完【R15】盗賊騎士と愛を知らない修道女

えとう蜜夏☆コミカライズ中

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三章 新たな世界へ

二十九 慌ただしい初めての夜

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 城に帰ってからもアシュレイ様の機嫌はよろしくなかった。

 この城に着いてからはアシュレイ様と同じ部屋でないのでほっとする気持ちと同時に心細さも感じていた。

 たった数日の旅だったが、隣でいる存在感に慣れてというか安心していたというか。

 私はその時の出来事まで思い出してつい赤面してしまった。



 翌日から更に城内がばたばと慌ただしかった。

 来週には私とアシュレイ様の挙式があるので慌ただしかったが、今朝はそれ以上のものがあった。

 そんな中、お義母様からは今日から部屋を移すわねと案内された。

 そこは白と薄桃色で統一された上品で素晴らしい部屋だった。

「急だったから、どうかしら?」

「ありがとうございます。いいんですか。私みたいなのが」

「あなたの謙遜は美徳だけど、こういうときはありがとうだけでいいのよ」

 おずおずと私はお義母様の白く貴婦人然としたその手を握って感謝の意を表した。

「本当に間に合ってよかったわ。これからはここがあなたの部屋ですからね」

 お義母様の言葉に少しひっかかりがあったものの、私も連日の式の準備やこまごまとした打ち合わせに疲れていたのでやや早い時間に寝入ってしまった。




 部屋のどこからか光がもれていた。その光で私は目が覚めてしまったようだ。

 私は寝台から起き上がって明かりの先を探した。

 明るい昼間には気がつかなかったが、部屋の隅に扉があってその隙間から少し光が漏れていた。通されたときは他の丁度品に夢中で気がついていなかった。私はそっとその扉を開けてみた。


 そこは暗褐色と金色の基調の落ち着いたこれまた豪奢な部屋だった。そして大きな天蓋つきの寝台の向こうには……。

「ん?」

 そう言って大きな執務用の机に燭台をいくつも置いて書類らしきものを見ていたアシュレイ様がこちらを見た。

「え?」

 私もつい驚きの声を上げたけれどアシュレイ様も驚いたようだった。でもアシュレイ様の方は思い当ったようなふうだった。

「ああ、そうか……、今日から隣か」

 アシュレイ様は立ち上がると私に近寄ってきた。私は驚きのあまり動けずにそのままだった。アシュレイ様はそんな私の耳元に囁いた。

「今夜、……私のものにしていいか?」

「私はもうアシュレイ様のものではないのですか?」

 そう答えるとアシュレイ様から向けられる視線に喉の奥が焼けつくような感じが押し上げてきた。

 ふっといつもの笑いをなさるとアシュレイ様はそうだなとキスをおとしてきた。

 それが深くなっていくと立っていられずアシュレイ様の体にすがりついていた。アシュレイ様は私をそのまま抱き上げて広い寝台に降ろした。だけど今までのと同じでそれは違っていたのだった。








 翌日いつもとかわらずアシュレイは食卓についていた。

 今日は気が抜けない日になりそうだった。両親は食卓にリリーが不在なのを特に気にする様子はなかった。ありがたいというかそうするように仕向けられたようだった。

「……いよいよか」


 父上が呟くと城内に先触れの声が響いた。

「ドナテア国の第三王子のコルス様のご到着です」

 アシュレイと両親は静かに立ち上がって出迎えに向かった。


「ようこそ、わが国に」

「今年もお邪魔致しました。カーステア伯。ご機嫌いかかがでしょうか」

 そう言って彼は優雅に礼をした。豪奢な金髪とブルーの瞳はまさしく王子様といいて言い風貌だった。優しげな物腰と顔立ちで初対面の者でも警戒心を抱かせない。そんな彼にカーステア伯はゆったりと言葉を返した。

「ええ、上々です」

「そういえば、道々で耳にしたのですが……」

 そう言ってコルス王子はアシュレイの方に視線をむけた。

「ご子息がご結婚されるとか。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「おお。やはりそうでしたか! それではさぞや盛大なお祝いの式が……」

「いえ、身内だけのささやかなものにするつもりで、陛下もお呼びしませんので」

「それは……。カーステア伯程の跡取り息子がそのようなことをしては……」

 第三王子の口調には些か非難めいた含みが見えた。

「なあに、倅の我儘ですよ。このくそ忙しい時期に婚礼などと……」

 カーステア伯が口元をにやりと歪めて肩をすくめた。カーステア伯のいささか身分に似合わない乱暴な言葉にコルス王子は目を細めた。

 姿に似合わないと言うことではない。カーステア伯は彼も武人として国中どころか諸外国にも勇名を馳せた人物だった。

 今でも戦場に立ってもなんら遜色はないだろう。逆に隙のない壮年の男の色香を高める仕草と言葉だった。

「では、新年のお目見え式のときには?」

「ああ、その時に二人を報告に参らせようかと……」

「そうですか。それではその時に花嫁にはお会いできますね」

 穏やかな笑みを浮かべる王子の顔をアシュレイは黙って眺めていた
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