完【R15】盗賊騎士と愛を知らない修道女

えとう蜜夏☆コミカライズ中

文字の大きさ
上 下
15 / 35
二章 緑の貴婦人の館

十四 盗賊の男(アシュレイ視点)

しおりを挟む
 アシュレイは盗賊団殲滅の事後処理に思ったより手間取ってしまっていた。

 あれから半年が経とうとしていた。洞窟の修復と盗品の返還などのもろもろが特に酷くそれぞれが利益を主張して纏まるものも纏まらなかった。

 それに国王が人気取りのために派手な祝勝会を何度も開くのにも閉口していた。夜会なんかは昔から苦手だった。着飾った孔雀のような女達に囲まれるのもいい加減嫌になる。

 褒めるなら金を出せ人をだ出せと怒鳴りたくなる。もちろん使えるヤツだ。綺麗事だけを口に乗せる女たちを見てもアシュレイは嬉しくない上に幻滅していくだけであった。

 それもそれなりに楽しいものであったが、いい加減こう同じことばかりで飽きてくる。いっそ盗賊たちを追い詰める方がぞくぞくするほど面白い。

 ふと、あの修道女だったら今の自分にどう言うだろうかと思うと少し気が晴れた。宮廷の馬鹿騒ぎを見ながらアシュレイは俯くふりをして大きなため息をやり過ごした。

 そうした中、アシュレイは叔母である緑の貴婦人からの手紙が届いた、あれからそれだけの日が過ぎていたことに気がついた。

 そう言えば結局あの修道女の素性は分からなかった。

 結局身代金も支払いはされていなかった上に行方の分からない修道女はいないとの返事であった。他にも雑務があったので、それ以上は詮索してはいない。

 何かの手違いかもしれないし、あの女は帰りたくなさそうであったけれどこれくらい日が過ぎたら気持ちも変わっているかもしれない。

 戻りたいというなら修道院に戻すまでだ。嫌だと言ったらもう少し叔母のところに居させてもいいだろう。あの女は少々変わっていて面白いから叔母も話し相手に良いに違いない。

 叔母の所なら自分がからかいに出かけたとしても周囲からとやかく言われないだろう。

 それにしても、叔母からの手紙にはすぐに来るようにとの文面だったが、何かあったのだろうか?

 逃げ出したとかいうのでは無さそうだし。そろそろ休みも欲しかったので構わないが……。





 アシュレイが緑の貴婦人の館へ行く途中、森の中で水音がした。

 そう言えばここには湧水の泉があったと馬を横道に逸らせた。

 もうすぐ館であるが、今日は少し暑い、水音を聞くと我慢できそうになかった。小道に入って、アシュレイが馬から降りて進むと水音が大きくなった。

 魚ではない誰か水浴びしているのかもしれない。アシュレイは静かに途中の木に馬の手綱を括りつけた。

 ぱしゃんと一際大きな水音がしたのでそっと木立からアシュレイは覗いてみた。

 そこには銀色の長い髪の美しい女が白い裸体で泳ぐように水につかっていた。

 妖精か女神か……。

 アシュレイはその姿のあまりの美しさにただ見入っていた。そのうち、ばしゃばしゃと水音が乱れた。

 はっとして我に返ると泉の中ほどで女性は溺れているようだった。アシュレイは身に着けていたマントなど重くなりそうなものを素早く脱ぎ捨てて飛び込んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる

有木珠乃
恋愛
休日、入社したての会社の周りを散策していた高野辺早智。 そこで、中学校に入学するのを機に、転校してしまった幼なじみ、名雪辰則と再会する。 懐かしさをにじませる早智とは違い、辰則にはある思惑があった。 辰則はもう、以前の立場ではない。 リバーブラッシュの副社長という地位を手に入れていたのだ。 それを知った早智は戸惑い、突き放そうとするが、辰則は逆に自分の立場を利用して強引に押し進めてしまう。 ※ベリーズカフェ、エブリスタにも投稿しています。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

その神子は胃袋を掴まれている

成行任世
恋愛
ーーー私は出来損ないだから とある事情で、辺境の館に暮らす盲目の公爵令嬢シャーロット。家族からも使用人からも冷遇されていた彼女のもとに、ある日突然毛色の違う使用人達が現れる。 「今日は野菜スープが飲みたいです」 これは、心優しき盗賊と冷遇される神子の始まりの物語。 ※この物語は、身体に障害を持つ方を差別するような表現がありますが、そのような意図は一切ありません。 ご了承下さい。

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...