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二章 緑の貴婦人の館
十六 新たな道へ
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アシュレイも馬には乗らず私の後をついてきた。
これ以上話しかけられるのが嫌でつい早歩きになったので館にはすぐ着くことができた。
美しい館を見ると先程までの悪夢が薄れてきた。
いつものように庭で作業をしていたジョンが私達の姿を見て声を上げる。
「やっと坊ちゃんのお出ましだ。メロウ様が首を長くしてお待ちしておりましたよ」
ジョンがそう言いながら貴婦人に訪れを伝えにいったようだった。アシュレイは馬を小屋に繋ぎに向かった。
「また、後でゆっくり」
私はそう言ってきたアシュレイの背中に思いっきりしかめっ面をしてみた。
私が館の中に入るとロタさんから急いで着替えるようにと言われて着替えのドレスまで持ってきていた。
いつもは気軽な服装で許してくれていたのに珍しい。マナーの練習で着飾らされて嫌なのにどういうことかしら。
ロタさんに手伝ってもらって大慌てで着替えると用意されていたドレスは正式に近い服装だった。
まさかアシュレイ様のために着飾ったのかしら? まさかね。
私は着飾ってまるで別人のような自分の姿に閉口しながら客間へ入った。
既にメロウ夫人とアシュレイ様は席に座っていて、客間にはお茶の芳香が満たしていた。
「こんな、ばかな……」
アシュレイ様は一瞬私をご覧になると呻き声のようなものを上げかけて立ち上がりそうになった。
それでも貴族としてのプライドか辛うじて思い留まって紳士的な態度をしていた。
ただそのあとも私の方を食い入るように見つめているのはやめて欲しい。
確かに今の私はあの修道院の醜い老婆でもガリガリの痩せっぽっちの案山子でもありませんので珍しいのは分かります。私自身もこの半年でこんなに変わるとは思ってもみませんでしたから。
アシュレイ様が私の変わりように何かまた失礼な事でも言ってくるのかと私は身構えていた。
ああ、そうか人間かと訊ねられましたもの。今度はどんなことをおっしゃるのかしら?
私はアシュレイ様の視線を無視していた。
でも、そうは言っても一応自分にとっても恩人だし、彼は世間では盗賊団殲滅の英雄様らしい。
世間の読み物などではアシュレイの名前をもじった英雄譚が語られているみたい。
だけどそれとこれとは別だ。ばかなとはこっちが言いたい。
「……叔母上の仰る通りです」
アシュレイ様は苦々しそうにそれだけを言い放った。メロウ夫人はその答えに満足したように肯いていた。
何のことか皆目分からなかったけれど自分が来るまでに既に話し合っていたようだった。
もしかしたら、とうとう私の行く先が決まったのかもしれない。
私はまたあの修道院へ戻される悪夢にふらりとした。
ここに来た頃はこの生活の方が夢だったと夜中に飛び起きることが何度もあった。最近は見ることが無くなってきたのに。
これ以上話しかけられるのが嫌でつい早歩きになったので館にはすぐ着くことができた。
美しい館を見ると先程までの悪夢が薄れてきた。
いつものように庭で作業をしていたジョンが私達の姿を見て声を上げる。
「やっと坊ちゃんのお出ましだ。メロウ様が首を長くしてお待ちしておりましたよ」
ジョンがそう言いながら貴婦人に訪れを伝えにいったようだった。アシュレイは馬を小屋に繋ぎに向かった。
「また、後でゆっくり」
私はそう言ってきたアシュレイの背中に思いっきりしかめっ面をしてみた。
私が館の中に入るとロタさんから急いで着替えるようにと言われて着替えのドレスまで持ってきていた。
いつもは気軽な服装で許してくれていたのに珍しい。マナーの練習で着飾らされて嫌なのにどういうことかしら。
ロタさんに手伝ってもらって大慌てで着替えると用意されていたドレスは正式に近い服装だった。
まさかアシュレイ様のために着飾ったのかしら? まさかね。
私は着飾ってまるで別人のような自分の姿に閉口しながら客間へ入った。
既にメロウ夫人とアシュレイ様は席に座っていて、客間にはお茶の芳香が満たしていた。
「こんな、ばかな……」
アシュレイ様は一瞬私をご覧になると呻き声のようなものを上げかけて立ち上がりそうになった。
それでも貴族としてのプライドか辛うじて思い留まって紳士的な態度をしていた。
ただそのあとも私の方を食い入るように見つめているのはやめて欲しい。
確かに今の私はあの修道院の醜い老婆でもガリガリの痩せっぽっちの案山子でもありませんので珍しいのは分かります。私自身もこの半年でこんなに変わるとは思ってもみませんでしたから。
アシュレイ様が私の変わりように何かまた失礼な事でも言ってくるのかと私は身構えていた。
ああ、そうか人間かと訊ねられましたもの。今度はどんなことをおっしゃるのかしら?
私はアシュレイ様の視線を無視していた。
でも、そうは言っても一応自分にとっても恩人だし、彼は世間では盗賊団殲滅の英雄様らしい。
世間の読み物などではアシュレイの名前をもじった英雄譚が語られているみたい。
だけどそれとこれとは別だ。ばかなとはこっちが言いたい。
「……叔母上の仰る通りです」
アシュレイ様は苦々しそうにそれだけを言い放った。メロウ夫人はその答えに満足したように肯いていた。
何のことか皆目分からなかったけれど自分が来るまでに既に話し合っていたようだった。
もしかしたら、とうとう私の行く先が決まったのかもしれない。
私はまたあの修道院へ戻される悪夢にふらりとした。
ここに来た頃はこの生活の方が夢だったと夜中に飛び起きることが何度もあった。最近は見ることが無くなってきたのに。
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