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一章 醜いあひると盗賊
十一 逃げ延びた先は
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私は男に抱き抱えられているだけであっというまに山の麓まで降りてしまった。
男は麓の一軒の民家に立ち寄ると出てきた人と話をしていたが、どうやら男と顔見知りで私を預けるように話すとまたすぐに男は来た道を戻っていった。
「あ、あのっ」
私は立ち去る男に声を掛けたが届かなかったようだった。
「夜ももう遅い、明け方まで休んでください」
その男はトムと名乗ると部屋へ案内してくれて私は疲れもあってその寝台に横になると目を閉じた。
普通は名乗るのが当たり前なのよ。あの人は何も言わなかった。名前も説明も何も。
私はお礼も言えなかった男へ文句を言いながら眠ってしまった。
――夜明け前に私は再び揺り起こされた。
威圧的な気配を感じ暗闇の中で私は起き上がった。
「悪いが意志を確認したい。あなたが修道院に帰りたいなら今すぐにでも送ろう」
薄暗い部屋の中で男のあの赤褐色の瞳が静かにリリーを捉えていた。
「……修道院には帰りたくありません。帰る場は無いのです」
まだ、半覚醒の頭でやっとそう言えた。
寝惚けていたから本音が素直に言えたのかもしれない。
男はそうかとだけ言って私を外に連れ出した。
「馬は乗れるか?」
男は一人で乗れるのかと尋ねたようだったので私は首を横に振った。
男はそれを見るとここに来た時のように一緒に馬に乗せてそのまま男は何も言わず馬を進めた。
まだ暗い早朝の道を馬が軽やかに駆けていく。
一体どこまでいくのだろう? どうせあの修道院に戻されるだけよね。
結局自分には身寄りもなく他に行くところは無いのだから。
しかし、どう見ても馬の行先は修道院では無かった。
修道院のある麓の町を抜けてさらに馬は進んだ。やがて鬱蒼とした森が見えてきた。
……まさか、面倒だからと口封じに森に捨てられて殺されるのでは?
私は怯えるようについ彼を見上げた。すると男は走る速度を緩めると
「ここには私の知り合いがいる。暫くはそこでいてくれ。落ち着いたらあなたの行先を探そう」
「どうして、そんな……」
私は思わず男をよく見ようと体を捻じった。バランスが崩れそうになったがそれも男に支えられて何も無かったように馬を進めた。
「あなたは命の恩人だ。私は恩には恩を返す」
男は静かな様子で前を向いて手綱を取っていた。
よく見れば男の疲れている様子を感じて余計なことを言わないようにしようと私は黙ることにした。
森の中程までくると見事な囲いと屋敷が見えてきた。ここまでに何度か休みながら来たがもう夕方遅くになっていた。
「ここは緑の貴婦人と呼ばれる女性が住んでいる」
男がそう説明するとやや馬のスピードを落とした。
もしかして、この男の妻かもしれない。私はそんなことを考えつくと何故か胸の奥がちりっと痛んだ。
自分にそんなことを考える資格などはないのに。
男は家の囲いの中を抜けて館の前まで馬を進めた。すると庭館の庭先で作業をしていた壮年の男が声を掛けてきた。
「おやまあ、坊ちゃん! お久しぶりです」
「久しぶりだな。ジョン。主人を呼んでくれ」
作業をしていた男は手を止めて、慌てたように館に入って行った。
すると館の扉が慌ただしく開いた。中から濃緑のドレスを纏った艶やかな美女が微笑みながら出てきた。
「随分ご無沙汰だったわね? アシュレイ。それに、相変わらずいきなり来るのね。困った子」
男は麓の一軒の民家に立ち寄ると出てきた人と話をしていたが、どうやら男と顔見知りで私を預けるように話すとまたすぐに男は来た道を戻っていった。
「あ、あのっ」
私は立ち去る男に声を掛けたが届かなかったようだった。
「夜ももう遅い、明け方まで休んでください」
その男はトムと名乗ると部屋へ案内してくれて私は疲れもあってその寝台に横になると目を閉じた。
普通は名乗るのが当たり前なのよ。あの人は何も言わなかった。名前も説明も何も。
私はお礼も言えなかった男へ文句を言いながら眠ってしまった。
――夜明け前に私は再び揺り起こされた。
威圧的な気配を感じ暗闇の中で私は起き上がった。
「悪いが意志を確認したい。あなたが修道院に帰りたいなら今すぐにでも送ろう」
薄暗い部屋の中で男のあの赤褐色の瞳が静かにリリーを捉えていた。
「……修道院には帰りたくありません。帰る場は無いのです」
まだ、半覚醒の頭でやっとそう言えた。
寝惚けていたから本音が素直に言えたのかもしれない。
男はそうかとだけ言って私を外に連れ出した。
「馬は乗れるか?」
男は一人で乗れるのかと尋ねたようだったので私は首を横に振った。
男はそれを見るとここに来た時のように一緒に馬に乗せてそのまま男は何も言わず馬を進めた。
まだ暗い早朝の道を馬が軽やかに駆けていく。
一体どこまでいくのだろう? どうせあの修道院に戻されるだけよね。
結局自分には身寄りもなく他に行くところは無いのだから。
しかし、どう見ても馬の行先は修道院では無かった。
修道院のある麓の町を抜けてさらに馬は進んだ。やがて鬱蒼とした森が見えてきた。
……まさか、面倒だからと口封じに森に捨てられて殺されるのでは?
私は怯えるようについ彼を見上げた。すると男は走る速度を緩めると
「ここには私の知り合いがいる。暫くはそこでいてくれ。落ち着いたらあなたの行先を探そう」
「どうして、そんな……」
私は思わず男をよく見ようと体を捻じった。バランスが崩れそうになったがそれも男に支えられて何も無かったように馬を進めた。
「あなたは命の恩人だ。私は恩には恩を返す」
男は静かな様子で前を向いて手綱を取っていた。
よく見れば男の疲れている様子を感じて余計なことを言わないようにしようと私は黙ることにした。
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自分にそんなことを考える資格などはないのに。
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「おやまあ、坊ちゃん! お久しぶりです」
「久しぶりだな。ジョン。主人を呼んでくれ」
作業をしていた男は手を止めて、慌てたように館に入って行った。
すると館の扉が慌ただしく開いた。中から濃緑のドレスを纏った艶やかな美女が微笑みながら出てきた。
「随分ご無沙汰だったわね? アシュレイ。それに、相変わらずいきなり来るのね。困った子」
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