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一章 醜いあひると盗賊
十 盗賊団の洞窟にて
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私の顔もまた手と同じようだった。
日にあたりそばかすと調合の煙で顔もまるで老人のような皮膚になっている。
盗賊達が自分を老婆と蔑むはずだった。
ああ、そう言えば、この男は私のことをガリガリだと言ったわね。
ふいに前を行く男が足を止めた。
すると男は洞窟の窪みに私を押し込めて隠すようにした。
すぐに向こうからバタバタと荒々しい足音が聞こえてきた。
どうやら逃げ出してきた盗賊の残党に行き会ったようだった。
しかし、待ち伏せしていた男は難なく盗賊達を切り倒していった。
盗賊達の断末魔の悲鳴と洞窟内の煙と血の匂いで私は眩暈を感じてしまい、壁に思わず寄りかかってしまった。
男は手慣れた感じで刃の血糊を振りきると鞘にそれを収めた。
男の方が圧倒的な強さでそれは戦闘とは言えないものであったが、全てを切り倒した男が近寄ってきたときに少し怯えてしまった。
今までの生活のなかで男性とこのように接することは勿論のこと、戦いなど無縁だったし、寧ろ争いはいけないと諭す側で暮らしていたのだ。
教会内でも争いはあったけれどこのような戦いは無かった。
男は私の恐れに気づいたようだった。
「怖がらせたようだな」
「……いえ」
初対面のときは失礼な男と思ったが、意外と他人の機微が分かるのね。
時折、洞窟内を炎の紅い光が照らしだし、男の金色の髪までも燃えるように輝いた。
それでも、そんな紅蓮の炎の中でもあの赤褐色の瞳だけは、それ以上の輝きを放っていた。
こんなときにと思いながら私はついその男から目が離せずにいた。
ふと男に問わずにはいられなかった。
「……恐れはないのですか?」
「戦いには慣れているからな」
男は何事も無くそう言うと私の質問を特に気にせず手を差し伸べてきた。
「そうではなく、人の命を……、いえ、傷つけることにです」
私は人の命を奪うと言いかけて止めてしまった。
そこまで言う権利が私にあるのか、急に自信が無くなってしまったからだ。
彼が盗賊をそうしなければ逆に私達は殺されていたかもしれないのだ。
自分はどうとでもいいと言いながらやはり間近に見た戦闘で私は改めて死の恐ろしさに体の方が震えてきていた。
私の言葉に男は一瞬あの赤褐色の目を少し見開いたが、男はまたにやりと皮肉な笑みを口元に浮かべた。
「修道女殿、悪いが今は懺悔の時間じゃないな。それに懺悔しだすとキリが無いんでね」
変わらず炎の燃え盛る音と人々の怒声が辺りに響いていた。
それでも男の言葉は、はっきりと耳に届いた。
そして男はあの峻烈な雰囲気をその身に纏って周囲を威圧する輝きを放っていた。
男は私を見つめながら続けた。
「自分は使命をもって行っている。今は何よりあなたの命の安全が最優先だ」
その後、彼は一瞬肩を竦めてみせた。
「そして、いつか自分にその報いを受けるときがあればその時は受け入れるつもりだ」
男は差し出していた手を引っ込めると私に背中を向けて再び歩き出した。
その背中を眺めながら余計なことを言ってしまったと酷く後悔した。
……少なくとも自分を助けてくれようとしている人に言うべきことでは無かったわよね。
私は煙を吸わないように頭巾の端で口元を抑えながら男の後を必死で追った。
でも彼の速度は速すぎて、男の速度に合せると息が上がってきてしまう。
やっと洞窟の外に出ると木に繋がれていた馬に乗せられた。
だけど私は今まで馬になど乗ったことはなかった。
戸惑っていると男が無言でその後ろに飛び乗り見事な手綱さばきで山道を下り始めた。
日にあたりそばかすと調合の煙で顔もまるで老人のような皮膚になっている。
盗賊達が自分を老婆と蔑むはずだった。
ああ、そう言えば、この男は私のことをガリガリだと言ったわね。
ふいに前を行く男が足を止めた。
すると男は洞窟の窪みに私を押し込めて隠すようにした。
すぐに向こうからバタバタと荒々しい足音が聞こえてきた。
どうやら逃げ出してきた盗賊の残党に行き会ったようだった。
しかし、待ち伏せしていた男は難なく盗賊達を切り倒していった。
盗賊達の断末魔の悲鳴と洞窟内の煙と血の匂いで私は眩暈を感じてしまい、壁に思わず寄りかかってしまった。
男は手慣れた感じで刃の血糊を振りきると鞘にそれを収めた。
男の方が圧倒的な強さでそれは戦闘とは言えないものであったが、全てを切り倒した男が近寄ってきたときに少し怯えてしまった。
今までの生活のなかで男性とこのように接することは勿論のこと、戦いなど無縁だったし、寧ろ争いはいけないと諭す側で暮らしていたのだ。
教会内でも争いはあったけれどこのような戦いは無かった。
男は私の恐れに気づいたようだった。
「怖がらせたようだな」
「……いえ」
初対面のときは失礼な男と思ったが、意外と他人の機微が分かるのね。
時折、洞窟内を炎の紅い光が照らしだし、男の金色の髪までも燃えるように輝いた。
それでも、そんな紅蓮の炎の中でもあの赤褐色の瞳だけは、それ以上の輝きを放っていた。
こんなときにと思いながら私はついその男から目が離せずにいた。
ふと男に問わずにはいられなかった。
「……恐れはないのですか?」
「戦いには慣れているからな」
男は何事も無くそう言うと私の質問を特に気にせず手を差し伸べてきた。
「そうではなく、人の命を……、いえ、傷つけることにです」
私は人の命を奪うと言いかけて止めてしまった。
そこまで言う権利が私にあるのか、急に自信が無くなってしまったからだ。
彼が盗賊をそうしなければ逆に私達は殺されていたかもしれないのだ。
自分はどうとでもいいと言いながらやはり間近に見た戦闘で私は改めて死の恐ろしさに体の方が震えてきていた。
私の言葉に男は一瞬あの赤褐色の目を少し見開いたが、男はまたにやりと皮肉な笑みを口元に浮かべた。
「修道女殿、悪いが今は懺悔の時間じゃないな。それに懺悔しだすとキリが無いんでね」
変わらず炎の燃え盛る音と人々の怒声が辺りに響いていた。
それでも男の言葉は、はっきりと耳に届いた。
そして男はあの峻烈な雰囲気をその身に纏って周囲を威圧する輝きを放っていた。
男は私を見つめながら続けた。
「自分は使命をもって行っている。今は何よりあなたの命の安全が最優先だ」
その後、彼は一瞬肩を竦めてみせた。
「そして、いつか自分にその報いを受けるときがあればその時は受け入れるつもりだ」
男は差し出していた手を引っ込めると私に背中を向けて再び歩き出した。
その背中を眺めながら余計なことを言ってしまったと酷く後悔した。
……少なくとも自分を助けてくれようとしている人に言うべきことでは無かったわよね。
私は煙を吸わないように頭巾の端で口元を抑えながら男の後を必死で追った。
でも彼の速度は速すぎて、男の速度に合せると息が上がってきてしまう。
やっと洞窟の外に出ると木に繋がれていた馬に乗せられた。
だけど私は今まで馬になど乗ったことはなかった。
戸惑っていると男が無言でその後ろに飛び乗り見事な手綱さばきで山道を下り始めた。
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