきた。
大舞踏会はまだこれからだった。
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