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一章 醜いあひると盗賊
九 突然の逃亡劇
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それは夜半に行われたようだった。
洞窟内に響く足音と怒声に何かあったのかと目を覚ました。
だけど、牢の中では何も分からずどうすることも出来なかった。
洞内を響く悲鳴と逃げ惑うような足音が牢の所まで届いていた。切れ切れに王国騎士団が来たとの叫び声が聞こえてきた。
「王国騎士が……、助けに来てくれたというの。まさか……」
「遅くなったな」
そんな声とともに牢のカギが開いた。
「あなたは……」
私は見たことのない男がそこに立っていて驚いていた。
――遅くなったということは助けてくれたのかしら?
その声に聞き覚えがあるのだがぼんやりした頭では思い出せず、小首を傾げてしまった。
だけどカギを開けて中まで入ってきた男性を間近に見るとその赤褐色の瞳からあの失礼な男と同一人物なことに遅れながらに気が付いた。
男はあの汚いかつらは被っておらず、やや赤みの強い金色の短髪でそれが彼の風貌をより一層際立たせていた。
男らしいラインの頬をしていてかなり整った顔立ちであるが、にやりとした人の悪そうな笑みを浮かべていた。
そして、王国の紋章入りの鎧とマントを身に着けていて、その風格は滲み出るほどだった。
それとよく似た格好の人達は今まで何度か修道院にも来たことがあるので流石に私も知っていた。
男が身に着けていたのはどう見ても王国騎士のそれだったのだ。
「あの……」
「洞窟内に火が回っている。出口まで案内するが、後は自分で帰れるか?」
男は命令し慣れている口調で手早く指示してきた。
私は帰れと言われてどこに帰るのだろうとふと考えた。
この牢獄よりある意味酷いあの修道院に帰るというのだろうか?
ここでは少し怖いこともあったが、陰口を言う人もなく静かに過ごせたのだった。
……でも、盗賊の住処の方がいいなど自分はどうかしているわね。
私はそう思って首を横に振った。
少しでも修道院に帰るのが遅れたほうが良いと言うつもりだった。
目の前の男はそれをどう受け止めたのだろうか分からなかった。
そう言えばまだお互い名前も知らないのよね。
「今は時間が無い」
そう言うと男はやや強引に私の腕を掴んできた。
「外まで走るぞ」
短くそう言うと小走りに駆けだしたので、私は彼に付いて行こうと走りだした。
ふと男に掴まれている自分の手が目に入った。
それは薬草の調合や世話によって変色して赤黒く、まるで老婆のような手だった。
私の手を掴む男の日焼けした手の方がまだ白く見えるほどで私は思わず目を逸らせてしまった。
洞窟内に響く足音と怒声に何かあったのかと目を覚ました。
だけど、牢の中では何も分からずどうすることも出来なかった。
洞内を響く悲鳴と逃げ惑うような足音が牢の所まで届いていた。切れ切れに王国騎士団が来たとの叫び声が聞こえてきた。
「王国騎士が……、助けに来てくれたというの。まさか……」
「遅くなったな」
そんな声とともに牢のカギが開いた。
「あなたは……」
私は見たことのない男がそこに立っていて驚いていた。
――遅くなったということは助けてくれたのかしら?
その声に聞き覚えがあるのだがぼんやりした頭では思い出せず、小首を傾げてしまった。
だけどカギを開けて中まで入ってきた男性を間近に見るとその赤褐色の瞳からあの失礼な男と同一人物なことに遅れながらに気が付いた。
男はあの汚いかつらは被っておらず、やや赤みの強い金色の短髪でそれが彼の風貌をより一層際立たせていた。
男らしいラインの頬をしていてかなり整った顔立ちであるが、にやりとした人の悪そうな笑みを浮かべていた。
そして、王国の紋章入りの鎧とマントを身に着けていて、その風格は滲み出るほどだった。
それとよく似た格好の人達は今まで何度か修道院にも来たことがあるので流石に私も知っていた。
男が身に着けていたのはどう見ても王国騎士のそれだったのだ。
「あの……」
「洞窟内に火が回っている。出口まで案内するが、後は自分で帰れるか?」
男は命令し慣れている口調で手早く指示してきた。
私は帰れと言われてどこに帰るのだろうとふと考えた。
この牢獄よりある意味酷いあの修道院に帰るというのだろうか?
ここでは少し怖いこともあったが、陰口を言う人もなく静かに過ごせたのだった。
……でも、盗賊の住処の方がいいなど自分はどうかしているわね。
私はそう思って首を横に振った。
少しでも修道院に帰るのが遅れたほうが良いと言うつもりだった。
目の前の男はそれをどう受け止めたのだろうか分からなかった。
そう言えばまだお互い名前も知らないのよね。
「今は時間が無い」
そう言うと男はやや強引に私の腕を掴んできた。
「外まで走るぞ」
短くそう言うと小走りに駆けだしたので、私は彼に付いて行こうと走りだした。
ふと男に掴まれている自分の手が目に入った。
それは薬草の調合や世話によって変色して赤黒く、まるで老婆のような手だった。
私の手を掴む男の日焼けした手の方がまだ白く見えるほどで私は思わず目を逸らせてしまった。
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