完【R15】盗賊騎士と愛を知らない修道女

えとう蜜夏☆コミカライズ中

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二章 緑の貴婦人の館

十七 宣告が下された

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「どうした。気分が悪いのか?」

 アシュレイ様の心配そうな声で私は悪夢から一瞬で覚めた。

 射貫くようなあの暗褐色の瞳の強い視線を受けるとここは間違いなく今の現実なのだと妙に安心してしまった。

 アシュレイのその問いに私は謎めいた微笑みで応じてみせた。

 メロウ夫人から伝授されたレディとやらの微笑みだった。これを会得するまで鏡でかなり練習を積んだ。それは上手くいったみたいでのアシュレイ様は見る間に頬を赤くしていた。

 扇子でも持っていれば、してやったりと口元を隠して笑えるけれど今は持ってないので目線を落すだけにした。

「叔母上、少し二人きりにして欲しい」

「まあ、未婚のレディと二人きりにさせて欲しいと言うのなら、あなたは本当に覚悟を決めないといけないわね」

 メロウ夫人がそんなことを仰っるとアシュレイ様は黙って肯いたようだった。

「では、少しだけですよ。リリーが困ることはおやめなさいな。リリーも嫌だと思ったらすぐ呼びなさい。私達が飛んできますからね」

 メロウ夫人はそう言うと優雅に立ち上がって部屋から出ていかれた。

 アシュレイ様と二人きりにされると気まずい雰囲気になってしまった。

 一体なんの覚悟が必要なのだろうか? やっぱりあの修道院に帰されるということなのかしら?

 客間は重い沈黙のまま時間が過ぎた。

「……君の名前は?」

 再度、何かを確認するようにアシュレイが尋ねてきた。

「リリーです」

「それはここでの呼び方だろう。本当の名前は?」

「本当の名?」

 どうして今更そんなことを聞いてくるのかと不快に思うと同時に不安もになった。

「リリーしかありません」

「本当に?」

 アシュレイ様が席を立って私の傍まで来ると顔を覗き込むように尋ねてきた。

 まるで罪人を尋問でもするかのように、確かに彼は王国騎士として活躍していたから、そういうことには慣れているのかもしれない。

 しかし、私に自分の名前が本当かと訊ねられても、それしか知らないし、両親の名前ですら私は知らされていない。

 後は醜いネズミだとか。グズとかでしか呼ばれなかった。

 先の院長だけがリリーと呼んでくれた。だからそれしか分からないのだから仕方が無かった。

 私はただ肯くしかなかった。アシュレイ様はそれに大きくため息をついた。

 間近にあの赤褐色の瞳が瞬いて、目を逸らせたいのに逸らすことも出来ずにお互いが見合っていた。

 暫くするとアシュレイ様の方が気まずそうに視線を逸らせた。

「君の年は?」

「多分、今年二十歳になるかと」

「多分?」

「……」

 自分の誕生日など知らない。年に一回、修道院全体の誕生を祝うことはあるが個人のはしていない。外から入ってきた人などは内々にしているみたいだったが自分などは生まれた時から修道院の中だった。

 本当にアシュレイ様は私を苛めるのがお好きなのだろうかとつい表情にでてしまった。それをどう思ったのか、アシュレイ様はもっと苦い顔をされていた。

「君をこのままここに置いておくことはできない」

 アシュレイのその言葉は私を思考停止にさせた。

 それは、また自分をあの牢獄のようないやそれ以下の世界の戻そうすることなのだ。

 私は頭から冷たいものを浴びせられたように動けなくなってしまった。
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