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三章 新たな世界へ
三十 隣国王子と(アシュレイ視点での進行)
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「ううっ」
日差しが大きく傾いている部屋で私は目が覚めた。
昨夜は……。いつの間にか着せられた夜着のうえから体を抱きしめた。
まだ信じられない。下腹部の痛みが現実を思い出さされた。
今、私がいるのはアシュレイ様の部屋の寝台だった。起き上がろうとしたが全身のけだるさと体中の痛みで動きをぎくしゃくとさせた。
「……起きていたか?」
いつの間にか扉が開いて痛みの元凶が姿を現した。
「……アシュレイ、さ、ま」
突然で焦ったけれどまだ夜着のままである自分の体を隠そうとした。
「また、間違えたな」
ふといい匂いがしてきた。
「何も食べてないだろう。あのときとは逆だな」
アシュレイ様はスープを差し出してきた。お腹がすいていた私はあっという間に平らげていた。その様子をじっとアシュレイ様は傍で眺めていた。
「あ、あの」
食べ終わって人心地のついた私はそれを返すとアシュレイ様は優しげな笑みで尋ねてきた。それに呆然としている間にアシュレイ様は何故かペナルティが溜まっているとまたキスをしてきた。
「や、やめ」
おやめくださいという言葉は喉の奥に消された。
ふと気がつくと再び私の衣服は全て剥ぎ取られていた。それに私は息を飲んでしまたけれど、それの意味することに……。
「いや……」
弱々しくアシュレイ様の下で抵抗をしたが、どうにもならなかった。逃げられないように強く掴まれていてどうしようもなく。昨夜の出来事も思い出されて身体が強張ってしまった。
「力を抜いて……」
アシュレイ様も何度もそれだけ言うとキスを落とてきた。
誓いも交わしていないのと恨めし気に睨んだけれど強引に進めるアシュレイ様の動きに何も言えなかった。
「悪いが今は部屋の外にも出すつもりはない」
「そんなっ」
私は再び何度目かの意識を手放した。
気絶するように己の腕に眠りについたリリーを休ませながら、
「あの食わせ者の王子に君の姿はなるべく見せたくない」
スープを飲ませた後で、アシュレイはまたリリーの身体を自分のものにした。一度抱いたら歯止めがきかなくなってしまったのもある。気がつくと彼女は自分の腕の中で気を失っていた。
その身体を拭いて着替えさせるとアシュレイはまた隣国王子の歓迎の宴に戻っていった。カギも厳重に外から忘れずに……。
「そういえば、ご子息は盗賊団を討伐なされたとか、カーステア領は次も安泰ですね」
「いや、まだまだですな。私の若い頃に比べればなんとういこともない」
「ああ、そう言えば。カーステア伯もお若い頃には密輸事件を解決されたのでしたか。……あれからもう二十年以上にもなりますか。私もその昔あなたの武勇伝には子ども心に憧れましたよ。密輸団を相手取った勇猛果敢で華麗な辺境伯の物語にね」
二十年以上という言葉にアシュレイは僅かに反応してしまった。誰もその様子に気が付いた者はいないようだった。アシュレイはそれを隠すように手元のワインを飲み干した。
「ところで次代の英雄殿の花嫁はどのような方ですか?」
「特にどうということはありません。よくいる貴族の娘です」
それにはなるべく言葉少なにアシュレイは答えた。
近隣国が挨拶に来るときにこの国の貴族一同が集まる大舞踏会がある。
それには一族のものが誰か必ず出席しなければならない。毎年、よほどのことがなければ父が出ていた。今回は花嫁の披露目が無いことから、この機会にお目見えを済ませてしまおうという魂胆だった。
極力彼女を表に出さない。それがアシュレイと父の相談の結果だった。母には父から事情を話してもらっている。
リリーがあの修道院にいた証拠はない。今の姿をあの頃の彼女と同一人物だと思うものはいないだろう。はっきり言って自分が断言できる。母上は心配していたが、叔母上の返事もそうだったので安心したようだ。
ただ、今のリリー姿は別の心配ごとが増えたようだ。それは叔母上が指摘したことでもあるが、彼女が母親である人物と似ていることだ。
昔の王宮の者には覚えている人がいるかもしれない。それはリリーの出自に気づかれる可能性があった。でもなにせ二十年以上も前のことだ。覚えているものは少ないだろうとの父との読みだった。だが肖像画が残されていた可能性がある。
リリーの素性がばれるという危険性をなくすために彼女が表にでることを極力減らす。それしか今のところ手立てがない。
アシュレイは隣国のコルス王子を横目で見ながら相違点を探した。
叔父と姪と言う関係だが、コルス王子が遅く生まれたのでリリーとの年の差は少ない。華やかな王子の容貌は男であるアシュレイも感嘆するべきものがある。金髪で澄んだブルーの瞳はいかにも夢の王子様然としている。幸いながらにリリーとは男女の差もあるのかさほど似ているようには見えない。
その美貌と柔らかい物腰のこの王子は、周辺諸国においても評判はかなり良かった。現在の王位についている第一王子よりもいいといえた。彼は少年期から外交に携わってきたせいだろう。しかし、彼の腹の奥までは分からない。
アシュレイはこうして王子と会話していると、どうかすると悪党どもと対峙したときより、自分の背中に冷たく逆立てるような、何か油断が出来ないものを感じる。彼と会ったときは昔からそうだった。自分とそう年は変わらないのに腹を割って話すと言ったことは皆無に等しかった。アシュレイが感じる限り、彼は見た目だけの魅惑の王子様ではないことは確かだった。
翌日早々に王都に向けて隣国王子様の一行は旅立っていった。もちろん、リリーに会わせることは無かった。式は来週にもう迫っていた。
日差しが大きく傾いている部屋で私は目が覚めた。
昨夜は……。いつの間にか着せられた夜着のうえから体を抱きしめた。
まだ信じられない。下腹部の痛みが現実を思い出さされた。
今、私がいるのはアシュレイ様の部屋の寝台だった。起き上がろうとしたが全身のけだるさと体中の痛みで動きをぎくしゃくとさせた。
「……起きていたか?」
いつの間にか扉が開いて痛みの元凶が姿を現した。
「……アシュレイ、さ、ま」
突然で焦ったけれどまだ夜着のままである自分の体を隠そうとした。
「また、間違えたな」
ふといい匂いがしてきた。
「何も食べてないだろう。あのときとは逆だな」
アシュレイ様はスープを差し出してきた。お腹がすいていた私はあっという間に平らげていた。その様子をじっとアシュレイ様は傍で眺めていた。
「あ、あの」
食べ終わって人心地のついた私はそれを返すとアシュレイ様は優しげな笑みで尋ねてきた。それに呆然としている間にアシュレイ様は何故かペナルティが溜まっているとまたキスをしてきた。
「や、やめ」
おやめくださいという言葉は喉の奥に消された。
ふと気がつくと再び私の衣服は全て剥ぎ取られていた。それに私は息を飲んでしまたけれど、それの意味することに……。
「いや……」
弱々しくアシュレイ様の下で抵抗をしたが、どうにもならなかった。逃げられないように強く掴まれていてどうしようもなく。昨夜の出来事も思い出されて身体が強張ってしまった。
「力を抜いて……」
アシュレイ様も何度もそれだけ言うとキスを落とてきた。
誓いも交わしていないのと恨めし気に睨んだけれど強引に進めるアシュレイ様の動きに何も言えなかった。
「悪いが今は部屋の外にも出すつもりはない」
「そんなっ」
私は再び何度目かの意識を手放した。
気絶するように己の腕に眠りについたリリーを休ませながら、
「あの食わせ者の王子に君の姿はなるべく見せたくない」
スープを飲ませた後で、アシュレイはまたリリーの身体を自分のものにした。一度抱いたら歯止めがきかなくなってしまったのもある。気がつくと彼女は自分の腕の中で気を失っていた。
その身体を拭いて着替えさせるとアシュレイはまた隣国王子の歓迎の宴に戻っていった。カギも厳重に外から忘れずに……。
「そういえば、ご子息は盗賊団を討伐なされたとか、カーステア領は次も安泰ですね」
「いや、まだまだですな。私の若い頃に比べればなんとういこともない」
「ああ、そう言えば。カーステア伯もお若い頃には密輸事件を解決されたのでしたか。……あれからもう二十年以上にもなりますか。私もその昔あなたの武勇伝には子ども心に憧れましたよ。密輸団を相手取った勇猛果敢で華麗な辺境伯の物語にね」
二十年以上という言葉にアシュレイは僅かに反応してしまった。誰もその様子に気が付いた者はいないようだった。アシュレイはそれを隠すように手元のワインを飲み干した。
「ところで次代の英雄殿の花嫁はどのような方ですか?」
「特にどうということはありません。よくいる貴族の娘です」
それにはなるべく言葉少なにアシュレイは答えた。
近隣国が挨拶に来るときにこの国の貴族一同が集まる大舞踏会がある。
それには一族のものが誰か必ず出席しなければならない。毎年、よほどのことがなければ父が出ていた。今回は花嫁の披露目が無いことから、この機会にお目見えを済ませてしまおうという魂胆だった。
極力彼女を表に出さない。それがアシュレイと父の相談の結果だった。母には父から事情を話してもらっている。
リリーがあの修道院にいた証拠はない。今の姿をあの頃の彼女と同一人物だと思うものはいないだろう。はっきり言って自分が断言できる。母上は心配していたが、叔母上の返事もそうだったので安心したようだ。
ただ、今のリリー姿は別の心配ごとが増えたようだ。それは叔母上が指摘したことでもあるが、彼女が母親である人物と似ていることだ。
昔の王宮の者には覚えている人がいるかもしれない。それはリリーの出自に気づかれる可能性があった。でもなにせ二十年以上も前のことだ。覚えているものは少ないだろうとの父との読みだった。だが肖像画が残されていた可能性がある。
リリーの素性がばれるという危険性をなくすために彼女が表にでることを極力減らす。それしか今のところ手立てがない。
アシュレイは隣国のコルス王子を横目で見ながら相違点を探した。
叔父と姪と言う関係だが、コルス王子が遅く生まれたのでリリーとの年の差は少ない。華やかな王子の容貌は男であるアシュレイも感嘆するべきものがある。金髪で澄んだブルーの瞳はいかにも夢の王子様然としている。幸いながらにリリーとは男女の差もあるのかさほど似ているようには見えない。
その美貌と柔らかい物腰のこの王子は、周辺諸国においても評判はかなり良かった。現在の王位についている第一王子よりもいいといえた。彼は少年期から外交に携わってきたせいだろう。しかし、彼の腹の奥までは分からない。
アシュレイはこうして王子と会話していると、どうかすると悪党どもと対峙したときより、自分の背中に冷たく逆立てるような、何か油断が出来ないものを感じる。彼と会ったときは昔からそうだった。自分とそう年は変わらないのに腹を割って話すと言ったことは皆無に等しかった。アシュレイが感じる限り、彼は見た目だけの魅惑の王子様ではないことは確かだった。
翌日早々に王都に向けて隣国王子様の一行は旅立っていった。もちろん、リリーに会わせることは無かった。式は来週にもう迫っていた。
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