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三章 新たな世界へ
二十五 彼の人の正体
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それでも二人だけの道行きは楽しかった。
二人で馬に乗って街道を抜けて、時折商隊やほかの旅人とすれ違う。今まで修道院の中しか知らなかったので見るものは何もかも珍しかった。
ただ、一日中馬に乗るというのには慣れていなかったのですぐに体のあちこちが痛くなっていた。休みをとりながらであるもののそれは正直大変だった。
「今日も寝台は一つですか?」
私は通された部屋を見てつい声にだしてしまった。何をという顔でアシュレイ様はしていたけど昨日と同じ様な湯桶が用意されていた。そして、私は衣類を全て剥ぎ取られてしまった。
「さあ、洗ってやる」
「い、いえ自分で」
「そんな、よろよろの疲れ切った感じでは難しいだろう」
私はどうしていいのか分からなくなって今日も身体を洗われることになった。
「何か、離れてないか?」
翌朝、出かける準備をするものの近寄ってくるアシュレイ様からつい離れると怪訝そうに尋ねられるが仕方がない。
「それは、ご自分の胸に聞いてください」
朝からアシュレイ様は爽やかな顔で考えていたけれどやっと思い当ったみたいで笑みを浮かべた。
「ああ、でも、まだ最後までしてないぞ」
「ば、アシュレイ様のばかばか」
私はついアシュレイ様の背中をぐうで叩いた。
「まあ、疲れているから綺麗に洗っただけだし、そのついでにちょっと丁寧に触っても問題なかろう。心配するな」
「もう、知りません」
アシュレイ様からは高らかな笑いを返されただけった。しかし急に真顔になるとアシュレイ様は私をそっと抱きしめて、耳元に囁いた。
「君はもう私だけのものだからな」
その言葉に私は耳まで真っ赤に染めた。
アシュレイ様は私のその反応にご機嫌だった。
今日も二人で街道を進んだ。だんだん進むにつれ、道が整ってきて人の通りも多くなっているような気がする。
そういえば何処に向かっているのか尋ねていなかった。
「アシュレイ様の領地はどのあたりなんですか」
「んーん。後二日くらいかな」
今まで村に近い風景だったが、今は周囲は村から町といった感じになっていった。
そして今日の宿は今までより大きくて豪華だった。
アシュレイ様が入っていくと宿の受付の者がアシュレイをじっと見た。
「ようこそ、当宿屋へいらっしゃいました。どうぞ、こちらへ、当店最上級のお部屋にご案内いたします」
「いや、普通の部屋でいい」
アシュレイ様はそう言い受付の方に何かを耳打ちをした。その方は黙って肯いたようだった。
「では、ご案内いたします」
そこは今までのよりとても良い部屋だった。でもまた寝台は一つだった。
「アシュレイ様、あの寝台が……」
「どうやら、今日も他の部屋は満室らしい」
そういってニッコリと微笑まれたら仕方がなかった。でも正直ここのところよく眠れていない。自分の横ですやすやと眠るアシュレイ様を何度か叩き起こそうかと思ったほどだ。
そして、昨日と同じように体を洗って触ってくる。
でも今日はさらに……。こんなことはいけないと思いつつ逆らえるはずはなかった。
「も、もう。ダメです」
翌朝、いつもならとっくに起きて身支度をすませているアシュレイ様が寝台から起き上がらず私の体を触ってくる。気を抜くとまた悪さをし始めるから安心できなかった。
「もう朝なんですから、起きます」
そう叱ってみるが、アシュレイ様はなかなか離してくれなかった。
「今日は嫌な予感がする」
身支度をしながらアシュレイがぼそりと呟いた。このところの寝不足で私も不機嫌になっていたのでそれを無視した。
いつもより遅めに宿を出て馬に乗ろうとしたが、疲れからか体がふらつくと横からアシュレイ様が支えてくれた。
「顔色が悪い。今日はやっぱりここで休もうか」
「誰のせいでしょうか」
何とか宿を出たところで十数名の集団に囲まれてしまった。
私は盗賊かと驚いて身を竦めてアシュレイ様にしがみついた。
「レオナル様!」
「若君!」
口々にその集団はアシュレイ様に話しかけてきた。
「若君?」
私はアシュレイ様を見上げた。
「従者もつれず、供の者もいつもまいてしまって、一体どういうおつもりですか!」
「まあまあ、悪かった」
アシュレイ様が苦笑しながら彼らに答えていた。一部の者は私の方を見ているけど不躾な感じではなかった。
「ああ、彼女は叔母上の修道院から連れてきた私の妻だ」
「つ、妻ですと?」
集団が大きくざわめいてその中の二人ほどが先触れをと馬を走らせた。
「あ、あの、アシュレイ様、一体、あなたは」
「うーん。そういや言ってなかったか。一応、私は辺境伯カーステア家の跡取りだ」
「辺境伯!」
私はアシュレイ様の言葉に呆然としているとアシュレイ様はそんな私の様子に構わず馬を走らせた。
街道は徐々に整備されたものに変わっていく。メロウ夫人のお供で訪れた王都よりよっぽど整備されていた。
辺境伯。私はアシュレイ様の言葉を思い返していた。
他国と接しているカーステア領はこの王国において最大の独立自治区だった。
王国に従しているとはいえその自治は自由に任されている。何故なら彼の地は海と山を従え他国との窓口となっており、いざとなれば戦の最前線となるからだ。
流石に私でもその地の名は知っていた。今まで訪れることはなかったけれど、交易も盛んなことから王国にあってそれではない異国めいた中心部の風情もよく噂に聞いたことがあった。
「どうしてそんな方が……」
二人で馬に乗って街道を抜けて、時折商隊やほかの旅人とすれ違う。今まで修道院の中しか知らなかったので見るものは何もかも珍しかった。
ただ、一日中馬に乗るというのには慣れていなかったのですぐに体のあちこちが痛くなっていた。休みをとりながらであるもののそれは正直大変だった。
「今日も寝台は一つですか?」
私は通された部屋を見てつい声にだしてしまった。何をという顔でアシュレイ様はしていたけど昨日と同じ様な湯桶が用意されていた。そして、私は衣類を全て剥ぎ取られてしまった。
「さあ、洗ってやる」
「い、いえ自分で」
「そんな、よろよろの疲れ切った感じでは難しいだろう」
私はどうしていいのか分からなくなって今日も身体を洗われることになった。
「何か、離れてないか?」
翌朝、出かける準備をするものの近寄ってくるアシュレイ様からつい離れると怪訝そうに尋ねられるが仕方がない。
「それは、ご自分の胸に聞いてください」
朝からアシュレイ様は爽やかな顔で考えていたけれどやっと思い当ったみたいで笑みを浮かべた。
「ああ、でも、まだ最後までしてないぞ」
「ば、アシュレイ様のばかばか」
私はついアシュレイ様の背中をぐうで叩いた。
「まあ、疲れているから綺麗に洗っただけだし、そのついでにちょっと丁寧に触っても問題なかろう。心配するな」
「もう、知りません」
アシュレイ様からは高らかな笑いを返されただけった。しかし急に真顔になるとアシュレイ様は私をそっと抱きしめて、耳元に囁いた。
「君はもう私だけのものだからな」
その言葉に私は耳まで真っ赤に染めた。
アシュレイ様は私のその反応にご機嫌だった。
今日も二人で街道を進んだ。だんだん進むにつれ、道が整ってきて人の通りも多くなっているような気がする。
そういえば何処に向かっているのか尋ねていなかった。
「アシュレイ様の領地はどのあたりなんですか」
「んーん。後二日くらいかな」
今まで村に近い風景だったが、今は周囲は村から町といった感じになっていった。
そして今日の宿は今までより大きくて豪華だった。
アシュレイ様が入っていくと宿の受付の者がアシュレイをじっと見た。
「ようこそ、当宿屋へいらっしゃいました。どうぞ、こちらへ、当店最上級のお部屋にご案内いたします」
「いや、普通の部屋でいい」
アシュレイ様はそう言い受付の方に何かを耳打ちをした。その方は黙って肯いたようだった。
「では、ご案内いたします」
そこは今までのよりとても良い部屋だった。でもまた寝台は一つだった。
「アシュレイ様、あの寝台が……」
「どうやら、今日も他の部屋は満室らしい」
そういってニッコリと微笑まれたら仕方がなかった。でも正直ここのところよく眠れていない。自分の横ですやすやと眠るアシュレイ様を何度か叩き起こそうかと思ったほどだ。
そして、昨日と同じように体を洗って触ってくる。
でも今日はさらに……。こんなことはいけないと思いつつ逆らえるはずはなかった。
「も、もう。ダメです」
翌朝、いつもならとっくに起きて身支度をすませているアシュレイ様が寝台から起き上がらず私の体を触ってくる。気を抜くとまた悪さをし始めるから安心できなかった。
「もう朝なんですから、起きます」
そう叱ってみるが、アシュレイ様はなかなか離してくれなかった。
「今日は嫌な予感がする」
身支度をしながらアシュレイがぼそりと呟いた。このところの寝不足で私も不機嫌になっていたのでそれを無視した。
いつもより遅めに宿を出て馬に乗ろうとしたが、疲れからか体がふらつくと横からアシュレイ様が支えてくれた。
「顔色が悪い。今日はやっぱりここで休もうか」
「誰のせいでしょうか」
何とか宿を出たところで十数名の集団に囲まれてしまった。
私は盗賊かと驚いて身を竦めてアシュレイ様にしがみついた。
「レオナル様!」
「若君!」
口々にその集団はアシュレイ様に話しかけてきた。
「若君?」
私はアシュレイ様を見上げた。
「従者もつれず、供の者もいつもまいてしまって、一体どういうおつもりですか!」
「まあまあ、悪かった」
アシュレイ様が苦笑しながら彼らに答えていた。一部の者は私の方を見ているけど不躾な感じではなかった。
「ああ、彼女は叔母上の修道院から連れてきた私の妻だ」
「つ、妻ですと?」
集団が大きくざわめいてその中の二人ほどが先触れをと馬を走らせた。
「あ、あの、アシュレイ様、一体、あなたは」
「うーん。そういや言ってなかったか。一応、私は辺境伯カーステア家の跡取りだ」
「辺境伯!」
私はアシュレイ様の言葉に呆然としているとアシュレイ様はそんな私の様子に構わず馬を走らせた。
街道は徐々に整備されたものに変わっていく。メロウ夫人のお供で訪れた王都よりよっぽど整備されていた。
辺境伯。私はアシュレイ様の言葉を思い返していた。
他国と接しているカーステア領はこの王国において最大の独立自治区だった。
王国に従しているとはいえその自治は自由に任されている。何故なら彼の地は海と山を従え他国との窓口となっており、いざとなれば戦の最前線となるからだ。
流石に私でもその地の名は知っていた。今まで訪れることはなかったけれど、交易も盛んなことから王国にあってそれではない異国めいた中心部の風情もよく噂に聞いたことがあった。
「どうしてそんな方が……」
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