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一章 醜いあひると盗賊
四 ガリガリの案山子
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どうやら男性は目を覚ましたようだった。
昨日あれだけの高熱で大丈夫だったのだろうか私は少し心配しつつ寝台まで近寄りそっと覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
昨日看病をしていて気が付いたのだけど男性のこげ茶の髪はかつらだったのだ。
何か理由があるのだろうとそのままにしてある。
今まで修道院以外の一般の男性と話すことなど無かったので、かつらを被るのが普通なのかどうかもよく分からない。
「……ああ、あなたのお陰で助かった」
その男性のお礼の声は耳に優しく響いた。
私は嬉しくなって、手に持っていたスープを差し出して消え入りそうな声で薦めた。
「どうぞ、こんなものしかありませんけれど召し上がってください。ここは修道院ですので……」
私はカチカチでぼそぼその黒パンも男に差し出した。
このカチカチパンはスープに浸せばなんとか飲み込むことができる。
そうすると腹持ちも少しは良くなるというものだった。
……病人には食べ辛いものだけどこの男の人なら丈夫そうだし心配ないわよね。
「いや……」
男は私の差し出したものを見て押し黙ってしまった。
私はやっぱりと思いつつ俯いてしまった。
……こんな食事では気に入らなかったのね。
それでも、もう一度勇気を出して声を掛けようとした。
「あ、あの……」
しかし、男は片手で私の言葉を遮るような仕草をするとゆっくりと起き上がった。
私は行き場を無くしたスープとパンを持ったままその男の動きを眺めていた。
男の片方の肩から上半身に掛けて治療のために引き裂かれていた。
それは私が治療のために無我夢中になって引き裂いたものだった。
その上半身から見事な筋肉が見えて少しどぎまぎした。
立ち上がって男が頭を振ったのでぼさぼさの薄汚れたこげ茶の前髪がその顔を隠した。
ただ長い前髪の間から男の赤褐色の瞳が今は生気を取り戻して、まるで何もかも見通すような峻烈な雰囲気を醸し出していた。
私は今まで見たことのない男性の雰囲気にしばし見惚れてしまっていた。
音もなく床を移動する男が小屋の入口で立ち止まると今度は男の方が私の全身をじろじろと不躾に見てきた。
「それは、あなたが食べたほうがいい」
それに続けてまるでガリガリの案山子のようだといった呟きが私には聞こえた。
私は突然のことに怒りより呆然となってしまっていた。
「何れ、このお礼をするつもりだが、今はとにかく急いでいる」
明け方まで高熱で苦しんでいたとは思えない足取りで男は小屋から立ち去ってしまった。
後に残された私は持っているスープの皿がふるふると震えててしまっていた。
私はドアの閉まる音で我に返ると手に持っていたスープを作業台に置いて少々乱暴にパンを浸して噛みつくとスープも一気に飲み干した。
パンとスープを流し込んで何とか人心地がつくとあの失礼な男がいたこと自体が夢だったかのように思われた。
そう夢だったのよ。ガリガリの案山子だと笑われたことだって忘れてしまえばいい。
昨日あれだけの高熱で大丈夫だったのだろうか私は少し心配しつつ寝台まで近寄りそっと覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
昨日看病をしていて気が付いたのだけど男性のこげ茶の髪はかつらだったのだ。
何か理由があるのだろうとそのままにしてある。
今まで修道院以外の一般の男性と話すことなど無かったので、かつらを被るのが普通なのかどうかもよく分からない。
「……ああ、あなたのお陰で助かった」
その男性のお礼の声は耳に優しく響いた。
私は嬉しくなって、手に持っていたスープを差し出して消え入りそうな声で薦めた。
「どうぞ、こんなものしかありませんけれど召し上がってください。ここは修道院ですので……」
私はカチカチでぼそぼその黒パンも男に差し出した。
このカチカチパンはスープに浸せばなんとか飲み込むことができる。
そうすると腹持ちも少しは良くなるというものだった。
……病人には食べ辛いものだけどこの男の人なら丈夫そうだし心配ないわよね。
「いや……」
男は私の差し出したものを見て押し黙ってしまった。
私はやっぱりと思いつつ俯いてしまった。
……こんな食事では気に入らなかったのね。
それでも、もう一度勇気を出して声を掛けようとした。
「あ、あの……」
しかし、男は片手で私の言葉を遮るような仕草をするとゆっくりと起き上がった。
私は行き場を無くしたスープとパンを持ったままその男の動きを眺めていた。
男の片方の肩から上半身に掛けて治療のために引き裂かれていた。
それは私が治療のために無我夢中になって引き裂いたものだった。
その上半身から見事な筋肉が見えて少しどぎまぎした。
立ち上がって男が頭を振ったのでぼさぼさの薄汚れたこげ茶の前髪がその顔を隠した。
ただ長い前髪の間から男の赤褐色の瞳が今は生気を取り戻して、まるで何もかも見通すような峻烈な雰囲気を醸し出していた。
私は今まで見たことのない男性の雰囲気にしばし見惚れてしまっていた。
音もなく床を移動する男が小屋の入口で立ち止まると今度は男の方が私の全身をじろじろと不躾に見てきた。
「それは、あなたが食べたほうがいい」
それに続けてまるでガリガリの案山子のようだといった呟きが私には聞こえた。
私は突然のことに怒りより呆然となってしまっていた。
「何れ、このお礼をするつもりだが、今はとにかく急いでいる」
明け方まで高熱で苦しんでいたとは思えない足取りで男は小屋から立ち去ってしまった。
後に残された私は持っているスープの皿がふるふると震えててしまっていた。
私はドアの閉まる音で我に返ると手に持っていたスープを作業台に置いて少々乱暴にパンを浸して噛みつくとスープも一気に飲み干した。
パンとスープを流し込んで何とか人心地がつくとあの失礼な男がいたこと自体が夢だったかのように思われた。
そう夢だったのよ。ガリガリの案山子だと笑われたことだって忘れてしまえばいい。
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