5 / 35
一章 醜いあひると盗賊
五 醜いあひると盗賊団
しおりを挟む
男が去ってから二週間ほど経ったある日、私は修道院のある山の麓の町で布教活動に従事することになった。
この頃には既にあの男のことも忘れかけていた。
「醜いあんたを表に出すと気味悪がってお布施が減るから嫌がられるんだけどね。予定の者が急に寝込んだから仕方がない。せめて荷物持ちとしてしっかりやってきな。間違っても人前にその醜い顔を晒すんじゃないよ。道中、野犬に襲われそうになったらあんたが皆の盾になるんだよ」
先輩の修道女に言われて私は肯くと皆の荷物を抱えて修道院の山道を下っていった。
修道院の活動の一つに年に何度か町の一般向けの礼拝堂での布教活動のお手伝いに行くことになっている。
私は今までこの布教活動に出ることはなかったけれど、予定していた方が流行病になり急遽代理を頼まれたのだった。
今朝は早くから、シスターの方々と麓にある町まで歩いていっていた。
その日の午後まで町の修道院でお手伝いをした。言われた様に内向きの仕事ばかりしていた。
そして、修道院に戻る途中の山裾で野犬どころか、盗賊らしき者達に囲まれてしまった。
「へへっ。こんなところに女がいるぜ。掻っ攫え!」
荒々しい騎馬の音が私達を取り巻いたと思うと口々に荒々しい男達の怒声と馬の嘶きが響き、私は腰から掬い上げるように馬上に抱えられていた。先輩の修道女達の悲鳴が上がったが、町から離れた山裾の人気のないところで助けを求めてもどうしようも無かった。
盗賊に荷物のように乗せられて着いた盗賊団のアジトは修道院より少し上にある洞窟だった。
いつの間にか修道院の近くに盗賊団のアジトが出来ていたらしい。
――王国騎士団は何をやっているのかしら? こんなアジトがあるならさっさと捕まえておくべきよ。
職務怠慢も甚だしい。
でもきっと騎士団だって地位が高い人や、強い者の味方なのよね。
弱い者の力になってくれるものなど居ないのよ。だって修道院がそうだもの。
弱い者にはさらに酷い扱いしか無かった。
手縄を掛けられてた私達は盗賊団の薄暗い洞穴の中を歩かされた。
その複雑な道はとても一人で脱出できそうになかった。
やがて私と先輩の修道女の二人は盗賊のお頭らしき前に引き出された。
「お頭、そこでこんな奴らを捕まえましたぜ」
「おお、神よ。お慈悲を!」
先輩の修道女が叫び声のような声を上げて祈りを捧げるように跪いた。
「なんだ、修道女か、そういやこの下に修道院があったな」
頭と呼ばれたものが大きな椅子に胡坐をかいて酒を浴びるように飲みながらこちらを見たがそれ以上興味を示さなかったようだった。
「どうか。お助け下さい」
先輩の修道女達は膝をついてそれぞれ懇願し始めた。
私は後ろからそれを無表情で眺めていた。
手下達は苛立ったように私達に近寄るとお頭の側まで突き飛ばすように押された。
私達は盗賊団の前に引き出され、盗賊の頭と思われるものに全身を舐めまわすように見られていた。
そんな不躾な視線を受けることは初めてで嫌悪感に身が総毛だった。
しかし、先輩と私の顔を見たお頭は吐き捨てるように言い放った。
「若いかと思えば、こんな醜いババアどもなんていらねえ。さっさと始末しろ!」
この頃には既にあの男のことも忘れかけていた。
「醜いあんたを表に出すと気味悪がってお布施が減るから嫌がられるんだけどね。予定の者が急に寝込んだから仕方がない。せめて荷物持ちとしてしっかりやってきな。間違っても人前にその醜い顔を晒すんじゃないよ。道中、野犬に襲われそうになったらあんたが皆の盾になるんだよ」
先輩の修道女に言われて私は肯くと皆の荷物を抱えて修道院の山道を下っていった。
修道院の活動の一つに年に何度か町の一般向けの礼拝堂での布教活動のお手伝いに行くことになっている。
私は今までこの布教活動に出ることはなかったけれど、予定していた方が流行病になり急遽代理を頼まれたのだった。
今朝は早くから、シスターの方々と麓にある町まで歩いていっていた。
その日の午後まで町の修道院でお手伝いをした。言われた様に内向きの仕事ばかりしていた。
そして、修道院に戻る途中の山裾で野犬どころか、盗賊らしき者達に囲まれてしまった。
「へへっ。こんなところに女がいるぜ。掻っ攫え!」
荒々しい騎馬の音が私達を取り巻いたと思うと口々に荒々しい男達の怒声と馬の嘶きが響き、私は腰から掬い上げるように馬上に抱えられていた。先輩の修道女達の悲鳴が上がったが、町から離れた山裾の人気のないところで助けを求めてもどうしようも無かった。
盗賊に荷物のように乗せられて着いた盗賊団のアジトは修道院より少し上にある洞窟だった。
いつの間にか修道院の近くに盗賊団のアジトが出来ていたらしい。
――王国騎士団は何をやっているのかしら? こんなアジトがあるならさっさと捕まえておくべきよ。
職務怠慢も甚だしい。
でもきっと騎士団だって地位が高い人や、強い者の味方なのよね。
弱い者の力になってくれるものなど居ないのよ。だって修道院がそうだもの。
弱い者にはさらに酷い扱いしか無かった。
手縄を掛けられてた私達は盗賊団の薄暗い洞穴の中を歩かされた。
その複雑な道はとても一人で脱出できそうになかった。
やがて私と先輩の修道女の二人は盗賊のお頭らしき前に引き出された。
「お頭、そこでこんな奴らを捕まえましたぜ」
「おお、神よ。お慈悲を!」
先輩の修道女が叫び声のような声を上げて祈りを捧げるように跪いた。
「なんだ、修道女か、そういやこの下に修道院があったな」
頭と呼ばれたものが大きな椅子に胡坐をかいて酒を浴びるように飲みながらこちらを見たがそれ以上興味を示さなかったようだった。
「どうか。お助け下さい」
先輩の修道女達は膝をついてそれぞれ懇願し始めた。
私は後ろからそれを無表情で眺めていた。
手下達は苛立ったように私達に近寄るとお頭の側まで突き飛ばすように押された。
私達は盗賊団の前に引き出され、盗賊の頭と思われるものに全身を舐めまわすように見られていた。
そんな不躾な視線を受けることは初めてで嫌悪感に身が総毛だった。
しかし、先輩と私の顔を見たお頭は吐き捨てるように言い放った。
「若いかと思えば、こんな醜いババアどもなんていらねえ。さっさと始末しろ!」
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

その神子は胃袋を掴まれている
成行任世
恋愛
ーーー私は出来損ないだから
とある事情で、辺境の館に暮らす盲目の公爵令嬢シャーロット。家族からも使用人からも冷遇されていた彼女のもとに、ある日突然毛色の違う使用人達が現れる。
「今日は野菜スープが飲みたいです」
これは、心優しき盗賊と冷遇される神子の始まりの物語。
※この物語は、身体に障害を持つ方を差別するような表現がありますが、そのような意図は一切ありません。
ご了承下さい。

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる
花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる