完【R15】盗賊騎士と愛を知らない修道女

えとう蜜夏☆コミカライズ中

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三章 新たな世界へ

二十四 初めての旅路

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 そのまま私は寝台に押し倒された。まさかという思いと夫婦になると自分から言ったので仕方ないと腹をくくったが、それ以上はなにも起こらず、覆いかぶさったままで規則正しい寝息が私の耳をくすぐった。

「……おやすみなさい。アシュレイ様。私の方こそあなたのお側にいても良いですか?」



 翌朝は良く晴れて気分のいい朝だった。目覚めると隣にもうアシュレイ様の姿はなかったが、隣に残された温もりが安心させた。アシュレイ様の腕の中はとても心地良かった。

 私は寝台から降りて衣服を整えると貴婦人に合わせた遅めの食卓に座った。

「まあああ、お早いことね。本当に大丈夫なのかしら」

 緑の貴婦人からの冷たい視線を受けてもアシュレイ様はどこ吹く風の風情であった。私は別にやましいことはないのに恥ずかしくて俯いてしまった。

「叔母上、今日、領地に戻ります」

「あら、そう、いいじゃない」

 アシュレイ様は私の方に一瞬視線を向けたがすぐ緑の貴婦人に戻した。

「荷物は後から届けてください」

「まさか、二人でいくつもり? そんなことは認めませんよ」

「……準備ができ次第出発します」

 アシュレイ様はメロウ夫人の言葉に取り合わずナプキンを畳み静かに席をたった。普段からアシュレイ様の動作はあまり無駄が無いし、どうかしていると気配が分からなくて時々びっくりさせられることがある。私も慌てて席を立ちその後を追った。

「こんなに急がなくても……」

 アシュレイ様は足を止めて私を見るとその頬に触れてきて耳元に囁いた。

「……もう、あまり待てそうにない」

 それはあの峻烈な瞳のものではなく、何だかとても甘く熱く感じられた。

「それは……」

「ということなんだ。家の領地の司祭様にも先に知らせてお願いしてある」

 咳払いをして、いささか恥ずかしそうな様子でアシュレイ様はまた歩き出した。

 私はロタさんに旅がし易い服装を選んでもらった。

 その日のうちにアシュレイ様の領地に二人で慌ただしく旅立つことになった。

 館の皆とは名残惜しげに別れをかわした。そして、アシュレイ様の愛馬であるシェルに乗せてもらうことになった。この半年の間、緑の館で馬に乗る練習をしていたので慣れてきたがまだまだ難しかった。

 シェルは私を乗せると嬉しそうにいなないた。

「こいつ、私と違って軽いから喜んでいるな」

「そうなんですか。でも、とても乗りやすいです」

「疲れたら言ってくれ。休むから」




 それから、二人で馬を走らせてメロウ夫人の森を出るとき、私は馬を止めて振り向いた。アシュレイ様も馬を止めて私と並んだ。

「また、いつでも会えるさ。なんたって本当に叔母になるんだから」

「そうですね。でも、ここで私の運命が……」

 私の見つめる風景が不意に揺らいだ。

 そっとアシュレイ様が頭を撫でてくれた。名残惜しかったけれどアシュレイ様に促されて馬を進めた。



 その日の夕方、宿には早めに着いた。私にとって初めての旅にアシュレイ様がゆったりとした計画をしていてくれたのだろう。ただ部屋に寝台が一つなのが気になるが、後はこぎれいなところだった。

「湯を使わせてほしい」

 アシュレイ様が宿の主人に頼んでいた。マントを脱いでいるとほどなく部屋に湯桶が運ばれた。

「えっと、これは」

 宿の者が奥さんにといって手桶を渡して部屋を出て行ったので、二人きりになってしまった。

 ……奥さんって、そう思い固まってしまった。

「先に使うか?」

 アシュレイ様が普通に聞いてきた。

 この部屋で? あなたがいるのに。私は更に固まってしまった。その様子にアシュレイ様はため息をついた。

「今更、恥ずかしがっても。夫婦になるんだぞ。それにもう全部見たことある」

 そう言ってアシュレイ様はにやりと笑いを浮かべたものの、いや全部というほどでもないかど付け加えていた。

「ひ、一人でできます」

「ああ、分かったから。急げ、湯が冷める」

 そう言うとアシュレイ様は容赦なく私を裸にしたあと、湯桶に浸からせ手桶で湯をかけてきた。

「あ、あの」

 私が断る間もなくアシュレイ様は手早く肌を触って洗っていく。それが終わったあと、私はくったりと寝台に横になった。

 アシュレイ様は自分で手慣れた様子で手早く済ませていた。私はそれを眺めながら、やっぱり私がするはずだったのかしら、でも恥ずかしくてそんなこと出来るわけがないと思っていた。

 私はまだ自分の触れられた肌にアシュレイ様の手の感覚がまだ体中に残っているようで、いや体の奥がヘンな感じだった。

「どうした? 疲れたか?」

 気がつくとアシュレイ様が身支度を終えて覗き込んできていた。大丈夫だというように首を横に振るとアシュレイ様が横に体を添わせてきてきた。

「手慣れてますよね」

「まあな。いろんなところに潜り込んだりしていたからな。そこら辺の貴族の坊ちゃんと一緒にしないでくれよ」

 今夜は疲れているだろうとアシュレイ様は早々に背中を向けて寝息をたてて始めた。
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